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<東京怪談・PCゲームノベル>


またマンガ化の家


 ある日、草間は電話番をしていた。いつもなら事務所に零がいるなら彼女がするのだが、つい最近になってマンガ家からサイン入りコミック本が送られてきたのでそれを彼女に読ませているのだ。零のマンガはせいぜい戦前にあったものしか知らず、最近のものはまったく読んだことがないという。草間はそんな妹に社会勉強させる意味も込めて、鳴瀬 神太郎の大人気ギャグマンガ『アメリモムーチョ』を読ませることにした。兄に『読め』と言われてもこの手の本を読むのは初めてのことなのでなかなか笑いどころをつかむのに難儀していたが、登場キャラクターなどがアクションでギャグってるところだけはさすがによく理解できるらしくクスクスと小声で笑っていた。一応、マンガ本で楽しんでいる妹の姿を見て、草間も少し安心した。

 すると突然、けたたましい音を立てて電話が鳴る……受話器を取った草間はいつものぶっきらぼうな応対で切り出す。

 「はい、草間興信所……」
 「あ、たびたびすみません! こっ、この前はお世話になりました〜。」
 「もしかしてあんた、鳴瀬 神太郎か?」
 「あら、また鳴瀬さんなんですかぁ?」

 声の主はいつか草間の世話になった超大人気マンガ家の鳴瀬 神太郎だった。零も受話器に耳を近づける……電話の向こうには呼吸の荒い男たちが相当な人数いるようだ。草間はまた嫌な予感がした。

 「まさかお前、またうちの厄介になろうってんじゃないだろうな?」
 「ははは……そのまさかなんです。実は今度は参考資料に使ってた悪魔大辞典とまったく同じ悪魔を下書きで描いたらそれが原稿から出てきて……」
 「お前は本っ当にワンパターンだな。それでどうした、またギャグの家になったのか?」

 なぜそこまで悪魔を描く必要があるのか……草間にはそれが理解できない。それはともかくとしてまた悪魔が出てきたということで、零にマンガを読むのを中断させメモを取るように指示する。彼女は近くにそれを置き、その辺にあったメモ帳と鉛筆を持って草間の言葉を待った。

 「今回も悪魔に原稿を読まれまして……今度は前より大きな形の悪魔なんですね。彼がひとしきり笑うと急に私やアシさんに向かって『お前ら面白いこと描くな。ならお前たちも登場人物のように冒険を楽しませてやろう。きっと楽しいぞ。我輩は屋根裏部屋で待っている。そこまで来れたらこの家を元に戻すことを考えよう』と言って、私の家を……私の家をまたギャグだかコメディーだかの異空間に変えてしまったんです!」

 「……お前、もう引っ越せよ。」
 「そんな刃物のように冷たく思いやりのないツッコミは依頼料の振り込みの後でもいいじゃないですかぁ。とにかく助けて下さいよ〜!」
 「零、また同じ所で同じことが起きてるらしい……また適当にメンバーを見繕っ」
 「あ、ちょっと待ってください! 今度はギャグだけじゃないですから。悪魔はいつまでも僕の家で楽しむためにいろんな仕掛けをしてるんです。」

 前とは状況が少し違うと言った鳴瀬の言葉に反応し、とりあえず零の手を止めさせた後に詳細を確認する草間。

 「いろんな……仕掛け?」
 「基本はギャグなんですけど、たま〜に物理的な攻撃もしてきます。僕たちも3階までは行けたんですが、そこに設置されてる何台もの射出装置から最速で飛び出してくるバレーボールをみんなで全身に受けちゃって……ギブアップっていうとすぐ足元に落とし穴が出現して1階まで叩き落されるんです。だからどうかな……体力のある人がいてくれても嬉しいかな〜とか思いますね。」
 「いつものギャグ空間にテレビのアトラクション的な要素が加わったってことだな。まぁ大筋は前と同じようだし、適当に人数集めてそっちに派遣するよ。」
 「よろしくお願いします……その間、こっちは休憩してます……ハァハァ。」

 またもギャグ悪魔に支配されたマンガ家の家……しかも今度はパワーアップ。草間もさすがに人選には苦労した。そして頭を抱える。電話を聞くと大喜びして今すぐ行くとかいう奴、依頼達成の目的が鳴瀬のサインだったりする奴、その依頼を引き受けた人間を追う奴……さらに最初に連絡したバンド『スティルインラヴ』に所属する本谷 マキは一通りの話を聞いておきながら主旨を無視したムチャクチャな反応を示した。

 「へぇ、とにかく困ってるんですか。いいじゃないですか、マンガが売れなくて赤貧生活送っても、アシが他のマンガ家に引き抜かれても、気持ちさえしっかり持てば道は開かれますよ。」
 「いや、マキよ。お前、ちゃんと人の話を聞いてたか?」
 「それじゃ、助けに行きますね〜。」

 草間のツッコミを無視して出発の準備をするため、マキは一方的に電話を切った。大きな不安をどうしても拭いきれなかった草間は依頼を受けてくれる人間をありったけ集めてそちらに向かわせることにした。

 「零、今回は面倒そうだから人海戦術で行く。8人……くらいかな。」
 「くらいって、なんでですかぁ?」
 「いや、不動 修羅にこの件の話を伝えてたら、機械から急に水が吹き出したとかなんとかで通話が切れちまったから正確な人数はよくわからない。その程度の人数で依頼料を頭割りにしておけば無難かと思ってな。またファイルしておいてくれ。」

 修羅はすでにギャグ世界に足を突っ込んでいるのだろうか……ともかく今回も多くの勇者があの館に挑む。目指すは屋根裏部屋だ。


 鳴瀬邸を道路から見上げているのは、セーラー服を着た女の子だった。彼女は握り拳を胸の前で作り、そこに立っている。視線の先はもちろんゴールだ。彼女の名は赤星 壬生。特技が柔道、趣味が筋力トレーニングという平成スポ根娘が彼女だ。家の中がアトラクション空間になっていることを聞き喜んでこの件を引き受けた。同じ理由でそれを引き受けた人物が、実はもうひとりいる。こちらはロングヘアーで年は大学生っぽい女性……彼女もまた、赤星と同じ思いでこの家を見ているのだろうか。彼女、不破 恭華は自由な時間のほとんどを鍛錬のために使っているある種のマニアで、トラブルに巻き込まれやすい自分を守るために家伝の戦闘術などを習得して実践している。要するに隣の柔道娘とパターンは変わりないということだ。ふたりは惹かれ合うように口を開く。

 「「こんにちわ。」」

 同時に挨拶して思わず驚くふたり。まさか自分たちが似たもの同士などと知る由もない。戸惑いと気まずさがふたりの間に吹いたその時、草間から依頼を受けた連中が徐々に登場した。古風なセーラー服に身を包んだ女の子に首から何かを下げている小学生、それに顔の右半分を包帯で隠した青年がそれぞれこの家に向かって歩いてくる。彼女たちは壬生や恭華を目印に集まった。

 「もしかして、みんなもここにチャレンジに来たの?」
 「はい。チャレンジって言うかなんていうか……とにかくお困りの先生をお助けするために来ました。あたし、海原 みなもです。よろしくお願いします。」

 壬生がみなもの話を聞くとまざまざと彼女を見る……どこをどう見てもここに来るような活発なタイプの娘ではない。壬生は少し心配したが、もしかしたら他の人よりもガッツがあるのかもと思い、それを口にはしなかった。それはなぜかといえば、隣に小学生がいたからだ。こちらもみなも同様、あんまり活発そうには見えない。というか、草間興信所は小学生の女の子に無理強いをさせるのかという話だ。これはちょっと……と思った壬生が彼女に話しかける。

 「あのさ、ちょっと小学生はここ危ないと思うんだけど……」
 「え、もしかして私のこと言ってますか? マキはこう見えても22歳なんですよ〜、ほらこれ免許証です。」

 幼児体型をしていたのはなんと電話で大ボケをかました本谷 マキだった。壬生はおろか恭華やみなもでさえ、首からかけていた免許証に釘付けになる。確かに年齢は22歳だ……だが、見かけは間違いなく小学生だ。そのギャップが証明書の存在自体を危うくさせていく。

 「偽造カードかしら……」
 「最近だと作れそうですよね……確かに。」
 「鍛錬次第で身体は丈夫になるから、今日は一緒にがんばりましょうね。」
 「……………なんだか皆さん、ヒドい言い様ですけど一緒にがんばりましょう。あ、そちらの痛々しい少年は?」

 みんなの言葉はマキに失礼だ。マキの言葉も相手に失礼だが、その表現は適切だった。しかしそんな怪我など忘れさせるような元気さで彼は話し始める。

 「おれ、新座・クレイボーン! 今日はなんでもどーでもいいから屋根裏部屋に行けばいいって聞いたからいろいろ用意してきたんだ〜。最近ドラクロばっかやってて金なくて困ってたんだ。ホントにラッキーだぜ!」

 クレイボーンは嬉しそうに、まずは二匹のお友達を紹介する。

 「こっちがメカ怪獣のぎゃお。ぎゃおぎゃお鳴くからぎゃお。それでこっちの銀色の蛇……って翼もあるけど蛇ね。こっちはケツァっていうんだ。アドベンチャーだって聞いたから、こいつらにも一緒にがんばってもらおうかな〜って思ってるんだ。」
 『ぎゃお〜〜〜、ぎゃおぎゃお!』

 紹介に預かった怪獣は挨拶代わりに鳴き始めた。恭華は秋田犬の大きさくらいあるぎゃおの鋼鉄の頭を撫でるが、出てくる言葉は解説通り「ぎゃお」しかない。それでもなかなか愛嬌もあり味のあるデザインをしているので遊んでいても飽きない。恭華はしばらく腰を屈めてメカ怪獣相手に遊んでいた。
 人数が着々と集まる中、極めつけがやってきた。さすがのメンバーもこれには驚いた。美形の青年の数歩後ろにいる「ある物体」を見て思わず一歩下がった。あの青年はメンバーでいいとして、あれはちょっと……それほどの威力を持った人間がこっちに向かってくる。前を歩いている青年は細身で身長が高い。だが、後ろにいる人間はそれを一回り超える大きさだ。デカい。おそらくこの中でも一番デカい。しかし問題はその容姿である。青年はホストにも見えるほどの美形だったが、後ろの人間はセーラー服を来たオッサンにしか見えない。ここからでも男に見えるのに、なぜか彼はセーラー服。壬生やみなもと同列に並べるなど失礼極まりない話だ。そんな男たちがついに目の前までやってきた。先に話し出したのは青年の方だ。

 「興味津々、天津飯〜というわけで元気いっぱいの高台寺 孔志だ。よろしくぅ!」
 「……………いや、孔志さんはいいんですけど、そちら様は??」
 「ええ〜〜〜っん、あたしぃ? あたしはぁ、たちばな 薫よ♪」
 『ぎゃおぎゃおぎゃお。』
 「気持ちはわかるけど、お前は黙っとけ。」

 クレイボーンがぎゃおの口を塞がせ、衝撃の自己紹介を続けさせる。口を開けていないものは孔志以外いないという有様だった。

 「ふたりはセットなんですか?」
 「ま、一応な。俺は鳴瀬先生を師と仰ぎたぇほどにFANなんだ。」
 「孔志ちゃんがそういうから、今日は協力しに来ただけよ。孔志ちゃんがファンじゃなきゃ、手助けなんかしないわよぅおぅ。お店もほっぽりだしてきたんだし、早く済ませて帰りましょ〜〜〜。」
 「バケツ……バケツないか……」

 壬生はさっそく吐き気を催したらしく、あるはずもないバケツを道路に求める。とにかくよくわからないメンツが揃った。さっそく突入という時にマキからアナウンスがあった。

 「あ、『この庭に入った瞬間からギャグ空間だから注意して下さい』って草間さんが……」
 「バケツバケツ……」
 「ああっ、危ない壬生さん!」

 薫の姿にすっかりあてられてバケツを求める壬生。そして注意も聞かずに敷地内へ入ろうとした彼女を止めるため、みなもが身を呈してそれをブロックした! しかし彼女の身体はしっかり庭の中に入ってしまう……その瞬間、お望みのバケツがニワトリ小屋から飛んできた。それはきれいな放物線を描き、そして……みなもの頭にすっぽりと入ってしまう!

  ガコンっ!
 「きゃーーーっ、生卵が満載でドロドロぬるぬるで……きゃーーーーーーーっ!」
 「み、みなも……わ、悪かったな、あたしのせいで……」
 「心配するな、今にあんたもこうなるんだからさ。」

 みなもの首元からは黄身や白身がどんどん流れだし、せっかくのセーラー服姿が台無しになってしまった。
 クレイボーンの言葉は慰めとしては受け止めづらい。かといって冗談にもならない。全員の血の気が程よく引き始めた。しかし、彼らは前に進まなければならない。この家を本当の持ち主に返すために。彼らの苦難は今から始まるのだ。


 立ち止まっていても仕方がない。さっそく被害者になったみなもを連れて全員が禁断の領域に足を踏み入れる。前回のようにゴッドな姉ちゃんも出ず、序盤はおとなしめだなという印象を彼らは持った。それがすでに心理的な罠とも知らずに……クレイボーンは右腕に絡ませたケツァで簡単に玄関を開けようとする。そこへまたもみなもが危険を感じて腕を持つ。

 「いけません、そんなに簡単に開けてはーーー!」
  ガンッ!!

 みなもはここでも身を呈してがんばるもんだから、身体がクレイボーンよりも前に出てしまい玄関の中へ……そこに待ちうけていたのは金だらいだった! 何かが落下してくるのに気づいて上を見上げようとした瞬間に落ちた。その時、ちょっと首が変な方向に曲がったのが不安要素だ。彼女は持っていたドアノブをそのまま引いてドアを閉めてしまってから痛みで頭を抱える。

 「み、みなも! くっそー、今度は金だらいかよっておまえ……がんばってんな〜。」
 「それはいいけど、また閉まっちゃったじゃない……どうするのよ?」

 壬生のいうのももっともである。また閉まったということは、またネタを仕込まれているということ……非常に嫌な予感が周囲を支配する。そんな中、マキがチャレンジするといい、みんなに玄関までの道を空けるように指示した。そのちっちゃな身体をぶつけてドアをこじ開けようというのだ。マキは助走をつけて軽快に走る! が!!

  ゴズッ!
  ばたっ。ぼてぼてぼて……

 今度はドアが鋼鉄に変化していたらしく、激突したマキはあらぬ方向へと飛んでいく。身体が軽いだけにその転がり方には周囲も不安を覚えた。そして地面に倒れたマキは動かない……

 「マキさん、マキさん……大丈夫ですか?」

 恭華の言葉に反応したマキは急に立ち上がり、家の門まで駆け出すと口を塞ぎながら大きな声で変な言葉を叫んだ!!

 『イアーーーーーーーーーーーーーーーオ!!』
 「おいおい……おまえ大丈夫か。あらゆる意味で。」
 「……………はぁ、すっきりした。ご近所迷惑にならないように配慮して悲鳴を上げてみました。」
 「そうか。なら大丈夫だな。」

 孔志はあっさりとそう言うとドアを開ける……するとあっさり玄関が開いた。丁寧に並べられたスリッパやカーペット、靴箱などが並ぶどこにでもある玄関だ。ここだけ見たら何の変哲もないただの家なのは明らかだった。だが、恭華や壬生にしてみれば宝のような家。さっそく壬生がその中へと飛びこんでいく!

 「行くわよってうわあぁぁぁぁ!」
  ツルッ……ガンっ!!

 壬生が見落としたのか、それとも途中で変化したのか。スリッパだと思っていたものは、実はバナナの皮で壬生は滑って転んでしこたま頭を打ちつける! それを見た恭華が慌ててダッシュにブレーキをかけようとしたが、玄関の床はワックスで磨いたみたいにつるつるで急には止まれず身体が前倒しになりそのまま……

  ゴンッ!

 恭華もまた玄関に額を打ちつけた。後ろにいるメンバーはそれを見て少しずつ学習していく。玄関にはゆっくりと派手なアクションをせずに接近すれば大丈夫だろうと静かに歩き出した。しかし彼らに冷静である時間や余裕は与えられない。今度はフローリングの廊下が勝手に1階内部へ動き出す……階段は玄関からすぐそこにある。中に行くだけ無駄だ。壬生と恭華はコンベアー状態になった廊下に運ばれていく。しかしふたりともそれに気づかないほどバカではない。すぐさま立ち上がって階段への道を走り始める。ふたりともさすがは武道家で、なかなかのフットワークを玄関にいるメンバーに見せつける。

 「ランニングマシンかしら、これ。あんまりこういう機械を使って鍛錬しないからちょうどいいかしら?」
 「こんなものであたしたちの根性を挫こうなんて百年早いわ! ねぇ、恭華!」

 あっという間に玄関まで戻ってくるかに思えたが……そのスピードは徐々に速くなっていく。彼女たちの姿が少し遠くなるように見えた孔志は彼女たちの脚を凝視した。彼女たちはスピードアップで対応する。だんだん早くなるコンベアーについていく彼女たちを見て感心する孔志。だが、それを見ていた薫が大騒ぎし始めた。

 「ああ〜〜〜ん、孔志ちゃんが他の娘の脚を見てるぅ〜〜〜! いけずぅ〜〜〜!」
 「そんなことないさ、ただ足の早さを見てただけ。だけど薫……ここってアトラクション空間でありながらもギャグ空間なんだよな。」
 「そうよ〜〜〜ん。」
 「だったらこのままスピードアップするよりも、この辺でいきなり逆回転してスピード乗ったまま地面に激突なんて方が面白くな」
 「あああああーーーーーっ! じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまだって、孔志ぃ!!」
 「ととと、止まらないわ〜〜〜! 危なぁい〜〜〜〜〜!!」

  ドス、グギャ、ゴゴゴン!!

 お気楽に予想を語っていた彼の言葉はすでに現実のものとなっていた。薫と話すため後ろを向いたのが運のツキ。その瞬間に回転が逆になり、ふたりが彼の背中を襲ったのだ! そして3人仲良く額を地面に打ちつける……

 『ぎゃおぎゃお。』
 「あんたの言った通りになったな〜。もう余計なこといわない方がいいんじゃないの?」
 「お、俺もそう思った……いたたた〜。」

 後悔先に立たずとはまさにこのこと。個々にギャグの洗礼を受けつつ、メンバー全員は2階に進む階段へやってきた。だがここも安易に登れない。このまま行けば、またギャグの餌食にされてしまう。彼らは一生懸命に考えた。そして孔志は名案を思いつく。

 「そうだ、先頭をマキにして順番に並べていこう。最後は薫、お前ね。その前に俺がつく。これでどんな事態にも対応できるぞ!」
 「ま〜〜〜た安易な意見じゃないのぉ?」
 「そんなことはない。どうせダメなら、みんな犠牲になるだけだ。さ、行くぜ坊や。」

 他に名案がないので仕方なしにクレイボーンもそれに乗る。そして一列に並んでゆっくりと階段を昇る一行……すると。

  ガタン。
 「あら、いつのまにか地面がまっ平ら……」
 「あわわわっ……ぎゃお! ケツァ! 手すりに噛みつけ!!」
 『ぎゃおぎゃお!!』
 『シャアアアーーーーッ!!』

 ぎゃおもケツァも手すりなどに噛みついてがんばり、マキと自分だけは落下を免れた。しかし他の人間はそうもいかない。そのまま重力落下するだけだったのだが、そこで孔志が叫ぶ!

 「薫、悪りぃけどやってくれ!!」
 「あああ〜〜〜ん、そんなのいや〜〜〜ん! あたしは恋多き乙女なのにぃ〜〜〜。でも孔志ちゃんのお願いなら、どすこ〜〜〜い♪」
 「わわわわわ、ま、前に押される!!」

 薫のバカ力が列を急速に前へと進ませる! ぎゃおとケツァはその部分を噛み千切らされるほどの勢いを彼、いや彼女が発揮したのだ! 自分を含めて一気に2階へと到達した彼らを待っていたものは……なんと小麦粉のプールだ!!

 「み、み、み、皆さ〜〜〜ん、覚悟してくださいね〜。」
 「ええ! 上になんかあんのか!?」
 「あたし、もうドロドロだからなんでもいいです……」
 「ウソでしょ、このまま前に行くしかないじゃない!」
 「これに逆らうほどのパワーは出せないわ……諦めましょう。」
 「しまった! 上に行ってからの対策をまったく考えてなかった!!」
 「そんなちょっとおとぼけな孔志ちゃんも、だ・い・す・き♪」

  ボスボスボスボスボスボス、ドボン!

 メンバーは小麦粉の泉に落ち、真っ白になってしまった。これではペットも作戦もあったものではない。粉を吹きながら再び拳を握り締める壬生。

 「悪魔め……私は絶対に挫けないわ!!」

 その言葉が全員に当てはまるかどうかはさだかではなかった……


 その頃、携帯電話から水が吹き出す騒ぎとなった修羅がようやく草間興信所から出てきた。それもこれも別種類のギャグ悪魔を降魔して憂さ晴らししていたのが原因だった。そいつのせいで重要な電話の最中に通話を切られてしまったらしい。それに腹を立て、さっきまでその悪魔をボコにしていたのだ。今はその悪魔を降ろしてはいない。また同じようなことが起こっては困るからだ。だいたい、向かった先にギャグ悪魔がいるわけで……というのが一番の理由だった。

 「ちっ、バカな悪魔のおかげで時間を食った。今から行くぜ、バカに輪をかけたバカを退治しにな。」

 前の事件には行きそびれた彼だったが、今日はちゃんと色紙やサインペンなど準備万端整えてある。あとはみんなが退治する前に合流するだけだ。今は聞いた場所まで確実に一歩ずつ向かうことだけを考えていた。


 メンバーたちは2階で小休止を取った。その時の孔志やクレイボーンは嬉しそうに鳴瀬の仕事場を駆け回っていた。特に孔志は先生のファンである。生原稿やカラー表紙を見つけると嬉しそうにそれを手に取って見ていた。その後ろでは話題についていけない薫が寂しそうな態度で彼の背中をつついている。
 廊下では真っ白になった連中が粉を払いながら3階へと続く道を見ていた。3階にはバレーボール射出装置が設置されており、屋根裏部屋に行くには相当な困難があると家主からの情報があった。果たしてどうしたものか……皆、思案に暮れていた。そんな時、普段着を懸命にはたく恭華がひとりごとをつぶやいた。

 「こんなことだったらもっと動きやすい服を着てくるんだった……はぁ。」

 その瞬間、全員の身体が輝き始め……そしてなぜか体操着とブルマ姿になっていた! 胸にはしっかりと苗字が刻まれている。恭華や壬生、それにマキとみなもにとってはまぁラッキーだったようでほっと安心した表情になった。粉だらけ卵だらけでは仕事も満足にできないからだ。特に壬生などはさらに気合いが入った様子だった。ところが、奥の部屋からは悲鳴が響く……

 「う、うそ! なんでおれの身体にブルマが!!」
 「ああ〜〜〜ん、粋な計らいじゃないのぉ! 薫、大変身っ♪」
 「……こういう場合はトランクスをブルマに入れるものなのかどうなのかって話だよな。」

 さすがの女性陣もこの声には驚く。まさか全員が変身させられているなんて……特に薫の姿を思い浮かべたマキは小さな声で「イアーーオ」を叫んでいた。見る前からずいぶんと覚悟のいる状況を作り出した恭華は急に静かになった。そして何も言わずにすたすたと3階に上がり始めた。そして……

  ガコン。
  べちゃっ。

 また階段が滑り台になって、ひとりで勝手に落ちていた。


 お揃いの戦闘服に身を包み、メンバーはついに問題の3階へとやってきた。屋根裏部屋に行くためには一番奥の部屋の天井へのルートしかない。そこに向かうには……あからさまに怪しい射出装置のついた廊下を進まなければならないのだ。さらに床に設置された平均台の上を通らなくてはならないという過酷なルール。平均台の下にはおかしな空気が渦巻いている……落ちたら玄関あたりまで戻されるのだろうか。
 一番危険なアトラクションは、まずクレイボーンから行くことになった。なんと言っても彼にはボディーガードがいる。これ以上、安心できることはない。しかし彼はぎゃおをおんぶしてケツァをしっかり全身に巻きつかせ、地獄の平均台に挑戦しようとする。それを見てみなもがまた止めた。

 「危ないですよ、クレイボーンさん……いったいどうするつもりなんですか?」
 「大丈夫、だ〜〜〜いじょうぶだから。あっという間に越しちゃうんだから。」

 彼は余裕たっぷりにそう言い放つと、馬のように地面を蹴り始めた。そして前へ蹴り出した瞬間……彼は風になった。
 誰の目にも止まらぬ早さで平均台を通り越したクレイボーンは廊下の行き止まりで豪快に激突するが、そこをあっさりクリアーしてしまった! 今頃になってバレーボールが地面で跳ねている。苦もなくここをクリアーした彼は向こう側から呼びかけた。

 「痛っててててて……久しぶりだったからスピード出し過ぎちゃった。ぎゃお、もう降りるんだぞ。ほらみんな、これくらいで走ったら大丈夫だから!」
 「……………イアーオ。無理ですよ、そんなの。」

 起伏のないセリフでツッコむマキ。そんな参考にならない意見を聞いて仕方なしに孔志と薫が挑戦する。もちろん彼らにクレイボーンほどの超スピードは備わっていない。高速度で放たれるバレーボールは彼らに襲いかかる。しかし……ふたりの間に身長差があり過ぎるため、いつもぶつけられるのは薫だけだった。
 だが、驚くのはここからだ。ゴンゴン当てられてなよなよしてはいるものの、まったく平行感覚を崩されることがない。いや、バレーボールごときでは薫の体勢は揺るがない。だが乙女心は傷つくようで、道半ばで孔志に弱音を吐く。

 「あああ〜〜〜ん、孔志ぃ、もうダメぇ!」
 「まぁな、守ってやりたいんだけどな。お前の方が身長高いから。しゃーないわ。当たりたくなかったら日本チャチャチャで打ち返せ。」
 「ああ、そんなアイデアもあったのね♪」

 それを聞いた途端、薫の大きな手は飛んでくるバレーボールをちぎっては投げちぎっては投げ……さすがのメンバーもその姿には呆然となった。

 その後もなんとかこの難所を超えるメンバーたち。マキは恭華と組んで進み、恭華は迫り来るボールをマキに当たらないようにさばき、マキはその小ささを活かしてボールを避けまくった。そして残ったのはみなもと壬生だけになった。彼女たちもこの地獄に立ち向かう……しかしみなもはスポ根ドラマのヒロインのようにボールを身体に受けてよろめく。そして口から弱音を吐く。

 「壬生さん、先に……先に行って下さい! あたしはもう……」
 「何を言ってるの、みなも! あたしはあなたを置いていったりしない! さぁ、みなももボールに向かって回転レシーブよ! アテネはきっと私たちに微笑んでくれるわ!」
 「……壬生さん、はいっ! あたし、がんばります!!」

 壬生の檄を受け、元気になったみなもは見様見真似でボールに立ち向かう。みなもにはなかなかの運動能力が備わっているようで、すぐにそれを見につけた。その姿を見て壬生は微笑む。そして彼女もまた回転レシーブで敵に立ち向かう。

 「おい、アテネに何かあるのか?」
 「いいのいいの、スポ根だから。」

 クレイボーンの問いかけに適当な答えを出すマキ。ふたりの日本代表はギャグ悪魔に向かって一直線だった。


 そして、ついに屋根裏部屋にやってきた。目の前には確かに悪魔らしき生物がいる。こいつを何とかすれば一件落着だ。薄暗く狭い室内で敵と対峙するメンバーと悪魔。

 『お前ら……まさかここまで来るとは!』
 「観念しなさい! 悪さをやめるのです!」
 「痛い目に遭わないうちに尻尾を巻いて逃げた方がいいわ。ここには実力者がたくさんいるから。」
 『だったらやってみろよ、はっはーーーんだ!!』

 みなもや恭華の言葉など無視した悪魔は自信たっぷりに言う。するとその言葉に反応したのか、ペットのぎゃおがその脚に噛みつこうとするが……なぜかいきなりこけてしまう! 同じくケツァも敵に向かうが、何がなんだかわからなくなったのかねじれた糸のようにぐちゃぐちゃになってしまった!

 「お、お前ら!!」
 「はっはーーーん、お前らさては知らないなぁ? 俺には普通の攻撃が通用しないんだよ! 前の奴に聞いてなかったのか、はっはっはっは!」
 「つ、つまり普通に攻撃すると全部ギャグの餌になってしまうってこと……?」

 「ギャグ悪魔ぁ、その首もらったぁぁぁ!!」

 突如出現したのは修羅だった! 彼はなんとかこの戦いに混じることができた。手には降魔により作り出された光り輝く巨大なハンマーを持っている! それを豪快に振りかざすと、次は悪魔の頭めがけて打ち下ろす! しかし、それが命中する前にハンマーの持ち手がねじれて使い物にならなくなってしまった!

 「ああっ、まさか……これは正常な攻撃と認識されてるのか!?」
 『お前、悪魔から見て霊媒師の攻撃が異常に見えるとでも思ってるのか??』
 「オーーーーーマイガッ!!」

 修羅の行動はすべてのヒントとなった。さっそく妙案を思いついた孔志は自分の前に薫を立たせ、悪魔の注目を引く。

 「おい、ギャグ悪魔。覚悟しろ……先生のギャグにもあった。『白って美しいですね』ってな! 芸能人も歯が命! 真っ白なハートに語りかけるこの、至極の純白攻撃ぃぃーーーーーっ! 薫、すまん!!」
 「えっ、孔志……??」

 その瞬間、時間が止まった。孔志が薫のブルマを脱がし、フリフリのついた純白のパンツを衆目に晒したからだ。今までその姿だけでも嗚咽を繰り返していた壬生は今回ばかりはそのショックで気絶しそうになった。いや、気絶しない奴がこの世にいるだろうか。いや、いない。その攻撃は悪魔を襲った!

 『うげあぁぁぁぁ……吐き気がぁ、気持ちが悪いっ! なんだ、なんだこの寒気はぁぁぁ!!』
 「きゃあああああああああああああああああああああああああああっ、孔志じゃなかったら殺してるわよ、もう♪」
 「な〜〜〜んだ、要するにギャグっぽい攻撃だったらアリなんじゃん。だったらおれもできるぜ! 小さな馬のぬいぐるみさんたちに俺の血を与えて……行け、くすぐってやれ!!」

 クレイボーンは納得した表情をしながら作業に取り掛かる。胸から取り出した小さな小さなぬいぐるみに、試験管に入れてあった血を混ぜると……なんとそれが本物みたいな大きさになって動き出すではないか! ただでさえ狭い室内なのに、彼は何体もの馬を作り出してしまった。すぐに場は混乱する……

 『やめてやめてやめて、舐めないで! そんなとこ触らないでってば! おい、早くこいつらを引っ込めてくれぇぇ!』
 「へぇ、これってギャグの範疇なんだ……おれ、ちょっと不安だったんだけどな〜。おーーーい、みんなぁ。これなら通じるって〜。誰にでもくすぐるのはできるからな、覚悟しろギャグ悪魔!」
 「そんなことでよかったんですね。悪魔のくせにそんな弱点でいいのかな?」
 『余計なお世話だ……ってダメ、近づかないで、ダメだってばぁ!』

 マキへのツッコミを最後に悪魔は笑い死ぬ勢いでくすぐられ、どさくさ紛れて蹴られたりした。そして今回もこのままエンディングを向かえることになった。


 悪魔をボコボコにして四散させた後、鳴瀬邸は元に戻った。体力の限界に近づいていた家主の鳴瀬 神太郎とそのアシスタントは再び平穏な時間をこの家で過ごすことができるようになった。今回は人数が多くなかなかレアなプレゼントは出せなかったが、欲しがる人間が少なかったのが幸いした。孔志はサイン入り原画をプレゼントされるなど破格の待遇を受けた。他の女の子たちも記念にと色紙にサインなどをもらった。もちろん、修羅もそのうちのひとりである。今回もなんとかこの事件を解決することができた。

 サインをもらって嬉しそうにしていた修羅だったが、ひとつの疑問が浮かんだ。それを彼は薫に話した。

 「なぁ、ギャグ悪魔ってある意味貴重だよな……」
 「そうねぇ、パンツ見ただけでのけぞってたしぃ。まぁお姉さんのぱんつは特別だしぃ。」
 「誰か絶滅危惧種あたりに認定してくれないかな……俺は飼ってるけど。」

 話の噛み合わないふたりを放って鳴瀬 神太郎とメンバー、そしてアシスタントたちは楽しい時間を過ごしていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2983/不破・恭華      /女性/18歳/大学生
2592/不動・修羅      /男性/17歳/神聖都学園高等部2年生・降霊師
2200/赤星・壬生      /女性/17歳/高校生
2936/高台寺・孔志     /男性/27歳/花屋
2811/たちばな・薫     /男性/32歳/カフェのオーナー兼メイド
1252/海原・みなも     /女性/13歳/中学生
3060/新座・クレイボーン  /男性/14歳/ユニサス(神馬)/競馬予想師
2868/本谷・マキ      /女性/22歳/ロックバンド「スティルインラヴ」


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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。今回のゲーノベが好評だったのでもう一度やりました。
ちょっとギャグの方向が変わりましたが、何よりも今回変わったのはメンバーのカラー。
前にも書いたんですけど、今回もまさに「こ、これは……!」状態でしたね。
全員に見せ場を作ったつもりですがどうでしょうか、みんなヨゴレになってる?(笑)

壬生ちゃんとは初めての顔合わせになります。ようこそいらっしゃいました〜。
今回はスポ根熱血娘を演じてもらいました! ちゃんと後輩もいますよ、どうです?(笑)
同じ鍛錬大好きな恭華さんとも運命的な出会いをされたのでこれを気に仲良くなっては?

皆さん、今回は本当にありがとうございました。またシチュノベや依頼でお会いしましょう!