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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


黒い巨塔〜あやかし調査団〜


 200X年、5月某日…夜。
季節はずれの台風が日本列島を直撃して全国的に大雨に見舞われ、
ここ、東京”あやかし荘”でも暴風と大雨に見舞われて悲惨な状態になっていた。
決して最新建築とはいえない建物だけに、あちこちが悲鳴をあげているのである。
管理人、因幡・恵美は徹夜の予感を感じながら木材や工具をもって走り回っていた。
「にぎやかぢゃのぉ…静かにせんか」
「のんびり座ってないで手伝って下さいよ!!」
「サンシタ使うたらええがな…」
「三下さんはすでに外で作業してくれてますよー!」
 嬉璃と天王寺・綾は、恵美の部屋でテレビを見ながらまったりと他人事のように過ごしている。
まあ、二人とも元々手伝おう!などという性格はしていないのだが。
「あ!歌姫さん!手があいてたら倉庫から板を…」
「♪もう夜も更けた〜さあ皆さん〜そろそろ休む時…」
「歌姫さんまで!」
 恵美はがっくりと肩を落として窓の外に目を向けた。
まあ、あらかた作業は済んでいて、とりあえずの所は乗り切れそうなのではあるが…
「あ。なんか今、窓を誰かが横切った気が…」
「って、三下さんっ!?飛ばされてますよー!!!」
 どたばたと、あやかし荘の台風の夜は更けていったのだった。

 翌朝、まだ曇天の空の下…外に出た恵美達は我が目を疑った。
いつもなら、ビル群が見える方向に…見たことも無い巨大な建造物が建っていたのだ。
少なくとも昨日の夜、寝る前に外を見た時には絶対に無かったはず。
 雲を突き抜けるほど高くそびえるその建物は、黒く鉱物的な光沢はあるものの、
まるで生き物であるかのような曲線をしていて…ねじれていて…
「まるで細長いかりんとうぢゃな…」
「…そんな例えですか…」
 嬉璃にツッコミを入れてはみたものの、確かにでかくて長いかりんとうに見えない事もなく…
「それにしても一体これ、どういう事なんでしょうか…」
「さしづめ…黒い巨塔ぢゃな…」




「どこ行くんだ?」
「…少し気になる事があってな…武彦のところに」
「興信所にか?まあ、確かに今日あそこに行けば何かあるかもなぁ…」
「すぐに戻る」
 雪森家の居候は、家主の雛太にそう告げると家を出て行く。
雛太は窓から見えている黒い塔に目を向け、そちらに向かって歩いていく居候の姿を見送った。
「……こういう状況だしなあ…ちょっと見学するかな」
 雛太は好奇心から塔に向かうことにして、家を出る。
道中、同じように見学…いや、調査に向かっているあやかし荘の住人達と合流し同行する事となったのだった。



「こういう状況ですから、それなりに人は集まってるとは思ってたんですが…」
「予想以上の人数ぢゃな」
 恵美と嬉璃はそう言葉を交わしながら高くそびえる黒い巨塔を見上げた。
台風一過の晴天、青い空と白い雲を遮るかのような色のコントラストのソレは、ビル街のど真ん中、
本来ならば今頃は人と車でごった返しているはずの交差点に陣取って人々を見下ろしていた。
 彼女達が今いる場所は、巨塔から五メートルほど離れた場所。さらに五メートル程後ろには、
黄色いテープが張り巡らされて『立ち入り禁止』の看板が並べられ、警察官やら警備員やらが部外者が立ち入らないようにと必死になっていた。
 つまり、テープの内側にいる者は関係者、という事になるのだが…。
「あの、嬉璃さん…関係者でもないのにどうやって入れたんですか?」
「あんた細かい事を気にしてたら老けるで!」
 不安げに嬉璃を見つめた恵美の背中を、吏綿徒・朱樹がバシっと叩きながら笑う。
「そうそう!せっかくのこんな面白い機会、気にせずに行こうぜ!」
『冒険の予感がするぜ〜♪』
『お宝の予感がするやん♪』
 ランドセルをカチャカチャ揺らして言った鈴森・鎮の言葉と、朱樹の言葉が見事にかぶる。
「俺もまあいつ無くなるかわからないから今のうちに見学しときたいって思ってるだけだけど」
 雪森・雛太は周囲の様子を窺いながら誰に言うともなく呟いた。
立ち入り禁止テープの内側には、自分達と同じように数人のグループが固まってなにやら色々と相談をしている。
いかにもそれ専門っぽいグループもいれば、自分達とそう変わらない風貌のグループもいて…
「これって本気で調査しようって奴ら、どれくらいいるんだ…」
「……半数は興味本位な気がしますね」
 ぼそりと呟く雛太に、苦笑いで答えたのは神城・由紀。
実は今回、嬉璃たちあやかし荘の面々が”調査団”として入る事が出来たのは、由紀の仕事の協力という事にしてもらったからなのだ。
もともとは由紀の便利屋に来た依頼だったのだが、嬉璃の裏ルートを使って今回中に入る事が許可されたわけで。
「とにかく今回は塔の見物…いや、調査のために結成された”あやかし調査団”ぢゃ!
皆の衆、写真撮影はほどほどに、おやつは500円まで、弁当はお昼の時間まで我慢、ゴミは必ず持ち帰るのぢゃぞ!」
『了解!』
「って思いっきり遊び気分じゃねえか!」
 かなりにぎやかに盛り上がる面々に、雛太は思わずツッコミを入れたのだった。



「で。調査開始にしても、この塔って入り口とか無いみたいですよね」
「無いなら作ればええんや!うちに任しとき!」
 ジャキッと音を立ててライフルを構える朱樹。
武器やらには詳しくない恵美が見ても、入り口どころか塔を崩れさせるんじゃないかと言うシロモノだった。
「そ、その前にもう少し調べてみませんか?!ほ、他の人も調べてるみたいですし!」
 慌ててとめる恵美。
「調べるって言うか…俺、少し聞いたことあるけど」
 朱樹が何か言おうとする前に、黙って塔を見上げていた雛太がぼそりと呟いた。
「何かご存知なんですか?」
「ウチの居候が…”生きてる”だとか”異世界”がどうとか言ってたんだよな…」
「異次元…生きてる…?」
「生きてるカリントウって言うのもなんだかアレな感じですね」
 どう言えばいいのか上手く言葉が浮かばない恵美だったが、何が言いたいのかは充分に伝わっていた。
「けどさ…」
 雛太は塔に近寄ると、警戒する様子もなくコンコンと塔の外壁をノックする。
「この質のどこが生命体なんだよなあ…?」
 首をかしげながら呟く雛太。さらに、つられるように鎮が弾む足取りで近寄り、同じように壁を叩いた。
「硬ぇ〜!ほんとに生きてるのかよ!?」
「…し、鎮さん…不用意に触らないほうが…」
 両手でバシバシと遠慮なく叩く鎮。恵美は額に汗を浮かべながら引きつった笑みを浮かべる。
「なんやこの外壁、爆破し甲斐のありそうやな〜♪」
 さらに朱樹も一応、グローブ越しではあるがぺたぺたと壁を叩いた。
「ノックして入れるならこれほどやりやすいものは無いよな…」
「雛太、一緒にノックしてみようぜ!」
 明らかに小学生にしか見えない鎮。学校はどうした?と思う雛太ではあるが、
この状況である。学校や会社もしっかり機能はしてないのだろうととりあえず自己納得して。
「おっ邪魔しま〜すっ!」
「お留守ですかー?」
 鎮の言葉に続けて、雛太がノックする。シーンと一瞬その場が静まり返り…
「やっぱそんな簡単にはいかな…」
「ぎゃー!!!」
 雛太があきらめ顔で振り返った瞬間、鎮の叫び声が響いて咄嗟に振り返る。
全員が驚いて目を丸くして見つめる先には、それまで何も無かった外壁に直径一メートルほどの穴が開いていた。
その中にすっ転んだのか、内部に鎮のランドセルが見える。
「……開いたみたいですね…」
「やってみるもんだな…」



 開いた入り口から”あやかし調査団”はぞろぞろと中に入る。
朱樹、雛太、由紀、嬉璃の順番で進み、さらに恵美が恐る恐る足を踏み入れた…その時、
「わ〜!僕も入れて入れてっ!」
 何者かが駆け込んできたと同時に、恵美が外へ押し出され、それと同時に入り口がみょい〜んと音をたてて閉じる。
それはネコバスの乗降口のような動きで、まさに”生命体”という事を納得できる動きだった。
「…って閉じ込められた?!うわ〜!!どうしよー!!」
「どうしようって…あなた、どうしてここに?」
 恵美を押しのけて入ってきたのは、新堂・愛輔。神聖都学園のレク愛好会会長なのだが…。
「あ、掛け持ちしてる新聞部の取材で来ただけだから。邪魔はしないから気にしないでいいよ!うん!」
 愛輔は一方的にそう言うと、ニコニコと笑いながら先陣を切って…と言うか、
あやかし調査団の面々を気にせずにさっさと先へ先へと進んでいく。まあ最初から一人で来たのだから別に構わないのだが。
「……どうするん?恵美はん、外に出てしもうたで」
「どうすると言っても…これ多分、外には出られないんじゃないか…俺のカンだけど」
「じゃあ先へ進めって事だよな?よし行こう!遊星からの物体エーックス!未知との遭遇!ファーストコンタクトッ!」
「楽しそうですね…皆さん」
「こういう場面で楽しんでこその”あやかし調査団”ぢゃ!さあ皆の衆、先へ進むのぢゃ!!」
『おー!!』
 ノリノリの嬉璃の掛け声に、朱樹と鎮は威勢よく答えて手を振り上げる。
最初は黙っていた雛太と由紀だったが、嬉璃に睨まれ仕方なく、控えめに小さく「おー…」とだけ手を上げたのだった。



 塔の内部、一階部分らしきそこは広めのフロアになっていて、壁も天井も赤黒くぬめり気のある質感をしている。
時折、動いているように見えるのだが、触ってみても動いている様子は無かった。
 フロアの端の辺りに、上へと続く階段らしきものがあるのだが、人工的な見栄えというわけではなく、
果たしてソレが階段であるのかどうかも怪しい雰囲気であった。
「とにかく上に行ってみるしかないですよね」
「じゃあこのリーダー鎮様が先に!」
「待ち!うちが先に行く!子供は危ないからさがっとき!」
「じゃあ俺は遠慮なく最後尾で」
 朱樹が先頭を、続いて由紀、その後を嬉璃と鎮が並び、最後尾に雛太がついて進むことになった。
もしものときはすぐにでも逃げる気は満々である。
「とりあえず一階部分から見てまわ…」
 進行しようとした由紀の言葉を、ドォンと言う爆発音のようなものが遮り全員硬直する。
音は近いようで遠く、上からのようで下からのようにも聞こえ、かすかに金属のぶつかり合っているような音も響いてくる。
「こらどっかでドンパチやっとるようやな…」
「どっかって…どこで?」
「そら知らんわ。この階のどこかのようにも聞こえるけど、外から見た広さだけで言えば…」
「ひとつのフロアはこの広さだけしか無いと思うんだけどな…」
「じゃあ上ぢゃな?」
 嬉璃が見上げると同時に全員で階段の上を見上げてみるものの、どうにも上からの音とも思いにくい。
かといってこの場でひたすら音の出所を調べるわけにもいかず、仕方なくぞろぞろと慎重に慎重を重ね二階へ進むことにした。
 二階の風景も一階となんら違わず、まったく同じようだった…が、壁や床に所々突起物がある。
その一つ一つは三十センチくらいの突起で、工事現場等においてあるカラーコーンのような見た目をしていた。
「かなりの怪しさ炸裂しとるやんか…」
「なんかこういうの見てるとバトン持って校庭一周したくなる感じだよな♪」
「運動会のリレーか…懐かしいな…小学生らしい発想だな…」
「とりあえず慎重にいきましょう、慎重に」
「輪投げにもよさそうじゃん」
「きゃー!!!なにやってるんですか鎮さーん!!」
 ドゴーン!と言うものすごい音がして、天井から直径三メートルほどの巨大な岩のようなものが落下してくる。
その真下にいた雛太は、咄嗟にカンで避けたものの、その差わずか十数センチ。顔面蒼白で額に汗を浮かべていた。
 どうやら鎮が問答無用で突起物を叩いた直後に、ソレは落下してきたようなのだが…。
「あ、危ないだろうが!!子供はうろうろするなー!!」
「おっもしれ〜!こっちはどうなるんだ?」
「鎮―――!!」
 ガッショーンという音と共に、今度は壁から勢い良くやりのようなものが飛び出してきて、
朱樹はひょいっと体をひねりかわし、雛太はその場に伏せてなんとか避け、由紀は式札から式霊を呼び出しで嬉璃を抱えて飛び、
張本人の鎮はと言うと…
「うっわ〜…あぶねーあぶねー!あとちょっとずれてたら頭に穴あいてたな〜!」
 なんとか避けたものの、ランドセルの上の隙間部分に見事に槍が貫通していた。
「鎮さーん!!なんて事するんですかー!!」
「あんたおもろいやっちゃなあ…」
「どこが?!」
 由紀が必死の形相で鎮を怒鳴り、朱樹は笑い声をあげ、雛太がこれまた必死の形相でツッコミを入れる。
鎮は言葉では「悪い悪い!」と言いつつも、顔は全然そうは思っていない様子だった。
というより、かなり楽しんでいる様子が…
「いいですか!もうどこも触らないようにしてくださいね!?」
「由紀殿、あまり怒るとシワになるぞ」
「そうそう!由紀ねーちゃんもうトシなんだし!気をつけないと!」
「とっ…」
 口を開いたままでぱくぱくとさせる由紀を尻目に、嬉璃と鎮はさっさと階段へと向かっていく。
「よ〜っし!ほんなら上にレッツゴーやな!!」
「…その前にここ押したら何が出てくるんだろ」
「って、だからそこ触るな―――!!」
 再びぞろぞろと動き始めた矢先、再び手近にあったあの突起をぺしりとひっ叩いた鎮に、
雛太の本日何度目かの魂のツッコミの叫びが塔の内部に響き渡ったのだった。



 ”それ”が起こったのは彼らがひとつ上の階へと足を踏み入れた瞬間だった。
それまでしっかりとしていた足場が揺らぎ、まるで綿の上を歩いているような感覚に襲われたかと思うと、
ある場所では床が突然せり上がり、ある場所では壁が迫り、ある場所では天井が下がりはじめる。
「みんな!離れちゃだめよ!?」
「む、無理だ〜!!って言うかなんだこれー!?」
「皆どこやー!?どこにおるんやー!?」
「嘘だろっ…こんなところで離散はごめんだぜ!?」
「落ち着くのぢゃ皆の衆〜!!それぞれの服の裾をつかむのぢゃー!!」
 口々に叫び、自分の居場所を主張するものの…しかし、”それ”によってあやかし調査団は分断されてしまったのだった。
そう、まるで意思を持ってそうしたかのように、それまで普通にあったひとつのフロアが…迷路と化していたのであった。

 散り散りになってしまった彼らは、果たして再び出会う事が出来るのか。
そして頂上にたどり着き、この塔の謎を解明することが出来るのか。

それは今この時、まだ誰も知らないのだった。





■GO TO NEXT STAGE…


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2254/雪森・雛太(ゆきもり・ひなた)/男性/23歳/大学生】
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/467歳/鎌鼬三番手】
【3104/吏綿徒・朱樹(りめんと・しゅじゅ)/女性/356歳/魔機械士】
NPC
【***/神城・由紀(かみしろ・ゆき)/女性/23歳/巫女・便利屋主人】
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)/男性/18歳/高校生・レクリエーション愛好会会長】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は「黒い巨塔〜あやかし調査団〜」に参加いただきありがとうございました。
台風が多い季節なので、それに絡んだお話を何か出来ないものか…と思い、ふと思いついたのが今回の依頼です。
連載ものの一話目という事で今回は乗り込んだところで終了しておりますので、
お話的にはあまり盛り上がりは無かったかもしれませんが、少しでも雰囲気を感じ取っていただけたら…と思います。
また、今回のエピソードはあやかし荘調査団の行動と草間調査団の行動が繋がっております。
ですのでところどころお互いに影響を出し合う部分があったりなかったりしておりますので(どっちだ)、
その点に関しても楽しんでいただけると幸いです。
 また、今回ラストではそれぞれバラバラになっておりますので、
次回の参加は、不参加または別調査団としての参加も可能ですので宜しければご参加下さいませ。(^^)


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>