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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Awakening + Birth

【序】

 何処に居るの? 僕の魂の――片割れ。
 出ておいで。僕の聲が聞こえるのなら。
 呼び返して。僕の聲が、聞こえるのなら。
 迎えに行くから――僕の片割れの、君を。

               *

 世間のごく一部を小さく騒がせた「希代の天才人形師・霧嶋聡里、記憶喪失のまま再び失踪」というニュースがようやく沈静化しはじめたその日。
 金色の月が、青褐に広がる空の彼方に姿を見せ始めた頃。
 どこにでもあるような普通のゲームセンター「Az」では、いつもどおり、学校帰りの学生や暇な若者達が様々なゲームに興じていた。
 入り混じる、あちこちのゲームから紡がれる音。一際大きいのは、何故か約5年ほど前に流行ったはずの音楽系ゲームから排出される、音楽。
 ヒップホップ、トランス、テクノ、ユーロビート等、ジャンルは多岐に渡っている。最近特によく鳴り響いているのは、アルペジオが多用されている、音楽用語で「非常に速く」を意味する名前がついたピアノアンビエントと、美しい響きが特徴的な「転生」という名のついたトランス、だろうか。
 その、種々の音が渦を巻く店内の一角に。
 モップの柄を握り真っ直ぐに乱れなく立つ白い衣装を纏った少年と、カウンターの傍に置かれた背の高いスツールに半分だけ腰を下ろした黒い衣装の少年がいた。この店のバイト生だろうか? 妙に現実離れしたような衣装が、その場にいる学生達とはどこか一線を画した雰囲気を彼らに備えさせていた。
「へぇ、琥珀って双子だったんだ?」
 スツールに腰掛けた、黒衣装の少年が顎先に手を添えて言う。黒髪の合間から見える紫の瞳に、好奇心という色を添えて。
 それに、琥珀、と呼ばれた白衣装の少年が無表情で頷いた。さらと銀色の髪が動きに合わせて揺れる。
「はい」
「その双子って、兄、姉、弟、妹。どれ?」
「妹か姉だと思います。女性であることは確かなようですが」
「だと思う?」
 奇妙な琥珀の物言いに、黒衣装の少年が首を傾げた。
「なんだ、だと思う、って? もったいぶってないでハッキリ言えばいいじゃん」
「もったいぶっているのではなく。僕はその双子の名前ですら知らないので。今どこにいるのかも、知りませんから」
「知らない?」
 どこかこましゃくれた硬い口調で淡々と無表情のまま話す琥珀に、琥珀より少し年上に見える少年が僅かに眉を持ち上げた。
「探さないのか?」
「探したいのですが、僕一人ではどうにも」
 ちらりと、琥珀がその、名前を現すかのような琥珀色の瞳を店内の奥まった方へと向ける。そこにいる、帽子を目深く被った黒尽くめの胡散臭い男に。
 それが、琥珀が親のように慕っている者――少し前に行方不明になったとかでニュースで取り上げられた「キリシマ・サトリ」という名の人形師である事、そしてこの周辺に、特殊な力を持つ人間の人体に奇妙な影響を及ぼす空間を創り出している者だという事を知っている少年は、ふっと息をついて小さく肩を竦めた。
「探してやればいいじゃん。一人で探せないのなら、ここで遊んでる奴でも使ってさ。そしたら琥珀のマスターも喜ぶんじゃねえ?」
 その言葉に、琥珀が霧嶋へ向けていた視線を少年へと戻した。それに、少年がニッと笑う。
「琥珀はマスターの作る『変な空間』から出られないんだろうけどさ、協力してくれる人間なら、外に出られるし。もしかしたら琥珀の双子、『空間』の外にいるのかもしれないし?」
「…………、そうですね。可能性がないとは言えない。僕がこの周辺を探しても見つからないのだから」
「よォし、決まりだな。俺は琥珀の分もバイトしなきゃなんないから行けないけど、ま、頑張って探して来い」
 言うと、少年は琥珀の肩をポンと叩いた。それにコクリと頷き、ふと琥珀は口許に手を当てた。
「……なら、名前を考えてやらないと……確かマスターはまだ名前を考えていなかったはず……石の名前……赤……」
 途切れ途切れのその呟きは、渦巻く音楽の中に飲み込まれて、すぐ目の前の少年にも届く事なくかき消された。


【再会】

 店内に足を踏み入れようとしたその背後から、いきなり物凄い音が聞こえてきた。
 店の隣にあるパチンコ屋からパチンコ玉が一斉に溢れ出して来たかのような、音。
 何かと肩越しに振り返ると、地面を叩くような激しい雨が視界に入る。つい数十分前まではよく晴れていたのに、今はもう、街は灰色の景色の中に沈みこんでいる。
 つい先日梅雨入りしたばかりの空はまだ不安定気味で、晴れていると思ったらすぐに空は曇り、そして雨が地上へ降り注ぐ。
 一応、天気予報では傘は持って行った方がいいかもしれないとか言っていた気がするが、出掛けにはまだ空は晴れて居たため、今すぐ使うわけでもないそんな荷物になるような物などできる事なら持ち歩きたくない、という理由で置いてきてしまったのだ。
「あっぶねー、ぎりぎりセーフだったな」
 傍らに誰かが居る訳でもないが、まるで誰かに話しかけるように呟き、ゲームセンターAzにやってきた季流美咲は大きな紙袋を抱えて開いた自動ドアを通過する。
 店内に足を踏み入れた美咲の身をふわりと包むのは、冷えた空気。湿度が高く、肌にねっとりと不快に纏わりつくような生ぬるい空気の中を歩いてきた美咲にとって、それはとても心地よいものだった。粘つく肌を、冷気が洗い流してくれるかのようだ。混ざっている煙草の臭いもまったく気にはならない。
 客が入ってきた気配に、入口間近にあるカウンターの傍で話し込んでいたバイト生二人が「いらっしゃいませ」と声をかける。それに、ひらりと美咲は片手を持ち上げた。
「うーっす、久しぶりだなァ琥珀」
 気安くかけられた声に、バイト生二人のうちの一人、白い燕尾服を纏った背の低い方のバイト生――琥珀がぺこりと小さく頭を下げる。
「お久しぶりです」
「って、何言ってんだ。こないだ逢ったじゃねえか、このバカがケガして情けない声で『痛いー痛いー』とか言って泣いてた時にさ」
 そう、呆れた声を発したのは、スツールに腰かけた黒いゴシックスタイルのバイト生だった。すでに顔見知りでもある彼のその言葉に、美咲がチッと忌々しげに舌を鳴らす。
「バカって言うヤツがバカだって知ってるか? しかも記憶違いしてやがるしよ。ねえ事をまるであった事みてぇに言ってんじゃねえよ、このホラ吹きヤロウ」
「バカって言うヤツがバカ? はっ、バカの一つ覚えみたいに同じことしか言えねえヤツをバカっつって何が悪い?」
「バカって言うヤツがバカだって親切に教えてやってんだろ? 聞けよ人の親切」
「親切の押し売りは親切って言わねえんだよ、覚えとけ、バカ」
「人の親切を素直に親切と受け取ることもできねぇ心の狭いヤツにバカ呼ばわりされたくねーっつってんだよ」
「そういうの、小さな親切大きなお世話っつーんだよ」
「……僕からしたらどちらもどちらですが」
 二人の言い合いの隙間にぽつりと呟いた琥珀に、美咲と黒のバイト生が同時に顔を向ける。そして何かを言いかけた黒のバイト生に向かい、す、と琥珀は彼の後方を指を差す。
「店長が睨んでおられます。貴方はお仕事に戻られるべきではありませんか?」
「……ちっ。あーはいはい。ったく、今日は優等生の琥珀ちゃん見習っていっちょマジメに頑張ってくっかなー」
 気だるげに、のろのろとスツールから腰を上げて軽く肩を回しながらその場から去っていく黒のバイト生の背中を暫し眺めやってから、またチッと舌打ちし、美咲は琥珀へと視線を戻した。
 そこにはもう、いつもと変わらぬ明るい笑みが浮かんでいた。
「前、あの黒服のバカに関わってここに来てお前に逢った時も思ってたんだけどさ。お前、ココでなら喋れるんだな。アンティークショップで逢った時には喋れなかっただろ? 動けなかったし。ただの人形だったのに」
 世の中不思議な事で一杯だな、と言って快活な笑いを零す美咲を暫し眺めて、琥珀は僅かに首を傾げた。
「確かに、この世には不思議がたくさんあります。理解できない事柄が、たくさん。……僕には貴方と彼がどうしてあんなにいちいち突っかかりあうのか理解できません」
「彼? あーあのバカの事か」
 先ほど去って行った黒のバイト生の事を言っているのだと即座に理解すると、美咲はひょいと肩を竦める。
「あるんだよ、一目あったその日から、何となくムカつく事もある、ってな」
「人間関係というものは難しいのですね」
「あーそりゃあもう大層難しいな。人の心ン中は何が棲んでるかわかんねえし。人は見かけによらねえんだぜ? オレなんかは見るからにイイコだろうけどさ。……っつーか。ンな事よりちょい気になったんだけど」
 真顔で応じる琥珀に真顔で頷いてみせてから、こんこん、と自分の左胸の辺りを拳で軽く叩く。
「ここって特殊な空間内なんだろ? それってオレにも適用されんのか? 一応、そういうのの影響受け付けないってのがオレの特殊能力っちゃあ特殊能力なんだけど」
 問いに、琥珀は少し考えるように視線を斜めに落としてから、ゆっくりと再びその金色の瞳に美咲を映す。
「……先日、黒のバイト生に関わって傷を負われた時には大変痛がっておられましたね。という事は、影響、受けていないのではないでしょうか?」
「ないでしょうか? って」
 首を傾げながら言う琥珀に、美咲は眉を持ち上げた。
「んな曖昧な。もし影響受けてっから、コワれても霧嶋に直してもらえばいいやーとか思って無茶やって大怪我でもして、実は影響受けてませんでしたーってそのまま死んだらどーしてくれんだよ」
「と言われましても……確かに僕はこの『域』の監視人であり、番人ではありますが、能力に干渉されない人間の……」
 言いかけてから、ふと琥珀は手に持っていたモップの柄を軽く持ち上げて、自分の胸をトントンとその先で軽く叩いた。
「なら簡単に、かつ確実に分かる方法がありますので、後で試してみましょう」
 簡単に分かるのならどうして今やってみないのだろう?
 思ったが、まあ今は別にどうでもイっか、とあっさり流し、先ほどまで黒のバイト生が座っていたスツールに腰を下ろしてずっと抱えていた紙袋の中から大きな箱を取り出し、ぱかりと蓋を開けた。
 その中には、白い詰襟の衣装を纏った、琥珀のミニチュア版のような人形が、静かに納まっていた。それを箱から丁寧な手つきで取り出すと、美咲は琥珀の前に差し出してニヤリと琥珀を見る。
 彼の反応を楽しむかのように。
「ここにお前がいるの分かってたしさ、折角だから今日はお前の兄貴、連れてきてやったぞ?」
 身長六〇センチほどの、秀麗な容貌をした銀髪の人形。長く伸ばして一つに結わた襟足の髪が、美咲の手の動きにあわせて揺れる。瞳は琥珀の金色とは違い、海のような深い青をしていた。
 その人形の名は、『瑠璃』。
 数ヶ月前、琥珀がアンティークショップレンで美咲に世話になった時に、霧嶋が碧摩蓮に礼だと言って贈り、碧摩がそれを美咲に報酬だと言って送りつけてきたのだ。
 送られてきた時には、こんなにデカい人形なんて貰っても……さてさて一体どうしたもんか、と途方に暮れたりもしたが、すぐ気を取り直し、そう遠くない未来においての使い道を思いつくとそれに向けて日々大切に取り扱ってきたのである。
「ほーら、どうだ琥珀? お兄ちゃんとの再会だぞー? 嬉しいかー?」
 一体どんな反応をするのかという美咲の期待に反し、瑠璃を目の前に差し出された琥珀は表情一つ変えなかった。ただじっと無言のまま暫し瑠璃を眺めて、やがてそっとその頭を撫でる。
「保存状態も大変良いようです。安心しました」
「って、兄貴に会ったのに感動薄いなーオマエ。なあ瑠璃? お兄ちゃんですよーって言ってみろ?」
 瑠璃の顔を横から覗き込むようにして言うと、美咲はふと、じっとその顔をよく見つめた。
 今、琥珀は、人と全く変わらぬ姿を取り、話し、動いている。
 としたら、琥珀と同じ「霧嶋聡里」が作った人形であるこの「瑠璃」も、もしかしたら動くのだろうか?
「……マジメな話、こいつも話したりとかできんのか?」
 その問いに、琥珀はわずかに瞳を細めた。
「残念ながら、マスターが作られた人形でも、僕と、今から探そうと思っている僕の双子の片割れくらいしか、人と同じように動く事はできません」
「なんだ、喋んねえのか……」
「ですが。話はできませんが、見れば分かります。貴方が瑠璃を大切にしてくださっている事は。ありがとうございます」
 ぺこりと律儀に頭を下げる。さらさらと零れる銀の髪を見、美咲はその口許に曖昧な笑みを浮かべた。
 話すことが出来たら面白いとは思うが、実際は先々、困るかもしれないと思ったのだ。だから、話せなくていい。話さない方がいい。
 これは、ゆくゆくは『瑠璃』ではなく……その瞳の名前を冠するのではなく、きっと、この銀の髪から取ったかのような名をつけることになるだろうから。
 白銀――と。
 何の偶然かはわからない。だが、自分の甥っ子とそっくりな姿かたちを持つ精巧な人形が手許に来た時、自分は近い未来において、ここにひとつの魂を込めようと思った。
 瑠璃を、人形――ヒトガタ、として使おうと、思ったのだ。
(……それを知ったら、コイツはどう思うのだろう)
 ちらりと、頭を上げた琥珀の金の瞳を見る。
 自分の兄を、そんな風に利用されると知ったら。
 この動かない表情を、多少なりとも怒りや悲しみに染めたりはするのだろうか?
「…………」
 ゆるりと頭を振ると、美咲は瑠璃を腕に抱いて肩を竦めた。
「ま、お前と瑠璃が話してるとこ見られねえのは残念だけどー……っつーか、『今から探す僕の双子の片割れ』って何の事だ?」
 先程琥珀が述べた言葉をなぞる。それに、琥珀は、自分には双子の片割れがいて、どこにいるのか分からないから今から探そうと思うのだ、と告げた。
「ふぅん……。……、なあ。それ、俺が手伝ってやろっか?」
「え? いいのですか?」
 瞬きする琥珀に、美咲は頷いた。
「ああ。別にかまわねえよ? 暇だし、お前の双子ってのも気になるし。何より、面白そうだしな?」
 それだけで手伝う価値はある。
 そう言って、美咲は歳相応の明るい笑みを浮かべた。


【捜索隊の面々】

 ゲームセンター「Az」の一階にある、自販機による軽食コーナースペースに置かれているテーブルの周りを囲んで椅子に腰掛けた面々は、適当に飲み物を購入してそれぞれ手にしたのだが、それに口をつけるや否や、怪訝そうな顔をして口許に手を当てた。
 味がしないのである。
 それが自分だけなら一時的な異変か? と思うのだが、他の者も同様の反応を示した事で、さらに表情に怪訝さが増す。
 ただ一人、何だろう? という顔をしたのは、飲み物も何も手にしなかった、学校の制服だろうか――白いカッターシャツを纏い、黒髪、そして黒く強い眼差しを持つ長身の少年、季流美咲(きりゅう・みさき)だけだった。
 が、彼は既に琥珀からこの「場」についての話を聞いていたのか、現在このゲームセンター「Az」を含む幾らかの範囲が特殊な空間内にあるのだと琥珀がその場にいる者たちに説明しても、特に驚くでもなく平然としていた。
「人形化……ね」
 事態を飲み込み、指先でテーブルの上に置いた、まだなみなみと茶が注がれている紙コップの端に触れて呟いたのは、赤錆色の着物の上に紫色の羽織を纏った漆黒の長い髪に秀麗な容貌を持つ、蓮巳零樹(はすみ・れいじゅ)だ。
「じゃあこの近辺の喫茶店でお茶とか飲んでも美味しくないわけだね、残念」
「怪我しても痛くない……のね」
 言って、自分の手の甲をトントンと軽く叩いて様子を見ているのは、黒髪に青い瞳を持つ、シュライン・エマだ。この中にあっては唯一の女性である。中性的な美貌に不思議そうな色を浮かべて、琥珀を見た。
「味覚と痛覚がなくなるのは分かったけど、触覚は普通にあるみたいね?」
「はい。ついでに言うと、皆さんが持っているであろう特殊な能力も、外界にいる時と変わりなく使えます」
「だろうな」
 既に何かをやった後なのだろうか、ごくあっさりと琥珀の言葉に頷いているのは、黒に近い茶色の髪とそれと同じような色合いの瞳を持つ青年、花房翠(はなぶさ・すい)だった。右手を軽く開いたり握ったりしながら、穏やかに微笑を唇に乗せている。
「面白い空間だな。なんでそうなってるのかとか気になるが、まあそれより先にアンタの片割れ探しだな」
「そういうことだ」
 椅子にゆったりと腰掛け、味のしない煙草を唇で挟んで頷いたのは、やや垂れ気味な眦に銀色の瞳を持つ、沙倉唯為(さくら・ゆい)。黒髪の間から覗く左耳にはリング型のピアスがつけられている。
「琥珀の片割れという事は、琥珀に似た様な容姿だと思って間違いないな?」
 煙草を唇から指で挟んで放して問う唯為の言葉に、琥珀は少し首を傾げてから曖昧に頷いた。
「そう……ですね。そうだと思います」
「ああ、そうか。君もその双子嬢を見たことないとか言っていたね」
 見たことがないのなら、自分と同じような容姿だとは言い切れないだろう。まあ、仮にも『双子』と言うのであれば、それなりに雰囲気等は似通っていてもおかしくは無いだろうが。
 肩にかかる髪を後ろへ払いのけながらの零樹の言葉に、琥珀はこくりと頷いた。
「その双子嬢の外見の特徴は? 分からない?」
 見たことなくてもそれくらいは知らないだろうかと期待を込めて言ったシュラインに、琥珀が視線を向ける。
「真っ白な服を纏っているそうです。ひらひらとした、レースとかがたくさんの……。それくらいしか分かりません。すみません」
「じゃあ、この空間の範囲とかは? 琥珀くんは確かここから出られないのよね? 出ても平気な時間とか距離とか、わかる? 琥珀くんと双子なんだったら、その子もきっと同じ条件だと思うから」
「空間の範囲は、マスターを中心にして、半径約一キロ程度ではないかと。空間を離れても平気な時間は、皆無です。たとえ数センチでも出る事はできません」
 打てば響くようにすらりと返される答え。ふむ、とシュラインは腕を組んだ。
「さて、どうしようかしら」
 ちらりと何とはなく見やった先では、美咲が所持していた小型のモバイルで何かを検索しているようだった。そうしながらも彼がこちらの話をきちんと聞いているのは明らかで、時々ちらりとその黒い瞳が様子を伺うように画面から逸れる。
 その彼の膝の上には、身長六〇センチほどもある大きな人形が置かれていた。銀色の髪と白い詰襟の衣装、というのが今ここにいる琥珀に似通っている。ただ、その人形の瞳は琥珀のように金色ではなく、青だった。
 聞けば、それは霧嶋聡里作の人形だという。思わず双子探しから意識が逸れてその人形に手を伸ばしたくなる気持ちをどうにか抑えて、零樹がシュラインの言葉に同意するように吐息を漏らす。
「どうしようかな?」
「あのさ」
 手に持っていた、一向に減らないコーヒーの入った紙コップをテーブルに置きながら、翠が口を開いた。
「とりあえず、なんか琥珀が持ってる物、借りられないか? もしかしたら何か読み取れるかもしれないからさ」
「読み取れる?」
 不思議そうに問う零樹に、翠は頷く。
「サイコメトリーっていう、俺の能力」
 上手く何かが読み取れれば、即座に探し人に辿り着けるかもしれない。嘘も隠し事も何もが無効になる、その能力で視れば。
 勿論、琥珀が何かを隠しているとは思わない。が、メトリーを使えば、そんな疑惑でさえもが一瞬にして払拭できる。
「どうだろう?」
「……そうですね」
 少し考えてから、琥珀はこくりと頷いて、胸元にある琥珀石のついたリボンの留め金にもなっている飾りを外した。
「僕のものでよければどうぞ使ってください。ですが、多分、僕は彼女とは接触がないため、何も見えないのではないかと思いますが」
 言い、外した飾りを翠の掌の上に乗せる。琥珀の瞳と同じ色合いのその石を暫し眺めてから、翠は手の中にそれを包み込み、瞳を閉ざす。
「――――……」
 澄んだ意識の先から生まれる、能力。集中するほどに透過していくその意識の中に、やがて緩やかに、何かの映像が映り始める。
 薄暗い場所で、微かに聞こえてくる、誰かの声。
 ――たった一人でこの世にいるのは寂しいだろう……。
 優しい響きを伴った少し低めのその声は、先刻、翠が能力を使った時にも聞いた声だった。誰の声かは分からない。が、これは……。
 おそらくは、霧嶋の声、だ。
 言葉は、さらに綴られていく。
 ――琥珀には、自分の名を示すこの琥珀石を加工して、飾りにして贈ろう。彼女には……その手から何も失うことがないように、月と太陽と闇を閉じ込めるための籠を……。
「かご?」
 ふっと意識の集中を解いて呟いた翠の言葉に、唯為が僅かに首を傾げる。
「籠がどうした?」
「ああ……霧嶋が、琥珀には琥珀を、彼女には籠を贈ろう、とか考えていたらしいんだが」
「琥珀には琥珀? ああ、シャレじゃなくてその琥珀の事な?」
 ついと翠の手の中にある琥珀の飾りを指差し、美咲は笑った。
「けどさ、何で琥珀には琥珀で、片割れには籠なんだろうな?」
「何も失う事がないように、とか何とか霧嶋は言ってたが」
「……よくわかんねぇな、ゲージュツカってヤツの頭は」
「で。どうなんだ琥珀? お前は籠に覚えはないのか?」
 翠と美咲のやりとりをただ黙って見ていた琥珀に、唯為が問いかける。それに、琥珀は緩く頭を振った。
「いいえ、僕には覚えがありません」
「じゃあ霧嶋氏に直接訊いてきたらどうかな。せっかくあそこにおられるわけだし?」
 ビデオゲームの筐体が並ぶ一角の、奥。薄暗い場所を指差して言う零樹の言葉に、少し考えるようなそぶりを見せてから琥珀は頷き、「では少し失礼します」と言い置いてその場から離れて行った。
「……ところで」
 店の奥へと歩いていく琥珀の白い背を見ていた零樹は、ふと隣でどこかのサイトを見ている美咲のモバイルの画面を覗き込みながら口を開く。
 美咲が見ているのは、どこかの人形関係のサイトらしかった。精巧に作られた西洋風の人形の姿を見ている内に、ふとある事を思い出したのである。
「そういえばあの子、霧嶋氏が二月頃に作成した等身大人形にそっくりだね。この空間にも訳がありそうだし……時間があれば直接話も聞きたいなぁ。霧嶋氏が突然失踪した件も気にはなっていたし」
「等身大人形?」
 深く椅子に背を預けて天井をしばし眺めていた翠がはたと瞬きをする。
「っていうと、あの、フライドチキン屋の店先とかに置いてある眼鏡に白いスーツのおっさんみたいな?」
「あはは、確かにあれは一七三センチでほぼ等身大らしいけど。ああいうのじゃなくて、それこそ今彼が膝に乗っけてる子みたいなのを、実際の少年サイズで作ったんだよ、人形師の霧嶋聡里は」
 明るく笑ってから、美咲の膝上にある「瑠璃」という名の人形を指差し、零樹は続ける。
「ぱっと見、人と見紛う程に見事な出来だったらしいよ。僕はその等身大人形が出された個展は用事があったから見に行けなかったんだけど」
「へぇ……。ああ、そういや霧嶋の件については俺もちらっと聞いたことがある」
 フリーのジャーナリストなどやっていたら、あちこちから様々な情報が耳に飛び込んでくる。それによると、確か数ヶ月前に霧嶋は事故にあったのではなかっただろうか。
「そうそう。彼が事故に遭って、それから数日後に、個展会場から等身大少年人形が無くなって。結局霧嶋氏の手許に戻ってきたらしいけどね」
 何があったんだろうねえと翠の言葉に相槌を打つ零樹の様子に、ちらりとシュラインと唯為、そして美咲が顔を見合わせた。が、誰かが口を開く前に、琥珀が足早に戻ってきた。
「失礼しました。籠というのは、白い鳥籠の事らしいです。高さ約三〇センチくらいの」
「それ、今も持ち歩いているのか?」
 翠の言葉に、琥珀は首を傾げる。
「どうでしょうか。ですが、マスターに持たされたものならおそらくは手放さず、今も持っていると思います」
「まあ、そんなの持ち歩いてる子なら、尚更目立つわよね」
 たとえ琥珀のような容姿でなくても、街中を白い鳥籠などぶら下げて歩いていたら、それだけで十分目に留まる。
「だったら、街で聞き込みするのが早いかもしれないわね」
「そうだな。片割れが霧嶋の域内で琥珀同様に動き回っていたとしたら、かなり目立つはずだ」
 シュラインの言葉に頷くと、そのまま唯為は席を立ち、ふと琥珀の方を見た。
「時に、琥珀。とりあえず霧嶋のアトリエで手がかりなり情報なりを集めたいんだが。霧嶋が記憶を失っていたとしても、アトリエになら何かあるかもしれんだろう?」
「え?」
 突然の申し出に、琥珀が瞬きをする。ちらりと肩越しに霧嶋の方を一瞬振り返ってから、すぐに何も無かったように一同の方へと顔を戻して、こくりと頷いた。
「ええ、それは別に構いません。アトリエはここからさほど遠くない住宅街にありますし、僕も一緒に行きます」
「じゃあ、工房の方へ向かいながら、途中のお店とか地元の人なんかに聞き込みしてみましょうか。目撃談とか聞けるかもしれないし」
「よーし、決まりだな」
 言って、モバイルの電源を落として小脇に抱えながら、もう片手に抱きかかえた瑠璃を、美咲は琥珀に差し出した。
「瑠璃も連れてく?」
「瑠璃も……ですか? 貴方が手放すのが寂しいと言うのであれば連れて行ってもいいですが……出来ればマスターに預けていただけたら、雨空の下、濡れたりしないかと心配せずに済むのですが」
 差し出された瑠璃を両腕で丁寧に抱き取りつつ紡がれる琥珀の台詞に、美咲は軽く肩を竦めた。
 確かに、折角キレイで高価な人形を、わざわざ雨降りの中連れて歩いて汚す必要も無いだろう。
 本当は、霧嶋聡里の手により製作されたものだから、たとえ言葉等が発せられなくても何か呼び合う事もあるかもしれないと思ったのだが。
「別に俺は寂しくはねぇし、汚すのもアレだしな」
「では、彼はマスターに預けておきましょう」
「さて。では行くとするか」
 雨の中へ出て行くのは多少億劫な気はするが、ふと見やったガラスの向こうの景色に降り注いでいる雨の粒が先程より少なくなっているような気がし、これも日頃の人徳だな、などと言う唯為を、ちらりとシュラインが見やったが、特に何も言わなかった。
 言っても無駄だと思ったのか、世の中本音を口に出すだけが真実ではないと理解しているからかは、分からない。


【傘】

 先ほどまで、滝のようだった雨は勢いを緩め、今は小雨状態だった。
 時折空から晴れ間が覗く事からして、もしかしたらもう暫くしたら止むかもしれない。
 シュラインと零樹、翠、唯為はそれぞれ自分で傘を持って店にやってきたのだが、雨が降る前に店にやってきた美咲と、ずっと店にいた琥珀は傘をもっておらず、とりあえず琥珀が店長に置き傘はないかと尋ねたところ、一本だけあるとの回答を得た。
「……では、それは季流さんが使ってください。僕は構いませんので」
 店長に借りた傘を美咲の手に渡しながら言う琥珀に、シュラインが眉を寄せる。
「構いませんって、濡れていくつもり? ダメよ、そんなの。風邪……は、ここではひかないのかもしれないけど、とにかくダメ。大体、その綺麗なお洋服が濡れたらきっと霧嶋さんも悲しむわよ?」
「…………、それは」
 霧嶋が悲しむ、の言葉に言葉を失くす琥珀の頭を、ぽんと軽く叩いてそのまま自分の方へと引き寄せたのは、唯為だった。
「俺の傘に入れてやる。何、遠慮はいらんぞ。どうせこの傘もアンティークショップ・レンの店主の傘だしな」
「それ、普通は俺の傘って言わない」
 美咲にツッコまれるが、唯為はフッと鼻先で笑った。
「今は俺が使っているんだから、俺の傘だ。知らないか? 俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの、という有難いお言葉を」
「……ジャイアニズムか……」
 ぼそりと呟いた翠に、ニヤリと笑って「ご名答」と声をかける。それに、零樹が微かに笑った。
 自分も大概ひねくれていると思っていたが似た様な人もいるもんだなあ、などと思いつつ。……思うだけで口には出さないが。


 霧雨のような細い雨が降る中、様々な色の傘を差しつつアトリエへ向かう道すがら、唯為がとりあえず人形関係者や骨董店等、そしてシュラインが宝石店でも話を訊けないだろうかと提案したのだが、それに静かに傘を持つのと逆の手を軽く上げたのは、零樹だった。
「僕も一応人形関係者なんだけど。最も僕は日本人形専門だけどね」
「日本人形でも人形には違いないし。なにか情報はないの?」
 シュラインが問う。その業界の裏になら何か情報が転がってはいないだろうか? と思ったのだが。
「んー。まあね、霧嶋氏の失踪の件については少しは聞いているよ。あくまでも噂程度のものだけど」
「どんな噂だ?」
 美咲の言葉に、んん、と指を顎先に当てて零樹は視線を傘の下から曇り空へと向けた。さらと長く伸ばした黒々と艶やかな後ろ髪が動きにあわせて揺れる。その髪を片手で肩口に纏めながら、記憶の中にある霧嶋聡里に関する事柄を引っ張り起こす。
「昔は、なんだかとても穏やかで人望も厚い人だったんだけど、『白惺(はくせい)』っていう白い人形のシリーズを作り始めてから、だんだんと精神的に不安定になっていった、みたいな事は言われてたなぁ。人形一つ作るたびに性格がコロコロ変わったりしてたから、多重人格なんじゃないかとか、人形に魂を吸われてるんじゃないかとか、人形に魂を囚われてるんじゃないかとか、人形に呪われてるんじゃないかとか」
 言ってから、あ、と口許に手を当て、唯為と同じ傘の下にいる琥珀を見る。
「まあ、ただの噂だからさ、気にしないでよ」
 その言葉に、琥珀は特に気に障った風でもなくさらりと頭を振った。
「いえ。僕は気にしていませんから」
「……でさ。さっきから気になってたんだけど、キミ、その『白惺』の一人に似てるよねえ。『白惺』の象徴とも言われてる等身大の少年人形に」
 確か、衣装までが今琥珀が纏っているものと同じだったような覚えがある。
「どうなのかな?」
 笑みを含みつつ、けれども真っ直ぐに琥珀の目を見据えながらの零樹の問いに、翠も琥珀を見た。
「もしかしてアンタ、その人形のモデル、とか?」
 その言葉に、シュラインと唯為、そして美咲も、ちらりと琥珀を見る。そういえば、さっき店内で琥珀が席を外した時にも、三人で顔を見合わせていたが……その三人の様子に、零樹と翠は怪訝な顔をした。
「……何か、隠してる?」
 零樹の問いに、口を開こうとしたシュラインを、琥珀が軽く手を持ち上げて遮った。
「隠しても仕方のないことです。その筋の専門の方がおられるのなら尚更。別に隠すような事でもありませんし」
 言って、琥珀は翠と零樹を、感情のこもらない金色の眸で見た。
「モデルではなく、僕はその等身大の少年人形そのものです。ここはマスターの生み出す特殊な『Az』という『域』――空間の中。不可思議な能力を持つ人間、そしてマスターの作った等身大人形に対し特殊な力が働く空間。僕が普通の人間と変わらないように振舞えるのも、この空間の影響です」
 それに、零樹が微かに首を傾げた。
「じゃあ僕が作る人形とは違うわけか」
 その呟きに琥珀が不思議そうな顔をしたが、「いや、こっちの話」と軽く手を振って曖昧に笑った。
 もしかしたら、最初に琥珀を見た瞬間に何かを感じたのは、彼が人形だから、かもしれない。零樹には、人形の声や感情が聞こえるという能力がある。現状の琥珀も『人形』と呼ぶべきかどうかは分からないが、彼のその無表情の内から僅かでも感情の欠片を見出せたのは、多分、自分の持つ能力のせいなのだろう。
 何かを考え込むように黙り込んだ零樹を気にかけるように眺めながら口許に手を当てた琥珀の頭に、そっと手を置いて、唯為が自分のほうへ引き寄せた。ふらりとよろけるようにして自分の傍に来る琥珀の頭からするりと肩へ手をずらし、ほんの数滴、そこについていた雨粒を軽く払いのける。
「まあとりあえずコイツの生い立ちはさておいて。人形関係の輩も、コイツの片割れの行方の情報は知らない、ということか?」
「その子があの等身大人形の少年側だとしたら、つまり人探しというのは同時期に作られたっていう少女側の方を探すって事だよねぇ? もし裏に流れたら随分な値段がつくんだろうなあ」
 その零樹の言葉に、美咲はにやりと笑った。
「幾らでも、売られてんだったら買い戻してやりゃいいだけじゃん? 逆に探しやすいと思うけど」
 あっさりとした、世間知らずの子供のような美咲の言葉に、零樹が唇の端を歪めて笑う。
「いくら値段がついてると思ってるの? 百万単位だよ?」
「あーそんくらいなら平気。こう見えてもオレ、イイトコの坊ちゃんだから」
 世間知らずなのではなく、実際に幾らでも出す事が出来る者の言葉だったらしいとわかると、零樹は僅かに肩を竦めた。それに、唯為が小さく笑う。
「まあ、俺としてもカワイイ琥珀の片割れのためならそれくらいは都合つけてやれるかな」
「……はー……」
 懐具合の温かそうな二人の言葉に深い溜息をつき、「お金ってあるところにはあるのよね……」と遠い眼をしながら呟くシュラインの肩を、翠が苦笑しながらぽむぽむと慰めるように叩いた。
 草間興信所の事務員として苦労している彼女の姿をよく知っている翠としては、思わず同情せずにはいられなかったのである。


 アトリエに向かう道すがら、とりあえず何か情報を持っている人物はいないだろうかと、通りすがりの地元人や地元の店等で聞き込んでみたが、特に引っかかるような情報はなかった。
 骨董店から出てきた唯為と琥珀、そして宝石店から出てきたシュラインが、外で美咲が小型モバイルで新しい情報は出ていないかと検索しているのを横から眺めていた翠と零樹に合流する。
「何か情報は?」
 問うシュラインに、美咲がひょいと肩を竦めた。
「なーんにも。人形マニアとかが売買希望してるサイトにも情報集まってる感じもねえし。さっき店で見てた時と変わらず、琥珀はいい値段ついてるぞ。でも今売ったらちょっと人身売買ちっくだよな」
「いい値段って」
 苦笑して言ってから、ふと翠は真顔に戻った。
「既に誰かが見つけて、どこかに監禁とかしてたりしなければいいけどな……」
「そんな……。彼女はマスターのものです。他の誰かが勝手にそんな……」
 小声で呟く琥珀の頭を、くしゃりと横から唯為が撫でた。
「心配するな。まだ探し始めたばかりだ、そんなに簡単に見つかるようならお前一人でも探せただろう? ……心配するな」
 少しでも琥珀が不安という感情を抱いたのであれば、それを少しでも宥めるようとするかのように常と変わらぬ強い口調で言う。その強さが、琥珀の中に生まれた不安を拭い去ればいいと思いつつ。
「……、まあとりあえず、この際だからさっさと霧嶋さんのアトリエに行きましょう。街で情報拾えなくてもそこでなら何か見つかるかもしれないし」
「あぁ、そんなに急がなくてももうすぐそこだよ。ほら、あそこ」
 シュラインの言葉に、先を歩いていた零樹が曲がり角の先を指差す。
 閑静な住宅街へと向かうその通りに、古びた洋館があった。零樹の細い指はそこを指し示している。
 そこが、霧嶋の住居兼、工房だった。
「……、あれ……?」
 翠が、ふと足を止めて周囲を見渡し、何かに引っかかったように首を傾げた。が、今はその心中の引っ掛かりが何を示すものなのか今ひとつ掴めず、すぐさま先を歩いている者たちの後を追った。


【月と対になる、もの】

 霧嶋のアトリエ内は、白壁の、飾り気のない空間だった。
 ごちゃごちゃしているのかと思いきや、室内はすっきり整理整頓されていて、霧嶋の几帳面さを窺い知る事ができた。
 唯一放り出されているものと言えば、そんな部屋の中央にある大きな作業机の上に、作りかけの人形だけである。
 それに静かに歩み寄ると、そっと指先で触れて、琥珀は眼を細めた。
「それ、お前の弟か妹か?」
 ひょこっとその肩越しに人形を見、美咲が問う。唐突に背後から話し掛けられても少しも驚くそぶりを見せずに、琥珀が小さく頷いた。
「完成前に、マスターが制作をやめてしまわれたんです」
「何でやめたんだ?」
「……、わかりません。それより、何か手がかりはみつかりそうですか?」
 少し間を置いてから緩く頭を振って答え、室内のあちこちに散らばって様々な紙や資料、パソコンを立ち上げて中のデータを見ている者たちに向かって琥珀は問いかけた。
 作業机の前で人形の設計図をまじまじと眺めていた零樹が、ほう、と感嘆の溜息を漏らす。
「凄いねぇ、こういう作りなんだ、霧嶋聡里の人形は。ねえ、これ一枚貰って行ってもいい?」
「アンタ、趣味は後に回せよ」
 テーブルの上に散らばっていたメモ用紙一枚一枚に眼を通していた翠が苦笑しながら言うのに、零樹も笑う。
「そうだね、彼女を見つけられたら霧嶋氏に直接、報酬として交渉するか。とりあえず、彼女の容姿はこんな感じらしいよ」
 言って、手に持っていたA3サイズの紙を作業机の上に広げた。
 ウェブ上には琥珀の姿はよく出ていたものの、少女の方は全く出ていなかったため、今ようやくその姿が明らかになった。繊細なタッチで描かれた設計図とデザイン画には丁寧に着色もなされている。
 真っ直ぐに太腿辺りまで伸びた髪は、綺麗に毛先が切りそろえられている。
 琥珀と同じ、髪は銀。総レースのヘッドドレスには白い薔薇飾りがついてい、そこから長い白いリボンが垂れている。衣装は、あちこちにレースがあしらわれた優美な白いドレスのようなもの。一見すると白いネグリジェかスレンダーラインのウエディングドレスのように見えなくもない。
 そして、その胸の中心には、真紅の薔薇が一輪。
 真っ白な中にただ一つ、それだけが唯一の彩りだった。それだけに、妙に眼を引く。
「…………、眼、閉じてるわね」
 かなり細やかに描き込まれているため、一種の美術品でも見ているような気分でデザイン画に暫し見入っていたシュラインが、今は仕事中だという意識を引き戻してぽつりと言った。それに、唯為が琥珀を見る。
「確か前、アンティークショップでお前の名前を探している時に得た情報では、娘の方は眼は閉じていて瞳は嵌っていない、という話だったと思うが」
 重ねられる問いに、琥珀はこくりと頷く。
「僕とここを出る前に、マスターが赤い瞳を彼女に入れたと言いました。元々は桃色の瞳を使うつもりだったようですが、突然、琥珀と対にするのなら赤にしよう、と思ったらしく」
「琥珀と対にするのなら?」
 美咲が首を傾げる。
「何だ? じゃあ琥珀と対になってるような名前なのか?」
「いえ、名前自体は決められていません。ただ、その瞳の色の意味が……」
「意味って?」
 す、と自分の瞳を指差し、琥珀は美咲を見る。
「僕の金の瞳は、月の光を宿すもの。赤は」
「太陽、とか?」
 零樹が横合いから答えた。それに、琥珀は静かに頷く。
「僕の瞳は、マスターが金色の月光に一晩晒し、月明かりを籠めてくれました。彼女の瞳には、真紅の光……夕陽が放つ光を籠めています」
 ふ、と。
 それを聞いた翠が何かに気づいたように双眸を見開いた。そして。
「あ――……!」
「どうしたの、花房くん?」
 傍らにいたシュラインがその変化に問いかける。それを手で制して、翠は琥珀に顔を向けた。
「霧嶋、あそこにあった音楽ゲームに触ったことないか? あの物凄い音の、今あのゲーセンで流行ってるヤツ。DJもどきのゲーム」
「え? はい。マスターは、全曲クリアした時に流れる音楽が好きで、それを近くで聴くために、僕がクリアした後には時々近づいて来られて、筐体にもたれながら聴いておられますが」
「その音楽の名前は?」
「僕は名前まではわかりませんが、静かなピアノ曲です。あ、お客様がタン……何とかストリームとか言われていた気がします。よく聞こえなかったので覚えていませんが……」
 にやりと笑い、パチンと翠が指を弾いて音を鳴らした。
「あー、じゃあ多分それだな。"Tangerine Stream"ってのは。ずーっと何の事だろうって気になってたんだが」
「Tangerine Stream……"赤橙の流れ"? どういうこと、花房くん」
 シュラインの問いに、今度こそ翠は頷いた。そして。
「霧嶋はその曲を聴きながら彼女の事を思っていたんだ。もしかしたらこの近辺にいるかもしれない、彼女」
「どうしてそんな事が?」
「あのゲームの筐体に触ったらそんな記憶が見えた」
 雑多な記憶が溢れる中、あまりにも静かで――静か過ぎて、見逃すことができなかった記憶。
 それが、霧嶋の記憶。
 問いかけた零樹に答えて、ふと翠は笑った。
「記憶の中で、彼女の姿は見えなかったけど、霧嶋は『呼ばれる日まで目覚めてはいけない。ここで静かに』とか言っていた。たぶんそれは彼女への台詞で、『ここ』ってのはこのアトリエのことじゃないか? 真っ赤な光が差す部屋で、そんな事を言ってたが」
 そして、翠がアトリエ前で感じた引っかかりは、その記憶の中、窓から微かに見えた風景が現実に目の前に広がっていたためだろう。
「真っ赤な光……」
 視線を少し斜めに上げつつ顎先に軽く折り曲げた右手の人差し指を当てて呟くと、その次の瞬間には何かが閃いたのか、唯為は琥珀へと視線を転じた。
「……琥珀、この邸内で夕焼けが見られる部屋はどこだ?」
「夕焼け? 西日が入る部屋ですか? それでしたら……」
 言って、琥珀は天井を指差した。
「この真上の、マスターの寝室です。が、彼女はいません」
「何でンなこと言い切れるんだよ?」
 すぐさま部屋を出ようとして足を止めた美咲の問いに、琥珀は天井を示した指を下ろしながら眼を伏せた。
「いるのなら、僕たちがここへ入って来た時点で出てくるはずです。マスターのアトリエに誰かが入って来たのに、無視している訳がありません」
「じゃあ、待てっていう霧嶋さんの――琥珀くんたちのマスターの言葉を無視してどこかへ行ってしまったのかしら。それとも、霧嶋さんと琥珀くんがここにいない間に誰かに連れ出されたとか?」
 独り言のように呟いてからふと、シュラインは近くにあった本棚へと視線を向け、素早く歩み寄った。そしてそこに並ぶ本のタイトルを指でなぞり視線で追ってから、スッと一冊の本を取り出す。
 それは地図だった。
「ここがあのゲームセンター」
 素早くこの近辺が描かれたページを開き、シュラインは作業机の上にあった赤いペンを手に取り、ゲームセンター「Az」の辺りにバツ印を入れた。そして零樹へと顔を向ける。
「そこにある定規とコンパス取って」
「ああ、これ? はいはい」
 腰を預けるようにしていた別の机の、その上にあるペン立てから30センチ定規とコンパスを抜き取り、零樹はシュラインに差し出す。そしてシュラインが定規で何かを図り、バツ印の上にコンパスの針を差し、円を描くのを見る。
「あー、それって霧嶋の特殊能力の範囲? 『域』だっけ」
 シュラインの意図に気づいて美咲が発した問いに、彼女は頷いた。
「半径一キロとか言ってたわよね、琥珀くん。ならこれが域で……このアトリエはこの辺なのよね」
 言ってシュラインが星印を書き入れたのは、霧嶋の能力の範囲を示す円の、真上にほど近い場所。あと数センチで枠外に出てしまいそうな程の場所である。
「もし、霧嶋さんがゲームセンターから出て、このアトリエとは逆方向に移動したら?」
「ここいらは域の外に置かれるな」
 翠が眉を寄せて答えた。シュラインが頷く。
「で、霧嶋さんの言いつけを破って、彼女がほんの少しでもアトリエの外に出ていたとしたら」
「……琥珀。域外に出たらお前はどうなるんだ?」
 大体予測はつくが、と付け足す唯為に、琥珀はこくりと頷く。
「僕は域外に置かれると動けなくなります。意識も記憶も全て、飛んでしまいます。それは彼女にとっても同じ事。……簡単に言うと、人形に戻るという事です」
「……、この近辺の、域範囲ラインギリギリを探してみるか」
 地図上に描かれた円の上を指でスッとなぞってから、唯為は琥珀の頭に手を置いて踵を返す。琥珀を促がすように。
「行くぞ」
「そういえば、住宅街に入ってから聞き込みもしてないね。何か聞いたら情報、ぽろっと出てくるかも」
「そうよね。琥珀くんでも十分目立つ容姿だし。あのデザイン画どおりなら、彼女も結構目立つはずよね」
 自分で移動したにしても誰かに連れ出されたにしても、目撃者はいるだろう。それが深夜など、人通りが少ない時間帯の行動でない限りは。
 なんせ、少女は普通の少女と同じくらいの大きさだ。ならば人一人を誘拐するのと同じようなものである。目撃者がいる可能性のほうが、きっと高い。
 零樹の言葉に頷くと、シュラインも足早にアトリエを後にする。翠もそれに続き、更に美咲もそれに続こうとして――ふと、足を止めた。
 そして、デスクの上に広げられたままのデザイン画を見やり、うむ、と頷く。
「やっぱ、名前はアレしかねぇよな。あ、でも他の奴らも何か考えてんのかな?」
 その双眸には、絵の少女の胸につけられている真紅の薔薇が映っている。


【呼ばれし、名】

 夕食時が近いせいか、閑静な住宅街にはあちこちからいい匂いが漂ってきている。
 そんな中、学校帰りの子供達や遅めの買い物から帰って来た主婦などを何人か捕まえて話を聞いた一同は、揃って、近くにある堤防まで来ていた。
 空を覆っていた雲は去り、今は夕陽が、川を挟んだ向こう側の堤防と街並みの裏側へと消え行こうとしている。
 金色の瞳の中に、夕陽を受けて炎のような赤い揺らめきを宿しながら、琥珀は無言でその眼を細めた。
 高いビルなどは、一つもなく。
 空がとても広く感じられる、その場所。
 全てが真紅に染まる景色の中、パンと軽く美咲が小脇に小型モバイルを挟み込んで両手を打ち合わせた。
「さってと。この辺で白い鳥籠がおっこってるの見かけたとか言う話はあったけど」
「この風景……霧嶋の記憶に焼きついてるのと同じだな。もしかしたらここで彼女の瞳に夕陽を浴びせたんだろうか」
 翠が呟き、ゆっくりと川上から川下に向けて、水の流れに沿うように視線を流す。
「けど、白い服の女の子なんてどこにもいないねえ? 白い鳥籠も見当たらないようだけど? まあ、ここにはあるけど今は見えない、のかもしれないけどね」
 堤防には雑草が背高く生えている。もししゃがんだり倒れたりしていたら、ここからではどこにいるかなどわかるはずがない。
 周辺へ翡翠のような瞳を巡らせていた零樹の呟きに、一同から吐息が漏れる。
 それは同意を示す溜息だった。
 しかしここまできて諦める訳にもいかず、片っ端から草をかき分けて探すしかないかと誰からともなく言いかけた、その時。
「……っていうかさ。琥珀?」
 不意に美咲に呼ばれて、ぼんやりとその風景を眺めていた琥珀が視線を彼へと向ける。それに、明るい笑みを浮かべて美咲は頷いた。
「動いてるよな、お前。ってことは今ここは域の中ってことだよな? だったら、双子も動けるって事じゃねえの?」
「呼んでみたらどうだ、琥珀?」
「…………」
 唯為の言葉に、琥珀は少し視線を伏せた。その閉ざされた瞳の奥で彼が片割れに対しどういう呼びかけを行っているのかは分からない。一同はじっと琥珀を見つめる。
 が、ややして。
 ふっと金の双眸を開き、琥珀は緩く頭を振った。
「答えません」
「……いないのかしら、この周辺に」
 頬に手を当てて、シュラインが首を小さく傾いだ。それに、ふと琥珀は眼をシュラインへ向けた。
「もしかしたら、僕が勝手にそう思っていただけで、彼女は僕の声には応えないのかもしれません」
「どういうことだ?」
「彼女は、僕のようにはまだ、マスターの空間内でも動けないのかもしれません」
 唯為に答えて、そのまま琥珀は翠を見た。
「マスターの記憶をご覧になられた時に、貴方がお聞きになった言葉。『呼ばれるまで、目覚めてはいけない』というのは、そういうことなのではないかと。僕も、どなたかに『呼ばれて』からしか記憶がありませんから」
 もっとも、呼ばれてからも、霧嶋があの奇妙な能力に覚醒するまでは今のように動くことはできなかったが。
 そう付け足してまた川辺へと視線を向ける琥珀の横顔を見ながら、美咲が口を開いた。
「呼ぶって、もしかして名前か?」
「はい。彼女にはまだ名前がありません」
 言ってから、少しだけ唯為へと視線を向けながら、琥珀は言葉を続けた。
「名は、己を示すもの。彼女自身の意識すら指し示すものであるのなら、呼べば答える、かもしれませんが……」
「ああ、そういや彼女の名前、分らないんだったな。あんたが琥珀だろ? なら、赤って事ならガーネット……いや、もっと簡単に、アンタと同じ漢字名で『石榴(ざくろ)』ってのはどうだ?」
 翠の言葉に、ぱっと美咲と零樹が顔を向けた。
「まあ、名前的に石榴はなかなかイイかもしんねえけど、石的にと、あとはオレ的には、断然『瑪瑙(めのう)』推奨」
「そうだねえ、僕としても『瑪瑙』の方を推奨かなぁ? 赤褐色の宝石」
 血みたいで綺麗な色だしね、とは口にせず、零樹がにこりと琥珀に笑顔を向ける。
「石榴……瑪瑙……」
 ぽつりと呟き、琥珀は視線を、西の彼方へと沈み行く太陽へ向ける。思案するような彼のその頭をくしゃりと掌で撫で、唯為が唇を僅かに歪めて笑った。
「直感で決めてやれ。お前がいいと思う物をつけてやるなら、相手も文句は言うまい」
「…………。では、『瑪瑙』推奨の方が多いようですので、瑪瑙で」
 言ってから、自分の方を見てすみませんと小さく言う琥珀に、翠は明るい笑みをみせて軽く手を振った。
「いいっていいって。ま、とりあえず決まったんなら早く呼んでみろって」
「まあ、私も瑪瑙って名前はなかなかいいと思うわよ? 親子や兄弟なんかを深い愛の絆で結びつける力があるって言うしね? 瑪瑙って石には」
 シュラインの言葉に、琥珀は相変わらず感情に乏しい瞳を向けたが、何か考えるように僅かに視線をずらせて、そうですか、と小さく呟いた。そして、ふと口許に手を当てる。
「呼ぶのは、できればマスターにお願いした方がいいような……。きっとあの声が、彼女にとっても一番深い記憶……生み出された時の記憶を呼び起こせると思うので」
「そうだね。やっぱり人形にとって製作者とのつながりは深いものだろうしね。キミが霧嶋氏をとても慕っているところから見ても、きっと彼はキミ達にとっては良い『親』なんだろうし?」
 子供なら、親の声で目覚めさせられるのがきっと、一番安心するだろう。
 人形だから、ではなく。
 呼ばれた後にそこに宿るであろう魂を思い、零樹は微かに口許に笑みを刻んで言った。
「じゃ、とりあえず霧嶋氏を呼んで来よ――」
「声ならここにある」
 零樹が温めの風に着物の裾を翻して踵を返しかけた、その時。
 ごく間近から聞こえた低い声に、驚いて視線を転じる。
 その先には、シュラインがいた。唇に人差し指を当て、片目を閉じて苦笑を浮かべている。そのまま、シュラインは琥珀を見た。
「本物じゃないけど、本物と大差ない声で彼女を呼ぶ自信は一応あるわよ?」
 いつもの声に戻って言うシュラインに、琥珀は眼を瞬かせてから、ゆっくりと頷いた。
「では、お願いできますか」
「霧嶋さんにもよろしく頼むって言われてるしね。私に任せてもらえるなら、やるわ」
 まっすぐに目を見つめて紡がれるシュラインのその言葉に、琥珀はこくんと頷いた。
 そうだ。マスターが「頼む」と言われたのであれば、彼女の意思は、自分にとっては今はマスターの意思。
「よろしくお願いします」
 深く頭を下げる琥珀に微笑みかける。それは、承諾の笑み。
 すう、と深く一つ呼吸をし。
 シュラインは、そこに、親が抱くであろう彼女への愛しさを、最大限に込めて……。
 娘への、この上も無い愛情を、込めて。
「私の声を聴け。そして目覚めよ……私の娘、『瑪瑙』!」
 空へ向けて発された低い声が、川のせせらぎと風の中へと溶け、流れて行った。

 ――直後。

 ふ、と。
 琥珀が右の耳許に手を当てた。そして、表情も変えずに何かに憑かれたようにその場から駆け出そうとして、その腕を唯為に掴まれて引き止められた。
「おい琥珀、どうした!」
 それに反射的に振り返り、琥珀は再びその眼差しを川べりに生えている草むらへと向けた。
「彼女の声が」
「おしっ、任せとけっ!」
 琥珀の腕に持っていた小型モバイルを押し付けるようにして預け、美咲が琥珀が視線を留めている先に向かい、ひょいと身軽に堤防を駆け下りていく。翠もその後に続いて走り出した。シュラインもその後に続こうとして、零樹がその肩を軽く叩く。
「彼らに任せておけば大丈夫だと思うよ?」
 言った矢先。
「おー、お姫様らしきモノ、はっけーん!」
 腰ほどの高さまである草むらの中に身を低くして紛れていた美咲が、腕に何かが包まれた青いビニールシートを抱えて立ち上がった。駆け寄った翠は、その近くに転がっていた白い鳥籠を持ち上げて堤防の上にいる者たちに掲げてみせる。
 その籠の中には、下に黒い布が敷かれていて、宙には三日月と太陽を模った薄っぺらい銀の板がぶら下がっていた。


 堤防の上にビニールシートと鳥籠を持ち帰ってきた美咲と翠を向かえて、全員でその場に下ろされたシートを見やる。
「とりあえず、シート取って中確認してみないと」
 シュラインがそっと、シートに手を掛ける。そしてゆっくりと広げていく。
「――これは……」
 零樹が、息を呑んだ。思わず着物の裾を捌いてその場にしゃがみ込み、間近に、シートに内包されていたものを見る。
 それは、白い衣装を纏った一人の少女。
 霧嶋のアトリエで見たデザイン画そのままの少女が、まるで眠っているかのような穏やかさで、そこにいた。
「どうやらお前の片割れに間違い無さそうだな」
 唯為の声に、琥珀は頷く。そして、片膝をビニールシートの上に落として、そっと少女――瑪瑙の頬に触れた。
 少し汚れている、その頬。そして白い服もあちこちが汚れ、傷みが見える。
「アンタ、一応人形の専門家なら傷んでるとこないかどうか見てみたらどうだ?」
「そうね、後で霧嶋さんにもちゃんと見てもらわないと。女のコなんだもの、傷とかあったら大変だわ」
 翠とシュラインの言葉に、零樹は頷いてそっと瑪瑙の肩に触れた。そして上体を抱き起こすと、あちこち、服の上から分かる範囲で、触れて大きな傷みがないかどうかを確認する。
 さすがに、こんな場所で服を脱がせるわけには行かない。いかに相手が人形だとはいえ、この奇妙な空間では彼女も一応、「人間」だ。いや、この空間でなくとも、零樹にとって「人形」なら、もう既に人と同じように扱うべき存在だが。
「まあ、外見は少し汚れているけど、特に壊れたりとかはないんじゃないかな? 後は、内部とかはバラしてみたりとかしないと流石に分からないけどね。それは多分霧嶋氏自身でないとなんともならないんじゃないかな、特殊だから、構造が」
「じゃ、さっさと霧嶋んトコ連れて帰ろうぜ?」
 先刻、シュラインの呼びかけに答えはしたものの、どうもまだ眠っているかのような瑪瑙を、ひょいとその腕で軽々抱き上げて言う美咲の言葉に全員が同意を示すように頷いた。
 日は、深く西へと傾いている。吹き抜けた一陣の風が、足元に広げたままのビニールシートに乾いた音を立てさせた。


【天使の集い】

「しかし、何だな」
 ゲームセンター・Azに戻り、瑪瑙を無事に霧嶋の手許に戻した一同は、霧嶋が休憩室で瑪瑙の身体チェックを行っている間、軽食コーナーにあるテーブルセットに陣取っていた。
 相変わらず鳴り響く音楽は店内の空気を激しく揺らせ、落ち着くのだか落ち着かないのだかよく分からない雰囲気を作り出している。
 味がしないのを承知で、懲りずにコーヒーの入った紙コップ片手に椅子に深く腰掛けてゆったりと足を組み上げた唯為は、テーブルの上にある灰皿から細い煙を宙へと描き出している煙草を見ながら言葉を続けた。
「一体、誰があんな所へ瑪瑙を放置して行ったんだろうな?」
 霧嶋と琥珀が留守にしている間に、アトリエから眠ったままの彼女を持ち出した者がいるのは確かなようだ。が、それなら何故、そのままどこかへ持って行かなかったのだろうか。
「瑪瑙が連れ出されてどれくらい経ってるかわかんねえけど、霧嶋が行方不明になったとか言われてたのが、確か一ヶ月前くらいの話だろ?」
 預けていた間に素人目には気づかない程度に汚れていた肌や髪等を霧嶋によりすっかり綺麗にされてしまった、人形『瑠璃』を腕に抱えながら、美咲が首を傾げた。
「それから即連れ出されてたとしたら、一ヶ月もあんなトコに放置してたってことかよ」
「あんな大きなモノ持ってってアシがつくのを怖がったとか?」
「だからってあんな所に放置しておくかなぁ? 汚れたら売り物にもできないよ? まあ、持ち出した本人が売るつもりだったのかどうかはわからないけどさ」
 翠の言葉に、零樹が首を傾げる。そしてさらと肩に流れる黒髪を手で払いのけ、何かに気づいたようにふと顔を上げた。
「どうだったの?」
 その視線の先には、霧嶋に手伝いを頼まれて一緒にゲームセンターの従業員控え室へ行っていたシュラインと琥珀が居た。零樹の問いに、瑪瑙の衣装の破れた箇所の繕いを霧嶋に任されて、暫しの間針仕事に没頭していたシュラインが笑って頷く。
「傷は本当にどこにもないみたい。顔とかの汚れは今霧嶋さんが綺麗にしてる所。服の上から触っただけで傷みがないかどうかちゃんと分かるなんてなかなか目が利くようだって褒めてたわよ、霧嶋さんが」
「そう。それは光栄だね」
 片方の唇の端を上げて笑う零樹。有能な人形師に褒められるのなら、悪い気はしない。
「ま、とにかく、よかったわね琥珀くん」
 テキパキと霧嶋の助手を務めていた琥珀の肩にポンと手を置いて言うと、彼はシュラインに向けてこくりと頷いた。そして、その場に居た者たちにぺこりと丁寧に頭を下げた。
「本当に、このたびはどうも有難うございました」
「ま、とりあえず今日のトコはこれでメデタシメデタシってことで?」
 瑠璃の頭を撫でて笑った美咲の言葉に誰も反論はしなかった。
 が。
「しかし、何だな」
 先刻と同じ台詞を繰り返し、唯為はコトンと半分以上コーヒーが残ったままの紙コップをテーブルに戻した。そして眉を寄せて琥珀を見る。
「味がしないコーヒーというのは、やはり飲めたもんじゃないな」
「あー、それは俺も思う」
 同じように、やはり再度挑戦とばかりに一口飲んでみたはいいが何も味を感じなかったために、やっぱりダメだと悟ってそれっきりカップの中身を口に運ばなかった翠が、苦笑しながら同意する。
「味覚がなくなるってのは微妙なもんだな、結構」
「普段あるものがないっていうのは違和感あるけど、僕はまあ、別に嫌いではないよこの空間」
 やはり人形に関係がある場所だから、惹かれてしまうのだろうか。
 胸の内で言葉にしなかった部分を自己分析しつつ言う零樹が、ふと、視線を向けた先にいたシュラインが自分の肩にかかる髪に触れているのを見、僅かに首を傾げた。
「ねえ。何か首についてるよ? うなじのところに」
「え?」
 言われて、シュラインは自分の項に手を伸ばした。が、特に何かがついているようには感じない。
「え? 何、何がついてるの?」
 自分で見えないため、しきりに手で触れてみるが、指先にはいつもと大差ない肌の感覚が触れるだけ。
 その手に、そっと横に居た琥珀が触れた。
「本日、このマスターの域に入られたことで、この域内における規則の様なものが皆さんに適用されています」
「規則?」
 美咲の問いに、琥珀は頷く。
「何度か域に出入りすると、この空間における特殊な束縛が一つずつ融けていくようになっているようです。詳しいことはよく分かりませんが、免疫ができていくのかもしれません。とりあえず、域内では出入りするたびに各人に設定されているランクが上がっていきます。最初は『天使』、最後は『熾天使』」
「中はもしかして、『大天使』とか『智天使』とかあったりするわけか?」
 天使における階級と同じなのかと問う翠に、琥珀はまた静かに頷いた。そしてすっと、音楽ゲームのところにいる黒いシャツに黒いジーンズを纏った常連客を指差す。
 それが通称「ルシフェル」という名の青年だという事は、この場に置いては翠とシュラインのみが知る事である。
「あそこにいる彼は、『智天使』の階級で、空間における全束縛から解放されています。今皆さんは最下級の『天使』にランク付けされていて、これから何度かこの空間に入られる内に『大天使』『権天使』というように昇格します。ごく稀に、所持される能力の影響でこの空間の影響を受けない方もおられるようですが」
「んー……じゃあ、その昇格云々っていうのとこの首についてるのには関係があるの?」
 首筋に触りながら言うシュライン。横から、美咲がちらりとそこに書かれている文字を見た。
「なんか、二ミリくらいの黒い縦線が一つ入ってっけど。もしかしてここにいるオレたち全員にこれがついてる訳? つーか、天使って……多分オレらのガラじゃねえんだけど」
「何を言う。俺にはピッタリだぞ? キヨラカでヤサシイ俺には」
 足を組み上げながら笑いを含んで言う唯為に、オイオイ、と全員が口には出さず、表情でツッコむ。けれどそれにも構うことなく唯為は目を伏せ唇の端をつり上げて笑った。
「……、とりあえず、その印は空間から出たら消えますのでご心配なく。ここへ入るたびに浮き上がりますが、気にしないで下さい。何度ここへ入られたかの覚書のようなものですから」
 ただ一人、ツッコむ表情を浮かべなかった琥珀は、そう言うと静かにもう一度頭を下げた。
「本当に、今日はどうもありがとうございました。またこの近くへ寄られることがありましたら、当店へも足を運んでいだたけると嬉しいです」
 少しも嬉しくなどなさそうな無表情で淡々と言う琥珀に、五人はやれやれとでも言うように苦笑を浮かべてみせた。


【終――赤のバイト生】

 項の辺りに手を添えながら、折角ゲーセンに来た事だし、ちょっと遊んでいくか、と格闘ゲーム台が並ぶ所へ向かおうとした美咲は、つい、と制服の袖を引っ張られて振り返った。
「あ? おー、琥珀じゃん。どしたー?」
 足を止め、自分より十数センチほど低い琥珀の頭にぽむぽむと手を乗せる。
「あ、そうだ。瑠璃、ありがとな。キレイにしてくれてさ。前から美人だったけどさらに美人になってて大感激ってヤツだ。お前が霧嶋に頼んでくれたのか?」
「ええ。大切に扱ってくださっているのが嬉しかったので」
「嬉し……」
 呟いて、じっと琥珀の顔を見る。そして、ぷにぷにと頬を突付いた。
「ちっとも嬉しそうには見えねえんだけど」
「……、まだ上手く表現できないんです。感情表現というものを」
「せっかく綺麗な顔してんのになあ。笑ったらもっと綺麗だぞ? きっと。ほら、笑え」
「……、笑えと言われても……、いえ、それよりも」
 ぷにぷにぷにぷにと指先で頬をしつこく突付かれるのに僅かに眉を寄せてその手を払いのけると、琥珀は美咲が片腕に抱えている瑠璃を見て、そして、す、と格闘ゲーム台がある場所の、さらに奥まった場所を指差した。
 そこは、霧嶋がいる場所である。
「少し、お時間よろしいですか?」
「え? 何、もしかして霧嶋にお人形の取り扱い方レッスンとかさせられたりとかするわけ?」
「いえ、そうではなく……瑪瑙を探していただく前に、言っていたでしょう。後で季流さんもこの『域』の影響を受けているのかどうか調べてみましょう、と」
 言われて、ああ、と美咲は頷いた。
 そうである。
 精霊の加護が一切無い代わりに、美咲は昔から霊的なものも超常的なものも、物理関係以外による攻撃や影響を、全く受けない体質なのである。
 としたら、この『域』も、物理関係以外による干渉になるので、効果はないのではないか、と思うのだが……どうなのかと美咲は首を傾げた。
「でも、どうやって調べるんだ?」
「ですから少しこちらへいらしてください。ここでは人目がありすぎて困りますので」
「人目が?」
 妙な事を言うなと思いつつも、別に抵抗する必要も無いので、美咲は飄々とした態で琥珀の後に続いて霧嶋の方へと移動する。
 途中、ふと見やった店内のカウンターの方で、黒いバイト生がスツールに腰を下ろした姿勢で、ゆったりと腕を組んでこちらを見ているのが見えた。美咲の視線に気づくと、ニヤリと唇を歪めてなにやら意味深な笑みを浮かべる。
「……ンだよアイツ……感じ悪ィ」
「? 何か言われましたか?」
 くると肩越しに振り返る琥珀に、いや、と短く答える。どうせ、言った所で「またですか」と冷めた顔で言われるに違いないからだ。
 悪いのは自分ではないのに。そう考えると何だか無性にムカつく。
「? 季流さん?」
 なにやらブツブツ言いながら俯きがちになって歩いている美咲の顔を、下から覗き込む。と、ぱっとその顔が上がった。
「ん、いや。何でもねえ。それで? どうやって調べんの?」
 店内中央よりかなり薄暗い、店の奥――霧嶋がいる場所に着いて、さっそく美咲は問いかけながら周囲を見渡した。
 最奥に、ひっそりと霧嶋が椅子に腰掛けている。その傍らに、赤い服を纏った誰かが立っているようだったが、光が入らない場所にいるため、それが誰なのかは分からなかった。
「ホントここ、暗いなぁ。こんなトコに居たら性格暗くなっちゃうぞ?」
 茶化すような口調で霧嶋に向かって言う。が、霧嶋は何も答えず、ただゆっくりと足を組み替えた。その傍らにいる赤い服の者も、何も言わない。
「……、おい琥珀。だから一体どうやって調べんのって……」
 言って、背後にいるであろう琥珀を振り返って見ようとした。
 その時。
 きらりと、何かが目の前で光った。金属質な光――それは。
 ナイフ。
「――――っっ!」
 すぐさま、反射的に後ろへ飛び退る。が、その動きを読んでいたのか、刃はすっと前へ突き進んできて、ざくりと美咲の制服の袖口を切り裂いた。
「っつ……!」
 裂かれたのは袖だけではない。斬られた左腕を、右手で押さえる。
 ――熱い。
「っ、何しやがるんだいきなり……っ!」
 脈打つような熱さと痛みを覚えつつ、美咲はいきなりナイフで斬りつけてきた相手を見た。
 もちろん、相手は琥珀である。彼は表情一つ変えもせず、ナイフについた美咲の血を眺めていた。そして、ゆっくりと顔を上げる。
「確認のためでしたので、浅く斬っておきました。ですが、すぐに病院へ向かってください。赤のバイト生さん、後はお願いします。今日のバイトはそれで上がってよいと店長も言われていますから」
 すっと、ナイフを霧嶋に歩み寄って差し出すと、琥珀はその傍らにいた赤い服の人物にそう言った。
「……で、結局どうなんだ」
 何も告げられないままでは斬られ損ではないか。
 美咲の声に琥珀が振り返り、先ほど斬りつけたばかりの場所を指差した。
「この域では、痛みを覚える事はありません。それに、斬られても血が流れる事も無い。肌が欠けることはあっても。……よって、貴方はこの域の影響下にはないようです」
「ンな事、斬らなくても叩くなりコーヒー飲むなりしたらわかるだろうがっ! 味覚あるかとか痛覚あるか、くらいで!」
「簡単に、確実な方法で、と僕は言ったはずです。簡単で、確実だったでしょう?」
 やはり淡々と無感情に告げる琥珀に、美咲は深い溜息をついた。
 どうしてこう。
 この場にいる輩はロクでもないヤツばかりなのか。頼みごとを聞いてやったというのに、この仕打ちは一体なんなのか。
 チッと鋭く舌打ちし、いつの間にか傍らに来て、抱えていた救急箱を開けて美咲の腕の傷の手当てをしようとしていた赤い服の人物にキッと鋭い眼差しを向けて、美咲はその手を振り払――おうとして、ふと、その人物の顔を見て動きを止めた。
 そして。
「……りか?」
 ぽつりとその人物の名を口にする。それに、ぱっと赤い服の人物――正確には、真紅のミニサイズのチャイナドレスを纏い、真っ直ぐな長い髪を二つに分けて耳の辺りでおだんごにした少女は、着ている服の色に頬を染めて顔を上げた。
「ひ、久しぶりね、季流くん」
「久しぶりって……アンタ、何でこんなトコに」
「今日からたまたまバイトに……ここの隣のカラオケショップで従姉がバイトしててね、いいバイトがあるんだけど都心まで出てくる勇気があるならやらないかって言われて……」
 それは、先日、アトラス編集部の碇麗香から回されてきた件で命を助けてやった少女、若宮梨果(わかみや・りか)だった。美咲より三つ年上の、都心から片道一時間以上かかる所にある村に住む女子高生である。
「と、とにかく手当て、手当てしないと」
「あー……」
 てきぱきと袖をめくり上げられて消毒を始める梨果を見ていると、何だか怒る気力も抵抗する気力もなくなり、美咲はされるがままになりながら苦笑した。
「っつーか、なんて格好してんだよ。脚出しすぎ」
「えっ。だ、だって普通の格好じゃダメだって店長さんが……っ。それで、店長さんが貸してくれた衣装がこれだったんだもの」
 さらに頬を染めて、片手でスカートの裾を引っ張って少しでも足を隠そうとする梨果にやれやれと溜息をついて、美咲はちらと琥珀を見た。
「で。病院って、どこの? 梨果と一緒に行けってか?」
「赤のバイト生さんは付き添いです。アトラス編集部はご存知ですか?」
「え? いや、場所はよくは……」
「赤さんがご存知でしょうから。付き添いはそういう意味です」
「ああ、なるほど」
「ではその近くにある、雲切病院へ行って下さい。保険証、今日はお持ちではありませんね? 受付に連絡しておきますので、そこで『霧嶋の関係者です』と告げてください。診てもらえるよう手配しておきますので」
「……つーか。梨果にこんな格好のまま行かせるのかよ」
 ちらりと横目で梨果の格好を上から下まで眺めて嫌そうな顔をする美咲に、慌てて、ごめんなさいごめんなさいと謝る梨果。それに、また苦笑を浮かべて、怪我をしていない方の手でくしゃっと前髪を撫で。
「付き添いならちゃんと着替えて来てくれるか? とりあえず脚、気になってしょうがねえし」
「あ、はいっ」
 素直に返事する梨果に、今度は穏やかに笑いかけて、美咲は深く溜息をついた。
 ――前言撤回。
 ロクでもないヤツばかり、というわけでは、どうやらないようである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 整理番号 … PC名 【性別 /年齢/職業/階級】

0086 … シュライン・エマ――しゅらいん・えま
        【女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/天使】
0523 … 花房・翠――はなぶさ・すい
        【男/20歳/フリージャーナリスト/天使】
0733 … 沙倉・唯為――さくら・ゆい
        【男/27歳/妖狩り/天使】
2577 … 蓮巳・零樹――はすみ・れいじゅ
        【男/19歳/人形店店主/天使】
2765 … 季流・美咲――きりゅう・みさき
        【男/14歳/中学生/天使】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。ライターの逢咲 琳(おうさき・りん)です。
 この度は依頼をお請けいただいて、どうもありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけましたでしょうか?

 季流美咲さん。
 再会できてとても嬉しいです。
 まさか、瑠璃を連れてきてくださるとは思っていなかったので驚いてしまいました(笑)。ありがとうございます。
 季流さんは、能力等検討した結果、やはり当界の影響はお受けにならないだろう、と判断し、あのような事に……というか、すみません、怪我させてしまいまして(倒)。
 ついでに、「赤のバイト生」。再会となりましたが、仲良くしていただけると幸いです。やたらと「黒のバイト生」とからんでいたのは、ひとえに私の趣味です、すみません(……)。

 本文について。
 界の詳細な規則等は、すでに異界をご覧頂いていると思い、多少省かせていただいています。なるべく文中でも解説する機会を作れたものはくどくどと解説していたりもするのですが(汗)。
 わかりにくい、と言う場合は、異界にてご確認ください……。
 今回は、調査については全共通です。個別部分は序章の次の章と、終章です。

 もしよろしければ、感想などをお気軽にクリエイターズルームかテラコンからいただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきますので。

 それでは、今回はシナリオお買い上げありがとうございました。
 また再会できることを祈りつつ、失礼します。