コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


不思議な小箱・リベンジ
●オープニング【0】
 梅雨も近くなったかもしれないある日のこと、あやかし荘の管理人室に顔を出してみると、嬉璃が何やら小箱と格闘をしていた。1辺10センチの大きさの木製の小箱だ。
 そういえば、確か春先にも似た光景を見たような気が……まだやってましたか。
「むう……分からぬ」
 はてさて、何をしているのかと嬉璃の手元を覗き込んでみたら、小箱をくるくると動かしたり、小箱の上面にあるボタンを押したりしている。
 上面のボタンの数は3×3の9個で、1度押せば引っ込み、もう1度押せばまた元に戻るというタイプである。なお底面は普通に平らで何ともなっていない。
 側面は3分割されていて文字が記されており、各々の段が独自に回転するような構造になっていた。各段に記された文字を時計回り順に挙げてゆくと、『止/太/美/可』、『无/計/可/波』、『羅/无/比/可』という並びになっている。
 ちなみに嬉璃の方を向いている側面の文字は上から『止/无/羅』となっており、その右の側面に目をやると『可/波/可』となっている。
「仮名文字として読めばいいのは、この間分かったのぢゃがなあ……」
 と言って、ちらりとこちらを見る嬉璃。どうやら来たことに気付いていたようだ。そして、嬉璃は文字の読みの説明を始めた。その対応は次の通りである。
『止=と』
『太=た』
『美=み』
『可=か』
『无=ん』
『計=け』
『波=は』
『羅=ら』
『比=ひ』
「上手く組み合わせれば、何か起こりそうなのぢゃが……お主たち、手伝ってゆかぬか?」
 この小箱、なかなか手強いみたいですけど――どうします?

●興味津々、あるいは名誉挽回【1】
「へぇ、面白そうな箱だね〜」
 そう言って、嬉璃の手にした小箱を何度か角度を変えて見たのは、そばかすのある柔和な顔立ちをした金髪の少年であった。ちなみにその少年――三春風太の髪の長さは短く、例えるなら小鳥が巣を作ったようなそんな感じであるだろうか。
「見せて見せて」
 そのうち手に取ってみたくなったのか、風太は嬉璃から小箱を受け取って前後左右6面全てをしげしげと見始めた。
「うぇ、何か初めて見た漢字もある……」
 やはり6面中4面に漢字が記されているのが不思議なのだろう、時折動きが止まっていたりもする風太であった。
「でもこれ、かなで読むんだ〜。よくそんなの分かったねぇ」
 風太は小箱を手にしたまま、周囲の者たちの顔を見回した。風太の後ろには、難しい顔をしたシュライン・エマと、若干暗い表情をした志神みかねの姿もあった。
「だけど分かったのはそこまでなんです……はうぅ」
 みかねが深い溜息を吐いた。そうなのだ、そこまでは分かったものの、問題はそこから先であったのだ。
「事務所に帰ってからも気になって気になって。結局、武彦さんや零ちゃんも巻き込んで考えてみたんだけど……」
 と、これはシュライン。草間にしてみればいい迷惑であったろうに。
「それで分かっ……てはないようぢゃな、その顔ぢゃと」
 嬉璃はシュラインの表情を見て、途中で言葉を変えた。解けていたなら、難しい顔をしているはずないのだ。
 ともあれ、再チャレンジの始まりである。

●宝は人を魅了する【2】
「うーん。ボクだとやっぱり『たから』って合わせたくなっちゃうなぁ」
 しばらく文字を見ていた風太が、おもむろに小箱の文字を合わせ始めた。風太の方を向いた面が『太/可/羅』と並んだ。
「そうですよねっ。『たから』って合わせたくなりますよねっ!」
 同意を求めるかのように、みかねが風太に言った。
「して、その心は何ぢゃ?」
 嬉璃がじろっと風太を見て尋ねた。
「へ? あ〜、ほら。何が入ってるのかなってわくわくするじゃない」
 あっけらかんと言い放つ風太。それを聞いた嬉璃が小さな溜息を吐いた。
「お主は幸せ者ぢゃな……」
「そう見えるのかなぁ?」
 嬉璃の言葉に対しにこにこと答える風太。きっと風太は気付いていないだろうが、今のは完全に嬉璃の皮肉だ。
「言っておくが、この間もそれは合わせておるのぢゃぞ?」
「あ、そうなんだぁ? じゃあ、これ外れ?」
「外れとはまだ決まってません!」
 嬉璃と風太の会話に、みかねがずいと入ってくる。
「ボタンとの組み合わせで正解になるのかもしれないじゃないですかっ!」
「ふむ。一理あるの」
 こぶしをぐっと握り力説するみかね。嬉璃がなるほどという風に頷いていた。
「一番下の列を見てください」
 と言って、みかねが風太から小箱を取り上げた。一番下の列といえば『羅/无/比/可』という並びである。
「これを順番に読むと、『ら・か・ひ・ん』と読めますよね?」
 『羅』から逆回りに1文字ずつ指差してゆくみかね。話はまだ続く。
「でもこれを並べ替えると、『ひ・ら・か・ん』って読めるんですっ! だから、そう読むようにその面に対応したボタンを順番に押してゆけば……!」
 そう説明するみかねは、まるで大発見をしたかのような嬉し気な表情を浮かべていた。
「それでどう押すというんぢゃ?」
 嬉璃はみかねから小箱を奪い返し、肝心なことを尋ねた。押し方が分からなければ、結局は机上の空論であるのだから。
「どっちかはまだ分からないんですけど……その面に向いた全部のボタンを押すか、ボタンの配置を十字に見て、各面に向いたボタンの真ん中を押すか……じゃないかなって」
「……こうぢゃな?」
 ボタンを押し始める嬉璃。まずは最初の方法でやってみる。するとボタンは『太/可/羅』の面から見てこんな状態になった。

 ○●○
 ●○●
 ○●○

 しかし変化はない。
「あれ? もう1つの方法と同じになっちゃってる……」
 自分が思ったのと違ったのだろうか、首を傾げるみかね。
「何ぢゃ、押したボタンはそのままにしておく方がよかったか?」
 やり直す嬉璃。1度押したボタンをそのままの状態にしておくと、今度はこうなった。

 ●●●
 ●○●
 ●●●

 それでも変化はなかった。
「あう……」
 みかね撃沈である。

●3×3【3】
「ふ〜ん、なるほどねぇ。上のボタンは9個の文字と対応してるのかなぁ」
 みかねのやり方を見ていた風太が、感心したように言った。
「本当に対応しとるのかは知らぬぞ。彼奴らがそう言っておるだけぢゃ」
 と言って、嬉璃は部屋の隅でうなだれているみかねと、無言のシュラインを指差した。
「でもそうだとして、どれがどれなんだろ。うーん……」
 思案する風太。少しして、風太は嬉璃が持つ小箱の上に両手をかざして何やら念を送り始めた。そしてぽつり一言。
「……きてます……」
 何がだ。
「……お主、それに続いて縦縞のハンカチを一瞬で横縞に変える手品をやったら許さぬぞ」
 嬉璃がじろりと風太を睨み付けた。嬉璃も嬉璃で、何でこういうことをよく知っているのだろう?
 だが風太は笑って首を横に振った。さすがにそれはやらないらしい。が、次の風太の一言で嬉璃の表情が固まった。
「ひらけぇ〜ごま!」
 もちろん何の変化もあるはずがない。
「……って、やっぱり開く訳ないかぁ」
「それで開いたら苦労せぬぞ」
 嬉璃がぶすっとした表情を見せた。たぶん『オープンセサミ!』とやっても開かないことだろう、ええ間違いなく。
「あ。『ひらけ』って文字もこの中に入ってるんだ。だったら、『ひ』『ら』『け』の順に押したら……」
「だからそうなら、先にその対応を見付けぬと押せぬぢゃろうが」
「あ、そうか。だよねぇ」
 ぽりぽりと頭を掻く風太。
「たく、何ぢゃなあ……。ほれ、お主も黙っとらんで、何かいい考えは浮かばぬのか?」
 嬉璃がシュラインに言葉を促した。というか、矛先が向いたというべきか。
「んー……地下で見付けた物よねえ、これ? だったら、卓上遊戯に関連してる気もするんだけど」
 地下の様子を思い出しつつシュラインが言った。
「卓上遊戯? 将棋とかか?」
「そうそう。でも3×3マスだからあんまり浮かばないのよねえ。三目並べ、ビンゴ、魔方陣、クロスワード……」
「魔方陣は卓上遊戯とは違うぢゃろ」
 嬉璃がきっぱりと言った。確かにそうだ。
「三目並べか〜。とりあえず押してみよう?」
 風太がそう言って、ちょんちょんとボタンを押していった。ボタンは『太/可/羅』の面から見てこんな状態になった。

 ○●○
 ○●○
 ○●○

「三目だから縦に3つ〜」
 単純な押し方である。けれども、だ。直後、思いがけないことが起こったのだ。何と勝手にボタンが動き始めたのである。
「お?」
 驚きの声を発する嬉璃。ボタンの状態がこのように変わっていた。

 ○○○
 ●●●
 ○○○

 ボタンの状態は1度変化しただけでは止まらなかった。若干の間を置いて、また変化したのである。

 ○●○
 ○●○
 ○●○

 そしてまたまた状態は変化する。

 ○○○
 ●●●
 ○○○

 どうやら一定間隔で、2つの状態に交互に変化しているらしかった。
「原理はよく分からぬが……ボタンの方はこれでいいようぢゃな」
 釈然としない表情で言う嬉璃。とりあえず変化が起こったのだから、結果オーライであるのだろう。
 となれば、後は文字をどうするかだけである。

●真実は何だって単純【4】
「これ、そこでのの字書いておらんと、お主も参加するのぢゃ」
 嬉璃が、落ち込んで部屋の隅でのの字を書いていたみかねを呼んだ。
「は〜い……」
 と返事をして、嬉璃たちのそばへ来たものの、みかねの表情は暗い。そして動いているボタンを見て、さらに暗くなった。
「あう……やっぱり考え過ぎだったんですね……」
「どうしたのぢゃ?」
 何が考え過ぎなのか気になって、嬉璃がみかねに尋ねた。
「えっと、あの……。4つの面の文字を見ていって並べると『かたみとけかんはひらかん』ってなることに気付いて……書き換えるとこうなのかなって……」
 みかねがポケットから折り畳んだメモ用紙を取り出した。一面にびっしりと文字が記されていた中、1か所ぐるっと丸で括った文字があった。そこには『形見解けカンは開かん』とあった。
「……それのどこが考え過ぎなのぢゃ? よくそこまで見付け出したと思うのぢゃが……」
「違うんです……。『たから』並べた後で文章がそうなるように順番でボタンを押してゆけばと思ったんですけど……それ……」
 小箱のボタンの面を指差し、深い溜息を吐くみかね。なるほど、現にこうしてボタンの状態が変化している以上、みかねの推理はすでに崩れ去っている訳で……。
「……元気出すのぢゃ」
 やれやれといった表情で、嬉璃はみかねの肩をぽんぽんと叩いた。
「字画合計数で並べるのかしら……。ひらがなだけでなく、カタカナでも考えてみる必要があるかも」
 額にしわ寄せ、思案顔のシュライン。メモ帳を取り出し、何やらあれこれと書いてゆく。
「文字、モジ、もじ……うーん、何か頭くるくるしてきちゃったよ」
 風太も色々と考えてはみたようだが、いい考えが浮かばなかったのか、頭をふるふると振りながらお手上げの仕草を見せた。
 みかねは……また、のの字を書いていた。
 そして、ああでもないこうでもないと文字を並べてみる一同。だが何も変化は起こらない。
 そのうちに、嬉璃がまた癇癪を起こして――切れた。
「もういいっ! 今日も止めぢゃ! お主ら、今日はもう帰れっ!!」
 3人を追い出そうとする嬉璃。しかし、シュラインが慌ててこう言った。
「ま、待って嬉璃ちゃん! あと1つだけ!」
「む? もう1つぢゃと?」
「この間は判断つかなかったからやらなかったんだけど……」
 そう言い、シュラインは嬉璃から小箱を受け取って、『止/計/比』と並ぶように文字を動かした。
「『とけひ』……?」
 ふと目に止まった文字を読み、首を傾げるみかね。『とけひ』とはどういう意味なのか。
「『時計』よ」
 シュラインが静かに言った。
「あ〜、旧かな?」
 ポンと手を打って風太が言うと、シュラインはこくんと頷いた。
「『時計』をこう表記したのか分からなかったのよね」
 前回やらなかった理由を説明するシュライン。
「でも、これはないわよねえ……」
 と、シュラインが言った瞬間である。小箱が淡い光に包まれたのは――。

●小箱の正体【5】
「お?」
「え……?」
「へ?」
「えっ?」
 各々驚きの声を発する一同。シュラインは慌てて小箱をテーブルの上に置いた。いったい何が起こったというのだろうか。
 少しして光が消えると、4面に記されていたはずの文字が全て消え去っていた。そして文字が記されていた各段が勝手に独立してぐるぐると回り始めたのである。音を奏でながら。
 キン……カン……コン……♪
 まるで上面のボタンの状態変化とリズムを合わせるかのように、綺麗な音を奏でつつ小箱の各段は回り続ける。
 一同は無言で小箱の様子を見つめていた。やがて時刻は夕方の6時を迎えた。すると小箱の各段がびしっと揃ったかと思うと、4面に文字が浮かび上がってきた。『酉』という文字が。
 カン……カン……カン……カン……カン……カン……♪
 部屋に澄んだ音が6回鳴り響いた。
「暮れ六つぢゃな……」
 ぼそっと嬉璃がつぶやいた。暮れ六つといえば酉の刻である。どうやらこの小箱、時計の役割を果たす物であるらしい。
 『酉』という文字が浮かび上がってから1分ほど経っただろうか、小箱の各段は再びぐるぐると回り始めた。やはり音を奏でながら。

 かくして不思議な小箱の正体は判明した。
 不思議な小箱は今、管理人室で止まることもなく日々の時を知らせている。
 ……2時間ごとにしか正確な時間は分からないけれども。

【不思議な小箱・リベンジ 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 2164 / 三春・風太(みはる・ふうた)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。今回は参加者全員同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせして申し訳ありませんでした。不思議な小箱へのリベンジのお話をお届けいたします。という訳で、小箱の正体は時計だったんですねえ。本文では語ってないんですが、時計は霊的なサポートを受けて動いています。だから傾向が『心霊:3』だったんですね。
・さて、文字の方は旧かな遣いで説明出来るんですが、ボタンの方は本文だけでは納得出来ませんよね? なので、以下にちょっと補足の説明を入れさせていただきます。
・『ライフゲーム』というのをご存知でしょうか? 詳しい説明はしませんが、あるルールに従って各セル(このお話で言うならボタン)が世代交代してゆくという物です。ここでよく使われるルールは次の通り。
1)生きているセルの周囲に居る生きているセルの数が1個以下だと、次世代ではこのセルは死滅する
2)生きているセルの周囲に居る生きているセルの数が4個以上でも、やはり次世代ではこのセルは死滅する
3)生きているセルの周囲に居る生きているセルの数が2個か3個だと、次世代でもこのセルは生き残る
4)死んでいるセルの周囲に居る生きているセルの数が3個だと、次世代にこのセルに生命が宿る
5)死んでいるセルの周囲に居る生きているセルの数が3個以外だと、次世代もこのセルは死んだままである
小箱のボタンは、このルールに従っていました。そして『ライフゲーム』だと領域が循環(つまり上下左右が繋がっている)していることが多いものなのですが、今回は3×3の有限とさせていただきました。
それでどうしてあの並びが正解なのかといいますと、実はあの並びだと周期2で永遠に動き続けるのです(『ライフゲーム』ではブリンカーと呼ばれたりする有名な図形です)。時計の動力としては(霊的なサポートを受けているとはいえ)もってこいだと思いませんか?
・恐らく悩まれたのは、文字とボタンの謎を関連付けたからかと思います。実は謎としては独立しており、意味として関連していたということでした。ゆえに傾向が『推理:5』なのです。
・今回は一応キーワードが出たんで、成功ということになりました。……結構際どかったんですけどね、本当は。
・三春風太さん、初めましてですね。念を送るのはちょっとつぼでした。難しい内容でしたが、いつもいつもこんなお話ばかりじゃありませんからね、念のため。あとOMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。