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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


怪奇上等なぼくら


 初夏の風が吹く心地よい午後のひととき。草間は興信所の事務机に突っ伏して思うさま惰眠をむさぼっていた。
 だが、そんな幸福な時間は、一本の電話によってあえなく霧散する。
「……はい。草間興信所……」
 不機嫌さを隠そうともせずに応答するその耳に、大音量が飛び込んできた。
『助けてくれ、草間の兄さん!呪われた映画が完成しちまったよ!そしたら、奴らがッ!秘密結社お焚き上げ会が、アレな感じで撮影所に乗り込んできて大暴走なんすよ!ここから出してください!俺たちがお焚き上げられちゃいそうなんだよぅ!<救いの徒>絶賛受付中〜!』
「誰だ、お前」
 怒涛のように押し寄せてくる体裁が失われた日本語に、思わず草間は受話器に向かって冷ややかなツッコミを入れてしまった。
 何となくいやな予感がする。
『ひどいですよ!兄さんと俺の仲じゃないっすか!渋谷です!渋谷和樹、24歳、独身、映画制作会社勤務の!ほら、自動車事故の怪異とか特撮バンザイな大事件とか!忘れちまったんですか!?』
「……ああ……なんだかすごい勢いで忘れてたなぁ」
 白々しく遠くを見ながら答えてみる。
『ひどい人だ。さすが怪奇探偵』
「いや、俺は怪奇探偵じゃないし。というわけでこの電話切るからな」
『う〜わぁああぁああ!!やめてください!やめろ!頼むよ、助けて!こっちじゃ皿が踊るんだ!猫が楽器弾くんだよ!オバケがヨーレイヒーなんだよぉ〜!まとめてお焚き上げられる前にた〜す〜け―――』
 悲鳴が突然ブツリと断たれる。
 だが、通話終了を知らせる電子音は流れてこず、代わりにひどく耳障りな――どこかあの霊障を思わせるノイズが後に続く。
 このまま受話器を置くには後味が悪すぎて、どうしようかと逡巡する草間の耳に、しわがれた声が囁かれた。
『――忌まわしき彼の映画は、我々ガ――処分―スル―――罪深きあの者たちは我らが浄化――スル―――邪魔するのなら――排除、する―――』
「おい――!?」
 男とも女ともつかない途切れ途切れの警告は、草間に問いかける時間すら与えずに打ち切られてしまった。
 秘密結社お焚き上げ会。
 ネーミングのセンスはかなりアレだが、事態はけして楽観できないようだ。
 草間は溜息とともに一度受話器を置くと、今度は調査員名簿のファイルを引っ張り出してもう一度電話に手を掛けた。



「久しぶりに連絡が来たと思ったら、渋谷くん、またヘンなことに巻き込まれたのね」
 ことの経過を草間から知らされたシュライン・エマは、苦笑とともに、以前まとめた調書のファイルを数冊棚から引っ張り出す。
 BGMは、つい最近知り合いの刑事から払い下げてもらった録音機器により再生された先程の通話記録だ。
 会話内容から、おそらく撮影所に向かえばよいのだろうと予想しての資料探しである。
「……世の中には……変わった方が…いらっしゃるの、ですのね………」
 その隣では、四宮灯火がシュラインの引っ張り出したファイルを受け取りながら不思議そうに首を傾げている。
「ん〜?まあねぇ、確かにちょっと変わってるかもしれないわ」
 秘密結社お焚き上げ会。
 誰がつけたのか非常に気になるところではあるが、この辺はとりあえず横に置いておこう。
 それよりはむしろ、今回の件に関して浮かんでくるスタッフ側へのちょっとした疑惑を払う方が先だ。
 渋谷の調査依頼を遮って聞こえてきたあのしゃがれて音質の悪い声。いくつかの単語を接ぎ合わせたかのようなアレでは、個人を特定するのは難しい。もし知り合いの声が混じっていたとしても、正確にそれを拾い上げるには骨が折れる。
 つまり――映画関係者側が予め申し合わせた上で今回の騒動を起こしたという狂言疑惑。
 この場合、考えられるのは渋谷を通していわゆる特殊能力者たちの映像を手に入れようとしているという可能性だ。あるいは―――
 だが、いくつも浮かんでは溜まっていく仮定を消去するには実際の調査に向かうしかない。もし本当に彼らに危機が迫っているとしたら見過ごすことも出来ない。
「猫が楽器を弾くなんて信じられないよな!興味深いだろ、少年!な!?」
「はい!すごーく気になります!!面白そうですよね。一体どんな感じで弾いてるんだろう?何匹いるのかも気になるところです!!」
 そんな思考にはまり込んでいる自分の横では、観葉植物の鉢植えを大事そうに抱えた藤井雄一郎(どうやら娘に会いに来たついでに寄ったらしい)と、これまた何故かお風呂セットを抱えた三春風太(どうやら近場の温泉に行くつもりだったらしい)が楽しげに盛り上がっていた。
「しかもなかなかに面白い会の名前だよな」
「そうですよねぇ。炊き込みご飯の会だなんてスゴ過ぎです。今まさにボク、おなかが減ってるし、ぜひぜひいっぱい食べさせてもらいたいです!」
 以下炊き込みご飯の具材について嬉しげに己の好みを語る少年、三春風太17歳。何かとこだわりを持つお年頃だ。
「なんだ、なんだ?炊き込みご飯の会じゃなくてお焚き上げ会だろ?ヘンな勘違いだな、少年!」
「あ!失敗です!でも気になるのは確かです!楽しみですよね!?」
 子供のようにはしゃぐ48歳に、激しく同意を返す17歳。ハイテンションで応酬するボケとツッコミ。
 実に微妙だが、これくらいのノリが今回の依頼では丁度いいのかもしれないとぼんやり考えるシュラインは、既に一度体験しているハイテンションな撮影現場を思い出してひっそりと溜息をついた。
「シュライン様、こちらに置きました資料はどのように扱うものなのでしょう?」
「あ、灯火ちゃん、有難う。それは彼らの撮影所の見取り図なの。多分役に立つと思うんだけどね」
 渋谷的絶賛募集中の<救いの徒>……もとい調査員達が出発の準備や事件解決への士気(多分)を高めている中、来栖麻里はひとり応接間の隅に置かれたソファで不機嫌そうに足を組み、やる気ゲージミニマムなダレダレの体勢で座っていた。
「こんなんで一体何を俺に調査しろって言うんだ」
 来栖が所属する『財団』が命じたのはいかにもふざけたネーミングの団体の調査と、そこに捕らわれているらしい渋谷の救出だった。
 彼には一年近く前に一度出会っている。
 だが、あの時の自分は彼を救うことがメインだったわけじゃない。
 一体自分に何を求められているのか分からず、ただただこの現状に不満を洩らすしかなかった。
 来栖は知らない。財団の真意がどこにあるのかを。そして、これから自分の身に降りかかる少々(?)不憫で不幸な運命を。
「まあ、とりあえず怪奇現象の解明と、秘密結社から渋谷君達を助けること。この2点が今回の仕事と捉えていいのかしらね……」
 撮影所の見取り図のコピーが全員に行き渡ったところで、藤井の車に同乗し、彼らは(多少の誤解と多少の不服を含みながらも)秘密結社に囚われの身となっているらしい青年を救いだす旅に出るのだった。
「あ、そうだ。草間君、俺が戻るまでスーちゃん預かっててくれ」
「あ、ボクの大事な温泉セットもお願いします!」
 常緑多年性多肉植物サンセベリアの鉢植えを笑顔で手渡し、ついでに手入れ方法まで伝授する藤井に習い、三春も自分の大事なお風呂セットをぐいっと手渡した。
 そのほかにアレコレ私用物を押し付けられ、おいたわしいことこの上ない姿になりつつも、草間は黙って彼らを送り出したのだった。



 猫の弾くヴァイオリンに連れられて、食器と燭台とテーブルが互いにリズムを取って踊りだす。それを見て犬が笑って転がった。
 白いカーテンは自分で広がり、驚き慌てる人間達をぐるりと纏めて包んでしまう。
 アンティークの椅子たちが、ふわりと舞って、別の人間を空中遊泳にご招待。
 だが、楽しい時間は黒装束の男達によって次々と終了させられてしまう。
 網に捕まり、縄で縛り上げられて、それでもパーっと散って、パーっと逃げて、パッと消えて、まだまだ遊び足りない物の怪たちがあちらこちらの影に飛び込んでいく。



「なんだか、ちょっと懐かしいわね」
 ただひとりここへ来たことのあるシュラインが、腰に手を当て、ぐるりと周囲を見回した。
 久しぶりに訪れた撮影所はところどころにセットとして組み立てられた独自の世界が広がっており、そこかしこに不可思議な箱庭を形成していた。
 その一部はどこか懐かしい田舎町のような雰囲気をまとっている。
「なんか薄ら寒くてヘンな感じがするよ?」
 三春がキョロキョロと周囲を見回しながら、率直な感想を口にする。
「呪われた映画……一体どんなものを撮ったのかしらね」
 小道具に魂が宿ったという可能性も充分考えられる。
 この世界に『絶対に起こりえないこと』などないのだということを、シュラインは充分すぎるほどの経験から悟っていた。
 そんな彼女は、やや大きめのバッグに行きがけに寄った神社で買ったお神酒の瓶を忍ばせている。
備えあれば憂いなし。
 万が一のことを考えて先手を打つことは、後々こちらを優位な立場へと押しやってくれるだろう。
「大方どっかの彷徨っていた魂だの強力な念だのが器に宿っただけじゃねえのか?」
 面倒くさそうに来栖は鼻を鳴らす。
 ヒトならざるものの気配がそこら中を行きかっているのが分かる。どことなく落ち着かないが、この空気はけして不快ではない。
「それにしても、問題はむしろお焚き上げ会じゃないか?一体どんな活動してるんだろうな」
「秘密結社って言うくらいだから、秘密なんじゃないかしら?」
 藤井から素朴な疑問が上げられるが、それをシュラインがさらりと流す。
「えー?」
 だがその言葉に不服申し立てをしたのは藤井本人ではなく三春の方だった。
「そんなんじゃ夢がないですよ〜?もっとこう……結社というくらいなんだからババーンッと派手に存在意義のようなものがボクは欲しいですよぉ」
「おお!いいことを言うな、少年!なかなか見込みあるぞ!」
 三春に対する親密度(多分一方的?)が上がったらしく、嬉しそうにガシッと肩を組む藤井。
 年齢不相応なノリで展開していく男2人の会話を遮るように、灯火がそろりと言葉を挟みこむ。
「……あの……お話……伺ってみましょうか……?」
「え?誰に?」
 すぃっとシュラインの傍から離れ、彼女は白塗りの壁に硬質で滑らかな作り物の手をついた。
 ひんやりと冷たい壁の温度も人形である灯火の肌には伝わらない。
 だが、ソレが抱く想いと記憶はその指を伝って明確に届く。
「……こちらに、訪れた……秘密結社を名乗る方の、容姿と、人数などを……わたくしたちに…教えてくださいまし……」
 とくんと微かに拍動する指先に触れた目撃者達。
「お?なんだ?」
 声が聞こえる。
 囁きがザワザワと音から言葉を形成していく。
 同時に、いわゆる神事用の式服というよりは黒魔術の儀式に使用した方がふさわしかろうと思われる黒装束の人間達が、大小合わせて十名ほどがわらわらと乗り込んできたその瞬間の記憶映像が灯火の中へと流れ込んでくる。
「この地図で言うと、どの辺りが一番怪しいのかしら?」
 無言の目撃者達の言葉を代弁する灯火に、シュラインが推理を脳内で展開しながら見取り図を開いて問いを返す。
「………はい……おそらくは……この」
 ふと、背後から彼女たちの手元を覗きこんでいた藤井は、ところどころに赤いペンでチェックされている記号に目を止めた。一体それがどんな意味を為しているのか、シュラインに問いかけようと口を開く。
と、ほぼ同じタイミングで、
「渋谷を探せばいいんだろ?だったら俺はひとりで動く」
 来栖がそう言い放って調査員の輪から離れようと跳躍した。
 が、
「―――なっ!?」
「お」
「あ」
「……あら」
 べちっと、伸びてきた蔓に足を掴まれて見事に地面へ顔面から着地。体勢を立て直す前にどこからともなく金ダライが降ってきて来栖の脳天を直撃した。
「な、な、なっ!?」
 頑丈な彼にはこれしきのことで傷など付くはずもないのだが、それでもまるでコントのような一連の流れで受けた精神的ダメージは大きい。
 皿が踊り、猫がヴァイオリンを弾き、オバケがヨーレイヒーだといった渋谷のコメントに嘘はなかった。
 ただし、ソレが事実の全てということでもない。
 撮影所は『悪霊に蹂躙される呪われた土地』と言うには少々抵抗のある――もしかしたら擬人化した植物や動物、食器類などと戯れ遊ぶ『メルヘン』と呼べなくもない状態に陥っていた。
 呆然と(むしろ笑がこみ上げている)他の調査員達へも、当然魔の手は伸びてくる。
「え?きゃあ!?」
「!!?」
 ここは危険なかおり満載な超常現象多発地帯。
 何の前触れもなく唐突に、見えない手ががしがしと調査員たち全員を捕まえて、廊下の端から全力疾走してくる台車2台に数人まとめて放り込み、そのまま後は二手に分かれて『ちょっとそこまで行ってきます』的ジェットコースター・ドライブの旅へレッツゴー。
 興奮とも悲鳴ともつかない声ががらんとした撮影所にフェードアウトしていく。



 地下に伸びる長い廊下の奥まった場所にあるやや塗装の剥げた灰色の扉の前に、お焚き上げ会構成員がひとり監視役として立っていた。
 彼以外のメンバーは、リーダーの指示にしたがって、この呪われてしまったらしい撮影所各所で除霊の類に走り回ったり、お焚き上げのための準備に勤しんでいる。
 ただひとり、しんと静まり返ったその場所で捕らえた人間達の監視を続ける彼は、必死に襲いくる睡魔と闘っていた。
 そんな彼が守る扉の内側、薄暗い機材庫の床には簀巻き人間がごろごろと転がっている。
「そういや渋谷はどこに連絡取ったんだ?『救いの徒を絶賛募集行ってきます』とか言ってやがったが」
 ふと、美術の大下がここにはいない彼を思い出して口にする。
「ああ、そういえば詳しいこと、何にも聞いてなかったな。どこなんだ?」
「なんでしたっけ?確か前に一度か二度世話になったってことは話してたんだけど……」
 のんびりぼそぼそと会話する彼ら――オールラッシュを迎えた簀巻きスタッフは、奪われたフィルムと、大事な撮影所で力の限り暴れまわるお焚き上げ軍団、そして好き勝手にはしゃぎまくる心霊現象という現状を多少なりとも憂えてはいた。
「まあ……どこに、というよりも、そこに無事連絡をつけられたのか、の方が問題ではあるんですけどね。間に合えばいいですねぇ」
「え」
「あ」
 さらりと毒を吐いてしまった脚本家に、ざわついていた空気がしんと静まる中、簀巻き仲間の監督だけはあえてにやりと笑って見せた。
「なぁに、大丈夫だろ。アイツはなんだかんだと悪運だけは強いんだ」
 自信ありげな彼の言葉に、そういやそうだなと明るく笑い声が上がる。
 限りなく生命の危機的状況であるにも拘らず、現場で戦うスタッフ達には奇妙な余裕があった。
 ともに作品を作り上げてきた仲間への信頼……と呼んでいいのかどうかは分からないが。



「あいたっ!」
 何の前置きもなく急停車した台車から、三春が慣性の法則に乗っ取って力いっぱい転がり落ちる。この角度ならば顔面強打も免れないという放り出されっぷりだったが、そこで見事な受身を取って危機一髪。可愛い顔の怪我だけは何とか回避出来ていた。
 そして、同乗していた来栖の方は獣人としての面目躍如。見事空中3回ひねりの末に素晴らしい着地を見せる。
「……………」
 床に転がる三春を一瞥し、来栖は何事もなかったかのようにすたすたと廊下を歩き始めた。
「あさとんってばひどいよ〜〜せめて大丈夫?くらい言って欲しかったかも」
 むくりと起き上がった彼にハシッと黒い服の裾をつかまれても、来栖は完全に無視してすたすた進む。
「ネコさんはどこで楽器弾いてるのかな?招待してくれるかな?」
 ふつふつと肌が粟立つけれど、けして不快だけではない何かを感じる。
 よく出来たお化け屋敷に入った時の緊張感と昂揚感と期待感。そんなものにも似た感覚に、三春は来栖の服を捕まえたまま、冷たい扉がずらりと並ぶ廊下をのこのこ歩いていく。
「ね?ね?あさとん、どう思う?」
「………」
「あっさと〜ん!」
「…………」
「あさとんってば。こっち向いて〜」
「………………」
「あさとんのでべそ」
「なんだと!?」
 思わず怒声とともに反応してしまった来栖麻里。お子様です。まだまだです。
「あさとん呼ぶな!」
 好奇心いっぱいの表情で振り向いた三春に、非常に不本意な顔で来栖が噛み付く。
「え?可愛いと思うんだけどな、『あさとん』って。それとも来栖だからクーちゃんとかがいい?」
「激しく却下だ。やめろ」
 これだから人間は嫌いなんだ。
 そう、不快感を隠そうともせずに眉を顰めて吐き捨てるも、相手はまるで堪えていないらしい。
「エマおねーさんやとかちゃんや藤ユウさんは何か見つけられたのかな?どこまで連れて行かれたのかなぁ?」
というよりもむしろ完全無視。力の限り、悪意なくスルー。
「……どこのどいつだ、そいつらは」
「え?一緒に来たでしょ?」
 きょとんとした顔で見つめ返されるが、微妙に原形を留めていない仇名の羅列に、もう来栖は溜息も出なかった。
 そういえば、肝心の渋谷は一体どこにいるのだろうか。
 彼を助ける事も『財団』からの指令に含まれてはいるものの、覚えている彼のニオイは雑多できつい臭気の前では掻き消されてしまってまるで嗅ぎ取れない。
 獣人としての五感はとりあえず敵の場所、怪奇の起こりうる場所、そして人間の存在する場所を確認するためにフル稼働していた。
 時々三春の好奇心と素朴な疑問が炸裂して思い切り調査を遮ってくれるけれど、それもまた貴重な経験ということでひとつご容赦願いたいかも。



 自分達の与り知らぬところで、勝手にオモロカシイ仇名をつけられてしまった藤井たちは、夕闇の迫る撮影所路地裏をうろうろと探索していた。
 彼女たちを乗せた台車は、せっかく入り込んだ事務所のある本館を全力で突っ切って数百メートル離れた第5スタジオ裏口まで彼らを運んでしまっていた。
 あわやそこにぽっかりと掘られた貯水池にドッポーンという段階で、シュラインのぶちまけた神酒が功を奏し、台車は直前で停車。3名は事なきを得たのである。
 だが、濡れ鼠にならずに済んだものの、当初の行動指針からは大幅にその予定を狂わされていた。
「ん〜……人がいないということは、もう一箇所に集められちゃったのかしら?それともそれぞれ身を隠しているのかしら?」
 地図と照らし合わせながら、自身の鋭敏な聴覚をさらに研ぎ澄まして僅かな心音を頼りに人々の居場所を探っていくシュライン。
 だが、聞こえるのは藤井と灯火、そして自分の立てる音だけであり、人間と思しき拍動を聞き取ることは出来ない。
 それにしても、時折届く足音や物が移動するようなかすかな物音は、一体誰が立てているのだろうか。
 ザワザワと何かの囁く声がしているはずなのに、そこに呼吸も拍動も感じられない。
「しかし、お焚き上げ……アジトはやっぱり神社なのかね?」
「まあ、通常お焚き上げって神社でしてくれるものよね」
「秘密結社なのに神社の片隅でちまちまと地味活動……ぷっ」
 自分で考えておきながら、自らのネタでうっかり藤井は吹き出してしまった。
 薄暗く寂れた神社の境内。その更に奥まった場所に建てられた掘っ立て小屋で肩を寄せ合いちまちまと話し合うお焚き上げ会の面々。周りにはお焚き上げの道具と、各地から見つけ出してきた曰くつきの品物。隙間風の入る狭い室内で、彼らは実にしみったれて地味地味〜な感じの生活を繰り返しているのだ。そうに違いない。
 脳内でどんどん妄想は加速して展開されていく。
 だが、その思考経路を辿れるものはここにはいなかった。人の心を覗けるという彼の上の娘ならばそれも可能だったかもしれないが、あいにくこのメンバーでその能力を持つものはいない。つまりはツッコミ役の不在であり、これは非常に由々しき事態であった。
「……シュライン様、藤井様……あちらに……」
 マイペースに隣接するスタジオの合間合間を覗き込んでいた灯火が、何気ない仕草で指を差す。
「え?あら?」
「ん?」
 さささっと素早く身を隠すそれらは、どう見ても撮影に使われたと思しき食器類とアンティークな椅子だった。ただひとつ小道具と呼ぶには明らかにおかしい点は、擬人化したらしい細く中途半端な手足を四方に伸ばしていることである。
「……これって渋谷くんの言ってた『呪われた映画』の……?」
「おそらくは……あの…もし、お話を……」
「ふうん。へぇ。ほお……」
 短く言葉を交わした後、灯火がそろりと身を潜めるそれらに手を伸ばしかけるが、それより先に藤井が興味深げにずずいっと進み出てしまった。
「ほお……ほお……珍しいな。植物ならまだしも、こんな無機物に……へぇ…すごいな」
 まるでプラモデルかフィギュアを前にしたマニアのようなキラキラした眼差しで覗きこみ、感心したようにしげしげと角度を変えては彼らの伸びた手足を摘んでみたりした。
 いじり倒され、それらは非常に何か言いたげにしているも、その言葉は残念ながら伝えたい相手に届かない。
「藤井さん、申し訳ないんですがちょっと横にどけてくださいねぇ」
 じたばたとくすぐったそうに身を捩る食器たちの姿に、シュラインは驚きつつも小さく溜息をついて藤井を彼らから引き離した。
 自分よりも20歳以上年上に対するには少々気のひける行為ではあるが、彼が観察していては灯火が言葉を交わせない。
「灯火ちゃん。話、聞けるかしら?」
 ちょっと寂しげで不満そうな藤井をあえて視界からはずし、シュラインは小さな彼女を振り返る。
 灯火はコクリと頷いてゆるゆると歩を進め、怯える食器たちの前に着物の裾が汚れる事も厭わずしゃがみ込んだ。
 藤井にもシュラインにも届かない想いを拾い上げて、表情の乏しい少女だけが言葉を交わし続ける。
 すごく楽しいのだと。
 すごく嬉しいのだと。
 もっとずっと遊んでいたい、ここにいたいとそれらは訴える。
 それを真摯に受け止めて、緩やかに少女は首を傾げて問いかけた。
「……あの…捕まったという…仲間の方は……いえ、皆様を捕まえに来たという方達の代表は、どちらにいらっしゃるので…しょうか……?そして……あの、渋谷様を、お見かけしませんでしたか?」
 赤い牡丹の振袖が眼に鮮やかで、話しかける少女人形の姿は、背景ともあいまってまるでままごとに興じているか、もしくはまんま映画のワンシーンのようだった。
「皆様を、そしてあの方を…お助けしたいのです……」
 目線を合わせて話しかけてくれたこと、そして何より彼女を構成する物質が限りなく自分達と同じであることに、物の怪たちの心が動く。
 そうして、気付けばお焚き上げ会に付け狙われながらも好き勝手に楽しげに動き回る幽霊や食器や小道具たちが、引きつけられる様にのこのこと灯火の後をついて回り始め。
 また、彼女が事あるごとに隠れていたそれらを見つけ出しては拾い上げてしまうため、最終的に調査員(別名:救いの徒)は『有志数十名による渋谷和樹捜索隊』へとその姿を変貌していた。
 時折とことこと列を乱して抜け出してはどこからともなく戻ってきて、何事かを灯火に報告しているモノもいる。
「灯火ちゃん、こっちであってるかしら?」
「あ…はい……あの、第1スタジオ裏手の倉庫に……渋谷様が……いらっしゃると……この方が」
 視線を向けた先には、どうやら照れているらしいやたらと表情豊かなフォークとスプーンのセットが一対、自分の足で立っていた。
「……だが、一筋縄じゃいかない、な?」
 藤井は意味深に口の端を上げて笑う。
「そうね……渋谷くんの他に……4名、かしら?」
 目を眇めて、シュラインも頷きを返す。
 数十メートル先からこの耳に届く心音は5つ。ひどく早鐘を打っているのがおそらく渋谷で間違いない。この音には聞き覚えがあった。
「ここは…わたくしに……お任せ願え、ますか?……あの方達が……大人しく、言う事を聞いてくださると…良いの、ですけど……」
 さらりと黒髪を滑らせて、灯火の青い瞳に妖の光が宿る。



 音楽が流れてくる。優雅にワルツを奏でるその曲調は、聴くものの身も心も惹き付けるのに充分なチカラを有していた。
 誘われるままにそろりと扉を薄く開けて、三春が中を覗き見ると、そこでは―――
「ネコさん!本当にネコさんがヴァイオリン弾いて踊ってる!ね、ね、あさとん、見た?見た?」
 キラキラと輝く瞳は完全に子供のそれだった。
「すごいよ!うわ〜うわ〜なんだか踊りたくなってくるよね」
「いや、全然」
 0.3秒で即答する来栖を無視し、尚も三春の感動は続く。
「ほらほらぁ。聞いてるうちに、なんだかスゴ〜く踊りたく、なって、身体が……あ、あれぇ?あれ!?」
「うわ!?何で俺までっ!やめろ――」
 人間風情が気安く俺に触るなと叫びたかったらしい来栖の手を取って、優雅なワルツのステップを踏みだす三春の身体は完全に操られていた。
 くるくるくるっと2人は開け放たれた扉から踊りながら演奏する猫たちの中へ。
 幻術の類だという答えに行き着いた時にはもう遅い。
 くるくるくるくる……強引に引きずり込まれた音楽の世界で、ヴァイオリンに乗せられて舞う2人の華麗なステップはもうどうにも止まらなかった。
 彼らがくるみ割り人形も真っ青なノンストップワルツから解放されるのは、それから数十分後のことである。

「つ〜か〜れ〜たぁあ〜〜〜」
 ようやく解放された時には、彼ら2人の身体は何故か館内地下まで運ばれており、あとはもうそこを探訪せざるを得ない状況に陥っていた。
「ん?」
 来栖の聴覚に入り込んできた聞き覚えのない人間の話し声。ぼそぼそと交わされるその内容はどうもあの黒装束やバケモノたちとは違う。
「どうかしたの、あさとん?」
「黙ってろ」
「黙ってていーの?」
「あん?」
「えっとさ、そこに」
「――――っ!?」
 ガシャンッばたんっガタンッッ――と盛大な音を立てて、なにものかに足首を掴まれた来栖は見事に床へ顔面を強打する。
 今日一日で一体何度こんな目に遭えばよいのだろうか。
 非常に残念ながら、怒りをぶつけるべき対象はピンポンダッシュよろしくあっという間に物陰に駆け込んで消えてしまった。
「あさとん、大丈夫?あさとーん?」
 わざわざ来栖の前にしゃがみ込んで揺さぶる三春。
「そこにね、ちまい手足のはえた食器が引っ掛けようと待ち構えてるから気をつけてって言おうと思ったんだけど……間に合わなかったねぇ」
「………………」
 こめかみをひくひくさせ、拳をわなわなと怒りに震えさせながらも、それらをぶつける宛てもなくゆっくり起き上がる来栖。
「誰だ!?」
「何ヤツ!?」
 盛大にすっ転んだ音を聞きつけて、数名の黒マントが向こう側の角を曲がってわらわらとやってきた。
「……アレって秘密結社お焚き上げ会、かな?」
「……そうじゃない方が問題だと俺は思うんだが?」
 ほけっとのんきに構える三春より前に進み出て、拳を緩く構える来栖。その瞳に狩猟者の光が閃く。
「お前、邪魔をするなよ?」
 沸き立つ怒りと消化不良加減で斜めになったご機嫌を正す獲物がすぐ目の前に迫ってきた。
「え?あさとん??」
「まとめて沈めてやる」
 人間を狩ることは禁じられている。
 だが、わざわざ武器を手に襲い掛かってくる者にまで手出し無用との約束をした覚えはない。
 来栖は濃紺の体毛をまとって膨れ上がった右腕を振り上げ、鋭く尖った鉤爪を閃かせて跳躍した。
 壁を蹴り、天井を蹴り、床を蹴って自在に飛び跳ね、駆け抜ける。
 狭い廊下3メートルに渡って黒い人間の折り重なった山が築かれるまでの所要時間約10秒。
 ウサ晴らしの対象となった年齢まちまちな男達の哀れな姿を横目に、来栖は『準備運動にもならねえか』と言い捨てて気絶した人間達を踏みつけた。
 そうして、先程辿っていた音の在り処に向けてゆっくりと進んでいく。



 物の怪たちの歌が流れる。
 この世に生を受けた幸運を謳歌し、思うままに暴れ回る。
 ようやく手に入れた自由は、この上もなく甘美で快楽に充ちていた。



「ああ!よ、よくぞ来てくださいました!救いの徒!!うわ〜うわ〜〜ありがとーございます」
「へえ、お前さんがあの24歳で独身の渋谷和樹かぁ!なるほどなるほど!」
 灯火の魅了によって言われるままに扉を開いた黒装束を押しのけて、藤井が豪快に笑いながら閉じ込められていた渋谷にヘッドロックをかまし、
「い、いたいっすよっ!はひぃ」
 じたばたともがく彼を押さえて思う存分かつ遠慮仮借なくがしがしと、あちこち跳ねた茶髪を掻き混ぜた。
「いかんな!実にいかんぞ、青年!その歳で独身!娘はいいぞぉ?可愛いし成長は楽しみだし、何より生きる楽しみだ……ただな、悪い虫がつくんじゃねえかって不安は大きいんで心安らがん時もある」
 そのまま怒涛の娘語りに突入する四十路の娘自慢は止まらない。
「それはそうと、渋谷くん達がどうしてこんなことになってしまったのか聞かせてもらえないかしら?」
 無理矢理ヘッドロックをかまされている渋谷に救いの手を差し伸べるがごとく、シュラインが横から話題を修正する。
「この…映画を作られた経緯なども……お伺い、したいです……」
 それに灯火が続く。
「え?」
 じたばたしていた渋谷がふとその動きを止め、あらぬ方向へ視線をさまよわせた。
「えっと……いや、なんか別にちょっとポルターガイストばしばしの悪霊の棲む家を再現しようと思っただけなんッすよ?ちょっと、監督が懐かしの映画をシリーズぶっ通しで見たとかで萌えちゃって、アレもやりたいコレもやりたいってことになって、で、そんな話もありつつ……」
 そして、うっかりお祓いを忘れたのだ。
 そうしたら、うっかりフィルムにオカシナモノが取り憑いただけなのだ。
 で、気付けば出来上がった映画は上映の前段階でその呪われっぷりを遺憾なく発揮する代物と化していた。
 おかげで現在正義の鉄槌こと『秘密結社お焚き上げ会』に絶賛付け狙われ中である。
「なんてこったって感じッスよぉ」
 スタッフ全員、あんなに気合入れまくりで頑張ったのに、呪われちゃった挙句にそれでこの騒ぎなんだと、とほほ顔でうなだれる渋谷。
「……でも、撮影に…使われた物たちは……とても感謝…していらっしゃるようです、わ……」
「そうそう!やっぱ想いがこもるって大事だぞ、青年!」
 灯火、藤井の微妙にずれたフォローに後押しされて、渋谷の心は俄然ポジティブ方向へ。
「そ、そうっすよね!?こんなすごいもの呼び寄せちゃうくらい、うちの監督もスタッフも役者もスゴイってことっすよね!?バンザーイ」
「おう!褒めとけ褒めとけ!お焚き上げ会なんつー地味地味なヤツラになんか負けんな」
「オー!」
 盛り上がる四十路と二十代。
 地図を片手に情報を脳内で整理し分析し、推理を展開していくシュライン。
 実はほんの少しだけ、渋谷たちの狂言である可能性を疑っていたのだ。
「つまり映画そのものを浄化してしまえばそれで丸く収まるような……」
 ふと、問題の映画に宿るものたちさえお祓いできればお焚き上げられる事もなくなるのではないかと思うシュライン。
 しかし、全員の能力を隅々まで正確に把握しているわけではないが、明らかにお祓いの類を本業としているものが居ないのも確かである。
「やっぱり、お焚き上げ会をどうにかしたあと、然るべき場所へ申し込むしかないかしら?」
「お祓いを、なさるのですか……」
「……ん?どうした、灯火?なんか気になるかぁ?」
「………この方達を…ただ清めるのでは…お焚き上げ会の方々と、あまり……変わらないのではないでしょうか……?」
 そっと目を伏せて呟く少女の言葉は、自らをそこに映しているかのように切なげだった。
「ええと、とーか、ちゃん……?」
「嬢ちゃん」
「ねえ、灯火ちゃん。あのね?」
 言いかけたシュラインの言葉が不意に途切れた。
 悪しきモノよ、滅せよ。
 この世ならざるもの達よ、清き炎にその身を晒せ。
 そんな呪詛にも似た大合唱が、きな臭さとともに耳に飛び込んできた。
「人間、以外にも……この方達の仲間の、悲鳴が…聞こえてまいります、わ……」
「な、な、な……」
 深刻そうに呟く灯火の言葉に、一気に蒼白となった渋谷が、いきなりパニックになって暴れだす。
「燃やされるぅ!燃やされちまうよぉ、兄さん達!!たーすーけ―――っ」
「はいはい。少し静かにしようかぁ、青年」
 笑顔で当身を食らわせる藤井。
 調査員達は互いに視線をかわし、頷きあうと、魅了されたままぼうっと突っ立っている構成員を手近にあった立ち入り禁止テープ(KEEP OUTとか書かれている)でぐるぐる巻きにして倉庫に放りこんだ。
 厳重に鍵を掛けた後には、一斉に火の手が上がる場所へとダッシュを掛ける。
「あ、ところでさ、聞こう聞こうと思ってたんだが、この地図の赤チェックってなんなんだ?」
 ふと、藤井が数歩遅れて走るシュラインを振り返る。
「備えあれば憂いなし、の実践のひとつよ」
 くすりと意味ありげに笑って彼女が指差す先には、赤い胴体に鈍色のノズルが取り付けられた、火事場の必須アイテムが鎮座ましましていた。
「やるねぇ、お嬢さん」
「どういたしまして」
 シュラインたちは鈍器にもなる素敵なアイテムを3つ手に入れた。



 散り散りになって逃げ惑う物の怪たちの捕獲班とは別に、撮影所の裏手で着々と焚き上げの準備を進める一団がいた。
 神聖にして厳格なる儀式。
 大道具や小道具をしめ縄で逃げないようにまとめて縛り上げ、材木でやぐらに浄い火を起こす。
 風に煽られながらゴウッと燃え上がっては鮮明な火の粉を散らすその不定形な炎を、彼らは半ば恍惚として見上げていた。



 監視者を最後に沈めて、来栖がたどり着いたのは塗装のはげたみすぼらしい扉の前だった。
 嗅覚と聴覚がここに人間がいることを知らせている。
「やっぱりな」
 ギシリと音を立てて重い扉を押し開けば、薄暗い倉庫には、複数の簀巻きがごろごろと(少々楽しげに)床に転がっていた。
「あ!簀巻き人間!!……じゃなくって、お焚き上げられ予定の撮影スタッフの皆さんですか?」
 来栖に遅れてひんやりとした機材庫に入り込んできた三春が、思い切り彼の背中ごしに指をさして叫ぶ。
「お?兄さんたち、こんなところまで来てどうした?」
「もしかして、渋谷の……?」
「あ、えと、はじめまして。三春風太です。で、こっちはあさとん」
 床から自分達を見上げる大人たちへ一度礼儀正しくお辞儀をし、それからアワアワと簀巻き人間に駆け寄って何とか解こうと固く結ばれたしめ縄と格闘し、三春は自分達の経過をとつとつと説明した。
「えっと、ネコさんと遊べるって聞いてね、炊き込みご飯食べようと思ったんだけど実は違って、とにかく渋谷さんを探そうって感じだったけど、運ばれたんですよ」
 彼の日本語が、一切合財全ての状況を詰め込んで説明しようと試みた結果、見事に破綻してしまったのはご愛嬌だ。
「ほう。面倒なことに巻き込んじまってすまないなぁ、兄さんたち」
 だが、何故か彼らにはちゃんと伝わっているらしい。日々渋谷で鍛えられているせいか?
「それよりもお前らのことを聞かせろ。それと、お焚き上げ会ってのはなんなんだ?」
 憮然とした表情で紐を解くどころか自分まで簀巻きになりつつある三春を一瞥すると、来栖は自身の爪で簀巻き人間達の布団部分を全部切り裂いた後、男達を改めて見下ろした。
「お焚き上げ会については俺らもあんまり知らねえんだよ」
 カクカク云々と事の経過を述べる監督に、何度も頷きながら一生懸命(しかもひどく興味深げに)話を聞く三春。
 だが、ごうっと風に舞って燃えさかる炎の一端が視界に入った瞬間、彼らの時間が止まった。
 焦げた匂いが流れ込んでくる。
「こ、このままじゃ燃やされちゃう!」
「ちっ……馬鹿な真似しやがって」
 苦痛に顔を歪ませ、忌々しげに吐き捨てる来栖。
 一瞬頭を過ぎるのは、抉られケロイドと化した過去の記憶。
 後悔の悲鳴を上げる『幼い自分』を無理矢理に胸の奥底へ捩じ伏せて、来栖は窓からひらりと裏へ向かって飛び降りた。
 もう、彼の跳躍を足止めするものはいない。
「えっと、ボクも止めに行ってきますねぇ!」
「待て待て!俺等もついていく!大事なフィルムをやられちゃたまんねぇかんな」
 炎を目指して来栖に遅れを取りながらも、三春とともにスタッフ達も裏へ向かった。


 空に向けて高く燃えさかる炎が壁を赤く照らす。
 キャンプファイヤー(違)を取り囲み、今まさに儀式に取り掛からんとする黒装束の男達はここだけでざっと20人はいるだろうか。


「うわぁ、すごいなぁ。燃えてる」
「お?なんだか随分と懐かしい眺めだなぁ」
「なんか思い出しますねぇ、若かったあの頃……修学旅行とか学園祭とか。ねえ?」
 お焚き上げ会が組んだらしい豪快な櫓に思わず歓声を上げるスタッフ一同と三春。
 なんだかちょっと修学旅行の夜ちっくで懐かしくさえあった。
 だが、ほのぼのとした想い出に浸ることが出来たのは高校時代を今まさに謳歌している三春と、楽しい学生生活を経てきたスタッフの一部だけであった。
「……八つ裂きにされたくなけりゃ、とっととその火を消しやがれ」
 低く唸り声を上げて、来栖が小道具たちや大道具たちの動きを封じるしめ縄を引き千切って片端から解放しては、黒装束を殴る蹴るどつく。
「あ。あさとん、みっけ。あんなところにいたんだぁ」
 ただいま撮影所内暫定1位の暴れん坊モード、来栖麻里。
 さらに別方向、第4スタジオ付近から、騒々しい金属音に混じって人間と化けモノたちの突撃の声が響いてきた。
 つられて視線を向けた先で、転げまわる黒装束と、それにたかる物の怪、抜群の格闘センスで蹴散らす藤井という混戦状態の最中から、見覚えのある青年が手を振ってきた、
「あ!監督!先輩達も無事だったんですねぇ〜〜!!」
「お、来たか」
 ほぼ行方不明扱いで可決されかけていた渋谷の姿を発見して、監督がまたニヤリと笑った。
「野郎ども!俺達も加勢するぞ!自分たちの職場は自分たちで守れ!!」
 灯火が引き連れてきた物の怪たちや三春について駆けつけてきたスタッフが一斉にお焚き上げ会面々に乗り上げ、その一部を取り押さえ、簀巻き人間を製造する。
「おのれ!蠢く人形とはまさに我らがお焚き上げ会の出番ではないか!」
 にわかに色めき立つ『秘密結社お焚き上げ会』の面々に、灯火は無表情のまま溜息らしきものをついた。
 ニンゲンというのは本当に変わっている。
 幻術によってヒトと見せかけているはずのこの身を彼らの一部はちゃんと見破っているのだ。そうして、憎悪に燃えたどす黒い感情を言葉に乗せてぶつけてくるのだ。
「呪われし人形め!!浄化してくれるっ」
 式服に身を包んだ男が浄い火を灯した松明を振りかざす。
 自身の信念のみを真実と思い込み、他を一切受け入れない狂信者の目が灯火に襲い掛かった。
「待て待て待て!お嬢ちゃんにそんな手荒いことするなんて間違っているぞ、秘密結社!地味な隠れ家に住んでいるのに派手なことをぶちかますのは非常に良くない!」
 霊枝をかざし、独断と偏見と妄想が微妙に彩を添える台詞を吐き出して、藤井が灯火と彼らの間に割って入った。
「そもそもお焚き上げ会って言うのは神社の片隅で淋しくちみちみと地味〜な活動をする集団だろう!?」
「な!何を言っている!我らを愚弄するつもりか!?」
「地味じゃないと言うなら、秘密結社とつける意味がないだろ?秘密は秘密にしているから秘密だろう!?」
「我々は神社では対処できんものを焚き上げていく、いわばお焚き上げのエキスパート!プロフェッショナル!我らは悪しきモノ達を浄化するためにここへ来た!この世の理に反し、世を乱す存在を成敗する正義なるぞ!?」
 黒装束(マントつき)をまとったあやしい男が前に進み出、己の主義主張を堂々と言い放った。
「でも、お焚き上げってたしか『聖域で』火を焚いて浄化行為を行うのよね?そもそもこんな撮影所でいいのかしら?」
 さらりと疑問が口をついてでるシュライン。
 一瞬、ぴくりと黒装束の肩が反応する。
 そうだっけ? これって不味い? 間違ってる?
 そんな頼りない言葉が今にも洩れてきそうな不安さを必至にマスクの下に隠す男達。
 しかし、己の信念はけして揺らがない、けして間違いなど犯さないと信じきってしまっているリーダーは、殊更チカラを込めて言い返す。
「の、呪われし映画フィルムを焼き、邪悪なる魂を宿したモノを焼き、邪悪なるモノを生み出した者たちとこの場全てを我らの清浄なる炎で正すのだ!まとめて全部跡形もなく消し去るのだぁっ!!」
 その言葉に勇気付けられ、後押しされて、うおおんっと拳を突き上げて歓声を上げる構成員達。
 炎が風に煽られ、火の粉とビル中で、凄まじい自己正当化を果たす男たちは本来ならば働き盛りで分別をわきまえるべきいい大人である。
「うわぁ!かっこいいかも!」
 まるでヒーローショーで歓声を上げるお子様のごとくに目をキラキラさせて興奮する17歳。
「いや、ソレは違うだろうが」
 来栖が隅で嘆息する。
 だがその冷ややかな突っ込みは、藤井の情熱的な糾弾の前に掻き消されてしまった。
「なんだと!?正義と名がつけばこれほどの犠牲もいいってことかっ?」
「ああ、そうだ!それこそが我らの使命!!」
「なにぃ!?無差別攻撃は良くないぞ、お前達」
 実質皆殺し宣言の様相を呈しているその言葉に、真っ向から勝負を挑む藤井雄一郎、48歳。巨大な炎をバックにハイテンションで対峙する。
 あっけに取られ、あるいはあまり係わり合いになりたくはない人種に距離を取ってしまった調査員とスタッフたち。
 だが、傍観者でいられた彼らもすぐに渦中へと引きずり込まれる。
「皆のもの!さあ!悪しき存在を駆逐せよ!!」
 黒装束の頭から鋭い命令が下されて、多少ぼろぼろになりつつも男達は映画フィルムやスタッフ、まとめて縛り上げていた小道具たちに手を掛けた。
 放り込む気満々である。
「―――そうはさせないわ!!」
 ぶはぁぁあっと、シュラインの抱えた消火器から大量の粉が派手に噴出された。
「―――な、何を!?」
「うーわ〜!!なにをする!!ひどいヤツだぞ、お前」
「我々の苦労を一瞬で!!」
「そうだ……この火を消しやがれ――っ」
 険しい表情で呻き、来栖は不機嫌まっしぐらで怒鳴ると藤井からひったくった消火器を男達に向けてぶちまけた。
「――――っ!?」
 鋭い水圧&風圧に弾き飛ばされ、悲鳴も白い泡の中に書き消える黒装束。
 手当たり次第、力の限り撒き散らかされた白煙が、人も者も味方も敵も関係なしに粉まみれにしていく。
「スゴイですよぉ!カッコイイですよ、シュラねえさーん!」
「今回はすっげく輝いて見えるよ、来栖の兄さーん!ひゃっほう!!」
 三春と渋谷がコンビで遠巻きに声援を送る。
「よおし!フィルムを死守しろ、おまえたちぃ!」
 混乱に乗じてお焚き上げ会の手から弾かれた映画を強引に(ちょっと腕力に訴えつつ)取り返すスタッフ。
 小さな身体を利用して、揉み合う人間達の間をすり抜けて次々と捕らわれの小道具たちを救い出していく灯火。
 そんな中、ふと我に返ってしまった来栖。
「よぉし!お前ら全員そこまでだぁ!そこに直れ!」
 藤井の声が響き渡り、その手に握られていた霊枝が振られると同時に、全員の動きが一斉に一時停止を余儀なくされた。
 リアル世界におけるストップモーション発動の瞬間。
 現場の混乱が一気に沈静化される。
 そして、
「その活動指針は立派に犯罪だってこと、ご理解されていらっしゃるかしら?」
「………え」
 周囲にぴしりと亀裂が入る。
 凛としてよく通る声が不意に横から差し込まれ、男達の白熱した(やや低レベルかもしれない)戦いが一時中断された。
「世の理を正す、正義の名の下に……と言われてますけど、現時点で既に私有地への不法侵入、放火未遂、監禁、殺人未遂、器物破損・損壊といった罪状がずらりと並ぶわけだけど、これはどう弁明されるおつもりなのかしら?」
 皆の視線を充分に引きつけた形で、シュラインはゆっくりと黒装束の男達ひとりひとりを見ながら問いを投げ掛けていった。
「興信所にかかってきた電話は既にこちらで録音済み。警察に提出することで、脅迫罪も追及できるかもしれないわね」
 ザワザワと、次第に黒装束の間で不安が伝染していく。
「……ふ、ふふふ!甘いな!アレは数名の声を変換機を使って合成して作ったものだ!我等お焚き上げ会が誇る逸品、個人の特定などできるものではない!!」
 それを振り切るために、あえて胸を張って自ら内情を暴露してしまうリーダー。語るに落ちるタイプといえようか。
「うわぁ!どうしてこんなヒドイコトするんですか!?やっぱりどう考えても確信的犯罪者集団じゃないですか〜」
「だから、犯罪者などではないと言っているではないか!我々は世の理を正す秘密結社お焚き上げ会だ!」
「そうだ!秘密結社なんだ!断じて犯罪者などではないんだぁ!」
「我々が為そうとしていること、すなわち正義なり!!」
 思わず叫んでしまった三春に、堂々と胸を張るリーダー。それに追従し、沈静化していたはずの構成員達(いい年の大人)も一気に盛り上がりを回復する。
「あ、そうか。じゃあしかたないかも」
 そして、あっさり流される少年(純真?)
「しかたないわけないでしょ」
「そんな論理は通らんぞ!騙されるな、青少年!健全なる精神を歪ませちゃダメだ!」
「………三春様……」
「おまえ、おかしすぎ」
「映画〜俺らの映画を燃やそうとしてんだぞ〜〜〜」
 うっかりその迫力に説得力を感じて頷いてしまった三春に、今度は味方が総ツッコミを入れる。
 フィルムを人質(モノ質?)にとられて殺気立っている一部のスタッフに袋叩きにされる一歩手前だったことも追記しておくべきだろうか。
「いや!間違っていないぞ少年!我らは神社よりも優れたチカラを持ち、善行を為そうとするものなのだ!」
「しかも秘密結社だしな!」
「あのねぇ……警察でその言い訳は通用しないと思うんだけど?どんな大義名分があったとしても、暴走は暴走。犯罪者は犯罪者よ」
 再び辛辣なツッコミがシュラインにより差し込まれる。
「……それに……渋谷様たちはもちろん……この方達も…そしてわたくし自身も浄化を望んではおりませんし……望まれないことを、なさるのは……」
「うん!これって正義って言わないと思う!」
「ただの自己満足だな!もしくは欺瞞!」
「…………う……」
 彼女に続き、灯火、三春、藤井とコンボで決められる真っ当かつ辛辣かつ容赦のないツッコミに再び凍結する秘密結社お焚き上げ会。
 視界の隅では、撮影道具達にのしかかられ、あわあわともがく者達の姿があった。
「渋谷くん達も助けられたし、後はもう通報した方が早いかしらね?」
 ちらりと視線を流し、シュラインは見せ付けるようにわざと大袈裟な仕草で携帯電話をジャケットから取り出した。
 ゆっくりとしなやかな指が番号を押していく。
 緊張感は高まり、自称正義の味方である犯罪者集団は心理的圧迫感を受けて固まった。
 誰もが固唾を飲み込んで見守る中、最後の番号を押し終えた携帯から発信音が鳴り響く。
 そして、
「あ、もしもし?片山刑事さん?いつもお世話になっております、エマです。ところでこれから少々相談に乗っていただきたいことが――ええ、犯罪者の告発について―――」
「――――っ!!わっ、我々は秘密結社なんだからな!正義のために存在しているんだからな!今日のところはお前達の情熱に免じて引き上げてやろう!だが!次があると思うな!!我等は秘密結社お焚き上げ会!正義の名の元に邪悪なるモノを滅するが使命なり!!」
 シュラインの演技を完全に誤解したリーダーが高らかに自らの『敗北』を宣言し、黒マントを右下から左上へバサァッと翻す。
 それを合図に続く、怒号と特撮でよく見る大爆発の連続。
 一体どこに仕掛けていたのかと思われる白煙が爆風とともに舞い上がってあっという間に周囲を白く覆いつくした。
 危険を察知し、とっさに伏せる調査員達。それ以上に早く反応してしまった映画スタッフ。

 そして―――

「……いないわ」
「うむ。実に悪役らしい見事な負け犬の遠吠えと退場だったな」
「ボク、はじめてみた。すごい。かっこいい〜〜」
「……………」
 キラキラと子供の眼差しで感動する三春に、来栖はどこにどうつっこめば良いのか考える自分を停止させた。
 残ったのは、意思を持った道具達と白粉まみれの調査員、スタッフのみである。何十人といたはずのお焚き上げ軍団は跡形もなく消え去っていた。
 長い長い沈黙。そして脱力感。とりあえず追い払うことは出来たが、根本的解決までには至っていないような気がしないでもない。
 だが、危機は去ったのだ。
 互いの顔を見合わせる彼らの間で、とりあえず大団円と言っていいんじゃないかという思いがじわじわ浸透していく。
「…………さてと、じゃあ後片付けしましょうか」
「え?」
「こんな有様じゃ明日からの撮影やスケジュールに悪影響を及ぼすでしょう?ほら、皆でやれば早く終わるはずよ。掃除開始!」
 調査員も被害者もスタッフもバケモノも一切合財差別なく大掃除の指揮をてきぱきと取って動かしていくシュライン。
 お祭りは片づけまでやってお祭り。遠足は家に帰り着くまでが遠足。
 冗談じゃない、付き合いきれないと時空の向こう側へ逃げようとした来栖は、三春と藤井の連係プレイで見事に捕獲され、手伝う羽目に陥った。
 この祭りの後始末は深夜まで及んだという。
 そして、本来ならば映画完成打ち上げを催すはずだった彼らは、揃って調査員達やいまだ呪いの解けていない小道具やオバケたちを引き連れて、仕切りなおしのパーティを提案した。
 消化不良このうえないこの状況を思い切り打破するには、いっそこれでもかといわんばかりのバカ騒ぎをするしかない。
 監督は至極真面目な顔でそう言い放った。
 うおおんと歓喜の叫びを上げるスタッフ一同。
 先程の秘密結社構成員とほとんど変わらない反応であるが、心底喜ぶ彼らにつられて一緒に喜ぶ三春と藤井。
 秘密結社お焚き上げ会の制裁目的で組み上げられていたキャンプファイヤー(だから違う)の残骸は、そのまま祭り会場のシンボルと化したのだった。
 音響の三浦さんが本館から持ち出してきた音楽に、猫達のヴァイオリンが重なって、どこから持ってきたのか藤井がタンバリンやカスタネットや民族楽器的鳴り物を取り出してきて、賑やかさはさらに増す。
 騒ぎに乗ってはしゃぐ物の怪にたかられて頬を引き攣らせる来栖。
「………俺は何のためにここに来たんだ……?」
 誰も答えてはくれないだろう問いを口の中でぼそぼそと呟いてみるが、それで浮上できるわけではない。
 秘密結社お焚き上げ会……このふざけた会の一体何を自分は調査するべきだったのだろうか。財団は自分に何を望んでいたのだろうか。
 人間も付喪神も呪われた数々の道具も、なにもかも全てに頭痛を覚えずにはいられない。なにもかも全部がふざけているとしか思えなかった。
「いっそ全員まとめて次元の狭間に引きずり込んじまえば良かったか……?狩りじゃねえ……大掃除だって言や財団も納得するんじゃねえか……?」
 そんな黒い気持ちがふつふつと湧き上がるものの、入り込む余地のないほどに浮かれる人間達の姿は確実にこちらの殺る気を削いでくれる。
「うわぁ、いいなぁいいなぁ〜ボクも一緒に踊りたいなぁやりたいなぁ」
「じゃあさくっと記念にいってみようか、少年たち!さあ、このマラカス持って!」
「―――!」
 そんな苦悩などどこ吹く風で、能天気な声と遠慮のない勧誘が来栖を背後から襲った。
「あさとーん!ふくれてないで、一緒に踊ろうよぉ」
「断る」
「断らせんぞぉ、少年!さあ、行くぞ!いざ、宴の真っ只中へ!!」
「うわ!バカやめろ気安く触るなっ人間!!」
 ずるずると容赦なく藤井と三春に両腕をつかまれて、来栖はハイテンションで盛り上がるスタッフ達とバケモノたちに手荒い歓迎を受けながら騒音の真っ只中へ引き摺り込まれてしまった。
 来栖は知らない。
 彼の人間嫌いを憂えた財団が、その克服のためだけに、調査指令にかこつけて渦中に放り込んだことなど、分かろうはずがなかった。
「そうだ。ねえ、灯火ちゃん?」
「……なんで、ございましょう?」
 そんな一団を一歩はなれた場所から苦笑交じりに眺めるシュラインが、ふと、隣に腰掛けていた灯火の顔を覗き込む。
「さっき確認してきたわ。この子達、お祓いせずに残してくれるみたいよ?」
「え……」
「監督が、今度の撮影にでも協力してもらうからって、正式にあの子達を雇い入れたみたい」
 クスクスと笑って見せるシュラインに、自分の想いを受け止め、叶えてくれたさりげない優しさを見る灯火。
「……よかった、ですわ……本当に……」
 ほんのりと口元に笑みを形作って、灯火は愛しげに彼らへ視線を注いだ。
「どうしたの?とかちゃん、エマおねーさん!ほらほら、一緒に歌って踊ろうよぉ」
 バカ騒ぎの中心から、三春が来栖の手をつかんで左右に大きく振りながら全快の笑顔で誘いの声を飛ばしてきた。
「全員でノらなきゃ意味ないぞ、お嬢さんがた!」
 藤井も渋谷と手に手を取って踊りながら2人を呼ぶ。
 皿とスプーンとコーヒーカップがずらりと列を成して灯火たちを迎えにやってきた。
「……いきましょっか?」
「……はい」
 そうして、人とバケモノと人らしき者たちが入り乱れた騒ぎは夜が明けるまで続いたのだった―――



 後日。
 渋谷の勤める映画制作会社から草間興信所へと送られてきた特別試写会のチケットには、素敵なスナップ写真とDVDも同封されていた。
 CG合成ではないかと思われるほどに破天荒で常識を無視したお祭り騒ぎの様子が、実に臨場感たっぷりにプロの腕で記録されていたのだった。
 このときの映像が外部に洩れることで、お焚き上げ会による『リベンジ』という名のドタバタがもうひと波乱あったのだが、ソレはまた別のお話である。




END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1627/来栖・麻里(くるす・あさと)/15/男/『森』の守護者】
【2072/藤井・雄一郎(ふじい・ゆういちろう)/48/男/フラワーショップ店長】
【2164/三春・風太(みはる・ふうた)/17/男/高校生】
【3041/四宮・灯火(しのみや・とうか)/女/1/人形】

【NPC/渋谷・和樹(しぶや・かずき)/男/24/映画会社スタッフ】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、こんにちは。ただいま『たべっ子どうぶつ(メープルバター味)』に大嵌りしているコンビニ菓子好きライター・高槻ひかるです。
 さて、この度は当依頼にご参加くださり誠に有難うございました。
 相変わらずの制作期間と相変わらずの総文字数。ただ、けして相変わらずとは呼べないテンション高めな悪ノリモード……
 個人的には、いつものダークテイストとはまた違った楽しさを感じて書くことが出来ましたv
 遊んでもらうことに重点を置いた展開となりましたが、ご参加くださった皆様、楽しんでいただけましたでしょうか?(ドキドキ)
 なお、今回を以って15タイトル中『唯一の』シリーズNPC(本編登場3回目)となった渋谷和樹ですが、多分彼が出るということはいつもよりも5〜7割増で遊び要素が追加された話になると言う目安になるかもと思ったり思わなかったり。
 

<三春風太PL様
 初めてのご参加有難うございますv
 撮影所の雰囲気の気に入ってくださってのご参加とのこと。
 実年齢よりも子供っぽいということと、遊んで良いとのPL様からのお言葉を受け、三春様にはとにかくめいっぱいボケつつ遊んで頂きました☆
 また、まるで漫才コンビのごとくに行動を共にしている来栖様とのやり取りは書いていて本当に楽しかったですv
 少しでもPL様のイメージに近い描写となっていれば良いのですが。
 ただ、心残りは三春様の能力描写が出来なかったことでしょうか……

 それではまた、別の事件でお会いできますように。