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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


雪香誘拐

 歌姫は養女の雪香をあやしている。平凡な日々のあやかし荘。
 そろそろ梅雨になるが、彼女にとってこの子との一日が大事でもある。
 その平和な一日を大事に過ごしていたのだが……。
 雪香は退魔の子。それ故、力は力に惹かれ合う。
 覚醒前の眠っている赤子を贄にする“魔”がいてもおかしくはない。また、鍛えるために“退魔”一族が奪いに来るだろう。
 その運命は逆らえないものだった。

 歌姫が雪香と寝かしつけ、自分の用事をするために柚葉にお守りを頼んだ。用事とは洗濯を取り込むというぐらい。
 いきなり、赤子の泣き声と柚葉の悲鳴。
 焦り、急ぐ歌姫……。
 部屋は、雪香はおらず、争いの後があり、壁にもたれ腹から血を流している柚葉だけ。
「ごめん……、歌姫……あの子が……黒装束の連中に……」
「……!」
 錯乱し涙を流し、歌を唄う歌姫。直ぐに嬉璃や恵美がやってきて、柚葉を何とか応急処置できた。

「退魔の子ゆえか?」
 嬉璃は部屋を調べる。手がかりを探すために。
 歌姫は、皆に宥められ、自分が何とかして雪香を取り戻そうと決意する。


【雪香を捜すために】
 何故狙われているかは、見当は付く。
 騒ぎを聞きつけたのは天薙撫子。前回、雪香の事件に関わった一人だ。
 そして蓮の間に居候している織田義明。今は柚葉に神格による治癒術を行っている。彼の師は留守のようだ。
「撫子さん」
「義明くん。柚葉様は大丈夫でしょうか?」
「なんとか間に合ったよ。……よし、此で暫く安静にすれば大丈夫だ」
 その場を立つ義明。
「義明くん、手伝ってくれますか?」
「もちろん」
「では、一度歌姫様にあって話を聞かなくては」
 撫子の言葉に義明が頷く。

 歌姫は言葉を喋ることが出来ないが、ジェスジャーで意思疎通は可能だ。話によれば、一寸した間に柚葉が襲われた事しか分からないと言う。霊視による過去を見る事でも、まるで忍者の黒装束が4人だけだった。流石に戦闘能力のない柚葉は守り抜くことは出来ず、謎の存在に雪香を奪われてしまったのだ。
 
「手がかりがない……」
 腕を組んで考える義明。
「祖父の方に退魔関係の足取りを捜して貰っています」
「あとは“魔”の足取り……か」
 義明は腕を組みながら考えている。
 すでに、現場では争った後だけであり、手がかりという物はない。残留している“気”では判別が付かない。

 数時間後、撫子に祖父から連絡が入る。退魔の一族ではないようだ。
「となると、魔に位置する連中ですね」
 撫子は連絡を聞いた後、急いで雪香がさらわれた部屋に向かった。

「撫子さん、何を?」
 霊視しても過去さえ見えないと言うのに、と義明が聞いてくる。
「『龍晶眼』で、全てを見てみます……」
「確か、“全て”を見る神域の眼を? 大丈夫ですか? まだ完全に体得しているわけではないのに」
 心配そうに義明が言った。
「しかし、手がかりが其れでしか手に入らない以上、使います」
「……分かりました」
 撫子の意志の強さに義明は頷くだけだった。
 歌姫が不安そうに見ている。失敗は許されない。

 そして、撫子は龍晶眼無理に起動した。

 僅かな思念から一気に此処での出来事が彼女の頭に入ってくる。

 まずは歌姫が柚葉に雪香を預けた。柚葉は元気な赤子を抱いて、あやしている。
「大きくなったら遊ぼうね」
「あうー」
「でも、何が良いかな……」
 なにか考えている。
 そんなときに、いきなり赤子が泣いた。
「あわ、あわ! どうしよ!」
 柚葉は慌てふためくが、おしめが濡れている事を知って
「なんだ、おしめを替えよう」
 と、おしめ替え。
 雪香は気持ち良くなったのか笑っている。
「さて、そろそろ歌姫が……」
 と、柚葉はおもったとたん。
 窓から一瞬、影が現れる。そして柚葉から赤子を取り上げ、“何か”で柚葉を負傷させた。
 糸のようなものかそれとも特殊な刃物なのか?

 そのまま影達は雪香を奪い去っていく。その影の思念を読みとる撫子。その先は……此処からそう離れていない廃屋ビルだった。

 しかし、うまく視たが、かなりの力を使ったため撫子は気を失う。
「撫子さん!」
 義明は彼女を抱き留めた。
「制御出来てない身でその能力は諸刃。慣れない技なんですから……、神経が焼き切れ廃人になりますよ」
 義明が怒っている。
「……義明くん……」
「少し休んでから、視た先に行きましょう。その身体では、危ない」
「でも、雪香ちゃん……」
「大丈夫ですよ、焦りはミスを誘発する。贄にするにはまだ時間はあります」
「……はい」
 義明の言葉で撫子はゆっくり目を閉じた。
「其れに、撫子さんが居なくなったとき俺……」
 少年は本音を少し呟いた。彼女に聞こえるかどうかはわからないほど。



【魔のすみか】
 回復した撫子は義明とアジトに向かった。
「妖気が強いですね……あれ? 妖気の他に霊気も?」
 そのアジトから400m離れたところ。遠くからでも分かる妖気と霊気。不思議な取り合わせ。
「僅かに雪香の思念を探知できる。まだ生きていますね」
 義明が言う。

 神に近い能力を持つ2人。すでにあちらも分かっているだろう。
 単に魔物退治で有れば簡単に片が付くが、むやみに手出しが出来ない。
 其れより何故、雪香を連れ去った本当の理由を知りたい撫子だった。

 二人で廃ビルの中を歩く。真っ暗な広間。しかし全方向から殺気がヒシヒシ伝わる。
 一歩撫子が前に出て、
「わたくしは、天薙の者! 話し合い出来るなら現れよ」
 と、叫ぶ。
「……あ、ま、な、ぎ…? あまなぎ!」
 闇からどよめきの声が聞こえる。殺気は無くなった。
「わ…われら…を殺しに、来たか? 闇の中で魔を屠るもの」
「雪香嬢を返しなさい。又何故さらったのか教えなさい」
「……」
 沈黙がしばらく続いた。
「この赤子が退魔になることは危惧すべき事。我らは狭間に位置する影。いつかこの赤子が我らを滅ぼしに来る」
「狭間の影?」
「生憎、我ら狭間の影は、中庸の存在。時として人に、時として魔に付く者。故に人と退魔、もちろん魔とは共存できぬ。しかし、この飽くなき戦いには必要なる存在なり」
「闇にずっと生きているわけですね……実際はどっちにも付かない存在と言いたいのですか?」
 撫子は聞き返す。
「左様、しかしこの赤子はそのバランスを崩す危険な存在だ。しかし……」
 声は、どんどん流暢に喋る。
「しかし、この赤子が退魔とならぬと誓うのなら、返す」
「……」
 嘘だと思う撫子だが、言葉が出ない。
 彼女の退魔能力がいかほどの物になるか見当は付かない。覚醒するまえなら、簡単に殺せる。そこまでして雪香を危険視するのは何故であろうか?
「……」
 沈黙が続いた。
 そこで、赤子の泣く声がする。
「雪香ちゃん!」
 撫子は叫び一歩又前に進もうとするが、義明に止められた。
 そのおかげか、一歩先に鋭利な投擲物が10本ほど地面に突き刺さっていた。
「焦っては行けない。ここはアイツらの領域。うかつに出ると怪我だけでは済まされません」
 落ちついた表情で義明が言った。
「はい」
 撫子はそのまま彼の隣に立つ。

「彼女の能力を封印します。未来に雪香嬢が退魔に目覚めないように」
「……」
 沈黙する影。
「……天薙、その言葉信じて良いか?」
 影は問う。
 撫子は頷いた。
「ならば……返そう」
 そう影は撫子と義明の視認できる距離に置いて……完全に気配を消した。
「一体何だったのだろう?」
 首を傾げる義明。
「第三勢力なのでしょうか?」
 雪香を抱く撫子。
「もう怖くないですよ〜」
 と、彼女は赤子をあやす撫子。
 相手の本当の目的を知ることは出来なかったが、雪香が無事なら其れでよいのだった。


【封印】
 義明が、天空剣・封の技にて雪香の退魔素質を封印する。その封印石は撫子の神社に保管されることとなった。雪香を歌姫に渡したときの歌姫の顔はとても明るかった。

「血を流さずに済んだから結果オーライなのかな? 柚葉は災難にあったけど」
 義明は、撫子と歩いていた。
「ええ、戦いにならずに済みました。よかったと思います」
「俺はただ付き添っただけだったなぁ。撫子さんが無事でよかった」
「義明くん……」
 彼の言葉に何か友情以上の感情があるようなのだが、其れが何であるか分からない撫子。
「今回のアレが何であるかは又であったときに考えましょう」
「は、はい」

 そして、撫子の家に着いた後、義明は封印石を撫子に渡して、
「じゃ、また今度。お疲れ様」
 と、彼は去っていく。
「お疲れ様、義明くん」
 撫子は、気になる剣客少年の背中を彼が見えなくなるまで見送った。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】

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■         ライター通信          ■
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 滝照直樹です。
 『雪香誘拐』に参加して下さりありがとうございます。
 会話で何とかなりましたが、影の存在は謎のままです。

 では機会が有れば又お会いしましょう。

 滝照直樹拝