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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


NYAN?
●オープニング【0】
 振り返れば、あれは――ある意味もっとも恐ろしく大変な事件だった。
 その日、月刊アトラスの編集部員である三下忠雄は、いつもの通り編集部に出勤した。
「おはようござい……まっ!?」
 編集部に入ってすぐ、三下の足が止まった。視線は編集長の碇麗香の机に向いていた。
 もちろんそこには麗香が居るのだが……その頭には、何故か少し茶色っぽいキジ虎模様の猫耳がぴょこんとついていた。
「へ、編集長?」
 戸惑いつつも、三下は机に伏せてすやすや眠っているらしい猫耳麗香のそばへ近付いていった。そしておもむろに、猫耳をつかんでみた。
「にゃっ!!」
 バリッ。
 跳ね起きた猫耳麗香は三下の顔に対し、上から下へと爪で一撫でした。三下の顔に、見事な線が何本も出来ていた。
「……ほ、本物の猫耳だ……」
 三下が触れた猫耳には、はっきりと体温が感じられた。つまり作り物ではないということだ。そもそも、麗香はこんな物をつけてくる人ではない訳で……。
「たっ、大変だぁぁぁぁぁっ!!」
 三下は電話に飛びつくと、物凄い勢いであちこちに電話をかけ始めた。これは非常事態である。
 1時間もしないうちに野次馬、もとい三下に呼ばれた者たちが集まってきた。
 いったいこれはどうなってるの?
 それより何より、どうやって元に戻すんですかっ?

●膨れ上がる野次馬たち【1】
「……うーわ」
 机の上にちょこんと座っている猫耳麗香の真ん前にやってきた村上涼は、驚きとも呆れともどちらにも取れる感嘆の声を発した。
「麗香さん、ちょっと見ないうちにまー可愛く……」
 とりあえず一撫でしてみようかと、無造作に手を出す涼。しかし涼の手が届くよりも先に、猫耳麗香の手が動いた。
「にゃっ!」
 バリッ。あっという間に涼の手の甲に引っ掻き傷が出来上がった。猫耳麗香、ご機嫌麗しくない模様である。
「……ないわね。うん」
 涼は引っ掻き傷をしばし見つめてから、どこからともなく金属バットを取り出した。
「ねー、ここで殴っても正当防衛だと思う人ー!」
 居る訳ないです、ええ。
「わーっ!!! ダメですダメですダメですーっ!!」
 三下が慌てて涼の金属バットを握っている腕にすがりついた。涼の場合は冗談でなく、本気で殴りかねないのだから。
「可愛い猫ちゃんね……少し気が荒そうだけれど」
「……まぁ何だ。猫だよなぁ」
 巳主神冴那のつぶやきを耳にした佐久間啓が、苦笑しながら同意するように言った。そして啓は、涼を必死に押さえている三下の顔と猫耳麗香を交互に見た。
「野良猫だよなぁ」
 1人うんうんと頷く啓。バリッと引っ掻く気性の荒さは、確かに野良猫っぽいかもしれない。
「で、そいつは錦蛇……だよなぁ?」
 冴那をちらっと見て啓が尋ねた。冴那の身体には、まるでじゃれるかのように白い錦蛇が巻き付いていたのだ。
「藤乃というの。……ほら、ご挨拶なさい」
 白い錦蛇――藤乃に挨拶を促す冴那。藤乃が啓にぺこんと頭を下げたような気がした。
「何にせよテレビの漫画みたいに……お魚をくわえて走って行ったりする訳ではないのなら……別によいのではないかしら? 可愛いわ」
「そーすっと、裸足で誰か追いかけねーとなぁ」
 冴那の言葉に相槌を入れながら、啓はちらりと三下を見た。
「見てないで何とかしてくださいーっ!!」
 その瞬間、三下が啓に向かって助けを求めた。が、啓は首から下げたカメラを抱えてみせて、ニヤッと笑ってこう言った。
「俺は記録者で傍観者なんだよ」
 ちなみに啓は某スポーツ新聞の記者である。いやはや、とても説得力のある言葉だ。
「そんなーっ!!」
 悲鳴を上げる三下。しょうがなく、何人か他の編集部員が三下の手伝いに向かった。
 そんな光景を少し離れた場所で見ながら、真名神慶悟がふうと溜息を吐いた。
「三下ならともかく……碇女史では目も当てられん……」
 そして小さく頭を振る慶悟。確かに三下がこうなったならまだ影響は少ないが、編集長である麗香だとその影響は結構大きい。はっきり言って、今日の編集部の業務は半分ストップ状態だ。
「編集長自らネタ作り……だとしたら猫の耳は痛々し過ぎる」
「いくら何でもそれはないと思うけど」
 遠い目をしかけた慶悟に、シュライン・エマが突っ込みを入れた。
「でも、この間の休暇の後で猫のようにくたってたのは耳にしたけど、まさか本当に猫になっちゃうなんて……変な気分だわ」
 普段の麗香と今の猫耳麗香、そのギャップはあまりにも大きかった。普段であればこの時間、バリバリと仕事をこなしているはず。しかし今はまさに猫そのものであった。
「それにしても……」
 ぼそっとつぶやいて、シュラインは猫耳麗香の猫耳をじっと見つめた。
(……気持ちよさそうな毛並み……)
 シュラインさん。何だか手がうずうずしてますが……気のせいですか?
「そういや、話通じんのか?」
 もっともな疑問を出したのは、袋に入れた猫グッズを持参していた小柄な青年、雪森雛太であった。
 話が通じるのなら、まだ多少はどうにかなるかもしれない。さっそくシュラインが声をかけてみた。
「麗香さーん」
 ピクッと猫耳が反応し、シュラインたちの方に顔を向ける猫耳麗香。
「いったい何があったの?」
 だが、次の瞬間には猫耳麗香はそっぽを向いたのであった。
「ちょっとちょっと、こっちを向いて……」
 全くの無反応。あくびまでする始末である。
「……反応すんのは名前だけみてーだな」
 頭をボリボリと掻き、雛太が言った。あえて前向きに捉えるなら、名前にだけでも反応するのはましなのかもしれない。
「ありゃー。本当に猫になっちゃったのかねえ」
 その時、女性の軽い驚きの声が編集部に響き渡った。今し方やってきた藤井葛である。三下から連絡があった時は半信半疑だったが、こうして実際に自分の目で見てみるとやはり驚きであった。
 そして、葛の後ろにはもう1人の姿があった――やはり三下から連絡を受けた田中裕介だ。
「ちょっと失礼」
 ずいと葛の前に出て、つかつかと猫耳麗香の方へ歩み寄ってゆく裕介。やがてすぐそばにやってくると、おもむろに猫耳に触れた。
「……本物だ……」
 真面目な表情でぼそりつぶやく裕介。猫耳麗香の体温が、裕介の手にしっかと伝わっていた。
「にゃっ!」
 急に猫耳に触られたのが嫌だったのか、猫耳麗香が右手をさっと振った。だが裕介はすんでの所でそれを避けた。
「猫だねえ」
 葛もすぐそばまでやってきて、しげしげと猫耳麗香を見つめながら言った。
「……ここに猫缶があるんだけど、反応するかな?」
 と言って、ビニール袋の中から猫缶を取り出そうとする葛。その際にガサガサと音がした。
「にゃっ?」
 ピクンと猫耳麗香が反応した。それに気付いた葛は取り出した猫缶を裕介に手渡し、ビニール袋だけをガサガサと音を立ててみた。
「にゃにゃん?」
 やはり反応する猫耳麗香。しかも、ちょっと嬉しそうである。
「あー、中身まで猫になっちゃったみたいだね」
 うんうんと頷きながら言う葛。曰く、何でも実家で猫を飼っていたことがあるそうで、その猫がビニール袋など音のする物に反応していたのだそうだ。
「……猫缶食べるかな」
「編集長をますますまっしぐらにさせてどうするんですかーっ!!」
 ようやく涼を押さえることに成功し戻ってきた三下が、叫びながら葛に突っ込みを入れた。
「あら……最近の猫缶……人間が食べても大丈夫みたいよ……?」
 いや、冴那さん。そーゆーことではなくってですね。
「あーもうっ、邪魔邪魔邪魔ーっ!」
 そのうちに、まだ編集部員たちに押さえられていた涼が、何とか全員蹴散らして戻ってきた。
「ってか、何でいきなり猫になってんのよ!」
 戻ってきてすぐ、びしっと猫耳麗香を指差す涼。至極真っ当な意見である。
「しかもほら、よくあるみたいな耳と尻尾と肉球とだけつけてて、語尾に『にゃん☆』とか『ふみ♪』とかつけて話すよーな、特殊な趣味の人が愛するパチもん化け猫とは訳が違うじゃないっ! 中身まで野生化してんじゃないのっ!!」
 ……どーでもいーですが、涼さん詳しいですな……。
「猫よ、猫っ! ジス・イズ・猫!! カタカナにしちゃ意味が変な方向にベクトル向くからダメよっ!!」
 涼がぶんぶんと手を振りながら、熱弁を振るう。そこへ――ある意味ファイナルウェポンとも呼ぶべき少女がやってきた。
「じゃすとあもーめん!!」
 どこぞの24時間戦えそうなビジネスマンばりに、勢いよく編集部の扉を開いて現れたのは海原みあおであった。
 しかし、みあおの方を向いた者たちは一瞬唖然として言葉を失った。何故ならみあおは、白銀の白猫を模したのであろう全身タイツに身を包んでいたのだから。ちなみに、猫耳はもちろん尻尾もちゃんとある。
「話は聞いたっ! こんなこともあろうかと猫スーツを用意してあるよっ!」
 と言って、嬉々としてみあおが取り出したのはキジ虎模様の全身タイツ。ご丁寧にフェイクファー付きである。いや、その前に何がこんなこともあろうかとなのか、じっくりと聞いてみたい気もするのだが。
「それに碇だけじゃ寂しいだろうから、みあおも猫スーツ着てきたよっ!」
 それは見れば分かりますとも、ええ。一目瞭然じゃないですか。
「ええと……」
 何と言っていいのか分からない三下。そんな三下の方に、みあおが向き直ってこう言った。
「大丈夫、三下のもあるからっ!」
「はいぃぃぃぃぃぃっ!?」
 三下くん。君はやはり不幸の星の下に生まれついたようですね……。
「予備もあるけど、誰か着る?」
 みあおがそう言った瞬間、他の者たちは一斉に視線を外した。生贄は三下1人で十分である。
「……ま、取りあえずスーツのままじゃ何かとあれだから着替えさせましょうか。タイツでもいいわ、もう……」
 諦めにも似た溜息を吐き、シュラインが言った。そして男性陣を全員追い出すと、猫耳麗香の着替えタイムが始まったのだった。
 無論その時間は、そのまま三下の着替えタイムでもあったのだが……。

●戻りますか?【2】
「はい、チーズ!」
 みあおのかけ声の直後、カシャッとカメラのシャッター音が響いた。雛太の持参したマタタビでまどろんだ猫耳麗香――もちろん猫スーツ装着済みだ――を真ん中にして、何故か全員で記念写真を撮っていたのだった。
「んー、とってもいい記念写真になったね!」
 とても満足そうなみあおは、にこにこと満面の笑みを浮かべていた。
「しくしくしく……何でこんな格好を……」
 盛大に涙する三下。改めて言うことでもないが、三下も猫スーツ装着済みである。それも三毛猫スーツ。余談だが、実際の猫の場合は三毛猫のオスは極めて少なかったりする。
「泣いてもタキシードになんねーぞ。諦めろ」
「しくしくしくしくしく……」
 雛太の厳しい突っ込みが三下に飛んでくる。三下の涙の流れる速度が、若干上がったような気がした。
「で、原因はなんだろう? 心当たりはないの?」
 集合写真を撮るまでとは打って変わって、真剣な表情で皆に尋ねるみあお。泣いている三下はさくっと無視だ。
「異常事態に陥っているのは間違いない。……となれば、そうなるに至ったきっかけがあるはずだが。食、因縁、憑依、呪い……さて」
 思案する慶悟。原因となる物事は山ほどあるため簡単には絞れない。
「憑依か呪いか薬品か、碇は実は猫娘だったのか」
 慶悟の言葉を受けて、みあおも原因となる物事を挙げてみた。でも最後のは120%ないと思います、たぶん。
 ひとまず、猫耳麗香に宿っているのがどんな類の気であるのか、慶悟が霊視を行ってみることにした。
「む? これは……」
「どうしたの、真名神くん?」
 慶悟のつぶやきにシュラインが反応した。
「どうやら猫の霊に憑依され、同調しているようだ。しかし悪しき波動はない……」
 慶悟はそう言って首を傾げた。何か腑に落ちないことでもあるのだろうか。
「つまり、どういうこった?」
 啓が慶悟に先を促した。
「よもやとは思うが、女史が霊を受け入れた可能性も……ゼロではない」
「は?」
 涼が素頓狂な声を上げた。
「特殊な趣味の人が愛するパチもん化け猫の霊を?」
 違います。
「……憑依と一口に言っても詳細は様々だ。無理矢理肉体を乗っ取る霊も居れば、何がしかの要因で生じた心の隙を突いてくる霊も居る。あるいはイタコなどのように、自らを霊の器として一時的に肉体を明け渡す者も居るが……少なくとも無理矢理ではないようだ」
 皆に説明をする慶悟。とりあえず、切羽詰まった状態ではないらしい。
「それであの……編集長は時間が経てば元に戻るんでしょうか?」
 おずおずと三下が慶悟に尋ねた。
「さあ、どうだかな。時限式ならさして問題はないが、元に戻らないと俺が仕事にありつけ……んふんっ!! ごほっ、んんっ!! あー……全国の読者が、悲嘆に暮れるだろうからな」
 途中激しく咳払いを挟みながら、慶悟が質問に答えた。何だか本音が一部聞こえたような気もするが、これ以上の追及は辞めておこう。
「ともあれ、憑きもの落としなら陰陽師の領分だが……様子を見るに、それは原因を突き止めてからでも遅くはないだろう」
 と、慶悟はひとまずの結論を出した。霊が自ら離れ成仏してゆくのであれば、それに越したことはないのだから。
「ね、近くにキジ虎猫が居たりした? この周辺や麗香さんの出社経路とかに」
 シュラインが編集部員たちに尋ねた。が、編集部員たちは首を横に振るか傾げるばかり。
「じゃ、猫に関する投稿があったとか、記事を書いたとかは……?」
 やはり反応は同じだった。編集部員たちには心当たりはないらしい。いわゆるひとつの、聞くだけ無駄だったという奴だ。
「……机とか調べてみましょうか」
 大きく溜息を吐くと、呆れ顔でシュラインが言った。それが一番堅実的であろう。

●にゃにゃんがにゃん☆【3】
 さて、麗香の机周辺の調査が始まると同時に、グループは大きく2つに分かれた。調査を行うグループと、猫耳麗香にちょっかいをかけるグループとにだ。
「ああ、何て貴重な機会なの……」
 葛が買ってきたきんつばを空いている手で食べながら、涼はふるふると猫じゃらしを振っていた。言うまでもなく、猫耳麗香にちょっかいをかけるグループである。
「にゃにゃん☆」
 上下左右に揺れる猫じゃらしにじゃれつく猫耳麗香。その表情はとても楽しそうである。
「ほらほら、こっちもあるぜー」
 同じく猫じゃらしを振るう雛太。こちらは左右に振りながら、時折フェイントをかけるかのように上や下に振ったりしていた。というか、猫じゃらしの扱いに慣れてるように見える。
「にゃにゃーん☆」
 猫耳麗香は雛太の猫じゃらしにもじゃれついた。これまた楽し気な表情だ。普段の厳しい表情からは想像出来ない。
 とりあえず確実に言えることは、今もし猫耳麗香が正気に戻ったら、最悪2人してお花畑を見てくることになるかもしれないということか。そうはならなくとも、1発ずつ拳は繰り出されることであろう。
「いい感じ、いい感じ……こうなったら次は餌付けねっ。誰かっ、煮干し持ってきてっ!」
 きっぱりと言い切る涼。危険を顧みない彼女は本気モードだった。
「猫じゃらしで遊んでて大丈夫なんですかっ? あー、どうしよう、どうしよう……」
 涼や雛太の後ろでおろおろとする三下。そんな三下に、またしても雛太が突っ込んだ。
「つーかアンタ、少しは静かにしてろよ。猫はうるせー奴嫌がるんだよ」
 振り返ることなく、冷たく言い放つ雛太。三下としてはそう言われてしまっては黙るより他になかった。
「いやー、ほんと普段のこいつからは考えらんねーなぁ」
 少し離れた場所でカメラを構えた啓はそんなことをつぶやきながら、猫じゃらしにじゃれつく猫耳麗香をフレームに収めていた。フィルム1本使い切らんかの勢いである。
「しかしこー全身タイツだと、んー……何だか2ヶ月前の体験記事思い出すよなぁ」
 ……どういった類の体験記事かはあえて突っ込まないことにしましょうか、ええ。
「うんうん、サイズぴったり☆ さすがお姉様ご推薦☆」
 啓の他にもう1人、パシャパシャと写真を撮っている者が居た――みあおである。こちらは猫耳麗香の近くに寄り、後ろから前から姿をフレームに収めていた。
「おーい、ちょっとそこどいてくれ」
 まあその結果、啓からこういう言葉も出てくる訳だが。
「にゃにゃんっ!?」
 と、突然猫耳麗香が驚いた。猫じゃらしに心奪われているうちに、錦蛇の藤乃が至近距離までにじり寄ってきていたからである。
「にゃにゃーっ! ふにゃーっ!」
 藤乃を恐れ、逃げ出す猫耳麗香。涼と雛太が慌てて猫耳麗香を追いかけた。
「あら……藤乃は嫌われたみたいね……せっかく仲良く出来そうだと思ったのに……」
 その様子を眺めていた冴那がぼそっとつぶやいた。仲良し作戦失敗である。
「違うなあ……」
 一方、調査を行っていたグループ。裕介は読んでいた原稿の束を、ばさっと机の上に戻した。
「ダメ、ないわ」
 天を仰ぎ、シュラインがつぶやいた。
「式神に調べさせたが……周辺に原因となるべく物はないようだ」
 慶悟はそう言って椅子に座った。どうやら3人とも、原因となる物をここでは見付けられなかったようである。
 もう1人、葛も机回りを調べていたのだが……。
「で、何してるの?」
「ああ、せっかくだから……」
 シュラインの言葉に答えた葛の手には、デジタルカメラが握られていた。こっそりと撮っていたらしい。
「……一旦休憩しましょうか」
 編集部内でこれといった物が見付からなかったのだ。となれば、後は出社経路を逆に辿ってみるしかない。編集部員たち曰く、出社した時には猫耳麗香となっていたというのだから。その前に、シュラインは休憩を提案したのだった。
 もっとも休憩といっても、猫耳麗香にちょっかいをかけに行くのだが……休憩か、これは?

●来訪者は真実を持って来る【4】
「んなぁ〜……♪」
 シュラインが猫耳麗香の顎下辺りを撫でると、とても気持ちよさそうな声を発した。
「ほんとに猫よねえ……」
 ほうと息を吐き、つぶやくシュライン。気のせいか、猫耳麗香に癒されてませんか?
「だいぶ懐いてきたっぽいな。どれどれ……爪はどーなってっかな」
 雛太がひょいと猫耳麗香の右手を持った。猫耳麗香は嫌がる素振りを見せなかった。やはり先程からの猫じゃらし攻撃で、雛太たちに懐いてきているのであろう。
「あー、案の定伸びてんな。引っ掻かれちゃたまんねー、先だけカット……ん?」
 眉をひそめ、まじまじと猫耳麗香の右手を見つめる雛太。そして、おもむろに自分の目の前に持ってきた。
「血か? 引っ掻いた時の……違うか、指の根元だからな……」
 何と、猫耳麗香の右手の指の付け根の辺りに、血がこびりついていたのである。
「ひょっとして、来る途中でついたのかしら?」
 シュラインが頭に浮かんだ考えを口にした。
 そうなると、出社途中の麗香にキジ虎猫と血が関係するような出来事が起こったと考えられる。しかし、それはいったいどういう出来事であるのだろう?
「足取りを辿るか」
 そう慶悟が言った時である。編集部の扉が開き、1人の少女と1人の女性が入ってきたのは。
「あのー、すみません。こちらに、碇麗香さんは……」
 女性は開口一番そう尋ねてきた。すると、猫耳麗香がピクンと反応した。
「にゃ?」
 来訪者たちの方を向く猫耳麗香。不意に少女と目が合った。
「……れーか?」
 少女がぼそっとつぶやいた。猫耳麗香のことを呼んだように聞こえた。
「にゃ……にゃあっ! にゃーんっ!!」
 その瞬間、猫耳麗香は一目散に少女の方へ向かって駆け出した。とても嬉し気な表情を見せて。
「うにゃーっ!」
 そして少女をぎゅっと抱き締め、何度となく顔を擦り付ける猫耳麗香。突然の出来事に、少女は嫌がるか悲鳴を上げるかするかと思われたが……どうしたことか、それをすんなりを受け入れていた。しかも、猫耳麗香の猫耳を優しく撫でながら。
「れーかだよね? れーかが最後に会いに来てくれたんだよね?」
「にゃあ……にゃあ……」
 ぺろぺろと少女の顔を舐める猫耳麗香。はて、これはいったいどういう状況なのか?
 一同が呆気に取られていると、女性が麗香の名刺を見せ、経緯の説明を始めた。
 女性は少女の母親だった。母親が話す所によると、少女の飼い猫――キジ虎猫である――が今朝道路の真ん中で車にひき殺されてしまったのだそうだ。
 そして、それをたまたま見ていた出社途中の麗香が、道路に飛び出そうとした少女を制し、代わりに飼い猫の死体を確保してくれたのだという。
 で、名乗らず出社を急ぐ麗香から半ば無理矢理名刺を1枚貰い、こうして親子改めてお礼にやってきたということであった。
「名刺を見て驚きましたわ。まさか、うちの猫の名前と同じでしたもの……」
 母親の最後の言葉を聞いて、さらに唖然とする一同。そらどういうことですか?
「つまりこういうことか……? 猫の死を目の当たりにし哀れみの情を抱いた女史と、名前が一緒であったがゆえに同調してしまったと……」
 分析しながら頭を抱える慶悟。事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。この場合、小説はギャグ小説かもしれないが。
 その間にも、猫耳麗香は少女とじゃれあい続けていた。
「れーか……れーか……ごめんね……助けてあげられなくって……」
「にゃあ……。うにゃあ、にゃあ……」
 少女の言葉に『そんなことない』と首を横に振る猫耳麗香。それを見て、少女が猫耳麗香をぎゅっと、ぎゅうっと抱き締めた。
「……結局、編集長はどうなるんですか?」
 三下が誰とはなしに尋ねた。
「今生の別れを済ませれば、自ずと霊は離れ天へ向かうだろう……」
 慶悟がやれやれといった様子で答えた。
「そうか。残念だな……」
 慶悟の言葉を聞いた裕介が、ぼそっとつぶやいた。やがて訪れる、少女と猫の霊との真の別れを惜しんでいるのだろうか。
「……気が強い女性が猫化すると、結構可愛いと思ったのに」
 おいおいおいおいおいおい。そういうことですかいっ!

●知らぬは麗香ばかりなり【5】
 蛇足になるが、一応後日談を語っておこう。
 猫の霊が離れた麗香は、憑依されている間のことを全く覚えていなかった。後で皆からこういうことがあったと――細部は語られず表面だけを――聞いたのだが、実感はないようだった。もっともそのおかげで、何人かはお花畑を見ずに済んだ訳だが……。
 で、騒動も落ち着いた2週間後。啓がふらりと編集部を訪れた。
「ちょっくら売り込みたい記事があってなぁ」
「……自分所で使わないの? それとも使えないの?」
 じろっと啓を睨み、麗香が質問を投げかけた。
「んー、後者かー。ま、筆名使えば会社にゃバレねぇだろ」
「買うかどうかは内容によるわね。ともかく、見せてもらえる?」
「ほいよ」
 啓は鞄から大きな封筒を取り出すと、麗香に手渡した。さっそく中身を見る麗香。
「あら、写真が結構……」
 そう言って麗香は1枚写真を取り出した。刹那、凍り付く麗香の表情。そこには楽し気に猫じゃらしとじゃれあう猫耳麗香の姿があった。
 この啓の売り込んだ記事に対して、麗香がどのような行動に出たかは……ご想像にお任せする。

【NYAN? 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0381 / 村上・涼(むらかみ・りょう)
                    / 女 / 22 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1098 / 田中・裕介(たなか・ゆうすけ)
              / 男 / 18 / 高校生兼何でも屋 】
【 1312 / 藤井・葛(ふじい・かずら)
                    / 女 / 22 / 学生 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                   / 女 / 6? / 小学生 】
【 1643 / 佐久間・啓(さくま・けい)
              / 男 / 32 / スポーツ新聞記者 】
【 2254 / 雪森・雛太(ゆきもり・ひなた)
                   / 男 / 23 / 大学生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。猫耳麗香なお話をここにお届けいたします。
・時折衝動的にちと暴走気味なお話を出してみたくなることがあるのですが……言うまでもなく、今回のお話はそれですね。なので今回に限っては解決よりも、そこに至るまでのことに力を入れたような気がします。とりあえず、猫耳麗香はいくらでもイラストのネタにしてください。
・雪森雛太さん、初めましてですね。ええと、ある意味爪の先に着目したプレイングはよかったと思います。これがなかったら、指の付け根の血はスルーされていたと思いますので。あと、OMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。