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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


調査コードネーム:シグナルレッド流星群
執筆ライター  :流伊晶土
調査組織名   :界鏡現象〜異界〜
募集予定人数  :1人〜5人


▲▽赤いほうき星▽▲

 流れ星。夜空に描かれる隕石の軌跡。
 赤い流れ星。
 1つ、また1つ。
「きれいね」
 女は、男と握っていた手を離して、両手を掲げた。ここに落ちてきてよ、流れ星、と祈るように。
「何年ぶりだっけ?」
「3400年ぶり。聖徳太子でも見たことない代物だよ」
「3400年間、その彗星はどこにいたの?」
「さあ。この銀河のどこかを巡っていたんだろ。当然だけど、俺たちが生きているうちには、二度と出会えない彗星さ。3400年ぶりに地球へ接近してきた。こんばんわ、お久しぶり、だね。その彗星のカケラが、こうやって地球に降り注ぐわけだ」
「そんな彗星と出会えたなんて……運命かな。ほんと、きれい」
「ああ」
「でも、毒の隕石なのね」
「そうさ。美しいものには毒があるんだ」
 彗星本体の姿は、まだ、男の瞳には映らなかった。

 この夜から1週間、アジア市民には自宅待機勧告が出されていた。
 世界中で、同じような処置が取られていることだろう。
 東京とて、例外ではない。
 政府の見解では、地球に降り注ぎ、摩擦で燃焼しきらずに落下する隕石の数は、推定数十万個。こんな数字は全くあてにならないものだとみんなが知っていたが、次の2つの点には人々が注目した。
 1つ、その隕石には毒性があること。
 1つ、その隕石を発見、回収し、届け出た者に報奨金が出ること。
 だから今夜、彼らのように野外へ飛び出し星を鑑賞する者の他に、即席の隕石ハンターたちがたくさん繰り出してきているはずだった。待機勧告が台無しだった。

「ジキュアプジャーも隕石回収に出動する!」
 三覇手翔子が高らかに宣言した。
 彼女は、正義を愛する集団ジキュアプジャーのスカーレット隊長である。
 ああ、やっぱり、と静かにため息をついたのは、ジキュアプジャーの縁の下の力持ち、助手の八尾道モシモ。
「政府に任せておけばいいんじゃないですか? 軍も警察も出るみたいだし」
「その軍から要請があったの。非公式で」
「ショウコさん……じゃなくて、隊長はどんな人脈を持ってるんですか?」
「ハタチの人脈よ。14才よりは、ちょっと複雑ね」
「年齢の問題ではないと思いますけど……」
「さあ、手の空いてるバイト生に連絡して!明朝、出発するから。この1週間は、猫の手も借りたいほど忙しくなりそうね」


▲▽イギリス、出会い、果たし状▽▲

 イギリス中西部。
 ソルウェー湾に沿うように、ホワイトヘヴンという小さな港町がある。
 男は、潜伏先を点々としていたが、赤い彗星が降る夜、この町にいた。
 町から数キロ、暗い木々に隠れるようにして、高台の上に古い砦があった。
 バイキングの時代に作られたような、誰も寄り付かない廃墟。
 今回指定されたの会談場所。
「赤い流れ星か。地球を汚す者たちを、焼き清めてくれ。隕石よ、堕落の民に鉄槌を下すが良い」
 廃墟の深々とした静寂のなか、夜空の赤い軌跡をながめながら、彼はそうつぶやいた。
 男の名は、アーサー・ガブリエル(あーさー・がぶりえる)という。
 魔術を駆使するテロリストだった。テロ組織「Pillr of Salt」を率いている。 
 人類を「地球に巣食う寄生虫」と定義し、粛清されるべきだという思想を持っていた。
 それぞれの人格に正義があり、欲求がある。アーサー・ガブリエルの正義は、地球の環境を守ることであり、地球を汚染する人間を排除することだった。それは確かに1つの愛だった。たとえ、多くの人類の正義に反するとしても。
「ようこそ。クリスマス・ホンダだ」
 不意にどこからか、声がした。
 アーサーはその気配にずいぶん前から気づいていたのだが、あちらから仕掛けてくるのを待っていたのだ。
 クリスマスと名乗る男の声が若いことに、少し違和感を覚えた。
「アーサー・ガブリエルだ」
「ご足労いただき、感謝している」クリスマスは姿を現さずに話し続ける。
「おまえのことはよく知らない。同じテロリストか? やつの頼みだから来たまでだ」
「その友人には感謝しているよ。ぜひとも、あんたに会いたかったんだ」
「手短に願おう」
「では、単刀直入に」クリスマスの声の場所はたえず移動している。「彗星を呼び寄せたのは、あんたか?」
「違う。もちろん彗星は、自然物だ」
「隕石の落下をコントロールしているのは、あんたか?」
「最初は、地球を守るために防壁を用いようとした。私の力で、隕石など食い止められる。しかし、思い直したのだよ。地球のみならず、宇宙にまで汚染を撒き散らしつつある思い上がった人類には、いい薬になるかもしれない。自然の驚異を前にして、少しは考えを改めるかもしれない。もっとも、根本からほんとうに変わるとは思っていないが」
「あんたは、いったいどうしたいんだ?」
「人類の粛清だ。地球を救うには、それしかないのだよ」
「では、俺の敵だな」
 薄明かりの中、アーサーは不敵に笑みをこぼした。
「おまえこそ、どうしたいのだ……クリスマスとか言ったな」
「俺は、宇宙を支配する」
「ほう。堕落した人間どもを支配して、面白いかね」
「支配できれば、それでいいんだ。支配することが目的さ」
「おまえは私を、支配できないよ。――なんなら、ここで試してみるか?」
 彗星は近づき、流れ星が地球を襲う。
 しかし、それはいっときのことで、過ぎ去ってしまえば、人々はすべて忘れてしまうだろう。
 3400年後、思い出すときには、誰も生きていない。
 地球は覚えているだろう。
 地球が生きたガイアだとしたら、その寿命は果てしなく長い。
「いや、まだ俺には力が足りない」しばらくしてクリスマスが答えた。
「ふむ。自分を客観的に見られるのだな、おまえは」
「いつか再び、あんたの前に現れる。そのときは、支配されることの喜びを教えてあげよう」
「楽しみにしているよ、クリスマス。その自信と命を無くさないように」
「最後に1つ。堕落した人間だって、自然の一部だとは思わないか?」
「私には美学があるのだよ。宇宙の存在と価値を同じくする、絶対的な美学が」
 アーサー・ガブリエルが立ち去るとき、近くに隕石が1つ落ちた。


▲▽十円銅貨に集合▽▲

 三覇手翔子(ミハテ・ショウコ)が経営する駄菓子屋は、屋号を十円銅貨、という。
 店の商品は、年齢によって値段が異なり、年が一桁台の少年少女以外は、10倍の値段でしか購入できない。いつまでも子供の心を持つ人が『十円銅貨』に出入りすることは大歓迎だが、大人の夢の値段は高い、ということだった。
 駄菓子屋には屋上があり、普段は洗濯物が干してある。
 赤い星の降る夜、ここへ10人ほどのバイト戦隊たちが集合しつつあった。
 中藤・美猫(なかふじ・みねこ)もその一人。
 まだ7才でしかない美猫がアルバイトを頑張る理由は、扶養家族である44匹の猫を養うためだった。
 屋上に据えられた丸テーブルの一席に腰をおろし、牛乳を飲みながら、その愛くるしい猫のような瞳をキョロキョロさせ、夜空を見上げていた。何らかの物質による化学反応のせいで、隕石は赤く輝くらしかった。よくわからないが、長時間手を触れてはいけない、毒のある隕石にしては、夜空を彩るその隕石はあまりにも美しかった。
 シグナルレッド流星群と呼ばれるのは、その色にちなんでのようだ。シグナルレッドというのは、信号などに使われる鮮やかな赤色。遠くからでも識別できる色であり、車のテールライトや信号機、航空機、高層ビルの幅認識など広く利用されている。
「えー、諸君」スカーレット翔子がみんなの前に立ち、説明を始める。「今夜はありがとう。静かな夜だね」
 隕石が降るというので、もちろん飛行機など飛んでいない。車の数は少ないし、みんな一応、自宅待機ということになっている。電灯を消して夜空を楽しもうという気運が高まっていて、不夜城といわれた東京の街が、今夜はとても暗い。いや、これこそが、本当の夜だった。人間が本能的に恐れる闇、を排除するため、いままで都市が光で武装してきたのだ。
「で、ショウコ。何か作戦があるの?」
 野球グローブをバシバシ叩きながらそう言ったのは、鍵屋智子(かぎや・さとこ)。バイト戦隊ジキュアプジャー専属の、サイエンティストである。現在、戦隊のパワード・スーツ開発にはげむ14才。
 グローブで隕石をキャッチするつもりだろうか?
「作戦なんかない。自分の能力を生かし、各自がんばって隕石を拾ってくるように。以上」
 なんだよそれー、と声があがる。
 不満が出るのは当然で、政府が隕石を買い取るのだから、別にバイトで働かなくてもいい。自分たちで勝手にこっそりと拾いに行って、あとで政府に売りつければいい。
 眠いのにわざわざ集まるのだから、それなりのメリットがなければいけない。
 それを見透かしたように、翔子が付け加えた。
「隕石は、政府の値の2倍で買い取るよ」
 おぉ、というどよめき。
 バイト歴の長い隊士の中には、話がおいしすぎる、裏に何かあるな、と思った者もいたようだが、中藤美猫のようにイノセントな少女は、倍額と聞いて素直に喜んだ。
 美猫には、実は作戦があるのだ。
 天文学者だった亡き父の友人にデータ解析好きのひとがいて、流星観測データから落下位置を予測してもらっている。その情報をもとに、効率よく探す予定だった。
「しかし、期限がある」と翔子。「星の雨は1週間降り続けるけど、わたしが2倍で買い取るのは3日間だけ。だから、急がなくちゃいけないよ。いまから国外へ取りにいく予定なら、間に合わないね。3日後、十円銅貨必着、当日消印無効、でよろしく」
「あ、そうそう」智子が付け加えてみんなに話す。「隕石は素手で触らないこと。放射線とかそういうんじゃないけど、危険だから。採取用にグローブ用意したから、それを持っていくように」
 なぜ普通の手袋じゃなく野球グローブなのか、という疑問がみんなの心に渦巻く。
 智子がマッドサイエンティストと呼ばれるゆえんなのかもしれない。
「よく来てくれたわね、美猫」
 翔子が、ぼんやりしていた美猫に声をかけてきた。そして、美猫の手を取り、
「ホントに猫の手だ。助かる」
「くすぐったいです、隊長」
「どこへ拾いに行くつもり? なんなら、車で送るわよ。JQ1号で」
「富士山に行ってきます。樹海です」
「へぇ。迷わない?」
「美猫には、動物的直感、がありますから」
「途中まで車で送っていくよ。電車、走ってないだろうし」


▲▽樹海の星▽▲

 流れ星というのは、たえず地球に降り注いでいる。
 昼間だって。
 曇りの日だって。
 ただ、それが見えないだけだった。
 夜だけ。ヨルダケカガヤク。
 太陽が邪魔者。
 しかし太陽がなければ、地球は暗い宇宙の中で、凍りついてしまうだろう。

 中藤美猫の頭上を、木々が生い茂り、まだ夕暮れ前だというのに辺りは暗かった。
 彼女がいる場所は――富士の樹海。
 かつて、あるテロ組織が富士山を狙ってミサイルを使った場所。計画は失敗し、樹海には大きな穴が開いてしまった。
 しかし、その穴も、樹海の生命力の横溢に覆われ、いつしかそれがどこだかわからなくなってしまった。
 美猫の瞳が、薄明かりの中で光る。
 樹海にたくさん隕石が落ちるという解析データを、彼女は入手していた。
 ここでいっぱい拾うんだ。
 そう決めていた。
 美猫は、智子からもらったグローブを手にしていた。肩からはクーラーボックスをさげている。
 20個くらい、集められたらいいかなぁ。
 具体的に、隕石がどんなものなのか、美猫は想像していなかった。
 小さな石の塊、だとぼんやり思っているだけ。
 見分けがつくかどうか、が問題だった。
 間違えて火山の石をたくさん持ち帰ったところで、土産にもならない。
 家にいる猫たちの様子が、ちょっと気になった。

 ドスン。
 大きな音がした。
 美猫が驚いて仰ぎ見ると、木の枝がたくさん折れていた。
 何かが空から落ちてきて、枝をなぎ払い、地面に衝突したのだ。
 うわぁ。
 彼女は素早く、何かが落ちたそのポイントへ移動した。
 宝石!
 それは本当に隕石だろうか、と美猫は思った。
 赤く輝いていた。熱をもち、まるでまだ生きているように。
 大きな飴玉みたい、と彼女は感じ、至近距離でながめる。
 樹海の腐葉土に落ちた隕石は、水蒸気の煙を立ち上らせてた。
 バリッ。ドン。バリバリッ。
 悠長に隕石を観察している余裕がないことに、そのとき美猫は気づいた。
 隕石は、次々とこの辺り一帯へ落下してきているようだった。
 そんな……。
 彼女は初めて、恐怖を感じた。
 熟して落ちた赤いリンゴを拾い集めるような、そういう簡単なことでなかったのを悟った。
 どうしよう……。
 このままだといつか、自分に隕石が当たるかもしれない。
 たぶん、そんな確率は低いんだろうけど、世間には落雷で死亡する人だってかなりいるのだ。
 美猫は、ひとりでこんな遠くまでやってきてしまったことを後悔した。
 家に置いてきた猫たちのことが、すごく心配になった。
 とりあえず美猫は、最初に見つけた1個の隕石だけをグローブでつかみ、近くにあった巨木の、幹の根に開いた穴へ逃げ込んだ。
 巨木の根がつくりだす暗い空間にからだを入れるのはちょっと怖かったけど、我慢した。
 隕石宿りというのだろうか。
 美猫は、そこでじっとしていた。怖かった。
 方々で、何かが地面に落ちる音がした。
 すべてが目に見えるわけではない。
 しかし、音だけ聞こえているほうが、よけいに恐怖心をあおる。
 膝をかかえ、丸くなって、美猫は木の中に隠れていた。
 次第に樹海から光の粒子が消え、闇が支配力を増していった。
 彼女の目はいい。夜目はきく。
 だけれど、ここから脱出するルートを見つけることはできなかった。
 彼女は懐中電灯をつけた。
 そして、もうすっかり冷えてしまった、手のうちにある赤い隕石を見つめた。
 ちょっと前まで、これは宇宙のどこかを彷徨っていたのだ。
 それがいま、彼女のグローブの中に存在することに、美猫は不思議を感じた。
 ずっしりと重い。
 そして、美しい。
 そうだ、これは美猫の宝物にしよう、と彼女は突然思った。
 今回の隕石拾いはもう諦めて、おうちに帰ろう。
 扶養家族である44匹の猫に、これを見せてあげるんだ。
 猫たちの瞳に映るこの隕石の映像さえ、美猫には想像することができた。
 そのほうが、よっぽど楽しい。
 暖かい家の情景を思い描いているうちに、美猫はいつしか眠りに落ちた。
 ジキュアプジャーの通信機が鳴り出すまで、恐怖も感じずに彼女は眠り続けた。


▲▽彼の回想▽▲

 埠頭。夜空。強風。
 アーサー・ガブリエルは思い出す。地球が美しかったときのことを。
 流れ星。未来。夢の泣き顔。
 彼は思い出す。自分の能力に気づき、それを恐れ、そして初めて使った日のことを。
 このままでは、いつか地球は駄目になってしまう。
 それを止められるのは、自分だけだ。
 アーサーは、そのために戦っている。
 誰も知らなくていいし、誰も望まなくていい。
 自分と、それに従う者たちだけで、完遂する。
 ひとつの予感。
 いつか、人のいなくなった、昔のままの地球の大地に、たたずんでいる自分。
 地球に話しかける。
 私は、これで、良かったんだよな。
 使命を果たしたことを悟り、長い眠りにつくだろう。

 アーサーは我に返る。
 夜空に、赤い軌跡。
 流れ星が、次々に大気圏へ突入する。
 彼は濃紺のマントから腕を伸ばし、夜空に片手を捧げる。
 アーサーの魂が、世界中から力を呼び寄せ、オーラをまとわせる。
 想いの分だけ彼は力を得、理想へと一歩近づく。
 忌まわしき星よ、去れ。
 彼の腕からほとばしるエネルギーは、大気の層が隕石を燃やす以上の効果をもたらした。
 放たれたアーサーの意思が、夜空に見えていたすべての流れ星を、一瞬にして溶かしつくした。
 そして、それに続く隕石群から守るバリアを、薄く空の底に敷き詰めた。
「これでいい。私の夜は、私のものだ」
 闇。静寂。潮の匂い。
 彼は思い出す。いつか、今夜のことを。 
 


   <了>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 /色】

 2449/中藤・美猫/女/7/小学生 半妖/辰砂shinsha

 3296/アーサー・ガブリエル/男/44/テロリスト 魔術師/ミッドナイトブルー



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■         ライター通信          ■
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 ライターの流伊晶土です。
 今回は「シグナルレッド流星群」にご参加いただき、ありがとうございました!

 ジキュアプジャーではなく、悪役の方に参加、ということをこちらは全く予想していませんでした。嬉しいです。常識に縛られている自分が恥ずかしかったです。
 基本的にお笑い路線のJQシリーズなんですが、なんとかシリアス路線は出ていましたでしょうか?
 では、またお会いできることを願っています。