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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


思想の壁


------<オープニング>--------------------------------------


「ただいま」
 小さく呟いて後手に扉を閉めた。鍵を閉め靴を脱ぐ。
 玄関の段差を上がったところで、奥にあるリビングから高らかな女性の笑い声が聞こえた。
 またか。
 疲れきった体を更に脱力させ、車田啓三は溜め息をつく。
 昨日までは京都で講習会があると言っていたし、その帰りに友人を連れ込んだのかも知れない。
 啓三はしたり顔で廊下を歩きリビングに続くガラス戸を開けた。
「ただいま」
 軽く言って扉を閉める。汗を掻いた首筋に、エアコンの冷たい風が心地良かった。
「あら。お帰りなさい」
 神埼繭里は笑顔で啓三を振り返り、それから自分の前に向かい「彼氏なの」と啓三を紹介した。
「まだ結婚はしてないんだけど。同棲して三年。もう、何だか所帯じみちゃって、ね?」
 繭里がまた笑顔で啓三を振り返る。
 しかし啓三は何も言い返すことが出来ず、愕然とその場で眉を寄せた。



「見えないんです」
 投げられた言葉の意味が分からず、武彦は小さく首を傾げた。
「はぁ、見えない」
「見えないんです」
 車田啓三と名乗った男は、落ち着いた声でまたそう言う。
「それはまた」
 武彦はそこで思わず口を噤む。この先、何と言えば良いのだろうか。二の句が継げず黙り込んだ武彦の言葉を浚うように、古びたクーラーからブオーと風の抜け出る音がする。
「僕の頭がおかしいと思いますか?」
 探るように顔を覗きこまれ、武彦は「いや、まぁ」と言葉を濁らせた。
 車田啓三は、彼女である神崎繭里が傾倒している宗教団体のメンバーの一人が見えないのだと言った。
 それも、名前も聞いたことがない宗教団体である。良く良く聞いてみるとどうやらその宗教団体は京都に拠点を置いているらしく、東京で生活する武彦が知らなくても当然ということであった。
 しかしその繭里という女性は仲間の誰かから噂を聞きつけ、あれよあれよと言っている間に今や立派な信者なのだと言う。
 宗教なんてものはそもそもどれも怪しいものだという持論を持っているらしい啓三は、彼女の活動を賛成する気はなかったがそこはそれ。彼女にも自由が必要だからと御花教室に通うのを見守るくらいの、軽い気持ちで黙認していたのだと言った。
 しかし一ヶ月ほど前のこと。
 仕事から帰って来た啓三が見たのは、誰もない空間に向かい楽しそうに喋りかけている繭里の姿だった。
 誰も居ない空間に向かい笑い声を上げ、誰も居ない空間に向かいお菓子を差し出し、誰も居ない空間に向かい手を振る。
 啓三は、小さく首を振りながらほっと溜め息をついた。
「分かってるんです。もしかしたら僕がおかしいのかも知れない。けれど見えないんです。僕だけが見えないのか、それとも他の人も見えないのか。繭里に聞いても、何言ってんのって怒られるだけだから」
「んーなるほどねぇ」
 武彦は小首を傾けながら頷く。
「他の会員の方は、その、どうなんですか」
「見えてるみたいです。うちで仲間を集めてお茶会なんかを開いてたりしますから。僕には一人、空席が見えるだけなんです」
「では、貴方の友人などは」
「それは、見せたことはありませんから。分かりません。彼女の恥を晒すようで嫌だし……だからこちらに伺ったんです。普通の興信所では追い返されるのが籍の山で、そもそも僕自身が正気を疑われてしまう状態です。だからどうか……あの宗教団体を調べて貰えませんでしょうか。傾倒している人間に、何を言っても無駄なようで、繭里は聞く耳を持ちません。この先結婚も考えていますから、今のままでは……」
「しかし本拠地は京都でしょう? 調べるといっても……失礼」
 武彦はテーブルの上にある煙草の箱を手に取った。京都で何かを調べるにしても、道案内もない状況では身動きが取れなくなる可能性の方が高い。それなりに顔の利く人間が、一人くらいは居なくては。
 その時、武彦はハッと思い出した。
 草間興信所アルバイト、久坂洋輔の顔である。
 確か昔、京都に居たと言ってはいなかったか。


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001

―1―

 昼間、研究室で聞いたラジオでは台風が接近中だと言っていた。
 顔面と体を叩いていくその風は、酷く強く、なまぬるい。風が吹くたび、街路樹が大きく揺れた。
 程好く頬に温かみがあり、腹の中が妙にざわざわしていた。さきほど飲んだアルコールが体の中で暴れているせいだった。摂取した量はたかがワイン一本だったが、店の中の熱気のためか回りが速い。仕事を終えてからだったので、疲れというのも原因に入る気がする。
 風に追われるようにして市営駐車場までの道を歩きながら、今日、台風は上陸するのだろうかとケーナズ・ルクセンブルクは考えた。
 できれば上陸しないで欲しいと願う。折角の休日に、台風は邪魔以外の何物でもないからだ。
 風は、勢いを増しているのかそれとも衰えていっているのか、比較できる材料がないため判断できなかった。けれど今、体を打っていくその風が強風なのには違いない。路上に置かれたボロイ自転車が、風にあてられがんと倒れた。
 道行く人は、それでも平気な顔をしている。台風情報を、知っているか全く知らないのかのどちらかに思えた。
 手に入れた一週間の休みの過ごし方は、まだ未定だった。会社がセキュリティ強化作業をするために出た休暇だったが、どちらかといえば研究を途中で一時中止させられることへの不満の方が多かった。そもそも何故会社がセキュリティの強化作業なんかを始めたかと言えば、今現在進めている新薬の基礎研究の段階でケーナズがとんでもない物質を発見してしまったからだが、たとえばそれらの情報を盗もうとするスパイなどからは、セキュリティのアップをしたくらいでは守れない。諜報員としても活動するケーナズとしてはそう思う。このまま研究を進めさせて欲しかった。
 ケーナズの発見したとんでもない物質は、素晴らしい物質ともいえた。これが形となれば、様々な方面に様々な影響が出るだろう。悪用すれば、人の行動だってコントロールできてしまう。使い方次第の素晴らしい物質だった。
 それもこれも地道な努力と才能のお陰で発見できたものに違いない。少しの酔いが手伝って、ケーナズはそんなことを思った。
 得意になり足を大きく踏み出すと、足先が何かを蹴り上げた。大きな衝撃音と共に、それがゴロゴロと転がっていく。
 バケツだった。
 風で運ばれて来たのだろう。しかしケーナズは少し、自分が考えたことを嘲笑われた気になった。
 転がっていったバケツを拾い上げ、街路樹の傍に置いた。気休めだったが、転がるまま放っておくよりは良い気がした。バケツを始末してまた歩き出そうとしたとき、ケーナズはいくつものバーや飲み屋が入った雑居ビルのちょっとしたスペースに、一人の少年が蹲っていることに気付いた。
 小柄な少年だった。骨格は間違いなく男のそれだったが、平均よりも一回りほど小さい。彼は膝の間に顔を埋めるようにして、ぐったりとしていた。
 酔っ払いか、と思った。この辺りでは良く見かける光景だった。台風に飛ばされてしまわないことを心の隅っこの方で少しだけ祈ってやって、けれど関わるつもりはないぞと思った。
 心の中でひっそりと思っただけだったので、何かが聞こえたはずはない。
 けれど少年は、まさにケーナズの心の声が聞こえたかのようなタイミングで伏せていた顔をふっと上げた。
 目が、合った。少年が、微笑んだ。
「台風が来るらしいですよ」
 少年は突然そんなことを言った。その口調は意外にもしっかりとしており、酔っ払いではないのかもしれないとも思わせる。ケーナズは体の向きを変え、少年の目の前に立った。
「台風が来るかも知れない夜にこんな場所で何をしているんだ」
 少年は猫を連想させる真っ黒の瞳でケーナズを見上げた。
「人を、見ていたんです」
「人?」小首を傾げる。「顔を伏せていたじゃないか」
 少年はじっとケーナズの顔を凝視していた。その真っ黒な瞳で何を考えているのかまではさっぱり分からなかった。
「けれど僕は運の強い男だ。台風に感謝しなければ」
 彼はそう言って少し笑った。ますますわけが分からなかった。
「名前は?」
「ユウ」
 歌でも歌うように彼は言った。
「お兄さんは。青い瞳が、きれいだね」
 褒められているのだろうが、ちっとも嬉しくない。わけがわからずケーナズはただ、眉を顰める。何かを言おうと口を開き、けれど実際は何も言うことが出来なかった。言うべき言葉が見つからなかったこともあるが、一番の原因はポケットの中で振動し始めた携帯電話のせいだ。
 少年から視線を逸らすと、はっと現実に戻された気になる。
 電話は草間興信所の所長からだった。
 事件、発生。

002

―1―

 そういえば静かになっているな、とシュライン・エマは思った。洗い終えたコップを食器立てに置いて、蛇口を絞る。腕に巻いた時計を見ると午前二時十五分をさしており、こんな時間だったのかと聊かびっくりした。
 ブラインドの下りた窓の向こうから、時折車の行き来する音がする。たまった報告書の作成と、料金計算だけの簡単な作業だったが量が多かったためかいやに時間がかかった。地道な作業ほど疲れてしまうもので、自宅に戻るのが少し、億劫になった。
 所長の草間武彦は、先ほど「ちょっと出かけてくるな」と言い残したまま、まだ帰って来てはいない。正確な時間は覚えていないが、その時にはまだ、奥の部屋にいる四人がぎゃあぎゃあと煩いくらいだったことだけは覚えている。
 キッチン台にかけたタオルで手を拭いた後、シュラインはその隣にある扉のノブにそっと手をかけた。奥には武彦とアルバイトの久坂洋輔の住居スペースがある。
 ベットが二つあり、テレビがある。ビジネスホテルのように殺風景な部屋だった。当初はそこに花を飾ったりと気を配っていたシュラインも、すぐに枯らしてしまう二人に呆れ、もう止めてしまった。
 扉をゆっくり開くと光が二等辺三角形の形に伸びて、ベットへと差し込んだ。右側のベットに洋輔と雪森雛太の二人が、左側のベットにはアイン・ダーウンと壇成限の二人が居た。差し込んだ光は右側のベットを真っ向から捉えていたが、二人はそんなことにも気付かず寝息を立てている。
 まるで子犬か子猫がそこに蹲っているかのような、ほのぼのとした風景だった。四人の男子はそれぞれ、思い思いの形で眠っている。
 彼等がここに集ったのは今朝のことだった。

―2―

 扉の前に人が立っていた。小麦色の肌をした黒髪の男である。彼は小さな小箱を抱え今まさに、草間興信所のドアをノックしようとしているところだった。依頼を持ってきたクライアントかな、と壇成限は思った。そしてその時になって始めて、依頼が立て込んでいる場合もあるのだぞということに気付いた。なんということだろう。うっかり失念していた。
 限は階段のところで体を反転させて、壁に背を預け様子を伺う。
 彼は控えめにドアをノックした。ガラスのはめ込まれたドアが振動し音を立てた。
 中から人の出てくる気配はなかった。
 彼は小首を傾げてもう一度ドアをノックする。するとその音を掻き消すくらいの大きな衝撃音と、「お前、いい加減にしろー!」と叫ぶ、人の金切り声が聞こえた。
 彼がギョッとして後退るのが見えた。限は逆に、足を踏み出していた。その声に聞き覚えがあったからだ。雛太の声だ。間違いない。
 限は早足に階段を昇りきるとそこで眉を寄せている彼の肩をトンと叩き、「中に入らないの」と言った。彼が限の顔を見る。それぞれがしっかりと自己主張しているような彫りの深い目鼻立ちと、真っ黒で大きな瞳が印象的だった。しかしそれらはまだ成長過程という感じで、全体的には幼いという印象を受ける。
 彼は限を見ると表情を一変させ、ニコリと微笑んだ。天使のような笑顔だった。
「草間興信所の方じゃないですよね?」
「違うけど……中に友達が居る、みたいだ。キミはその……依頼を持って来たのかい」
 少年はフルフルと首を振った。黒髪が、顔に遅れるようにしてフワフワと揺れる。
「持って来たには違いないんですけど。主人に頼まれて、紅茶を持って来たんです。依頼ではありませんよ」
「あぁ」限はひとりごちて呟いた。紅茶という言葉に引っかかる人が居る。
「もしかして……会ったことがあるかも知れない」
「主人をご存知ですか」
「僕の名前は壇成限だ。以前、一緒に依頼解決を手伝ったと思うんだ」
「そうでしたか。お世話になりました。俺の名前はアイン・ダーウンといいます」
 アインは微笑んだまま、小さく頭を下げた。主人に負けず劣らず柔らかい雰囲気の人だ、と思った。しかし何だろう。少しだけ、違和感がある気がする。
 本物の花の中にある、造花に気付くような。そんな違和感だ。
「紅茶を届けに来たなら、中に入らないと」
 限はドアを指差した。
「でも……取り込み中、みたいですよ」
 伺うようにアインが言う。
 雛太の大絶叫を聞くのはそれほど珍しいことではないが、免疫のない人間が聞いたら驚くのは間違いない。何にしても人の金切り声はビックリするものだ。限だって雛太の可愛らしい顔から荒い言葉がポンポン飛び出してくる様を見る度いつも、人は見かけによらないなどということを、冷静に考えてしまう。
「大丈夫だよ。入ろう」
 限はドアノブに手をかけた。
「あの」
「なに?」
「壇成さんは、依頼を持ってこられたんですか」
「あぁ。依頼というわけじゃないんだ。協力要請ってところかな」
「協力要請、ですか」
「そう。一人では何も出来ないくせに果敢に立ち向かっていく迷惑な同居人が居るんだ」
 後手に扉を開けながらそう言うと、アインは「はぁ」と曖昧に頷いた。
 限と同居している、親戚の登江機絵が置手紙だけを残し京都へと一人旅立ったのは、昨日の夜のことだった。アルバイトから帰って来た限はテーブルの上にポツンと置かれた手紙を読み、フーンと思った。機絵は臆病者の代表みたいな人間で、こと対人関係に関しては特に一人では全く機能しない。それでもそんな自分を変えようと、一所懸命努力する。それで、一人旅なのだそうだ。
 無謀なことを思いつくその電波っぷりに、放っておいてやろうかとも一瞬思ったが、結局彼女を追っていこうという結論に達した。限は案外、そういう人間は嫌いじゃないのだ。「自分は何も出来ないんだ」と甘えることを覚えてしまった人間よりかはいくらかましだろうと思う。それについ先日、とあることで店長に迷惑をかけられたから、夏休みという名の大型連休を勝ち取っておりアルバイトのことは心配ない。
 だから今日、草間興信所を訪れた。あとは、依頼が立て込んでいないことを祈るだけだ。
「あ」
 アインの小さな声が聞こえる。「え」と小さく呟いてアインの顔を見た。指を差された方、つまり前方に視線をやると、見慣れた草間興信所の景色ではなく、目の前に分厚い本が迫っていた。

―3―

 雛太が「京都に行かない」とグズる洋輔を怒鳴りつけ、蹴り上げ物を投げ大騒ぎしたのは今朝のことだ。
 当初は寝不足の真っ赤な目をして、隣でキャンキャン喚かれたら堪らない。という程度の表情だった雛太は、「だったら放っておこうよ、姉御ぉ」と、掠れた声で呟いているだけだった。シュラインとしても一度言って「嫌だもん」という洋輔を、わざわざ連れて行くこともあるまいと、他の関西に詳しい学者やライターなどに連絡を取ろうと頭の中でファイルを捲った。更に、シュラインには考えがあった。何も京都へと行かずとも、依頼を解決する方法があるのではないか、という。しかし、洋輔は何が気にいらないのか「行かないからなー」と誰も何も言っていないのにグズり出した。
 まるで赤ん坊ならぬ、赤ん暴だった。
 オールで遊んできたらしい雛太と洋輔は極度の寝不足からか精神不安定状態にあったのだと思う。更に二人は同じ場所で不機嫌が点火するという似通った部分もあったのかも知れない。ここに限でも居ればしおしおと沈下しただろう二人は、誰も止める人が居なくなった今、思いっきり炎を燃え上がらせた。
「うるせーーんだよ、お前ぇは!」と雛太は言い出し「誰もお前なんか連れてくって言ってねーじゃん。ハ? 何? それは何の自己主張? 意味わかんねーんだよ。オラ!」と洋輔の顔を引っ張り、キーーーーーっと自分のヒステリックを押し付けた。洋輔も洋輔でそれにキーーーーとテンションを上げ、二人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 もうじゃれあってるとしか見えないくらい、二人は蹴ったり殴ったり、物を投げたりとせわしなかった。「あほー」とか「ばかー」とか、「デベソ!」とか「ハゲ!」とか「ハゲてねーよ!」とか、ありえない暴言も飛び回っていた。
 あれは間違いなく、寝不足が招いた悲劇だったと思う。人はやはり眠らなくてはならないのだ、とシュラインは改めて知った気がした。
 一向に二人は疲れる素振りもなく事務所内を暴れまわった。
 テンションが上がる一方の二人を見て、これはいよいよ止めた方が良いかも知れないぞ。と思った時、入り口から限とアインが入って来た。限は二人のどちらかが投げた分厚い本を顔面で受け止め、「痛」と呟いて額を押さえた。
 相変わらず薄いリアクションだった。
 そうして意外にも腕力が強いアインと、クールな限の二人に取り押さえられ、二人はやっとこさ沈下したのだった。
 それでも今、四人は何事もなかったかのように眠りこけている。その寝顔を見て、若いっていいなぁ。としみじみ思った。
 明日は朝から、宗教がらみの依頼調査に向かう予定である。シュラインはまた明日ね。と心の中で呟いて、そういえばもう今日だ。と思いなおした。
 やはり自宅に戻るのは面倒だ。応接ソファの寝心地は余り良くないが、家に帰ることを思えばこっちの方がまだいい。
 シュラインは応接ソファの上にゆっくりと転がった。天井を見上げながら所長の顔を思い出す。
 それにしても、武彦は何処に行ったのだろうか。と。

―4―

 店内に流れるジャズ音楽が有線だと知ったのはけっこう前だ。それを聞いた時、三十代だと嘘をつき続けるママが一人で経営している錆びたバーには、嫌味ではなくお似合いだ、と思ったものだ。何のこだわりもない。この店にはそういうのが、良く似合う。
 扉を開けると今時珍しくカウベルのカランという音が鳴った。「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる声はない。いつもそうだ。訪れる殆んどが馴染みの顔ばかりで、時にままはソファに寝そべっている時だってある。
 薄暗い店内に足を入れた青島萩は、そこだけ黄色くスポットライトがあたるカウンターでグラスを傾ける武彦の後ろ姿を見つけた。なんだ、来てたのか。と思った。萩が気紛れにこの店を訪れる時、武彦は大体そこに居る気がする。以心伝心でもしているのか、それとも武彦が頻繁に訪れているのか。
 萩は無言で武彦の隣に腰掛けた。
「よぉ」
 武彦が小さく言う。萩はカンウターで欠伸をしていたママに「いつもの」と言ってから「よ」と武彦に返事を返した。
「どうだ、最近」
「ボチボチだな。そう言うお前の方はどうなんだ」
 武彦の前に置いてあったピーナッツを勝手に摘む。
「そうだなぁ」それをポイと投げて、口の中に放り込んでから「コンビニ強盗を捕まえた、な」
 ニヤリと笑ってやった。
「ほう。そりゃすごいな」
 武彦の白々しい感嘆に萩は苦笑する。
 コンビニ強盗などを捕まえたのは、久しぶりだった。萩の所属する警察署は、管轄区域も規模も小さい所轄所だ。刑事課の仕事内容も、そこでは激務というほどではない。殺人事件などは滅多に起こらず、やっと大きなヤマが来たかと思えば本庁に浚われる。どちらかといえば防犯や少年課の方が世話しなく働いているというのが現状だった。
「まぁ。たまにはなぁ。こういうのもないとさ。でもどっちかっていうと書類を作成してる時間の方が長かったしよ。同類なんて、パソコン開いて何をやってるかと思えば、ゲームだぜ。パソコンゲーム」
 差し出されたグラスを傾け、くっと煽った。
「お前は頑張っているんだろ。現行犯逮捕なんて中々できない」
「小さい話だよ。でかいヤマは全部、ホンブ様が持ってっちゃうからよ。毎日定時だと、なんか嬉しいような悲しいようなってやつよ」
「毎日定時で安定してるなら、それほど嬉しいことはないぞ」
「サラリーマンなんかになりたかったんじゃねぇやぃ」
 萩は抜き出した煙草をカウンターでトントンと打った。
「警察って言葉の意味知ってっか、お前? 警は、社会に犯罪や事故が起きないよう警戒することって意味で、察は犯罪や事故が起こるのを防ぐためにそれをあらかじめ知ることって意味なんだぜ。なんかさ。そんなんであの同僚を見てたら俺、刑事になってからもっと刑事から離れてる気ぃするわ」
「まぁまぁそう悲観するな。そんなお前にとっておきの依頼がある」
「とっておき?」
「見えない人間を調査する依頼だ」
「見えない? これ関係か?」
 萩は煙草を加えたまま、両手をだらりと前に突き出す。これ。つまり、幽霊。
「わからん」
 武彦は萩に火を差し出して素っ気無い返事をした。
「宗教がらみでな。しかも、京都だ」
「京都? 大阪なら行ったことあるけどな」
「まぁ、同じ関西圏だ。俺には関西なんて予想もつかん。右も左もどころか、何もわからんよ」
「なるほどなぁ」
 煙草の煙を吐き出しながら、お代わりを注文する。武彦が喋るままに依頼の内容を聞いた。
「守秘義務はどこに行った」
 話を聞き終わったところで萩はまず、それを言ってやった。
「お互い様だろ。コンビニ強盗」
「その言い方だと俺がコンビニ強盗みたいだ」
「そういう捉え方もある」
「ないない。しかも京都だろ? 管轄外も管轄外だ。むしろ管轄外も甚だしいくらいだ」
「そうだな」
 萩はふーっと長い息を吐いた。煙が空へ昇っていく。
「だから。この話はお前の一親友として聞いた」
 武彦は少し笑った。
「それはありがたい。休暇申請が受け入れられたら顔を出してくれ」
「京都かぁ。一日くらいで帰ってこれるかなぁ」
 煙を目で追いながら空を煽る。そういえば今日捕まえたコンビニ強盗も、栗の神様がなんだと言っていたことを思い出した。その男はとにかくわけのわからないことを喋る奴で、木は森の中に隠せだとか、そういう言葉を連呼していたような気がする。
「宗教か」男の常軌を逸した顔を思い出し、空恐ろしくなる。「信じる者は盲目だ、ってな」
「あぁ……怖いのは。信じる人にとって慕う人物の言葉が無限大だということなんだ。普通は誰にだって葛藤がある。突っ走っていいときと悪い時を見極める力がある。その判断すらない。それが、怖い」
「確かにそうだ」
 萩は頷いて、またバーボンの入ったグラスを煽った。

003

―1―

 背筋に悪寒が走って、シュラインは思わず小さく身震いをした。この部屋のエアコンが効きすぎのせいもあったが、それだけではなかった。目の前で繰り広げられている光景への、本能的な嫌悪感があった。
 神崎繭里は本当に、誰も居ないスペースに向かい笑ったり何かを問いかけたりしていた。
 話で聞いた時にはそれほど何も思わなかったが、目の当たりにすると妙な迫力がある。
「それでね。やっぱり、女性の幸せを勝ち取るためにね。私達はこの活動に参加すべきだと思ったのよね」
 繭里が同意を求めるように、空間を煽る。そこには見えない人。つまり加藤茜がいるという設定だった。小さく何度か頷いてから、顔を綻ばせ「私もそう思うのよ」と言った。もう一人居た教団員も「私もそう思うわ」と頷いている。
 二人の同意。二人は今、加藤茜のどんな言葉を想像しているのだろう。
 もしかしたら本当に、自分だけ見えていないのではないだろうか。そんな事すら考えてしまいそうになるくらい、二人のやり方は徹底していた。
 しかし隣を見ると雛太も、奇妙な物を見るような微妙な表情を浮かべている。私一人ではない。少しだけ自信が沸いた気がした。
 繭里達が所属している宗教団体のことを詳しく知りたい人がいる。啓三にそう嘘をついてもらい、お茶会に忍び込んでから二時間ばかりが過ぎていた。
 薄気味悪さはどんどん膨らむが、もちろんちゃんと情報収集もやっている。宗教団体の名称は女神ノ会。見せて貰った教典には「人間は全て女性から生まれてくる」とか何とか「女性をもっと敬おう」などということが執拗に書かれており、とにかく女性をターゲットとした宗教法人であることが伺える。胡散臭さはこの上ない。どうしてこんな物にはまるのだろうかと何度も聞きたくなり、すんでのところで飲み込んだ。
 それから今まで、その宗教団体がいかに素晴らしいか。などという話をとうとうと聞かされた。教祖という人のカリスマ性についてもしつこく聞かされた。どんなにスマートで、どんなにカッコ良い生き方をしており、その口からどんなに素晴らしい教えが飛び出すのか、などなど。
「あ。あの。加藤、さん?」
 シュラインは恐る恐る誰も居ない空間に向かって話しかけた。やはり何も聞こえてはこない。五人の前に置かれたお茶を見る。加藤のお茶は少しも減ってはいない。やはり彼女は存在しない。自分にそう、言い聞かす。
「その、胸につけてらっしゃるブローチ、ステキですね」
 そろそろ本来の、いない人を居るというその根拠を崩してやろう作戦を実行しようと思い、そんなカマをかけてやった。
 外見が統一していなければ、彼女らは焦るに違いない。そう、思った。そもそも見えない人物を自分で作り上げているとしたら、外見は一致しない。
 しかし繭里達はハ? と訝しげに眉を寄せた。
「何を言ってるの。加藤さん、ブローチなんかつけていないじゃない」堂々と声に出す。
「そうそう。そもそも加藤さん。そういう風に着飾るの嫌いですものね」そうして二人は誰も居ない空間に向かい、楽しそうに笑い声を上げる。それから繭里がゆっくりとシュラインを見た。
「シュラインさん。目が見えてらっしゃらないのかしら」
 まるで小馬鹿にしたように言う。カチンと来た。見えないものを見えると言っているのは、そっちの方じゃないか。と思った。
「ゴメンなさいね。何だか最近、調子がおかしくて」
 引き攣った笑みで言った。隣で雛太がチラリと視線を投げてくるのが分かった。
「疲れてらっしゃるんだわ。断固とした信じられるものがないと、こんな汚い世の中じゃあ参ってしまいますもの」
「えぇ。そうね……でも、さきほどからお茶が減ってらっしゃらないみたいですけど。加藤さんも何処か具合が悪いんですか。暑いのに、飲んでらっしゃらない」
「え」
 繭里がまた面食らったように声を上げる。こればかりはどう言い訳しようとお茶は明らかに減ってはいない。してやったり、と思った。
 しかし繭里は当然と言わんばかりに「飲んでらっしゃるじゃない。もう、ないわよ」と言った。
 隣の団員も頷く。シュラインは「じゃあ。これは何なのかしら」とグラスを繭里の目の前に掲げてやる。
「グラスよ。どうされたの、シュラインさん」
「中に入っている液体よ」
 繭里は眉を潜める。
「何を言ってらっしゃるの。何も入っていないじゃない」
「あ。そう」
 少々荒っぽい気もしたが、そのグラスを傾け中のお茶をテーブルの上にまいてやった。すると隣の団員が、あっと言って自分のグラスをわざとらしく倒した。シュラインが零した加藤のお茶はその女性の物と混ざり合う。
 やられた、と思った。
 テーブルの上をおしぼりでふき取りながら、繭里は余裕のある声で言う。
「啓三に何か言われたんですね」
「どういう意味かしら」
「おかしいと思ったのよねぇ」
 繭里はふうと溜め息をついて、シュラインの顔を見上げた。
「あの人が私達のこと、理解するはずないもの。ついこの間まで、加藤さんを居ないとか失礼なこと言ってたくせに、突然、話を聞きたい人を連れてくるだなんて」ふっと小さく笑う。「ねぇ。シュラインさん。あの人。おかしいのよ。加藤さんが居るのに居ないって。そんなことを言うの。貴方はそれを聞いてやって来たんでしょう。本当は見えているのに、嘘をついてる。加藤さんはいらっしゃるのよ」
「居ないわ。そんな女性」
 シュラインも余裕のある声で言い返した。ソファに腰掛ける繭里をじっと見下ろす。
「私には見えない。見えるわけがない。存在しないんだもの」
「居ない。という証拠を……私達が信じられる証拠を見せてくれたら、信じるわ」
「だから見せてるじゃない」
 シュラインは笑顔を浮かべた。
「お茶を零してやろうとしたら、アンタはそれを阻止した。その気持ちこそが何より加藤という人物が居ないという証拠よ」
「阻止? とんでもないことを仰るわ。どう阻止したのかしら。入っていないグラスのお茶が零れるのを、どうやったら阻止できるの。教えて頂きたいくらいだわ」
「わざとそのグラスを倒したじゃない」
「わざとじゃないわ。誤って、よ」
「ちょ。ちょっと姉御」
 雛太がオロオロとシュラインの腕を掴む。
 もちろん、シュラインは依頼でここに来ているのだけれど、繭里は宗教団体を守りたいと思っているのだろうけれど、それ以上に二人は今、穏やかな緊張感の中で対峙している。この今の気持ちは、女性にしか分からないものかも知れない。下らない会話の勝ち負けに拘っても後で意味のない疲労感が残るだけだ。分かってはいても、簡単には引き下がれない。それは女のプライドとも言えるかも知れなかった。
「加藤さんは、いるのよ」
 赤子に言い聞かすようにゆっくりと言葉を区切りながら、繭里は勝ち誇ったようにそう言った。
 信じ込まされているのではない。信じ込んでいるのだ。守っているのだ。宗教団体と、何よりもそこに所属する自分の居場所を。
 信じる人にとって慕う人物の言葉が無限大であると言った武彦。
「そう。分かったわ」
 シュラインは笑顔を浮かべた。
「じゃあ。その加藤さんって人のこと詳しく教えて下さるかしら。調べたいの」
「何を言うの。加藤さんに聞けばいいじゃない……本当、失礼な人ね」繭里が笑う。
 その瞬間、絶対にこの女をそこから引き摺り出してやる。そう、思った。

―2―

 炎天下の中、アイスの移動販売をしている車の傍のベンチに腰掛け、シュラインはソフトクリームをがつがつと食べている。その怒涛の食べっぷりに雛太は、彼女の新たな一面を見た気がしていた。
 神崎繭里との話を終え興信所へと帰る途中に、シュラインがアイスの移動販売を見つけた。彼女は何を思うのか、食べよう! と勢い良くいって雛太を放りアイスを買いに行った。今それを食べている横顔は笑顔だったが、おいしい! という笑顔には見えなかった。
 ニコニコとアイスを頬張るその顔が、余計怖い。
 その横顔を盗み見ながら、紙コップに入ったコーヒーの、ストローを加えちゅるっと吸い上げた。手持ち無沙汰になると、そんな行動を繰り返している。
 こういう時は黙っていれば良いのか、話した方が良いのか良くわからない。
 とにかく組んだ足をブラブラさせて暇を持て余した。目の前を、カップルが通り過ぎて行く。二人は何が楽しいのか満面の笑みだった。
 高校生の頃、付き合って欲しいとある女性に告白されて、とりたて断る理由もないからとデートというものをしたことがある。別に彼女を好きだったわけじゃない。嫌いでもない。どうでも良かったのだろうと思う。
 彼女はデート中、雛太のことを良く褒めた。
「かっこいい」「頭がいい」「サッカーをしている姿がステキだった」「眠そうな目もステキ」「一緒に歩いていると、私も鼻が高い」
 全て、外見に関することじゃないかと思った。
 女子の憧れの的だと彼女は言ったが、そんなこと別段嬉しくもなんともなかった。雛太はただ「あぁ」「そう」「へぇ」「ふーん」といい加減な返事ばかり返していたと思う。流れで迎えた展開の中、触れた彼女の体は柔らかかったが感動もなかった。
 なんだか全てが無意味に思えた。
 例えば自分が、かっこよくなくて。例えば自分が頭も良くなくて。例えば自分がスポーツも出来なくて、例えば自分が溌剌としていて。
 そしたら彼女は、自分を愛したのだろうか。
 自慢される為の道具にされたようで、虚しかった。
「あーあ。おいしかった!」
 シュラインが溌剌とした声を上げた。
 雛太は苦笑して、「めちゃくちゃすごい勢いで食ってたけど」と言った。
 その口元に、アイスがついているのを発見する。
「あ。アイスついてんよ。姉御」
「うそ」シュラインが口元を拭う。その場所がてんで的外れで、雛太はまた苦笑した。
「場所違う」
「じゃあ。とって」
 シュラインが無防備に顔を突き出す。雛太は指を伸ばし、アイスを拭った。
 唇に指先がふれ、ドキンと鼓動が高鳴る。えー。と思ったら、なんだか急に耳に血が昇っていく感覚がした。
「私、武彦さん以外の男性には優しくして貰わないことにしているの」
 いつだったか聞いた、シュラインの言葉を思い出した。彼女は恥かしげもなくそういう言葉を平気で口にする。武彦は武彦で、それを聞いても平然としている。大人でドライなのだろうな、と思う。そこには、愛がある気がする。
 そう思うと、これが優しさになるのかはわからないが無防備な姿がなんだか少しだけ癪に障った。
 自分だって、男なのだ。
 シュラインは「ありがと」と軽く言って立ち上がる。
「あー。スッキリした」
「やっぱ。ムカついてたんだ」
 シュイランが切れ長の瞳で雛太を見下ろす。「彼女に認めさせるわ。加藤茜は居ないってことを」ハスキーな声が力強く言った。
「それに、そもそもおかしいわよ。私、ずっと思ってたのよね。依頼書、ちゃんと見た? 啓三は、彼女の繭里が宗教活動にいそしむのを、御花教室に通うのを黙認するくらいの気持ちで見守っていたのよ。おかしいわ。宗教よ? 宗教。普通止めるわよ。彼女のあの余裕っぷりと啓三の言葉。裏には何かあるわ」シュラインがうんうんと自画自賛する。
 そうだった。
 自分は今、依頼で来ていた。
 忘れてしまいそうだった自分に少し、苦笑した。

―3―

「なぁ。あのさ。昨日さ。あんま覚えてないんだけど、俺のこと、殴った?」
 洋輔は自分の顔をさすりながら、アインに問うた。別に殴られていても良かったのだが、暇だったのでふと口に出してみたのである。
「まさか」
 アインが笑顔を浮かべる。
「だ、よね」
 やっぱりね、と返事を返した。
 朝見ると、目の下には真っ青な痣が出来ていた。押し込むと鈍い痛みが走った。昨日、暴れまわった時に出来た傷である。実はその間の記憶は余りない。止められて落ち着いたら、雛太と二人して一体何にあんなにムカついていたのだろうか、と分からなくなっていた。
 それからやっぱり寝不足はイカンな。という結論で落ち着いた。
「でも。がっと俺の体を押さえつけてたじゃん。案外強いなぁ、とか思って。何か、やってたの? 空手とか?」
「何もやっていませんよ」
「そなーんだ」
「過去にちょっといろいろあったから。戦闘とかになると俺、自分でも記憶とか飛んでる時あるんです」
 アインは笑顔でそう言った。思わず口から口笛が漏れる。「カッケーじゃん? トレビジョン」アインの肩をポンと叩いた。そのままぐいっと引き寄せる。
「京都さ。行かないの」
 アインに問いかけると「そうですねぇ」という曖昧な返事が返って来た。
 僕は主人に頼まれ届けものをしに来ただけですから、と続けそうな勢いだった。
 それもそのはず。そもそも彼は、本来ならばとっくに帰っているはずだから。
 タイミング悪く争いに巻き込まれたせいで、結局今まで居ることになってしまっただけで。
 アインはとにかく良い奴らしく、自分達を止めた後の散乱した興信所の後片付けも手伝っていた。シュラインはそんなアインに晩御飯を食べて行けばいいじゃないと言っていた。洋輔もそれには賛成だった。けれどアインはそのせいで、今まだここに座っているのである。
 彼は目覚めてシュラインが居ないことを知ると「お礼を言うまで帰れません」とそれはそれは素晴らしいことを言った。
「お前は。いい奴だ!」
 洋輔はアインの肩をギュッと抱きながら、声を荒げた。彼は何も言わずに、ただただ微笑んでいた。
「ところでなんで洋輔はさ。京都に行きたくないわけ」
 限が雑誌のページを繰りながら、どうでも良さそうに言った。
「お前もいい奴だなぁ! 本当に! 俺は恵まれている!」
 限にペトペトと近寄ると、それはそれは嫌そうな顔をされた。「いや? いやなの?」
「嫌」
 一言でいなされたので、ウウンと小さく咳払いして取り繕った。
「京都なぁ。いやさ、それがさ。俺京都に」
 その時草間興信所のドアが勢い良く開いたので、言葉の先は飲み込んでしまった。見るとシュラインと雛太の二人が立っている。調査から帰って来たようだが様子がおかしい。雛太がシュラインを指差して、首を振っている。
 シュラインは靴の踵をカツカツ鳴らしながら足早に興信所の中に入り込み、デスクで昼寝をこいていた武彦の前にばんと立った。

―4―

「その話を聞くと偽薬を思い出す。プラセボ効果、だ」
 腹の上を汗が滑って行く感触がした。
「なるほど。なかなか上手いこと言うな」
 武彦が頷いた。「だろう」得意げに頷いたら、瞳の上に汗が滴り落ちて来た。顔中を掌でつるりと撫でながら、大きなため息をつく。ケーナズは膝に手を戻して背筋をぐっと伸ばした。入る前キンキンに冷えていたタオルはすっかり温かくなっている。
 スポーツジムのサウナである。依頼の話もあるし一杯やらんか、と武彦が言うもので、スポーツジムに来いと言ってやった。今日は五時間、ジムで過ごすと決めていたのだ。予定を狂わされるのは好きじゃない。
 武彦は青島萩という青年と共にジムへやって来た。
「人間というのは信じると何処までも行く生き物だからな。シュラインが憤慨する気持ちも分かるが、信じている人間に何を言っても届かんよ」
 武彦はシュラインが依頼主の彼女の元へ行って、いっぱい食わされたのだと言った。
「しかしそもそも、なんだ。その宗教か。そんなもんをむやみやたらに信じられるということがそもそも俺には信じられん」
 武彦が腕を組んで、暑さの為なのか、それとも納得がいかないからなのか小さく唸る。「まぁその通りだ」と頷いてやった。
「プラセボってなんだ」
 武彦の隣で萩が言った。彼の顔にもやはり大粒の汗が浮かんでいる。ケーナズはそうだなぁ、と呟いてまた落ちて来た汗を拭った。結んだ髪の間からか、首筋に汗がピトリと落ちる。
「二重盲検比較試験、というのがある。治験の際に、薬の効果がよりわかるようにな、患者に開発中の薬か全く何の効果も表さないただのカプセルかを分からないように飲ませたりするんだ。これは本物の薬だ、と分かっていたりすると、医者や患者の思い込みによって薬の有効性や安全性が公平に評価できなくなったりするからな。プラセボ効果とはつまりね、その『薬として効果のないものでも薬と信じて服用すると、その安心感から自然治癒力を引き出す効果』のことを言うんだ。そして、そのプラセボ効果と薬の有効性を公平に判断するために使われる偽薬のことを、プラセボ、というんだよ」
「彼は、製薬会社の研究員なんだ」
 武彦が付け加える。ケーナズは「あぁ」と頷いて、大きく息を吐いた。
「ほー……でも。それがつまり、どうしてシュイラン女史の話に繋がるんだ」
「女史」武彦が噴出す。
「宗教も人間の思い込みの部分が大きいということだ。実際に、シュラインにはその加藤という女の姿は見えていない。つまり、居ないんだ。シュラインの方が正しいだろうからな。しかし、その繭里という女や他の団員には見えている、と思っている。教祖に対する安心感や、宗教団体に対する責任感から見えない人を作り出してしまうんだな。プラセボ効果と遠からずということだ」
「なるほどな」
 萩は頷いてから、ふっと厳しい顔をした。
「そうなってくると……その宗教団体が大麻なんかを使ってる可能性も出てくるぞ。更に硬い絆を作る為だ。気分が高揚していたら、見えない人を見えると言えなんていわれることも、それほど奇妙だとは思わないからな」
「今正に、俺もそう言おうと思っていた」
「以心伝心だ、親友だからな」
「気持ちの悪いことを言うな」顔を顰めてやった。「それで? 京都には行くのか」
「俺は行かんよ。興信所を休むわけには行かないからな」
「そうか」
「京都かぁ。あんまり想像がつかないな」
 萩が言うので「そんなことはないぞ」と否定してやった。
「そうか?」
「そうだ。京都と言えば、置屋の舞妓だ。銀閣寺に金閣寺。寺」
「あーそうかそうか。そういえば八橋だな!」
「そうだそうだ。生八橋だ」
「おいおい」と武彦が苦笑する。「お前ら。依頼で行くことを忘れて貰っては困るぞ」
「私は会社の用事でもあるからな。お偉方を招いて一席設けるそうだ。それに参加して欲しいと、な。依頼の話は頭に置いてはおくが、今回はそれだけに罹りきりにはなれんのだよ」
「そうか」
「それでな。今家で猫を一匹飼っているんだが。京都なんて何が面白いの? 何があるの。と言われてな。それで調べてみたんだ。これが案外、あるんもんだな。湯葉という物体だけはおいしそうには見えなかったがな」
「猫? 喋る猫か」
 萩が身を乗り出す。「違う。人間だ。シャムネコみたいなんだ」と答えた。
「そういうことばかりしてるといつか物取りに合うぞ」
「大丈夫だ。あいつはただのシャムネコだし、取られるような物は置いてないし、万が一家に置くことがあっても特別なセキュリティを強いているんだ。心配ない」
「刑事としては……家出人は速やかに警察に届けてもらいたい」
 萩がおどけて言った。それはフンと鼻で流してやった。
 ユウは家出人なのかも知れないが、一人で生きていける強かさを持っているような気がしないでもない。上目使いに自分を見上げてくる時の顔などは人に可愛がって貰うことを覚えた表情であるし、またそうして貰えると確信している目でもある。本来、ケーナズはそういうしたたかなものが好きではない。守って貰えないと生きていけないものを優しく撫で付けてやるのは好きだが、それを武器として使っている奴は好きじゃないのだ。けれどユウのそういう表情を見る度に、ふと無表情にその頬を抓ってやったらどうするだろう、などということを想像してしまったり、嫌がる猫を虐め倒し、ごめんにゃんと言わせる想像をしたりする自分は不謹慎極まりないが案外楽しい。
「俺も舞妓さんと遊びたいなぁ」
 萩が言った。
「置屋はな」
 腰に巻いたタオルを直し、立ち上がる。
「一見さんはお断りなんだ」
 ケーナズは髪をかきあげて、得意げに言ってやった。

004

―1―

 朝もやの中に京都タワーはなかった。
 目の前にあるのは空車タクシーが数台とバス亭、それから駅構内のぼんやりとした明かりだけだった。
 夜行バスを降りた登江機絵は、その余りに殺風景な景色に少しだけ落胆した。観光地という印象はなく、建物自体はそれほど東京と変わらない。一緒にバスを降りた人々は、いつの間にかそれぞれ散ってどこかに消えてしまっていた。ポツンと夜明けの空の下に立つ機絵は、さてこれからどうしようと思い、鞄に手を突っ込んだ。地図を出す為である。
 東京を出て京都に一人旅へ出よう! と唐突に思いついたのは一昨日の朝だ。同居している親戚の限には、置手紙を置いてきた。このままではいけない、と思ったのだ。人と話すとき身を竦ませてしまう自分が。コミュニケーション能力が極端に低い自分が。ほとほと嫌になったのだ。
 唯一の救いといえば、昔から行動力だけはあった、ということだ。何故行動力があるのに人とコミュニケーションは取れないか。その理由は十九歳になった今、ある程度見えて来た気がする。
 想像してしまうからだ。相手の次の言葉を過剰に想像し、時に舞い上がり、時に落ち込み何も言えなくなる。そして、まだ誰も何も言っていないのに自分で勝手に想像してしまうその言葉は、大抵の場合良くも悪くも間違っている。そういう時、自分が酷く裏切られた気になる。情けなくなり、自己嫌悪する。そしてまた喋れなくなる。悪循環だった。対して個人行動ならば誰も何も言わないし、そこに人は居ないので気が楽なのだ。
 取り出した地図に目を通し、今自分が居る場所を確認する。そうして気付いた。今自分は、八条口というのに居るらしいことを。京都駅にはどうやら入り口が二つあるようだ。表玄関といわば裏口。
 八条口は裏口のようだった。そうか。それで京都タワーがなかったんだな。と機絵は理解する。余り観光者に優しくなさそうな雰囲気も、そのせいならば頷けた。
 では、表玄関にはどう行けばいいだろう。また地図に目を落とし指先でなぞり始めた時、遠くから微かな声が聞こえた。それは喋る時の声とは違い、風に乗ってフワフワと浮いて来た。
 ギターの音が聞こえる。そうか、歌だ。
 辺りを見回しながら、音を辿り横断歩道を渡った。信号は点滅だったが、車がないためすぐに渡れる。殆んどの場所にシャッターが降りている、横に長い駅の構内に、一つだけコンビニの明かりが見えた。駅の中にある、二十四時間営業のコンビニのようだった。
 その前、タクシー乗り場と駅との間に、駅に沿うようにして伸びるアーケードで一人のギターを抱えた青年が歌を歌っていた。
 その歌は余り上手ではなかったが、曲と歌詞が嫌いではなかった。
 機絵はその青年の前を距離を取って通り過ぎ、少し離れた場所で蹲った。幸い、青年には見つからなかったようだ。
 大学生になり、それまで以上に視界が広がった時、機絵を待っていたのは希望ではなく、絶望に近い感情だった。同年輩の彼女らが話す内容が、どこか遠くの出来事のように感じられた。流行の音楽も特に良いとは思わず、テレビ番組が面白いと思ったこともない機絵は、級友たちが話すドラマの話にも芸能人の話にも興味が持てなかった。
 そしてそれを、個性だと言う術も機絵は知らなかった。
 流行の音楽が、今少し離れた場所で青年が歌うような曲ばかりだったら良かったのに。これなら、嫌いじゃないのに。
 機絵は膝に頬を乗せて、その歌に聞き入った。彼はもうどれくらい曲を歌っているのだろうか。その声は、もともとそうなのか何曲も何曲も演奏したためかは分からないが、酷く枯れていた。
 それでも彼は歌い続けていた。何だか少し、嬉しかった。もっと頑張れ、そう言ってくれてる気がした。
 どれくらいそうしていただろう。ガーッとシャッターが開く音がした。その音に機絵は顔を上げる。ふと見ると、駅の中にチラホラと人が現れ出していた。いつの間にか、路上ミュージシャンは居なくなっている。耳の奥で、掠れたあの声だけがリピートされていた。
 止まっていた時間が動き出したような、そんな気がした。
 私もそろそろ行かなきゃ。機絵は立ち上がる。そこに、一人の男が立ち塞がった。

「すんません! 遅れました!」
 突然、機絵の前に立った男はそんな言葉を言った。
「え」
 機絵は余りの驚きに後退り、後にあったコインロッカーにガンと背中を打ちつけた。
 魅力的な男性だった。黒のスーツをきっちり着こなし、ネクタイもしっかりと結んでいる。柔らかそうなこげ茶色の髪や白い肌、涼しげな目元、通った鼻筋などは、派手という印象ではなく知的に見えた。
 脇に黒のバインダーを抱えている。反対の手で時計を見た。それから「うわー。もう七時半やん」と独り言のように呟いた。
 機絵に向き直り、また大きく頭を下げる。
「ほんまスンマセン。迎え、遅くなってしまって。ジュニア……あ、加藤敦さんから連絡は受けてて。早めに来とくようにって言われたんですけど、ちょっと寝坊してしまって……あー。ホンマにすんません」
 関西弁だ、と全然そんな場合ではないのに、むしろそんな場合ではないからこそか、機絵は思った。そうして全然関係のないことを考えていなければ、驚きに身が竦んでしまいそうだった。
「あのー。ほんなら、行きましょか」
 男がそう言って手を差し出す。コインロッカーに張り付くようにして機絵はまた後退る。その時バインダーから一枚の紙がヒラリと舞い落ちた。なんだろうと目を向ける。社員募集という文字だけ見えた。それ以上は男の次の行動のせいで、良く見ることは出来なかった。
 男の手がギュッと機絵の手を掴む。その瞬間。
 機絵の思考は、止まってしまったのだ。

―2―

「おーう。ビバ京都」
 隣で雛太が大きく伸びをする。アインもキョロキョロと辺りを見回していた。けれど限はただ、フーンと思っただけだった。
 自動改札口も電車も、駅の構内も、それほど東京とまるで違うぞ! という雰囲気ではない。時折耳に入ってくる関西弁と、駅の中にあった露天の傍にある「お土産に! 生八橋〜おたべ〜」という看板と、東京よりはまだ人が少ないかもしれないなぁ、というくらいは、特に感動を覚えるような景色ではない。
「案外普通じゃない?」
 エレベータの一段下に乗ったシュラインが振り返った。正しくその通りだと限は頷いたが、洋輔は「京都を何だと思ってンだよ」と苦笑した。
「アンタ、京都に居たんだったら関西弁とか話せるんじゃないの。折角の京都なんだから、雰囲気だしなさいよ」
「なんで俺が」
 呟いた洋輔が、隣に張り付いてきた。鬱陶しい、と思った。
 エレベーターを降りると駅の外に出ていた。目の前にタクシー乗り場がある。空車のタクシーがうじゃうじゃといた。こんな所も取り立て東京と変わらない。
「何、キョロキョロしてんさ」
 雛太がアインの肩を叩いていた。アインはニコリと微笑み「なんとなくです」と頭をかいた。
 限もフーンと思いつつ、ふと背後を振り返った。
「あれ。なんだろう」
 五十メートルほど先に、人だかりが出来ている。
「なんか……路上アーティストでも居るんじゃねーの」
 洋輔が素っ気無く言ったが、「行ってみませんか」「行ってみましょう」というアインとシュラインには逆らえず結局その人だかりの元へ向かった。その途中で、和服を着た恰幅の良い男性と、分厚い下駄と重そうな着物を身につけた女性の、二人組みとすれ違った。舞妓、だ、と思った。頭に挿した簪がチラチラと揺れている。
 その時ばかりは限も少しトーンを上げた、フーンを思った。
 人だかりの前まで来た時、「なんなん。どうしたん」という野次馬の声を聞いた。
「動かへんねんって!」「うそやーん?」「マジでか」「うん。全然動かへんねんって」「ありえへんな」「うんありえへん、間違いない」「間違いないな」「なんなん。なんなん! 動かへんってなんなん……! うわー! なんなんなんなん、そんなんめちゃくちゃテンション上がるやん……ッ!!」「アホや。アホやこいつ。なにワケわからんことでテンション上がってンねん」「うっさいな。テンション上がるやんそんなん。あれやで。そんなんもー、ギネスブックやで! 悪いけど」「ネタやん、動かへん人とか」「どういう自己主張やねんっていうな」「よっぽどやな」
 野次馬の声を聞いて、あぁ。と思った。
 限は人だかりを黙々と掻き分け、その先に顔を出す。あぁ、やっぱり。
 そこには顔を真っ赤にしたまま停止する、機絵が居た。

―3―

 機絵の停止は正確には硬直という。自分に対応できない場面に遭遇した時、もしくは極限に恥かしい、嫌だ、などのネガティブな精神状態になった時、彼女は硬直する。
 出口が見つかるまで、彼女はそこで自問自答を続ける。余りに深く考え込んでいるため、周りが見えなくなっている状態とも言う。
 つまりは、出口を与えてやれば彼女は立ち直るのだ。
 限は興味津々といった視線を受けながら、機絵の肩をポンポンと二度ほど叩いた。
「機絵」
 溜め息と一緒に吐き出す。ピクリと機絵の指先が動いた。
「あ」
 機絵がやっと瞬きをする。限はもう一度彼女の名前を呼んだ。
「機絵」
「あ、か。限、ちゃん?」
 その瞳の焦点がゆっくりと合ったかと思うと、驚いたようにがっと見開いた。びっくりしたいのはこっちだ、と限は思った。京都くんだりまで来て、硬直してるなんて思わなかった。いや、それはありえるかも知れないとは思ったけれど、まさかこんな公衆の面前で硬直してるなんて思わなかった。
 おーっと何処からか拍手が起こる。「面白いやーん!」と野次馬の中の誰かが言った。
「行くぞ」
 抑揚のない声で言った。機絵がおずおずと頷いて「うん」と言う。
「なんなん! どういう仕組みなん!!」と寄って来た関西人は無視した。

―4―

 何かを言われればニコニコとする。こうしておけば何かと便利だとは主人を見ていて気付いたことだった。けれどもっと、脱出方法やかわし方を考えなければならない。ニコニコと笑うだけでは、京都にまで連れてこられるのだ。
 八条口の景色を物珍しげに眺めている自分を演出しながら、アインは先ほど頭の中の行動観察メモにそう付け加えた。
 今は、機絵という少女にむやみに話しかけると硬直されると付け加えていた。そして先ほど拾ったこの紙は、ただのゴミなのかどうかを判断していた。
 皆が機絵に視線を注ぐ中、そんなことよりも彼女の前に落ちていた紙切れの方が気になったアインは、人込みに紛れるようにしてそれを拾い上げていた。紙切れは地面の上に置かれてあるようだった。所々に足跡がついてはいるが、破れてもいないし地面に擦りこまれてもいなかった。つまりは捨てられてそれほど時間が経っていないということになる。それを見つけたアインは彼女の落し物かもしれないという事態を考え、拾っておくべきだと考えた。
 隣に居た久坂洋輔が「かあいい子だね」と言ってきた。いい加減に笑って頷いた。
 しかしそのチラシの内容は、彼女の落し物にしては奇妙だった。やはりゴミだったのだろうか。社員募集的な内容が書かれたそのチラシの、何が一番彼女に合わないかといえば、募集要項の20歳以上の男子という部分だった。
 追記に出来れば美少年好き、と書かれてある。彼女は美少年好きなのだろうか。けれど、彼女は女性であって男子ではない。
「なんであんな場所で硬直したんだ」
「知らない男の人に話しかけられて……ど。どうしたらいいか分からなくなって」
「ねぇねぇ。危ないから気ィつけた方がいいよ?」
「大丈夫だから」
 機絵は話しかけてきた洋輔を無視するようにして、限の方に向かい答えていた。
 蚊の鳴く声よりも害のない、小さな小さな声だ。
「お前のこと嫌いだって」
「アンタ、野蛮なのよ。面構えが」
 シュラインと雛太に馬鹿にされ洋輔が拗ねていた。
「いきなり話しかけられるとびびるから」限が言う。果敢にも彼女に話しかけるからそういうことになるのだと思った。
「あの」
 機絵の隣を歩く限に向かい、言った。
「これ、彼女の落し物ですか?」
「あぁ、なんだこれ」
「なになに?」
 雛太の手が紙切れを奪っていく。
「さ。さささささ。さっき。さっき。声かけられたひ、人……人の落としものかもしれ……んす」
 カッと機絵の顔が赤くなる。奇妙な喋り方をする人だな、と思った。
「あ!」
 紙切れを覗き込んでいた雛太が何かに気付いたように声を上げた。
「姉御! これ!」シュラインが「なによ」と顔を向ける。
 何が起こったかはわからないが、何にしても拾っておいて正解だったのだなということだけ理解した。

005

―1―

 ドンちゃん騒ぎに疲れ、ケーナズは席を立った。部屋を出る時、そこに正座し作り物めいた笑顔を浮かべている女将に声をかけた。
「少し、休める場所はありませんか」
「あら」化粧っけのない顔がゆったりと崩れる。「疲れはったんどすか〜?」
 その顔に、社交辞令の笑みを浮かべる。「えぇ、少し」
 女将は頷きゆっくりと跪いた。襖を開け、ケーナズを先に通す。次の障子も跪いて開け閉めすると、会釈しながらゆったりと前に立った。身のこなしは鬱陶しいと考えさせないほど、優雅だった。
 京都祇園にある、佐野屋というお茶屋に来ていた。出された会席料理はどれも薄味で、汁の色もことごとく薄く、余りおいしいとは感じなかった。せっかく上手いものでも食おうと思っていたのに、とんだ誤算である。しかしまぁ、それはそれで良い経験だともいえた。
 会社の重役や医療関係者との真剣な話は終わり、宴会はただの空騒ぎと移り変わっていた。楽しい雰囲気は嫌いじゃないが、それは仲間同士の間柄でだけだ。馬鹿とも空とも言える騒ぎには興味はない。
 女将に続きながら廊下を歩きながらふと見ると、障子で遮られた部屋には「桂川」「金閣寺」「鴨川」などの名所の名前がついていることに気付いた。女将はしゅるしゅると床に着擦れの音をさせ、「二条」と書かれた堤燈の下がっている部屋の前でケーナズを振り返った。
「ここをお使い下さい」とまた、跪く。障子を開けた。
「すみません」ケーナズが足を踏み入れると背後で女将が言った。
「世話する子ォ、呼んだ方がええどすか?」
「いえ、お構いなく」
「そうどすか〜、ほな、ごゆっくりぃ」
 襖がピッチリと音もなく閉められる。そこは小さな和室だった。ガラス戸の向こうに、日本庭園が広がっている。石で出来た小さなため池があり、そこにこれまた小さな鹿威(ししおど)しがある。春日灯篭 手水鉢
 中々、気持ちがいい。足を進めてガラス戸を開けた。その前にある、チェアーに腰掛けその景色を眺めた。
 どうせなら、世話をする子というのを頼んでおけばよかったな、と少し後悔する。薄味の料理に裏切られたのだから、そっちで挽回するのも悪く無いと思った。思い立ったらそうするべきだという気になり、襖を開け、その向こうにある黒電話に向かった。
 受話器を持ち上げたところで、襖をどんどんとノックする音がする。
「ケーナズはん」
 艶かしいというよりは、微妙に裏返った気持ちの悪い声が聞こえた。
 なんだ。断ったのに、用意していてくれていたのか。
 ケーナズは電話を置き、障子を開けた。そこに正座し頭を下げた体制の舞妓が居た。指先が余りにキレイに揃えられている様に目を奪われていると、舞妓はゆっくりと顔を上げた。
 簪がチラチラ揺れる。
 白塗りした顔を凝視して、「なんで……こんなところに居るんだ」という言葉が漏れていた。
 その言葉を聞いて驚いたのは向こうの方だった。
 紅を引いた赤い唇が「どうして」と言った。
 それはこっちのセリフだ、と思った。


―2―

 ここが河原町か、とシュイランは思った。
 洋輔に書いて貰った地図と駅にあった書店で買ったるるぶという雑誌を片手に、女神ノ会の本拠地ビルへと向かっていた。住所記載は東入ルだとか、西入ルだとか、ややこしいことこの上なかったが、コツさえ掴めばなんとかなるだろう。
 さきほど合流した青島と、洋輔、アインに雛太、限の五人は、さきほどアインが拾った女神ノ会の社員募集要項チラシを片手にそちらに潜入調査しに行っている。募集要項の内容に美少年好き、と書かれていた為、わけがわからない! と雛太は大層嫌がっていたが、なんとか上手く頑張っていてくれていると思う。とにかく今は、自分の聞き込み調査の方である。
 本拠地ビルへと忍び込み加藤茜という人物が実在するのかという調査と、その近隣住民から宗教団体の印象についての聞き込みを行う予定であった。
「ねぇ。どうして京都だったの」
 シュラインは隣で挙動不審に歩く機絵に向かい言った。
「え」と機絵は身を竦ませてから「な、なんとなくでござ……あ。る」
「そう。確かに。東京とは対照的なイメージはあるものね。なんとなく。古風な、ね」
「はい」
 彼女の声は本当に小さいので、注意して聞いていないと聞き逃してしまう可能性がある。しかしなんだって? と聞き返したら彼女が泣き出してしまいそうな気さえするので、なんとか当たり障りのない会話で繋ごうと思う。
 同じ女性であるという理由から、限に「お願いします」と任されてはしまったものの、シュラインは女というだけで同じと認識されても困ると頭を悩ませていた。そもそも、駄目な物は駄目であるし、無理な物は無理であるし、いつでも白黒はっきり、ドライにばっさり、という自分と彼女が同じ女であることにすら疑問を感じる。性別など関係ないのだ。合う人と合わない人。それだけだと思う。
 同じような通りをクネクネと曲がっているうちに、白檀の香りが鼻をついた。どこから香ってくるのかと思えば、どうやら道に並ぶ店の方からのようだった。釣られるようにしてついふらふらと足がそこへ向く。
 入り口は木枠のガラス張りで、戸は大きく開け放たれていた。
 京町屋のどっかりとした佇まいのその木造建築の中に、シュラインは入っていく。店内にはやはり白檀の香りと鞠や扇子などの小物、そして浴衣などが並べられていた。
「中々良いお店じゃない?」
 隣でマゴマゴとしていた機絵に言う。機絵は「はぁ」と控え目な返事をした。シュラインは構わずそこに並べられた扇子を手に取る。ばっと開くと赤や緑、黄色等の色が混ざり合った、不思議な色合いの模様が描かれていた。
 顔を近づけて匂いをかぐと、お線香のような安らかな香りがした。
「いい香り」
「京都ならではの匂いですねんえ」
 声を方を振り返ると、店の奥、暖簾を掻き分けて、和服を着た女性が顔を出した。
「あ。すみません。勝手に触ってしまって」
 女性は無言で微笑んだ。「構わない」と言わないところを見ると、やはり不快だったのだろうか。シュラインはそこで、京都の有名なお茶漬けの話を思い出した。「お茶漬けでもどうどすか」とぶぶの茶漬けを出されたら、それは「そろそろ帰れ」のサインだという話だ。
 それを聞いた時、そこには京都独特の仕来りと社交辞令を言ってやんわり交わすという裏表が見えた気がしたものだ。
 扇子をゆっくりと棚に戻す。
「今日はどんなモンお探しでっしゃろか」女性が言った。
「いえ。実は東京から来たんですけど。お土産を、と思いまして」
「はーあ。さいですか〜。ほなぁ」女性が店内をつかつかと歩く。「あぁ、その人は男性の方どすか。それとも、女性?」
「男性です」
「なんか思てはるモンあります?」
「浴衣を、と思っているんですけど」
「ほな、こっちやわ」女性が浴衣などを並べた棚の方へ向かう。「ここにありますねえ。その人、どんな人ですの? 肌の色とか」
「あの」
「へぇ? なんでっしゃろ」
「自分で選びます」
 その言葉に女性は一瞬不快そうに目を細めたが、すぐに微笑んで「さいですか。ほなまた用事あらはったら声かけて貰えます〜?」と暖簾の奥に消えて行った。デパートなどでも人について回られるのが嫌いだった。いちいち人に口を挟まれるのは好きじゃない。
「すごい。ですね」機絵が小声で言った。囁いたわけではなく元々の地声だった。
「なにが?」
 シュラインは浴衣の柄を見ながら問い返す。白絣に麻絣、紺絣に黒絣。どれもさわり心地が良く、涼しげだった。
「わ。わた、私なら。私なら……あんなことは言えな……んす」
「ウーン」浴衣を掴みながら唸り声を上げた。小さく溜め息をつく。機絵に向き直った。
「ねぇ。貴方ってどうしてそうなのかしら」
「え」
「こんなことを言うと怒られるかも知れないけれど……そうね。貴方はもうちょっと攻撃的になることを覚えた方がいいと思うわ」
「こ。攻撃的……や。やっぱり私、私、ふか。ふかい。不快ですか」
「不快じゃないけれど……もっと自信を持てばいいのにって思うもどかしさはあるわ。貴方は可愛いし、魅力的よ」
「だ。駄目です。駄目です、私……人のこと、良くわからないし……いつも居るだけで私、人を不快にしてしまうんです。何か言っても、想像通りの言葉が帰って来た試しがないし……怖くて……が。頑張っているんですけど……」
「私、この歳になっても人の気持ちなんてわからないわ……そうねぇ。分かろうと努力する貴方の気持ちも分かるけど、でも想像通りいかないからってそれが何なの? それで傷つくなんて少し、傲慢なんじゃないかしら」
「傲慢?」
「そう。傲慢。皆それぞれがそれぞれの事情を抱えて生きていて、他人は他人、というと冷たいかも知れないけれど。だってどう頑張ったって人の心の中までは覗けないんだもの。そんなところまで想像するなんて逆に傲慢、というものよ」
「そ……せ……晴天の霹靂、です」
「私は余り小さなことには拘らないたちだから。気軽にお話してちょうだい」
 機絵の顔を覗きこみ微笑んだ。
 そしてまた、背を向け浴衣を選び始めた。
「か。限ちゃんにも買って行ってあげよう、かな」
 白く細い指が横から伸びて来た。シュラインは「よしよし」と微笑んだ。
 浴衣は結局、いろいろ迷った結果、上布の深いグリーンの浴衣と、黒、紺、グレイの四角がレトロに並ぶ帯を買うことにした。
 そしてあともう二着。白絣と麻絣の浴衣も購入する。荷物を預かって貰うことにして、聞き込み現場に急いだ。

―3―

「いやぁ! すごいやーん」
 男が萩の腹の辺りをポンと叩きながら、唸り声を上げた。
 フン、当然じゃん、と思った。
 そもそも巡査部長になろうと思えば、剣道か柔道の有段者か有級者でなければならない。萩は剣道の有段者であったが、高校、大学としごかれ抜いた日々を思い出すと、今でも軽い吐き気に襲われる。更に警官になってからも、聞き込みやなんだで相当鍛えられている。そこいらの奴らの体力と比べられては困るな! とすら思った。
 草間興信所の御一行と合流してから、女神ノ会の集団面接会というのに参加した。今はその、テストというべきか、面接というべきかの最中だった。仕組みは良くわからないが、審査基準は五つほどあるようだ。
 一つはルックス。これは大前提なのだそうだ。今回面接に参加したのは十人ほどだったが、残りの七人は既にその時点で落とされていた。自分が残っているということは、ルックスは合格ということだろうか。嬉しいような嬉しくないような、微妙な心境ではある。
 今回の侵入調査では、この集団面接の目的を知ることが最大の任務であった。一体、何の目的がありこんな面接がされているのか。そもそも、宗教法人で社員募集とはどういうことなのか、その辺りを探るのだ。つまり自分達は宗教側内部からあの加藤茜という人物についての手がかりを調べるのである。
 本来、萩らの他に、洋輔とアインも参加するはずだったが、この面接がどうやら予約制であったようなので、余りに人数が増えたら怪しまれるかも知れないという方向で落ち着き、限、萩、雛太の三人が参加することになっていた。
 つまりは、三人ともおめおめと残ってしまったのである。
 そして、審査基準その2である体力検査で、萩は今正に、彼等的素晴らしい数値を収めたらしかった。
 じゃあ。次、学力検査ね。と書類を渡される。そういえば、履歴書持参でなくて良かったな、とぼんやり思った。



「すごいやん、きみ〜」
 男が雛太の提出した答案用紙を掲げて、唸り声を上げた。
 雛太は革張りの黒いソファに踏ん反り返る。フン。当然じゃん。
 これでも昔は学力優秀の優等生だったのだ。
 無意味に思えて今更そんなことをむやみやたらと口には出さないが、こういうのを昔取った杵柄とでも言うのだろうか。役立つのならば気分は悪くなかった。男は特に点数の良かった「英語」と「数学」の答案用紙を眺めながら感嘆の溜め息を漏らしている。
「しかも。解くのが速いで、きみ〜。びっくりするわ」
 だから、学力優秀なんだってば。
 面接が始まる前に支給されていたミネラルウォーターを飲みながら、悪いが集中力もあるんだぜ、としつこく思う。
「はー。居るモンやなぁ。天才って。しかも中々可愛い顔してるし。マロンさんも絶対気に入ると思うから。絶対、受かってな」
 男はわけのわからないことを言い、書類を差し出す。
「じゃあ次、沈着冷静度検査ね」と言った。



「ありえへんで、きみ〜」
 黒幕から顔を出して、男が唸り声を上げた。
 限は無表情に男を見つめ、「はぁ」と呟いた。
 沈着冷静度の検査をされると言い、黒い部屋に通された。突然床が揺れたり、大きな物音がなったりする中で、さてどんなリアクションを取るだろう、と検査されるらしかった。
 基本的に余り感情が表に出ないので、ただずっと座っているように見えたかも知れない。
 そもそも、沈着冷静度検査ねと言われ黒い部屋に通されたら何が起こるかの予想はだいたいついてしまうので、驚かないのは当然と言えた。
 驚かせますよ、と宣言しているに等しい。本当に沈着冷静度を測りたいなら、もっと意表をつくべきだ。
 と。いうような。冷静な分析が出来てしまうくらい、今、落ち着いている。
「あー。えぇわ〜。そのクールな顔。ご婦人方の心をバッチリキャッチやね! 間違いないわ!」
 黒幕から出て来た男はそんな意味不明なことを言い、書類を差し出した。
「じゃあ最後。包容力検査ね」



 通された部屋に向かうと、限という少年と雛太という少年の姿があった。
 どうやら皆、ちゃんと検査を通過してきたらしい。
 萩もルックス、体力、学力、沈着冷静度と、全ての検査をとりあえずはある程度の成績でこなし、最後は包容力検査と言われここに来ていた。わけがわからなかったが、部屋の中央には女性のマネキン人形が置いてある。
「はいはいはい」突然、部屋の奥から男が姿を現した。手をパンパンと叩きながら近づいて来る。「じゃあ最後ね、このマネキン人形と、歩いたりまったりして貰いたいのね」
 スーツ姿の男は言った。体力検査やその他の検査をした時にみかけた男とはまた別の男である。
 全てに共通しているのは、スーツ姿ということとルックスがそれなりに良い、ということである。
 なんとなく。何かが見えた気がする。
 そしてそれは動繋がるのだろうか、と考えた。

―4―

「ちょっともうさぁ。どっか行かね? こんな所で待つなんてもう、なんか退屈だし、もー」
 洋輔が呻いて、椅子にぐたりと背中を預けた。その様子はまるで、椅子の上で大の字になったようである。
 伸ばした足が通行人の邪魔になるだろうが、とアインは思った。
「そういうことは出来ませんよ。シュラインさん達と待ち合わせしてますからね」
 子供をあやすように、言ってやる。洋輔はブーと唇を尖らせた。主人に聞いた話の通りだ、と思った。代わりに配達して貰うのはありがたいですが、洋輔という男とは関わってはいけませんよ。と、とうとうと語られていた。
 人の迷惑顧みず。この男にはそういう単語が良く似合う。主人が慈悲活動中の自分と彼を関わらせたくなかった気持ちも頷けた。
「もーーーーー」
 伸ばした足をわさわさと揺らす。ウエイトレスがその隣を鬱陶しげに通り過ぎた。真剣に注意した方が良いように思えた。
「あ!」
 その時洋輔が、体を起こし入り口に向かい声を荒げた。アインもその様子を見て背後を振り返り、ファミリーレストランの入り口にシュラインと機絵の姿を発見した。
 大きな荷物を抱えたシュラインが、足早に寄ってくる。
「ちょっとたーいへん」テーブルに腰を下ろすなり、シュラインが言った。
「大変って、なにが?」
「実は女神ノ会なんだけど。私、てっきり教祖は女だと思っていたのよ。だって、女神ノ会だもの」
「それは、そうですね」返事をしておいて、機絵を見上げた。「座りませんか?」
 体をつめてやる。機絵はおずおずと、しかし精一杯なふうに頷いて隣に腰掛けてきた。
「教祖の名前も栗だとかマロンだとか言ってさ。てっきり女だと思うじゃない。でーも。それが。違うの。私達はさっき、教団の本拠地に行ってきたんだけれど。でっかいビルでねぇ。そうとう儲けてるなって感じだったのよ。でも、それほどメジャーな教団でもないから、おかしいなと思って聞き込みしたのよね。近隣住民に、その、女神ノ会について。だいたいはパトロンがついてるだとか何とか言ってたんだけど。気になる情報が一つ。佐野屋という御茶屋がその女神ノ会のバックについてるって噂なんだけどね。そこの息子が、どうも教祖らしいって」
「加藤茜の情報は?」
「それがねぇ。サッパリなのよ」シュラインは小さく肩を竦めた。「侵入捜査に行った三人が、何かつかんできてくれると良いんだけどなぁ」

―5―

 三人並んでソファに座った。
「ご苦労さまでした」
 落ち着いた声で言った男は、向かいにゆったりと腰を下ろした。優雅な仕草といえば聞こえはいいが、要するに気障だろ、と萩は思った。
 男は今まで見た男達の中でも一際美しい顔をしており、スーツも明らかに他の奴等とは違っていた。もちろん、自分がいつも着ているような署から支給される無地の安っぽいスーツとも違っている。見るからに高価そうな、皺一つないスーツだった。
 男は三人の成績表とも言える書類を眺めながら小さく頷いている。大きく息を吐き出して、書類をテーブルに置いた。
「今回はご参加頂き、ありがとう御座いました。加藤敦のことは当方としてもとても残念に思っていたのですが。こんな素晴らしい人材を見つけられたことは本当に素晴らしいことだと思います」
 加藤、敦。聞き覚えのある名前のような気がした。
「皆様は、誰の紹介でいらっしゃいました? あ。努めてらっしゃるお店の名前でも結構ですが。のちほど契約書類をお配り致しますので、そちらの方にご記入下さいね」
「店」
 隣で雛太が呟いた。思わず視線をやる。声に出すな、と目で合図した。ついでに見やった限に関しては、能面か置物かといったふうで、無表情にただ座っている。侵入捜査の鏡のようにも見えた。
「いやぁ本当に。不運の後には良いことが訪れるんですね。これもマロン様のご加護だ」男はわけのわからないことをいい、微笑んだ。
「皆さんが今まで働いてらっしゃったお店でどれくらいの給料を貰っていたかは存じませんが、うちに来ればそれ以上のお給料を保証させて頂きます。ただし。教訓は厳しいですので……と、いってもここに来てらっしゃる皆様は、お店ではそれなりの地位を獲得してらっしゃたと思いますので、まぁ。問題ないですね。ホスト業界も、厳しいですものね」
「ホス!」声を荒げそうになった雛太の足を、思いっきり踏んづけてやった。「いってぇ!」
「どうか、されました?」
「あ、いえいえ。どうぞ。進めて下さい」限が冷静極まりない声で言った。
「分かってらっしゃるとは思いますが、お客様は神様です、というところを、うちの場合では信者の女性達を神様です。という状態に置き換えて頂きます。彼女達に尽くし、世話をし、それで気分良くお金を出して頂くように。まぁ。今までとやって頂くことは変わりありませんがね」
「あの……あの。美少年好きというのは」
「あぁ」男は笑った。「もちろん。信者はありがたい存在ですが、何よりも一番大事なのは、教祖様であるマロン様です。ただ単に女性が好きなだけなら、貴方達はここには来ていない。女性に失望しその醜さを知っているからこそ、我が教団に協力しようとした。そうでしょう? マロン様はそんな貴方達の心も癒して下さいます。いつまでも少年のような心と体を持った、天使のような方なのです。素晴らしいでしょう? 今まで以上に有料が貰え、貴方達の心の闇までもを救って貰えるのです。こんな仕事は他にはありません。マロン様に忠誠を誓い、この女性達を唆し、これからもっともっとこの女神ノ会を大きくして行こうじゃありませんか、ともに!」男はともに! とかぶるように、手を掲げるようにして壁にかけられた写真をさした。かなりの興奮状態だ。その常軌を逸した顔っぷりを見てなんとなくノスタルジックな気分に浸りながら、写真の男の顔を見た。あれが教祖のマロンという男なのかも知れない。確かに、整った顔はしているのだろう。けれど何より、猫に似ている気がした。
 とにかく男の話を纏めれば、つまりはこの宗教団体は人を信じるという女性達の気持ちを悪用した脱ホスト達の悪巧みであることが分かる。なんということだろう。この依頼を聞いた当初は、誰か他人に迷惑さえかけなきゃ宗教法人自体は好きにやってりゃいい、見えないという彼女だけを助ければいい、と思ったものだ。しかし。しかし、だ。これはイカン。
 悪巧みは絶対にイカンのだ。俺の中の正義の炎が黙ってはいないのだ。
「この野郎〜」と立ち上がり、ぬけぬけと悪巧みを喋りつくした男の胸元を掴んでやった。「わ。わわわわ! マロン様〜!」男が情けない声を出す。
 その時、脳裏で何かがピーンと音を立てた。
 何処かでこんなシュチュエーションがあった気がした。襟首を捕まえた男から、栗の神様がど……うの。
 あぁ!!
 そうだ、そうだ! なんということだろう。
 栗の神様と常軌を逸した男の顔。そうだそうだ。コンビニ強盗の名前は確か、加藤敦といったのだ!
 萩は男の頬をとりあえずガンと一発殴りつけ、ポケットの中にある携帯電話を取り出した。
 そして、加藤茜と加藤敦という二人を繋ぐ言葉が、木は森の中に隠せ、だったのだ。

―6―

「どうして」の言葉の意味は、どうして僕だと気づいたんだ。ということらしかった。
 けれど「どうして」はやはりこちらのセリフだろう。
 どうしてマンションで飼っていたはずのシャムネコが、京都に来ていてしかも御茶屋で舞妓の化粧をして出てくるんだ、と。
「あーあ。バレちゃったかぁ」と畳みの上に足を投げ出して、ユウは言った。頭の鬘を取り、髪を直している。
「どういうことか説明してもらおう」
 ケーナズはその向かいに腰を下ろした。
 ユウがニッコリと微笑んでくる。
「怒ったン?」
「怒ってないが不快だ」
「うーん、ごめんね! 僕さ。実は宗教なんかをやっててさ」
「しゅ、宗教?」思わず呟く。「め。女神ノ会などという名前ではないだろう、な」
「なぁああんだ。知ってんの」
「そうなのか?」試しに言っただけなのに肯定されて、驚きの余り、声が裏返りかけた。
「そだよ」ユウは軽く答えた。「まぁ。こう見えて僕ってばもう27なんだけど。ずっとあのほら、ホストクラブっていうの。あれで働いてたんだよね。でもさ。もうそろそろ良い歳だしさ。店持つかどうかって悩んだ時に、もっと面白いことしたいなって思ってさ。宗教、作っちゃった」
「作っちゃった、とはまた……」
「ま。そんな大きくするつもりなかったんだけどさ。なあーんかどんどん大きくなっちゃってぇ。僕のママ。ここの女将なんだけど、面白いじゃないって出資とかしてくれちゃって。なんか話題になちゃって。びっくりだよね。っていうか作った僕が一番びっくり、みたいな。でさ。なんだろう。大きくなるとさ、欲みたいなん? 出てくるじゃない? 僕は別になかったんだけど。周りがほら。引き返せないとこまで来ちゃってて。僕の側近やってくれてた、加藤って男なんかさ。自分のママ、殺しちゃって! びっくり、びっくり」
「殺した?」
「うん。宗教反対されちゃって。僕の悪口言ったから、殺しちゃったんだってぇ。誰も頼んで無いのにねぇ。怖いよ、あーゆー人は全く。今だって早く僕の元に戻りたいから、コンビニ強盗とかやちゃってさ。それで母親殺しを隠そうとしてんのよ。アホだよねぇ。のめりこんじゃ駄目だよねぇ。どうせこんなもん、バッタモンなんだからさぁあ。でもまぁ……金儲けはできるんだけどさ。そ〜れ〜に。もっと信者増やしたら。もっとお金入ってくるでしょう? 僕の作った王国は、女王様がメインなんだ。フフ。女はね。見栄っ張りなんだ。そして男よりね、情深い。けれど、リアリストでもある。男が……突発的な力を発するものだとしたら、女は……ジワジワと力を発揮していくものなんだ。つまり、きっかけを与えてあげないといけないわけなのよ。背中さえ押してあげれば、踏み込めるんだからさ。落ちていくのは、男よりも速いんだ。でね。最初はハッパで勢いつけてあげてたんだけど。贔屓にしてる売人、捕まっちゃって。ハッパはそもそも犯罪だしね、もっと良いモンないかって探していたのよ。そこで……貴方の噂を耳にしたわけ」
 ユウはゆっくりと近寄って来た。肌蹴た着物の胸元を強調するように、体を斜めにしケーナズの体に擦り寄ってくる。
「ねぇ。ねぇねぇねぇ。今、研究してるお薬の話。詳しく聞かせてくれちゃったり、しない?」
 なるほど。そういうことか。フンとケーナズは鼻を鳴らした。
「あのバケツもお前の仕業だったんだな」
 台風の日に、足元へ転がってきたバケツである。あれがなければ、あそこで足を止めることもなかったのだ。
「バケツ?」呟いてユウは笑った。「あぁ、違うよ。あれは偶然。風がバケツを運んでくれたんだ。ねぇ、だから僕、運の良い人間なんだって言ったじゃない。僕はね。運に任せたんだ。もしも貴方が僕に声をかけてきたら、僕はあの物質を手に入れることが出来る。ってね。願掛けとも言うのかな。信号が青ならっていうやつの応用だよね」
「そうか」ケーナズは何度も小刻みに頷いた。「ところでお前は。車田啓三という男を知っているか」
「なんなのさ。いきなり」
「いいから答えろ」
「啓三? 知ってるよ。僕の親友だもん。っていうかなんで貴方、啓三の名前を知ってるわけ?」
「依頼があったからだ」
「依頼?」
「車田啓三の彼女である神崎繭里が、お前のその宗教に入ってから様子がおかしい、助けて欲しいという依頼だ。見えない人を見えると言って加藤茜という人物だったかな……それはつまり、お前の宗教で使っていたクスリの仕業だったんだな」
「加藤茜さん」ユウは何がおかしいのか吹き出した。「あーあ。いいよいいよ。これも何かの縁だ。全部話してあげる」
 ユウは体を正して胡坐をかいた。その足の隙間の方が、胸元よりもよっぽどセクシーだと思うのは不謹慎だろうか。
「啓三はね。繭里ちゃんを愛してたんだ。そりゃあもう、僕なんかには信じられないくらいの愛しっぷりさぁ。彼女の自由を全部奪いたいくらいだと言って、半ば……ありゃストーカーだね」
「それで」
「うん。それで、それを嫌がったのは繭里ちゃんだったんだ。なんというか。啓三を女々しいって言ってね。一時期は別れたい、とも言い出した。啓三はそれはそれは慌ててね。それで、僕の所に話を持って来たわけだ。繭里に、目の届く範囲での自由を与えたい、ってね。親友の僕を信用してそう言ってくれたんだろうね。いつまでも自分の目の届く範囲で居て欲しかったんだ。繭里ちゃんに。監視したかったんだ。繭里ちゃんを。僕に頼めば一石二鳥と思ったんだろう。監視も出来て、自由も与えられる、とね。だから僕は上手く細工して、うちの宗教に繭里ちゃんを入れることに成功した。はじめのうちは啓三も喜んでたよ。けれど、アイツの誤算は」そこでユウは微笑んだ。今までで一番キレイな、けれど一番醜い微笑だった。「僕が人を裏切り易いってことを知らないことだったんだ。馬鹿だなぁ。フフン。……繭里ちゃんはね。とっても頑張ってくれててね。信者もどんどん増やしてくれるから、僕のお気に入りなんだ。そろそろ結婚したいからやめさせたいって啓三が言ったとき、そんなことさせるもんかって思った僕は、繭里ちゃんに真相を話したのさ。まだお前の彼氏はこんなこと言ってたんだぞーって。そしたら繭里ちゃん。思いっきり激怒してね。啓三に仕返しをすることを思いついたんだ。それがつまり、加藤茜さんはいないのに、居るって言ったその話だね。加藤さんはねぇ。さっき言った、加藤って男の母親でね。殺されちゃってもうこの世にいないわけなんだ。啓三は加藤さんがもうこの世にいないことを知ってる。僕が話したからね。繭里ちゃんもそれを知っていて、それで咄嗟に加藤さんの名前を出したんじゃないかな。自分がおかしくなってるのを強調するために。啓三はびっくりしただろうねぇ。繭里ちゃんが死んだ人間と会話するんだから……フフ。一番には僕のところに来たんだ、アイツ。でも僕はしらばっくれてやった。そんなん知らない。辞めさせられるもんなら早く辞めさせてみな。ってね。繭里ちゃんが本当にうちの宗教にハマったんだって思い込んだ啓三は、それで慌てて、その、依頼? しに行ったんじゃないかなぁ」
 ユウはケタケタと面白そうに微笑んだ。その顔を見て、ケーナズもふっと微笑する。
「お前はそのうち、刑務所に入ることになるだろうな。大麻取締法違反でな」
 ユウが肩を竦める。
「もし捕まってもさ。罰金払ってすぐ出てくるさ。軽いモン。懲役」
「だろうな」まさに願った通りの答えだった。何がと問われれば答えられないが、何だかおかしくて仕方なかった。フフフと喉の奥で笑いを噛み殺す。
「そりゃそうだ。悪いことをした猫にお仕置きするのは、飼い主の仕事なんだ。警察には任せておけない」
 そう自分で言ってから、そうだ。と思った。
 あぁ、そうだ。
 何がおかしいか、と問われれば。
 嫌がる猫を虐め倒し、ごめんにゃん。と言わせるなんて
 不謹慎な想像を実行できそうな今
 楽しいからおかしいのだ、と思った。


006

―1―

 新幹線乗り場へ向かう途中に八条口でこんなことがあった。
 限はいつも通り、機絵の隣をサポートするように歩いていた。一人で置いておくと、どこで何を仕出かすかわからないからだ。
 二人でトロトロと歩いていると、そこにギターケースを背に掲げた一人の男が立ち塞がった。
 男は機絵を見ていた。
 なんだ、と思った。
「やっと見つけた!」彼は言った。その声は酷く掠れていた。
「この間、俺の歌聞いてくれてただろ?」
 機絵に向かい、彼は捲し立てる。
「し。知り。知り、知りま……」語尾は小さく、限でもその声を聞き取ることは出来なかった。
 しかし彼は勢いを止めなかった。
「これ。デモテープなんだ。聞いてくれよ。いらなかったら捨ててもいいからさ」機絵の手にMDを握らせた。「本当に嬉しかったんだ。俺の歌に、立ち止まってくれる人なんていなかったからさ。アンタ、離れた場所でだったけど……俺の歌、聞いてくれてたろ? 知ってたんだ。でも、声かけられなくて。俺……シャイだからさ。あの時、声かけておけばよかったって。本当、後悔した。探したんだ。ありがとう。それだけ言いたくて。俺、頑張るから。後悔しないようにこれからもっと頑張るから。だから、アンタも頑張れよ!」
 ギターの男はそう言うと、ダダダダっと走り去って行った。
 限には何のことはさっぱり分からなかったけれど、機絵のMDを握り締める手が少し震えていたのと、唇がちょっとだけ釣りあがっているのを見て、フーンと思った。

―2―

 大手柄だ! というほどでもないが、加藤敦は余罪に殺人事件という結構良いお土産を持っていて、萩はオブケから褒められた。母親を殺したということで、結構長い別荘暮らしとなるだろう。
 京都土産定番の、生八橋を部署の皆に配りながら、「これだから草間の手伝いはやめらんねぇなぁ」と心の中だけで呟いた。
「しかし。なんだ。ひょうたんから駒っていうのかねぇ」
 オブケ、岡本課長が眼鏡をずり上げながら、小さく呟く。生八橋をパクリと口の中に放り込んだ。
「休暇を上げたら、土産持って帰ってくるんだもの。アンタ凄いよ」
 そんなこと知っている。
 小さく自惚れて、シシシと笑った。
「俺、純粋っすから! 日頃の行いの良さが出るんだなぁ」
 萩はそう調子良く言って自分も生八橋にかぶりついた。

―3―

 シュラインだけ買物を済ませたことを知ると、雛太は「姉御だけずりぃいいいよぉおおおお。ずりいいいよおおおお」と声を荒げた。それだけならまだしも草間興信所のソファに座り、足をバタバタさせグズった。
「そんなに暴れないで。浴衣の隙間からいろいろ見えてるわよ」シュラインははーっと溜め息をつく。
 こ一時間ほど前、雛太はシュラインの買った白絣の浴衣をはにかみながら嬉しそうに受け取り、洋輔と二人なんだかんだと言いながら着こなしたのだが、「だって。俺だってファッションショーとかやって買いたかったもん! な! アイン!」と憎まれ口を叩くのも忘れなかった。
「僕は……ちゃんとお土産買いましたから」
 アインが笑顔で、京和菓子の包みを掲げる。いつの間に買物に行ったかは分からなかったが、要領の良いことだ、とシュラインは思った。
「俺だって、姉御の為に浴衣も一つも買ってやりたかったぜ?」と雛太が鏡の前で一人、小さく呟いたのは、優しさで聞かないフリをしてやることにした。聞かれたと知れば、落ち込むだろうから。

 今日は皆で、屋上に行き夕涼みをしようかと言っていた。
 武彦の為に買った深いグリーンの上布浴衣。早く袖を通してくれたところを見てみたい。
 そして今日ばかりは自分も少し、女性らしく振舞ってみようかと思う。自宅から浴衣を持ってきて、まだまだいけるんだから、と項を見せ付けてやるつもりだった。
 屋上での夕涼み大会には、アルバイト、久坂洋輔の送別会も兼ねられている。今回、依頼で一緒に京都へ行った洋輔だったが、その帰りのこと、どうやら昔の仲間らしき数人の人物に捕獲され再会を果たしたようだ。「戻ってこいよ。あれはもう、大丈夫だから」そう言われていたのを小耳に挟んだ。
 洋輔には洋輔で、いろいろな事情があったのだろう。「煩いのが減ってせいせいするわ!」と言ってやったが、淋しくなるなとは少し思った。
 けれどまぁ、もう二度と逢えなくなるわけではなし、洋輔は向こうでも興信所でやっていたようなことをトラブルシューターとしてやるらしいので、その繋がりで合うこともあるだろう、と考えることにした。

 夕涼みで食べる料理を作りながら、それにしても、とシュラインは考えていた。
 今回の依頼のことである。
 ケーナズから聞いた事件の全容と、その後それを持って逢いに行った時、神崎繭里の口から出た自白。
「私は。物じゃない。それを知らしめてやりたかったのよ」
 彼女はそう言っていた。
 シュラインが始めて繭里と逢ったあの時。繭里はシュラインと闘っていたのではない。それを飛び越え後ろ側に居る、啓三と戦っていたのだ。
 それは不幸せなのだろうか、と考えた。どうして闘う必要があったのか、とも。
 愛してくれる人が居るということは。それを恥かしげもなく現してくれる男性が居ることは、とても素晴らしいことに思えた。
 武彦さんなんて、絶対口に出すタイプじゃないものね。
 羨ましいと思うのは、隣の芝生が青いように見えるからだろうか。
 シュラインは小首を傾げて、ジャガイモの皮をむいた。




END



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 2525/アイン・ダーウン (あいん・だーうん)/男性/18歳/フリーター】
【整理番号 2254/雪森・雛太 (ゆきもり・ひなた)/男性/23歳/大学生】
【整理番号 0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【整理番号 1570/青島・萩 (あおしま・しゅう)/男性/29歳/刑事(主に怪奇・霊・不思議事件担当)】
【整理番号 3171/壇成・限 (だんじょう・かぎる)/男性/25歳/フリーター】
【整理番号 3523/登江・機絵 (とえ・はたえ)/女性/19歳/大学生(休学中)】
【整理番号 1481/ケーナズ・ルクセンブルク (けーなず・るくせんぶるく)/男性/25歳/製薬会社研究員(諜報員)】



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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
 思想の壁にご参加頂き有難う御座いました。
 執筆者下田マサルで御座います。

 依頼を解決する道のりで、皆様の個性が出ればと思い書かせて頂きました。
 ご購入下さった皆様と
 素晴らしいプレイングやPCをお任せ下さった皆様の懐の深さに感謝致します。


 それではまた。何処かでお逢い出来ることを祈りつつ。
                       感謝△和  下田マサル