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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


黒光りする憎いヤツ〜G・O・K・I!〜

OPENING

「よし、ここも終わり、っと」
箒とチリトリを持った因幡・恵美が、あやかし荘のとある部屋から出て来る。
使われていない部屋の掃除をしようと思い立って2時間。既に二つの部屋が恵美の手によって掃除されていた。
「それじゃ、次はここっと……ん?」
『油菜の間』と記された部屋の扉を開けようとして、ふと、恵美の手が止まる。
カサ……
微かに、何かが居る気配がする。しかし、恵美の記憶では、この部屋に住人は居ない筈だった。
「勝手に住み着かれてる?……だったらやだなぁ」
実際、そういうことが無かった訳でも無い、ここは慎重に、とゆっくりと扉を引く。
扉を隙間から部屋の中を覗いてみるが、暗くてよく解らない。
しょうがなく、扉を開けて、光を取り込もうとしたその時。
「きゃっ」
部屋の中から出てきた何かに押し倒される。それは、黒く光沢を放つ体を持ち、触角を持つ―
「ご……ごき……」
そこまで呟いて、恵美は気を失った。

「どうぢゃ、恵美の様子は」
少し心配そうな嬉璃の声に、首を横に振る柚葉。
「うんうんうなってる……大きいの、とか、黒いの、とか言ってた」
「……一体何に襲われたのぢゃろうな」
何となく見当は付くのだが、あえてそれを言いたくない二人。
「……やっぱり、ゴキブ―」
「いかんっ、言うと現れるかもしれんのぢゃ」
嬉璃の言葉に慌てて口を閉ざす柚葉。
「とにかく、今するべきは恵美の敵討ちぢゃ、人を集めるのぢゃよ」
自分は関わりたくない、と嬉璃の雰囲気が語っていた。

Main
「注文どおり、買ってきたのぢゃ」
「あぁ、ありがとうございます」
宅配便の人間らしき者と共に現れた嬉璃に、笑顔を向けるシオン・レ・ハイ。
「こんなもので本当に大丈夫なのぢゃ?」
「えぇ、タイタニックに乗った気分で居てください」
「……大船と言いたいのだろうが、沈んだのぢゃ、それ」
目を細める嬉璃。しかし、些細な事をシオンは気にしない。そんな彼の周りに、大量のダンボール箱が置かれていく。
「さてと、どれから使いましょうか」
「シオンさ〜ん、そっち終ったらこっち手伝ってくださいよ〜」
庭で何やら大工作業をしている天壬・ヤマトが、シオンに声をかけた。
「はいはい。しかし、どれくらいの大きさのものを作ればいいんでしょうね」
「一匹居たらやっぱ三十匹は居るでしょうから、そうとうでっかいの作らないといけないっすね」
巨大な木板をノコで切りつつ、ヤマトが応える。
「それならいっそ、あやかし荘に専用室を作ってしまった方が早いかもしれません」
「それは駄目なのぢゃ!」
「あぁ、そうですか」
起こる嬉璃に残念そうな顔を向けるシオン。
「俺は別に嫌いじゃないんっすけどね。でも、女の人はやっぱり黒くて油でぴっかぴかで触覚がうにょうにょしてるデカイヤツなんて気持ち悪いんでしょうね」
「女性の敵は私の敵です。ただ大きいだけで罪は無いでしょうが、殲滅させて貰います」
と言いつつ、内心、ペットとして売ったら誰か高値で買うかな、と不埒な事を考えたりもしているシオン。
「しかし、私達三人だけで何とか出来ますかねぇ」
「なんとかなるっしょ」
「…………何の話?」
先程から黙りこくっていた三人目が、震える声を出した。
「え、巨大ゴキブリ退治でしょう?」
「だろ。新座さんもゴキブリ退治に来たんですよね?」
さも当たり前のように言い放つ二人の言葉に、顔を青くする新座・クレイボーン。
知り合いに言われて来たのだが、何故か詳細は教えてもらえなかった。犬か猫かを退治する仕事だとばかり思っていたのだが、まさかゴキブリとは。
「ほ、本当に、ゴキブリ?」
「そうですが」
「そうっすけど」
同時に肯く二人。二人の返答が真実だと気付いた新座はがくりと肩を落とす。
ゴキブリに良い思い出は無い。というか、良い思い出のある人間が居たら会って見たい。
「おれ、帰る」
「バイト代は先払いでしたよね」
ビクッ。
逃げ出そうとした新座の足が止まった。
「そうなのぢゃ。止めるというなら金を返して欲しいのぢゃ」
「あ〜、おれちょっと今持ち合わせが」
銀行に行くなりすれば、相応の金はあるのだが、それは嬉璃が許してくれないだろう。
「無事生き残りましょうね」
「そうそう、お互い助け合おうな」
「いや、ゴキブリ退治に何でそんな台詞を」
そんな三人の姿を、影から見つめる黒いナニモノカが居た。

「オレ、冗談で言ったんっすけど」
「いや、私は本気でしたよ」
「……どっちでもいいから帰ろうよ」
三者三様の感想を抱きつつ三人が見上げるのは、強化紙で作られた巨大な家―もとい、ゴキブリホイホイだった。中には釣り餌の果実類と、巨大なホウ酸団子が入っている。
「こんなもんで来るのか?」
「大丈夫です、タイタニックに乗った気分で居てください」
「それは沈むから覚悟しろって事なのか?!」
新座の叫びから三十分後。
ガタガタと縦横に振動するホイホイの前に三人は居た。
「来たな」
「来たね」
「来ましたね」
本当にこんなのに引っかかったのかよ、という共通した感想を抱きつつ、そろそろと巨大ゴキブリホイホイに近付いていく。
ピタリ。
「あ、逃げるな」
「一蓮托生ですよ」
「止めてくれよ怖いって言うか嫌だっていうかなんつ〜かもうヤダ、ホント」
ガシッ。
シオンとヤマトの二人に服を捕まれた新座が、目の線涙を流しながらホイホイへと連れて行かれる。
「さて、もしかして柚葉さん辺りが中で遊んでいる可能性もありますし、確認しなければいけないのですが……」
ちらっ。
「そうだな、ちゃんと巨大ゴキブリが入ってるか確認しないといけないよな」
ちらちらっ。
「……おれ?」
「「勿論」」
「い〜や〜だ〜い〜や〜だ〜い〜や〜だ〜」
駄々をこねる新座を、ぽん、っとホイホイの方へ押しやるシオンとヤマト。
「何でおれなんだよぉ」
既に涙も枯れ果てた、という風な感じでげっそりと顔をやつれさせつつ、新座が恐る恐るホイホイの中を覗き込―もうとした、瞬間。
カサカサッ
シオンとヤマトの間を黒いナニモノカが駆け抜け、巨大ゴキブリホイホイに突撃した。そのまま、何処へと走り去っていくナニモノカ。
元々紙製のホイホイはそれに耐え切れず、崩壊する。
ガサササササッ。
「ぁ……」
新座のすぐ横を、ホイホイから逃げ出した巨大ゴキブリ達が駆け抜けていった。
「逃げられましたね」
「逃げられたな」
意外と冷静なシオンとヤマトの目の前で、新座がぱたりと倒れた。巨大ゴキブリは少し刺激が強すぎたらしい。
そんな三人を、柱の影に移動した黒いナニモノカが見つめていた。

このまま退治しようとしても、いつまた巨大ゴキブリが現れるか分らない。
それなら、ゴキブリ達に山に行ってもらうように交渉しよう、という案で、会談が行われようとしていた。
「〜♪」
ヤマトの口笛が響く。
その音に呼応するように、数匹の巨大ゴキブリが現れた。
その中で一番大きな巨大ゴキブリが、ヤマトの前でぴたりと止まる。
「あれが長みたいですね」
「ゴキに長なんて居るのかよ」
巨大ゴキブリに渡す供物を準備しつつ、シオンと新座が言葉を交わす。
「〜〜♪」
ヤマトの口笛に合わせるように、触角を左右に揺らすゴキ長。
「ささ、これを受け取ってさっさと出て行け……いや、山にお帰りになってください」
「今、一瞬素が出ただろ」
そんな会話を交わしつつ、二人が差し出した供物は一度で二度効く例のアレ。実は全然山で暮らしてもらう気は無かったりする。
「〜〜〜♪」
ヤマトの表情が曇る。それに合わせるように、ゴキ長の触覚が激しく動いた。
「何か、交渉難航してますね」
「いや、まあ、そうだろうな」
やがて、ヤマトが諦めたように溜息をつく。ゴキ長も、諦めたような……かどうかは分らないが、ヤマトから離れ―ようとして、その体が止まった。
「ふっふっふ」
「あ、あんた何かしてたな」
怪しげな笑みを浮べるシオン。ビシッ、っとゴキ長の居る床を指差した。
「交渉決裂の場合を考えて、ヤマトさんの前に粘着マットを敷いておいたのですっ!」
「「おお〜」」
パチパチと拍手するヤマトと新座。
「そして、今度はこれ」
二人に、ボンベのような消火器のような謎のブツを渡すシオン。
「何コレ」
「これは、必殺の泡で固めよう消火器なのですよ」
「つまり、これで固めればゴキはもう見えないと?」
「そうです」
大きく肯くシオンに、円満の笑みを向ける新座。
「これで終わりだっ!」
泡で固めよう消火器のホースの先をゴキ長に向ける新座。
「ちょっと待った!」
それを手で制するシオン。邪魔するな、とでも言うような新座の視線を受け流し、首から下げていた生命反応探知機を見る。
「大量の生命反応が近付いてます」
「大量?」
聞き返したヤマトが、最初の犠牲者だった。
カサカサカサッ!
「おわっ」
ドンッ。
現れた巨大ゴキブリに体当たりされ、壁際に弾き飛ばされるヤマト。
「大丈夫で……え」
心配の声をかけようとしたシオンの言葉が止まる。その視線の先を目で追った新座の表情が固まった。
カサカサカサカサッ。
「大量の生命反応とは、こういうことですか」
「ギャァァァァァァァァァ!!!」
驚きすぎて逆に冷静なシオンと、感情に忠実な新座。その二人の足元で、色も大きさも様々なゴキブリ達が蠢いていた。
「あ、長逃げたっ」
果敢にタックルしてくる巨大ゴキブリをなんとかかわしたヤマトが叫ぶ。
その声と同時に、ゴキブリ達が一斉に引いた。
塵一つ、ならぬゴキ一匹居なくなった部屋の中で、呆然と立ち尽くす三人だった。


三人の元から逃走したゴキ長は、あやかし荘を出て、すぐそばに止めてあったワゴン車の中に入って行く。
それを確認して、ワゴン車の運転席でニヤリと笑う男が居た。その頭からは、二本の触覚が伸びている。男の名は、御器所・黒朗。しかし、それは世を忍ぶ仮の名。その正体は、テクニカルインターフェイス社の作り出したゴキブリ人間、ザ・コックローチである。
社の命令で巨大ゴキブリ回収に動いたザ・コックローチ。しかし、あやかし荘にはシオン、ヤマト、新座の三人が居た。やむなく、姿を隠しながら巨大ゴキブリを護る為に活動していた。
「我輩の能力を使えば、楽なものだ」
ザ・コックローチのもつ能力、それは、ゴキブリを操る能力。それを使い、あやかし荘周辺のゴキブリを総動員してゴキ長を護ったのだった。そして、その能力によって、今は巨大ゴキブリを回収している。
次々とワゴン車に乗り込んでいく巨大ゴキブリ。やがれ、その列が途切れる。
「ふむ、これくらいで良いだろうな」
呟くと、ワゴン車を発進させるザ・コックローチ。
それから、あやかし荘で巨大ゴキブリを見た者は居ないという。

「でっかくて黒いのも居なくなったし、これで一安心」
体調……というより心調も回復し、再び掃除を始めた恵美。
倒れていた間掃除を怠っていたのを挽回しようと、いつもより気合を入れて頑張っていた。
「……ん?」
ふと、その手が止まる。
「……まさかね」
視線の先には空き室。そこで何か気配がしたような気がする。
「あれだけ頑張ってくれたのに……まだ居る?」
新座などはペットに愛想つかされるまでの災難にあっているのだが、ゴキブリの繁殖力は侮れない。
デジャビュを感じつつ、空き室の戸をゆっくりと開ける恵美。
「誰も居ない……よね」
部屋の中には誰も居ない。左右を見渡してみてもゴキブリの気配は無かった。
「良かったぁ」
安心して少し涙目になりつつ、恵美が戸を閉める。
闇に閉ざされた部屋。
カサカサ……。
天井に張り付いていた黒いヤツが、ゆっくりと姿を消した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん 今日も元気?
 1575/天壬・ヤマト/男/20/フリーター
 3060/新座・クレイボーン/男/14/ユニサス(神馬)・競馬予想師・艦隊軍属
 2820/ザ・コックローチ/男/22/テクニカルインターフェイス社破壊工作員
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■         ライター通信          ■
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初めまして、渚女悠歩です
憎まれ者の黒いヤツを題材に何か作れないかと思って出来た今回の依頼、どうだったでしょうか。
ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたらお気軽にお手紙くださいませ。

今回は、全員が初参加でした。発注くださってありがとう御座います。
ザ・コックローチ様は、他の三人と行動が競合しておりましたので、プレイングを生かせなかったかもしれません。
そのお詫びといってはなんですが、個人のシーンを作らせて頂ました。

初仕事から数えて丁度一週間。これで無事に納品数10を越える事が出来ました。これも、発注してくださった皆様のお陰です、この場を借りてお礼申し上げます。
それでは、また次の依頼でお会いしましょう。