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夏祭り
------＜オープニング＞--------------------------------------
「のぅ、貘……妾から提案があるのじゃ」
「なんです？」
首を傾げながら貘は嘆きの湖からいつものように抜け出てきている漣玉に尋ねる。
ふふふっ、と妖艶な笑みを称えた漣玉は貘の頬にするりと触れ囁いた。
「妾の手は冷たいであろう？……嘆きの湖も冷たいのじゃ」
「……そうでしょうね。夏にはとても良いと思います」
水音も涼やかですよね、と貘がニッコリと微笑むと漣玉も微笑む。
「そこでじゃ。夢紡樹が主となり、嘆きの湖で納涼大会などやってはどうじゃ？」
「……お好きですか？」
「妾は賑やかな事が好きじゃ」
そうですか、と呟いて貘はエドガーを振り返る。
「どうします？エディはやりたいですか？」
透明なグラスを拭いていたエドガーは、いいですね、と柔らかな笑顔を浮かべた。
そして貘に触れる漣玉を面白くなさそうに見つめていたリリィも声を上げる。
「リリィもやりたいっ！だって、それって嘆きの湖をプールにして良いって事でしょ？ボート浮かべてもいいし、泳いでも良いんでしょ？」
やったぁ！、と小悪魔的な微笑みを浮かべるリリィに漣玉は眉をしかめた。
しかしここは大人の余裕でリリィに嫣然とした笑みを浮かべてみせる漣玉。
「そうじゃな、子供は大いに遊ぶがよい」
見守っていてやろうぞ、と漣玉は声を上げて笑った。
「子供ってねぇ……！」
ぎゃんぎゃんと喚くリリィを無視して貘とエドガーは日取りを決める。
どうせなら大人数で楽しむべきだろう、この場合。
かくしてここに初の夢紡樹納涼祭が執り行われる事が決定した。
------＜お誘い＞--------------------------------------
「んー、満足ｖ」
ぺろりとテーブルに並べられた甘味を完食した嘉神真輝が満足そうな笑みを浮かべエドガーに礼を述べる。
「いいえ。こちらこそ、いつもいつも貴重な意見ありがとうございます」
エドガーは真輝の前に珈琲を差し出しながらにこやかな笑みを浮かべる。
甘味帝王こと真輝に新作のデザート類を試食して評価して貰い、実は店の方が助かっている。
真輝からオーケーが出れば毎回それがヒットするのだ。
喫茶店『夢紡樹』の守護神とも言えるのではないか。甘味類に関しては影の支配者……とも言える。
そこへ、ふふふーっ、と笑みを浮かべたリリィがやってきて言う。
「マーキちゃんｖ」
「聞かないぞ」
「まだリリィ何も言って無いじゃない！マキちゃんの名前読んだだけなのに！」
ぷう、と頬を膨らませたリリィが真輝に言う。
しかし真輝はいつもと同じくリリィの攻撃を回避するべく無視する方向だ。
「大体なんとなく分かったから却下」
「だからまだ何も言ってないってば、マキちゃん！せっかくお誘いしようと思ったのに」
それじゃぁ来なければいいでしょ夏祭り、とリリィはヘソを曲げてしまう。
しかし最後の言葉は十分に真輝を引きつけたようだ。
『夏祭り』という言葉は。
「は？夏祭り？何それ、随分面白そうだな」
真輝が声を上げるが、それに対しリリィからのコメントはない。
苦笑しながらエドガーが真輝に説明する。
「今度漣玉さんの提案で、嘆きの湖で夏祭りなどをやろうという話になったんです。それで、明日なんですけどお時間宜しければ遊びに来ませんか？」
湖でも泳げますしお菓子もたんまりですし、屋台も出ますし、とエドガーが言うと真輝の表情が輝く。
「あ、俺もちろん参加の方向で。夏祭りは楽しそうだし」
お菓子も食べれそうだし、と今まで散々食べたにも関わらずそんなことを言う。今日食べたものと明日食べるものはもちろんの如く別腹で、甘いものはいくら食べても飽きないのだった。
「それではお待ちしてますね」
エドガーが笑いかける。その横でリリィはとても面白くなさそうな顔をしていたが、にんまりとした笑みを浮かべ真輝に告げた。
「マキちゃん、リリィ、マキちゃんの為に色々頑張るから。楽しみにしててね」
「いや……それは遠慮したいんだがな……」
しかし、リリィはそんな真輝の言葉を聞く前に楽しそうにスキップをしながら消えていったのだった。
------＜夏祭り＞--------------------------------------
夏祭り当日、真輝は夢紡樹に向かう途中で花火を大量に購入して上機嫌だ。
これから向かう先にはたんまりと真輝の好物の甘味が待っているわけで。
にやけずにはいられない。
咥え煙草で真輝は夢紡樹へと向かう。
夢紡樹の前には屋台が何軒か出ており、夏祭りらしい雰囲気を醸し出している。
真輝はそれらを眺めつつ、夢紡樹の扉を開いた。
「お祭りご招待ダンケ♪ほい、コレ花火の差し入れ。日が落ちて涼しくなったら皆でやろう」
「マキちゃん、いらっしゃーいｖわーい、花火だ花火！」
真輝から花火を受け取り既に可愛いらしい水着を着たリリィは嬉しそうな表情を浮かべ飛び跳ねる。
「じゃぁ、マキちゃん。リリィと一緒に泳ごう！」
「いや、俺は店の中で待機。日本の暑さって何年たっても慣れないんだよね……」
はぁぁぁぁ、と真輝はカウンターに突っ伏す。
自分で言って、外の暑さを思い出したらしい。
ここに来れば甘いものが食べられるからと、必死に暑さを忘れてここまでやってきたというのに。
がっくりと項垂れた真輝を見て、リリィが不満の声を上げる。
「えーっ。せっかくマキちゃんと遊ぼうと思って計画立てたのにー！」
「でも俺はやっぱり此処にいたいわけで。エドガーのパフェとか食って……ぁあ？」
「いーやーだーっ！」
ぎゅぅっ、と真輝の手を掴みリリィは思い切り引く。
「リリィね、マキちゃんをオモチャにする会に入ったんだもん。だからね……会員権限で楽しくマキちゃんと遊ぶの！」
「ちょっと待てー！なんだそれはっ！」
ぎゅうぎゅう、と真輝を引っ張るのは少女の力ではない。
姿は少女でもリリィの身体は人形で、そして中身は夢魔である。
渾身の力を込めてリリィは真輝を引っ張り、そして湖へとやってくる。
真輝も本気で振りほどこうと思えば振りほどけるのだが、無理に振りほどくと怪我をするのではないかとその手を止めている。
そして引きずられていることよりも前に、あの会の魔の手が此処まで伸びていたのかと真輝は恐ろしくなった。
「それじゃ、マキちゃん一緒に泳ごうね〜！」
どんっ、と真輝を湖に突き落とす冥夜。
そして自分も水に飛び込む。
「きっもちいい〜！ほら、マキちゃんも暑さなんて吹っ飛ぶでしょ？」
にこりと微笑んでリリィが告げる。
服を着たままの水浴びに、咥えていた煙草が水面にぽろりと落ちる。
「服が重い………」
「だーかーらー。水着に着替えればいいじゃない。そしたら動きやすいしｖ」
にっこりと笑顔を浮かべたリリィに、はぁ、と溜息を吐いて真輝は湖から上がる。
ぽたぽたと服からたれる雫をそのままに、顔にくっついた髪を掻き上げとぼとぼと店内へと戻ろうとする真輝の足をひょいと引くリリィ。
またしても真輝は湖の中へ逆戻り。
真輝は頭から雫を垂らしながら、リリィに極上の笑みを向ける。
「リリィ……天誅！」
「きゃぁっ！」
ざばぁぁぁぁっ、と真輝は両手で水を掬い上げ目の前のリリィの顔面に水をかける。
「おもしろーい。もっともっとー！マキちゃんこっちー！」
完全にリリィに遊ばれている真輝。
なんだか面白くなくて真輝はムキになって泳いで逃げるリリィを追い回す。
「きゃー。マキちゃん此処までおいでー」
水の抵抗など無いように動き回るリリィに真輝はついていくので精一杯だ。
暫く追いかけ回していた真輝だったが、糖分が足りん、とリリィが水の中に潜って逃げている間に戦線離脱。
「ふっ‥水も滴るイイ男ってか。リリィに余計なモノ与えやがってあの馬鹿ボンめ、後で絞めてやるっ」
ぐっ、と拳を握り真輝はずぶ濡れのまま店内へと向かう。
中に入るとエドガーがタオルを用意して待っていてくれた。
「すみません、なんだかリリィが……」
「あー、それは別にいいんだが……某会がなぁ……負けるもんか、これしきでっ！っつーわけで、元気を補充するためにも甘味をどっさりとよろしく」
はい、とにこやかな笑みを浮かべてエドガーは真輝のリクエストに応えるべく作り始める。
ぐったりしつつ真輝がカウンターに突っ伏していると、リリィが店内へと入ってくる。
しかし今の標的は真輝ではないらしい。
今度は人形に浴衣を着せていた汐耶を湖に誘っているようだ。
真輝は自分ではないのなら良し、とエドガーの作っている様子を眺め頬を綻ばせる。
甘い香りが漂う店内にいるとそれだけで幸せを感じてしまう。
目の前に置かれた温かなココアも冷えた身体に心地よい。
ちらり、と窓から外を眺めるとリリィに引きずられていく汐耶が見えた。
ご愁傷様、と思いつつ、真輝は目の前に置かれた今焼き上がったばかりのプティングと特大パフェに目を輝かせる。
「やっぱこうこなくちゃな」
真輝は嬉しそうにプティングを口にし、ニッコリと微笑む。
カラン、と音を立てて扉が開き先ほどまでセレスティと和やかに話をしていた漣玉が入ってくる。
「なんじゃ、其方はもう泳がんのか？先ほどは随分楽しそうであった。今はもっと楽しいことになっておるぞ」
漣玉が真輝の隣に腰掛けそのような言葉をかけると、真輝は頬を引きつらせる。
あれが楽しそうに見えるというというのはどういう訳だろうと。
しかし真輝は気を取り直して漣玉に尋ねる。
「楽しそう……って……まぁ、いいけど。で、何が楽しいって？」
「湖がよくテレビで見るような流れるプールと化しておる」
「……は？」
「あやつもなかなか良い遊び心を持っておる奴よの」
コロコロと漣玉は楽しそうに笑う。
「流れるプールねぇ……まぁ、楽しそうだからいいんじゃないのか」
真輝は、関係ないし、と目の前のパフェを頬張る。
「ところで漣玉とか言ったっけ？‥一番新参者なのにリリィに負けてないな。というより押されてるか？リリィの方が…」
「其方は……もう少し周りをよく見て話した方が良いかもな。甘味が目の前にあると忘れるようだが」
漣玉が含みのある笑顔を浮かべる。
「は？…なんか嫌な予感が……」
「マーキちゃんｖ一緒に流れるプールで遊ぼうねぇ」
苦笑したまま真輝の表情が固まる。
いつの間にかやってきていたリリィが真輝の手をがっちりと掴む。
そして先ほどと同じようにズルズルと引きずっていった。
「俺のパフェー！」
真輝の悲痛な叫びが店内に響いた。
「早い早いー！マキちゃん。リリィ流されちゃう〜！」
「あー、いいんじゃないか？別に。どうせ湖内に流されるだけだからな」
冷静な真輝の言葉に面白くなさそうなリリィ。
「ねぇねぇ、もう少し複雑な動きしてると面白いなぁ」
そんなリクエストをセレスティに向けるリリィ。
セレスティもそのリクエストに乗って水を自在に操ってみせる。
「いや、俺はいいから！もう結構！」
真輝の付近のみ局地的に波が荒くなっていた。そしてそのままくるくるとリリィと共に湖中をぐるぐると回る。
「水遊びは良いから俺にケーキを食わせろぉぉぉぉぉぉっー！」
ごぼごぼと沈んでいきながら真輝の悲痛な叫びが湖にこだました。
------＜花火＞--------------------------------------
リリィに散々湖に突き落とされ、ずぶ濡れになったこと数回。
ぐったりとした真輝にエドガーはたんまりと甘味をご馳走し、温かなキャラメルミルクティを差し出す。
「マキちゃん楽しかったねぇｖ」
ニコニコと至極ご満悦なリリィに真輝はキャラメルミルクティを口にしながら告げる。
「オカゲ様デスッカリ涼シクナリマシタヨ」
片言の日本語で真輝は返し、何回突き落とされたやら、と大きな溜息を吐く。
そんな事を口にしていたが目の前には大量の真輝好みのお菓子が並び、実のところ真輝の機嫌は直っていた。
「ねぇ、マキちゃん……でもあの姿みたいなぁｖ」
ぴくり、と真輝の頬が動く。
あの姿、とはあのすがたのことだろうか。
「髪の毛ざーって長くって、マキちゃんがとーっても可愛かったアレ。リリィの服貸すから、ね？」
「…ね？じゃない。いくら待っても今日はアレにはならないぞ」
何処か遠い場所を眺めながら真輝が告げるとリリィは、残念、とがっくりと肩を落とす。
「けっこう楽しみにしてたのにナァ〜」
はにゃん、とリリィは持ってきていた袋から素晴らしい位レースのついたドレスを取り出す。
「これ、マキちゃんに来て貰おうと思ってたのに。天使みたいで、妖精みたいで可愛いと思ったのに……」
真輝は開いた口がふさがらない。
どう外見が変わろうと、男なのには変わりはなく、中身も真輝のままなのだ。
こんなものを着てたまるか、と真輝は心の中で叫ぶ。口に出していったら最後、またリリィに水の中に突き落とされかねないので、必死に黙っていたが。
「あ、そうだ。花火しようよ、花火！」
リリィが声を上げると、そうですね、とエドガーが微笑む。
「皆さんが持ってきて下さった花火はこちらに」
貘が奥から籠に入れた大量の花火を持ってくる。
打ち上げ花火やらなにやらがたくさん詰まっていた。
そして丁度店にいた真輝とセレスティと汐耶と夢紡樹の人々で花火をすることにする。
外にいた人々にも花火を配り、思い思いに花火を楽しんで貰う。
空に満天の星が煌めく頃。
嘆きの湖に空に輝く花が反射して煌めく。
真輝はリリィと一緒になって打ち上げ花火に火を付ける。
「おっしゃぁ！行けっ！７連発♪」
「いっけぇぇっ！」
勢いよく花火が飛び出し、夜空に花を咲かせる。
綺麗な色が空に咲く度に、周りからも歓声が上がる。
「マキちゃん、次コレ！」
リリィが真輝に手渡したのはロケット花火。
コレはなぁ、とニヤリと笑みを浮かべた真輝は、丁度良い台を持ってきてそこにロケット花火を並べていく。
角度を一律に、そして空に向けて設置する。並ぶ数は２０本。
周りに人が居ないことを確認して、真輝は一気に２０本に火を付ける。
「ロケット花火２０連発っ！」
ひゅーん、という音と共に弧を描く光。
そして乾いた音が夜空に響く。
次々と上がる花火の音に周りも皆空を眺める。
「楽しいねぇ」
楽しそうなリリィの笑顔に、先ほど突き落とされたことも忘れ真輝も笑みを見せる。
煙草を銜えながら、ほれ、とリリィに線香花火を渡して、煙草で火を付けてやる。
「うわっ……マキちゃん落ちちゃう、落ちちゃう」
「大丈夫だって。もう少し大人しく持ってないと……ぁ」
リリィは球が出来てから膨らんでいく途中、それが揺れて落ちそうになる度微妙に動き自ら落としてしまう。
しゅん、としたリリィにもう一度花火を持たせ、自分も花火に火を付けた。
そして真輝はリリィに線香花火の持ち方を教えてやる。
「これはこうやってだな……」
「あーっ。小さい火花出てきた！」
嬉しそうに声を上げたリリィに真輝は笑みを浮かべる。
しかしリリィがわーいと動く度に、線香花火は揺れ、先の橙色に光る球が落ちてしまう。
「あーっ。でもでもやっぱ落ちちゃった！」
「んじゃ、俺のやるから」
そう言って自分の持っていた線香花火の先を、リリィの線香花火の先にくっつける。
そしてそっと離すとそれはリリィの線香花火の先でパチパチと弾けだした。
「おっきくなった！」
ニッコリと笑みを浮かべ、今度こそ落とさないようにリリィは真剣に花火を見つめる。
そんな様子を見て、真輝は空を見上げた。
自分の生まれ育った場所で見た夜空とは似ても似つかないほど、星の数が少なく見えたがやはり同じ地球から見る星空で。
こうやって、皆で楽しく過ごしている今も悪くないと思う。
「なんだかんだ言って楽しかったしな」
そんな小さな真輝の呟きを聞き逃さなかったリリィは、えへへ、と笑う。
「あったり前でしょ！リリィ、絶対楽しめるように計画したんだから」
そう告げて真輝にもう一本線香花火を差し出し、自分でも線香花火を持つ。
「もっと大きい火球作ろう、マキちゃん」
はいはい、と真輝は線香花火に火を付ける。
こうして花火が無くなるまで夢紡樹主催の納涼祭は続いた。
人々の笑顔と綺麗な花火がいつまでも湖に映し出されていた。
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■登場人物（この物語に登場した人物の一覧）■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
●2227／嘉神・真輝／男性 ／24歳／神聖都学園高等部教師（家庭科）
●1883／セレスティ・カーニンガム／男性／725歳／財閥総帥・占い師・水霊使い
●1449／綾和泉・汐耶／女性／23歳／都立図書館司書
●1574／霞・優舞／女性／20歳／特殊薬剤調合師
●2861／神威・飛鳥／男性／18歳／封術士
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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。夕凪沙久夜です。
今回は久々の大勢でのノベルでしたが、如何でしたでしょうか。
真輝さんは、リリィによって水も滴るいい男に何回なって下さったのでしょうか。（笑）
ありがとうございました。
そして今回も真輝さんを動かせてとても楽しかったですｖ
他のものに関しても近い内にお届け出来ると思いますので、お待ち下さいませ。
ありがとうございました！
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