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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Let's海水浴!

●オープニング
ある暑い日のことである。

――――プラントショップ『まきえ』関係者は、揃って海水浴へやってきていた。

「青い空!」
ビシィッ!と水着の上にパーカーを羽織った崎が空を指差して叫ぶ。
「白い雲!!」
それに倣うように、水着着用で、腹に耐水性の包帯を巻いて同じくパーカーを羽織った希望がふわふわと漂う雲を指差して叫ぶ。

「そして――――輝く太陽を映しだす水の鏡!!」

男物の水着にシャツを羽織った葉華が、嬉しそうに下を指差して叫ぶ。


「「「海だ――――――ッ!!!!!」」」


喜んで駆け出す3人の先には――――太陽の光を反射して輝く、海があった。

「3人とも…嬉しいのは解りますけど、気をつけてくださいね…?」
浜辺にパラソルを立てながら黒のワンピースの水着にパーカーを羽織ったまきえが苦笑気味に言うと、離れた所から『おー!』ときちんと聞いているのか怪しい返事が返ってくる。
「ふふ、若い者は元気でよいのぉ」
ピンクのパレオの水着を着て、前を開けたパーカーを着た櫻がくつくつと喉を鳴らして3人を見る。
髪はポニーテールにされていて、一応考慮してあるのか、桜色の髪は腰までの長さに揃えられていた。
「まぁ、元気なのはいいことなんですけどね…」
水着の上にやはりフード付きのパーカーを羽織った聡が、荷物を置きながら苦笑気味に頷く。

「―――あれ?そう言えば、ボブはどこに…?」
先ほどまでは一緒に車に乗っていたはずなのに…。
そう呟きながら辺りを見回す聡に、まきえは笑顔で頭上…パラソルを指差した。

「ボブなら…さっきからそこにいますよ…?」
「……え?」

きょとんとして聡が上を見上げるが、そこにあるのは黒いパラソルの内側だけ。
「母さん、黒いパラソルのどこにボブが…」
そこまでいったところで、聡ははっとして顔を青くした。

―――まさか。
頭の中を過ぎった嫌な予感を振り切って、聡は慌ててパラソルの外へ出る。

――――そこには。
「ぼっ…ボブッ!?」
布の部分を広げられた挙句しっかり骨組みを取り付けられ、見事にパラソル代わりにされた憐れなボブの姿が…。
心なしか表情が情けなく、今にも泣きそうな感じが…。

「か、母さん!!ボブを今すぐ降ろしてよ!!
 普通のパラソル持ってきてるでしょ!?」
「それは勿論そうだけど…いいじゃない、そのままでも…」
「駄目です!!!」
「…そう…?」
どことなく不安そうな顔ながらも、まきえはボブを開放した。

そんな騒がしい面々を呆然とした顔で見ているしかなかった貴方達。
しかしそれに気づいた聡が、困ったように笑って振り返る。


「騒がしくてすみません。
 まぁ、今日は手伝いしてくださったお礼ですから、たっぷり楽しんでいってくださいね?」
そういって微笑む聡に、貴方は笑ってこくりと頷く。

「聡ー!!今から希望たちとビーチバレーするから審判やってくれー!!」
「あ、はーい!今行きますー!!」
大きく手を振って聡を呼ぶ葉華。近くには希望、崎、櫻の姿もある。
その声に返事を返すと、聡は小さく会釈をして葉華達のいる方に向かって走り去って行った。


――――――さて、これからどうしようか?


●不快指数上昇中?
それぞれがあちこちでわいわい遊びまわっている中。
…座り込んで超不機嫌顔でタバコをふかす人間が一人。


――――――嘉神・真輝だ。


「暑い…」

折角海に着たというのに、あまりの暑さと予想以上の晴天・高気温の為に動く気を一瞬にしてなくしたようだ。
体育座りで遠い目しつつ、さっきから延々と煙草を吸い続けている。
しかし最初から泳ぐ気はなかったようで、格好はラフな私服だ。
なんだか無理やりつれてこられました的なオーラが溢れていそうで、なんとも言えない。

「…まったく、せっかく海にきたと言うのにその不景気な面はなんじゃ、お主」

上から降ってくる呆れたような声とパラソルを通して差し込む薄明かりも遮る影に、真輝は面倒くさそうに顔を上げた。
そこに立っているのは―――腰に手を当ててかがみ込むように真輝の顔を覗き込む、櫻。
スレンダーな割にはきっちり出るトコ出ていて、バッチリ美女だ。
…これが精神体が実体化しているだけだと誰が想像するだろうか。

櫻はなんとなく変な方向に思考を吹っ飛ばしている真輝に深々と溜息を吐くと、すとんと隣に座り込んだ。
その動きで若干生ぬるい風が頬を撫で、真輝は思わず目を細める。

「…なんで日本の夏って毎年こんなに暑いんだ…?」

思わず口をついて出たのは疑問系ながらほとんど独白…いや、愚痴と言った方がいいような内容で。
その言葉に思わず苦笑する櫻を横目で見ながら、真輝は更にぼやき続ける。

「…スイス帰りてー…」
「おぬし…女々しいのぅ…」

遠い目をして故郷を思う真輝を見て、櫻は冷たい声でぽつりと呟いた。
「めっ…女々しいって何だよ!!」
「おや?そんなこと言うたかのう?」
聞き捨てならない台詞に真輝が目を吊り上げて叫ぶと、今度は知らん振りで返される。
思いっきり怒鳴ってやろうかとも思ったが…暑さのせいで一気にやる気が萎え、これ以上体力をムダに消費する気にもなれず、真輝は疲れたように上げた腰をすとんと落とした。

「おや、もう止めるのか?」
「……これ以上騒いで体力使いたくねぇ…」
そう言ってうなだれる真輝に、櫻は相当参ってるのぉ、と口元に手を当てて小さく笑う。
それを不快そうに睨みつけ、真輝は疲れたように頭にタオルを乗せて口を開く。

「…なぁ櫻」
「なんじゃ?」
思いがけない問いかけに不思議そうに聞き返した櫻に思わず満足げに上げた口の端はすぐに不快気に下がり、真輝はぼーっと遠くを見ながら呟いた。

「……お前、なんか涼しく出来ちゃったりとかは出来ないワケ?」

―――――――――間。

「…おぬし、わしをなんだと思っておる…?」
「『櫻』。」

呆れたように真輝を見ながら問いかける櫻に、きっぱりはっきり返される真輝の声。
…そりゃそうだけど…なんか違うような…。

相当暑さにやられてるのだと思い込むことにした櫻は、疲れたように眉間に指を当てると、はぁ、と深々と溜息を吐いてみせる。
とは言っても溜息を吐く役割はどっちかと言うと真輝に偏りまくっているので、櫻の溜息姿はイマイチ様になっていない。
…まぁ、様になっていると言われても素直に喜べる人はいないだろうが。
とにかく溜息を吐いた櫻は、呆れたように口を開いた。

「…わしは櫻の精であって、気象や空気などの周囲の温度を司るものとは別物じゃ。
 そこのところを、少々勘違いしてはおらぬか?」

そう言いながらどこからともなく出した扇でこつん、と真輝の額を小突く。
それにやや不満そうに頬を膨らませる真輝に小さく笑った櫻は、皆がはしゃぐ海を指差した。
「少しでも涼をとりたければ海に入ればよかろう?
 やや温ま湯状態ではあるが、此処でうだっているよりは恐らく涼しいぞ?」
水着だって今から買おうと思えばその辺の店のどこかで売っておろう。と付け足されたその言葉に、真輝はちらりと海に視線を向けた後―――ぶんぶんと顔を左右に振る。

「俺日焼け得意じゃないから泳ぐのパス」
どうも真輝の肌は厄介な性質で、どれだけ日に当たっても焼けるどころか真っ赤になって死ぬほどヒリヒリするだけで、真っ白なまま…だったりするのだ。
健康的に黒くなるなら多少は我慢できようが、どんなに日に当たっても痛みだけで肌の色はこれっぽっちも変わらないのなら、やるだけムダ、と言うものである。

そんな地獄は味わいたくない、とばかりに嫌そうに眉を顰めた真輝に思わず苦笑した櫻は、そうか…と呟いて立ち上がった。
―――ただし、ぽいっと真輝の真横に常に持っている扇を置いて。

「わしは今から泳ぎに行ってくるのでな。
 その扇はおぬしに貸してやろう。
 一応わしが少々手を加えてあってな、魔・術・妖・神力のどれかを備え持つものが扇げば多少は涼しい風が発生するようになっておるのじゃよ。
 まぁ自分で扇がねばならんと言う手間はあるが、何もしないよりはマシになろうて」

そう言い残して、櫻は真輝の返事も聞かずにさっさと海に向かって歩いていってしまった。
日に照らされて光る薄桃色の尻尾がゆらゆらと揺れる。
ぼんやりと見ていると、それはあっという間に小さくなり、向こうの大騒ぎ軍団の中へ混じって行った。

「……」

それをぽかんと見送った真輝は、それから数秒経ってようやくはっとして目を見開いた。
一体なんつー原理の扇だとか、やっぱり涼しくする手段を持ってるんじゃねぇかとか文句を言おうにも、既に櫻は海の中。
わざわざ向こうまで歩いて行こうと思えるほどの気力も体力もあるはずはなく。

―――折角涼しくなるモノを貸してくれた訳だし、有効活用するのが道理ってモンだろ―――

などとあってるんだかあってないんだかわからない微妙な自己完結を終えると、真輝は横に置いてある扇を手に取った。
ばっと片手で開けば、淡く美しい桜吹雪が描かれた扇があらわになる。
その柄に思わず感心しつつも、真輝はそれを持って軽く自分の顔の前で扇ぐ。

優しく自分の頬を撫でていく風は冷たすぎず、適度に身体の熱を覚ます程度。
顔だけを扇いだはずなのに、その風はまるで身体全体を包むかのように通り過ぎていき。


――――――通り過ぎた後にほのかに香る柔らかな桜の香りに櫻のささやかな気遣いを感じ、真輝は静かに微笑んだ。


●性別詐称では御座いません(何)
櫻から扇を借りて自分を扇いで早数分。
扇から流れる若干涼しい風のおかげでとてつもなく暑い思いはしないで済んでいる真輝だったが、やっぱりまだ多少は暑い。
その上喉が渇いてきた。

「あー…なんか冷たいモン買ってこよ」

このまま此処にいても喉が潤う訳でも無し。そういうのはさっさと買ってしまうに限る。
そう結論を出した真輝は、頭にタオルを乗せると重い腰を上げて立ち上がった。
頭のタオルは日よけ代わりだ。このまま歩いたら大変なことになるのは目に見えている。
そんなことを考えながら、真輝は不機嫌面のまんま煙草をふかしながら、のろのろと歩き出した。

――――――そんな彼が此処にクーラーボックスがある事に気づくのは…かなり後のことである。

目指すは自動販売機…の横にある海の家である。

自動販売機は見かけによらず飲み物がぬるくなり易いのだ。
せっかく「つめた〜い」を押したのに、出てきた缶やペットボトルがぬるかったりするとかなり凹む。
その点、海の家の出す飲み物などはたっぷり張った水に氷を沢山入れ、その中に缶やらペットボトルやらを放り込むため、氷が少なくなりすぎない限り結構冷たいのだ。

じりじり照り付けてくる太陽に思わず「ケッ」と悪態つきながらも、えっちらおっちら歩いて海の家に辿り着く。
「いらっしゃいませ〜」とにっこり微笑む女性は雇われバイトか店の奥で働くおばちゃん辺りに強制的に借り出された娘や姪か。
なんてどうでもいいことを考えながら、真輝はひんやりと冷気すら漂う氷水から目当ての飲み物を取るべく手を突っ込んだ。
冷たい水が手を包み込む。
あまりにも涼しくて心地いいので、思わずこのまま手を抜きたくなくなったくらいだ。
しかしそんなことになれば色んな意味で大騒ぎである。
少々名残惜しいながらも、真輝は目当てのお茶のペットボトルをわしづかむと、すっと手を持ち上げて水の中から引っこ抜く。
途端に手を包むぬるい空気に思わず顔を顰めながらも、真輝は女性店員にペットボトルを見せる。

「コレくれ」
「はい。150円になります」
基本的には自動販売機と変わらぬ値段らしい。
真輝は懐から財布を出すと、丁度あった50円玉と100円玉を出された手の中にぽとりと落とす。
「ん」

「150円丁度お預かりいたします。
 …有難うございました」

真輝から渡された金を簡易金庫にしまうと、にっこりと微笑んで真輝に頭を下げる。
営業スマイルもお手の物って感じだな…なんで考えながらも身を翻して歩き出すと、五歩ほど歩いたところで急に周囲に暗い影が落とされた。
この辺りにはパラソル密集地帯なんてないはずだ。
しかも足元には毛むくじゃらの見苦しい足がずらりと四対並んでいる。
…と言うことは、これは人の…それも男の足。

「……あんだよ」

嫌な予感をひしひし感じ、更にこの状況から考えられる会話に思いきりイラつきながら、睨み上げるように顔をあげる。
すると、そこには似合わないオシャレにチャレンジして失敗したような、ファッションと勘違いしてるのか頭が見事にプリン状態の金髪とか、上手く染め切れなかったのか海に入って落ちたのか黒茶とまだら模様になった青髪の男やら、耳だけじゃ飽き足らず口にまでピアスした鼻がデカくて顔のパーツが密集したのとか、体中洗ってないんじゃないかとか聞きたくなるくらい真っ黒でケツ顎の胴長短足のとか、もう見事に気持ちの悪い男が四人、真輝を囲むようにして立っていた。
それを見た真輝は、可愛らしい顔を思いっきりくしゃりと顰める。
こんなのを見るために上に向かって首を曲げなきゃいけないと思うだけでイラつきが増すような気がして、真輝は深々と溜息を吐いた。

「ェー?見リャわかんジャン?」
「ナァ?」

そんな真輝の心情を知ってか知らずか、キモ男四人衆はニヤニヤと真輝のイラつきを煽るような笑い方をしながら顔を見合わせる。
お前達なんか見て判ってたまるか、と心の中で悪態を吐きながら、真輝は続く言葉を待った。
もしあの台詞を言いやがったら、問答無用で蹴り飛ばしてやる…と物騒なことを心に誓って。

そして口を開いた男の言葉は――――予想したくはなかったが、予想した通りのモノだった。

「綺麗なオジョーチャンを見っけたラ、ナンパすんのが男のサガってモンじゃない?」
「そーそー。イケてる女の子は早めにゲットしねぇとナァ?」
「勿論、一緒に来てくれるダロ?」
「断るわけネェよなぁ?」

後半は完全に強制で、脅しだ。
しかも四人で囲っておいて、ナンパとは嘘吐きはなはだしい。

――――――しかし。

そんなことよりも何よりも、真輝はある言葉が頭の中を駆け巡っていた。

―――『オジョーチャン』。
―――『オンナノコ』。


――――――――ぷっつん。


真輝の頭の中で、とてつもなく不穏な効果音が発せられたが、不幸なことに…このキモ男四人衆にはこれっぽっちも聞こえていなかったらしい。
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、真輝の顔を覗き込むように顔を下に下ろしてきた。

「ン〜?どうしたノ?
 そんなに俺ラにナンパされたのが嬉しへぶぅっ!?!?」

プリン頭の言葉は、最後まで続かなかった。
無言で振り上げられたしなやかな足が、見事に男の顎に命中したからである。
男は珍妙な悲鳴を上げながら蹴り上げられて宙を舞うと、どさりと音を立てて砂の上に落下した。

蹴り上げた状態で固定されたその足の持ち主は―――当然というかなんというか…真輝。

「ンなっ!?」
「な、なんだこのアマぁッ!!」
「いきなり何しやがルっ!?!?」

キモ男達は唐突且つ理不尽な攻撃に驚いたようで声をあげるが、そんなの真輝のしったこっちゃない。
…と言うよりも、再び個人的禁句を口にされて、ぴくりと肩を動かしたくらいだ。

「…おい、テメェ等」

「「「…ァあ?」」」
先ほどよりも1オクターブ低い声で発せられた言葉に、キモ男達は疑問に顔を歪ませる。


そしてゆっくりと上げられた真輝の顔は――――――とてつもない、笑顔。


なんかもう後ろに花とか光とか舞ってても可笑しくないくらいの花やかな笑顔に、キモ男達は思わず顔を赤らめる。
しかし…すぐに放たれた台詞に、男達の顔が強張った。

「――――俺はなぁ…男なんだよ」

語尾にハートマークでもついてそうなくらい明るい言い方なのに、声にドスが効いてる上に背後から何か黒いモノが発生している。
しかも合わせられた両手からは、ポキポキとまるで手を慣らすかのような音が聞こえてきていたり。
男達はその音を聞いて、ようやく自分達がどういう状況に置かれているか理解し始めたようだ。
黒から赤へ、赤から青へ。
これであとは黄色に変われば信号の完成だ。

そんなキモ男達を見てにっこりと微笑んだ真輝は――――笑ってない目を開いて、笑顔で囁いた。


「―――――――お前等、無傷で帰れると思うなよ?」


――――次の瞬間。
      騒がしい声があちこちで聞こえる浜辺に、一際大きな悲鳴が響き渡ったのだった。

誰の悲鳴かは…推して知るべし。


…ちなみに一分後。
パンパンと手を叩いてから、ズレたタオルを頭に乗せ直して少し温まってしまったペットボトルを片手に颯爽と戻っていく真輝と、ボコボコで地面に倒れ付す男四人の姿が海の家の店員に目撃されたそうだ。


教訓:空手の段持ちには間違っても一般人が喧嘩を売るものではない。


●ビーチバレー大会参加決定?
昼も食べて一時を回った頃。
一同は唐突に微笑むまきえに呼ばれ、パラソルの場所で全員集合となった。
「なんでおいらたちが全員呼ばれたんだ?」
「…あぁ、そのことはですね…」
何故か終始にこにこと微笑んでいるまきえに首を傾げる一同だったが、不意にまきえが持ち上げたポスターのような紙により、その理由が明らかになる。


『―――――「ビーチバレー」大会???』


そこに書かれているのは、砂浜でネットを挟んで二人の人間がジャンプしている場面。
上のあおり文や題名を見る限り、どうやら一般開催の簡単なお遊び大会らしい。

「…これの優勝賞金と商品…なんと、10万とスイカ5個だそうなんです」

ぴくり。
なんだくだらない、と呆れて解散しかけた者たちも、まききえの言葉に耳をダンボにして足を止めた。
「どういうことですか?」

「…どうやら今年は人の入りがよくてお金に余裕があるそうなんです…。
 ……ですから、今年は更に、二位には二万とスイカ一つ、三位にも一万と海の家割引券三枚が賞金・商品としてあてがわれるそうで…」

ぴくぴくぴくっ。
更に続くまきえの言葉に、面々の肩が大きく動く。

――――なんて美味しい大会だろう。

「…これに皆さんで参加していただければ、きっと上位独占で…分けても皆様の懐も少々ですが潤ったりするのではないかと…」


『参加する(します)!!!!!!』
ぐっと拳を握ってやる気満々で叫ぶものが数人。

「なんか楽しそうだからやってみてもい?ノイ」
『好きにすればー?』
「私もなんだか楽しそうだからやってみたいです…」
「ふむ、ビーチバレーは初めてじゃな。よい経験になろう」
興味津々で参加を決意する者が四人。

「まぁ、やれって言われたらやるけどねー」
「結果は期待しない方がいいと思うけどなぁ…」
やや乗り気ではないものの参加をするつもりなのが二人。

――――そして。

「ビーチバレー?
 ……ダルい」

きっぱり切り捨てるのが―――1人。
ダルいと言い切った男は嘉神・真輝。
その言葉通り、顔中から『めんどクサ…』的なオーラが満ち溢れている。

「あら…」
どうしましょう、と困ったような声をあげるまきえ。
しかし、それはすぐに杞憂へと変わることになる。


「――――――なんじゃ、負けるのが怖いのか?」


一抜けたとばかりにぷかぷかと煙草をふかす真輝の前に立ってにやりと笑ったのは…櫻。
「…は?」
その言葉に眉を寄せ、真輝はぎろりと櫻を睨みつける。
しかし櫻の不敵な表情はぴくりともせず、むしろ挑発するようににやにやと笑う。
しかもまるで追い討ちをかけるように、更に希望が櫻の隣に立ってにやりと笑って口を開いた。

「優勝できる自信がないから逃げるんだろ?」

「なっ…!
 んなワケねぇだろ!?」
言われた言葉に顔を怒りに染め、真輝は反論するが二人はどこ吹く風。
「どうだかのぉ?」
「言い訳なんていくらでもできるしねぇ?」
失礼この上ない二人の言葉に―――真輝は、ついにキレた。
がばっと立ち上がり、ふんぞり返るように胸に片手の平を当てて声を上げる。

「俺は運動は全般そこそこ得意だ!!」

「えー。そう言われても確証ないしー」
「左様。口で言うだけならなんでもできるからのぉ」
怒って言っても二人は疑いのまなざしを引っ込めない。
それに焦れた真輝は―――ついに、声高に宣言した。

「―――やればいいんだろ、やればっ!!!!」

生来負けず嫌いの性分の自分が、まるで負け犬みたいな扱いをされるなんて我慢できん。
半分自棄気味に言われた言葉に、櫻と希望はにやりと笑い合い、くるりと身体を半回転。
「まきえ、真輝のヤツも参加すると言うたぞ」
「これで全員参加だな♪」
「…えぇ…ありがとうございます…」
二人の言葉ににっこり返すまきえを見て…ようやく、真輝ははめられていたことに気づく。

「…そういうことかよ…」

他のメンバー達からどこか生暖かい視線を受けつつ、真輝はがくりと肩を落とすのだった。

***

全員参加することが決まったので、まずは二人一組に分かれねばならない。
その旨を伝えると、何時の間に作っていたのか、まきえの手には複数の紙くじが握られていた。
準備万端だな…なんてぼやく人物の言葉をさらっと無視し、まきえは皆にくじを引くように指示をする。
紙の先が同じ色に塗られていたらペア決定。
簡単な分け方に納得しながら、全員はせーの、と言う掛け声と共に一斉に掴んだ紙の端を引っ張った。


―――――その結果は、以下の通りである。

A−嘉神・真輝&櫻(W女王ペア)
B−高台寺・孔志&秘獏・崎(花屋と中学生(略して花中)ペア)
C−シオン・レ・ハイ&山川・まきえ(熟年ペア)
D−夏野・影踏&山川・聡(狩人と獲物ペア)
E−如月・縁樹&緋睡・希望(素性不明ペア)
F−彩峰・みどり&葉華(精神的大人と子供(略して大小)ペア)

なんていうか…こう、一部のペアに何者かの作為が見え隠れするような…偶然のはずなのに何故なのか…。
ちなみに()内は登録時にまきえが適当に決めたペア名なので、深くは考えないように。
…と言うか既にブーイングが発生している所もあるが、そこんとは黙殺の方向で。

「ふふ…きちんとやってくれるのであろうな?」
「当たり前だ!出るからには勝つ!!」

「よっしゃ、出るからには目指すは優勝だー!!」
「おうよ!でも俺的には賞金ゲット出来れば別に何位でもいいんだけどね!!」

「…ご一緒に…頑張りましょうね…?」
「えぇ、優勝目指して頑張りましょう!」

「さ・と・し〜vv俺たちはやっぱり離れられない運命なんだな!!」
「うぅ…なんでこんなことに…」

「頑張りましょうね!」
「まぁ、ぼちぼち頑張ってやろうねー」
『……やる気あるの?』

「葉華君、一緒に頑張ろうね!」
「まぁ、怪我しない程度に楽しもうな」

各ペア様々な会話がなされているが、とりあえずは大会に参加する気なので問題はない。


――――そんなわけで、ビーチバレー大会が開催されるのである。


●準々決勝!W女王ペアVS一般人ペア編
一回戦、二回戦と意外と簡単に勝ち進めた全チーム。
今までメンバーのペアは全て別の所にいたので当たることはなかった。
が、三回戦…準々決勝になったところで、ついに知り合い同士で当たりだした。


三番目に戦うことになったのは、真輝と櫻のペアと、一般人のペアだ。
三番目・四番目の者たちは人数の関係で勝ちあがった一般人と戦うことになったのだ。


……とは言っても、相手はただの一般人。
精霊と空手を得意とする人間というかなり強いペアが相手で、勝てるわけがない。
前の二試合の二人の勢いをバッチリ目の当たりにした一般人ペアは、既に腰が引けている。

「…なんじゃ、既に敵方は負ける気満々のようじゃのぉ。つまらん」
「まぁ、俺たちの試合見てたら腰が引けても仕方ねぇんじゃねぇの?」

もともと売り言葉に買い言葉、な性格の真輝が挑発されて燃えないわけがなく。
櫻とて精神体の塊なわけだから大抵は自分の思い通りに身体が動かせるわけで。
相手にほとんど全くポイントをとらせない状態で勝ち進んできたのだ。
怖くならない方がおかしい。というかその時点で一般人ではないと思う。

「まぁ、なんにせよ。勝てばいいだけの話じゃ」
「そういうこったな」


――――そして、試合開始のホイッスルが鳴る。


***

「行け!真輝!!」
「おうっ!!!」

バァンッ!!!
わぁっ!!

櫻の上げたトスを、見事に真輝が決める。
―――その時点で、真輝達の勝ちが決定するまで後一発になった。

湧き上がる周囲の中、真輝はどこか遠い目をして口を開く。

「……俺は何でこんなに頑張ってるんだろうな…」
「さぁのぅ。お主の性格が災いしてるのではないか?」

くくく、と笑いながら櫻に言われた言葉に、真輝はがくりと肩を落とす。
そこへ飛んできたボールをレシーブし、櫻がトスしたところで、力いっぱい叩き落す。
そりゃもう、理不尽な怒りを込めまくって全力で。

バァンッ!!!!!!!
わぁっ!!

スパイクの凄い音と共に、砂地にめり込まん勢いでボールが地面に叩きつけられた。
沸き上がる周囲。
すたっ、と着地すると同時に、真輝はすっと身を翻す。
…あぁ、今日は厄日か…?

そんなことを考えて遠い目をする真輝を、櫻はどこか楽しそうに見ているのだった。


――――――W女王ペア、準決勝進出。


●準決勝!W女王ペアVS素性不明ペア編
一回戦、二回戦と意外と簡単に勝ち進めた全チーム。
三回戦…準々決勝になったところで、ついに知り合い同士で当たりだし。
そして勝ち進んだ者たち…と言うか知り合い同士のメンバーで、準決勝が行われることになった。


後に戦うことになったのは、真輝と櫻のペアと、縁樹と希望のペアだ。


「さて、準決勝まで来たのぉ」
「…そうだな。正直、ここまで来れるとは思わなかったけど」
悠々と構えている櫻と真輝は、女王の貫禄充ぶ…げふごふ。…えー…やる気があるんだかないんだか微妙なところである。
「こうなったらこのまま勝ち進む心意気で行くぞ」
「わかっておる。…足を引っ張るでないぞ?」
「それはこっちの台詞だ!」
仲がいいんだか良くないんだか…相変わらず微妙な二人だ。

「まぁ、気づいたら此処まで勝ってましたー、って感じだよな…」
「そうですね…僕もなんかそんな気がします…」
「気分は竜宮城?」
「あはは、何年も経過してるわけじゃないですけどね」
『二人とも、呑気に話してる余裕あるわけ…?』
希望と縁樹も軽口を叩きながら呑気に会話している。
ノイの突っ込みもさりげなくスルー、な様子だ。
余裕があるんだかないんだか。


――――そして、試合開始のホイッスルが鳴る。


***

―――――試合の様子は省略。
       いや、ぶっちゃけ書き手が白熱したバレーの試合の様子を書ききれないだけなんで、後でシメるなりなんなりご自由に。

…そしてその結果。

バァンッ!!!!!
わぁぁぁああっ!!!
ピーッ!


「試合終了!!
 勝者、W女王ペア!!!!」


――――軍配は、真輝と櫻に上がった。


「うっしゃ!」
「うむ、よくやった!」
「お互いにな」
パァン!と片手の平同士を打ちつける乾いた音を立てながら笑い合う勝者…もとい、櫻と真輝。

「あー…負けちゃいましたねぇ」
「そだねぇ。
 …あー、でもこんなに一生懸命運動したのって高校以来だなぁ」
苦笑する縁樹に微妙に投げやりな返しを贈りながら、肩をごきごきと鳴らして懐かしむように呟く希望。
『……ジジくさ』
「ほー、そういうこと言うのはこの口かにゃー?」
ぼそっと失礼なことを呟いたノイに対し、希望はそれはもう爽やかな笑顔でノイの口をぐにーっと両側に引っ張る。
『ひたたたたたっ!!にゃにふるんひゃよーっ!?!?』
「悪い子にはお仕置きが常識でしょー?」
「あ、あの希望さん…さすがにそれ以上はノイのほっぺた破れちゃうんで…」
「あいよー。しゃーないなー」
叫ぶノイに笑顔の希望。もう暫く続くのかと思われたが、縁樹に控えめに言われたので希望は大人しく諦めて手を離した。
頬を摩りながら『いつか絶対泣かす…』とぼやきつつ希望を睨みつけるノイだったが、どうやら希望には全く効果無し。
にやにやと笑う希望を見て一段と目を鋭くするノイを、一生懸命宥める縁樹の姿が見られたとか。

「…なんつーか…次が決勝っつー感覚がないんだけど…」
「奇遇じゃな。わしもじゃ」
「ま、何にせよ、狙うは優勝、だな!」
「そうさのぉ。まぁ、ぼちぼち頑張ろうではないか」
「ぼちぼちじゃ駄目なんだっつーの!!」
W女王サイドでは、少々険悪な空気を纏いつつも、漫才風味な会話がなされていたりした。


――――――W女王ペア、決勝進出。


●決勝戦!大小ペアVSW女王ペア
一回戦、二回戦と意外と簡単に勝ち進めた全チーム。
三回戦…準々決勝になったところで、ついに知り合い同士で当たりだし。
そして準決勝をも勝ち進んだ者たち…と言うか知り合い同士のメンバーで、決勝が行われることになった。


少々の休憩の戦うことになったのは、みどりと葉華のペアと、真輝と櫻のペアだ。


「あぅ…どうしよう…ついに決勝だよぅ…」
「そんなに硬くならなくても…」
完全にガチガチで怯え気味にきょろきょろと視線を泳がすみどりを見て呆れる葉華。
「だ、だってぇ…」
「どーせおいら達は運が良くてここまでこれただけなんだから、負けたって別に大丈夫だろ?」
うるうると瞳を潤ませながら言うみどりに葉華が呆れ気味にきっぱり言うと、みどりはきょとんとしてから苦笑した。
「……それも、そうだね」
「だろ?」
ようやく落ち着いた?と言ってにっと笑う葉華を見て、みどりも小さく噴出す。
…コミュニケーションは良好?

「あー…なんつーか…ついに決勝かー…」
「まだ実感が沸いておらんのか?」
「イマイチ」
自分のコートから遠い目で空を見上げる真輝に、櫻は笑いながら真輝の肩を叩く。
「まぁ、負けたら負けたでその時じゃて。
 …わしは別にもう思う存分動き回ったから負けても問題ないがの」
「おい!!」
既にやる気なさげなオーラを放つ櫻に、真輝は目を吊り上げて叫ぶのだった。
……大丈夫かなぁ、このペア


――――そして、試合開始のホイッスルが鳴る。


***

―――――試合の様子は省略。
       いや、ぶっちゃけ書き手が白熱したバレーの試合の様子を書ききれないだけなんで、後でシメるなりなんなりご自由に。

「行くぞ真輝!」
「おうっ!」
バァンッ!!!
「―――んっ!」
ビシィッ!
「みどり!」
「うんっ!…えいっ!!!」
バァンッ!!
わぁっ!

真輝のスパイクを上手くレシーブしたみどりが、葉華のトスによってスパイクを決めた。
…この戦い、先ほどから一進一退の攻防が続いている状態なのだ。
相手が1点取ればこちらも1点取り返す。
そんな感じで進んでいるので、既にほとんど点取り合戦状態になっていたりする。

そして今はみどり達が8ポイント目を取ったところ。真輝達は現在7ポイントである。
この大会は12点先取のデュース有りなので、まだまだ白熱した試合は続く。

…しかし、ここまで来てどうやらそれに飽きたらしい人物が、一人。
――――――それは勿論、櫻だ。

「……いい加減飽きてきたのぉ…」
この前にも白熱した試合を繰り広げたのにまた一生懸命戦わないといけないと言う状況で、集中力が切れてきたらしい。
乱れたポニーテールの髪を弄りながら、櫻がぽつりと呟いた。

――――当然、真輝がそれを聞き逃すはずもなく。

「…おい。いきなり何言い出してんだ」
「何とは…連戦でわしもいい加減飽きてきたと言うたのじゃ」
「あのなぁ!真剣勝負でいきなり飽きたとか言い出すなよ!!」
「飽きたから飽きたと言うたことの何が悪い?」
「全部だよ!」
「なんじゃと?
 ならばお主は嫌なことも『嫌』とは言わぬのか?」
「そういう問題じゃねぇだろ!?」
「そういう問題じゃ」

……口喧嘩(?)がスタートした上にヒートアップ真っ最中。

「…うわぁ…」
「……えっと、あの…試合は…??」
葉華が苦笑し、みどりが困ったように口喧嘩中の二人に声をかけるが、櫻はいざ知らず、真輝は完全に頭に血が上っているので全く聞こえていない状態。

どうしたらいいのかと戸惑っている二人を見――――審判が、片手を上に上げ、口を開く。


「―――――――W女王ペア、口喧嘩による試合放棄により、失格!!!」


「「―――え?」」
「何ィ!?」
「ほぉ?」
その発言にぽかんと口を開ける葉華とみどり、その発言でようやく事態を悟ったのか大声を上げる真輝に、何故か嬉しそうに目を細める櫻。


「なお、私審判が全てのルールなので取り消し要請の抗議は認めません!!」


「超自分勝手だなオイ!!」
審判の言葉に真輝がツッコミを入れるが、審判は全く聞く耳持たず。
ばっと片手を上げると、口に笛を含んで力いっぱい吹いた。


ピ――――――――ッ!!!!


「―――よって、大小ペアの優勝!!!!」


わ―――――――ッ!!!!!!!!!

審判の言葉に、一気に周囲が沸いた。
あっという間に決まった優勝に、全員なんとも言えずぽかんとしたまま。


「…なんか、結局マトモに最後まで試合したこと、一度もなかったよな…」
「うん…なんてゆーか…ちょっと、微妙だよね…」
「まぁ…あれだよ。
 散々言ったけど…ほら」


「「――――――『運も実力のうち』」」


そう言い合ってから、みどりと葉華は顔を見合わせて苦笑するのだった。



――――――大小ペア、優勝!!!!!


●帰りは安全運転で(何)

ビーチバレー大会が終わった後、そのまま表彰式になった。
ちなみに順位は以下の通りである。

1位:大小ペア
2位:W女王ペア
3位:素性不明ペア(熟年ペアは片割れ(シオン)が戦闘不能の為3位決定戦は行われなかった)

まきえの希望通り、見事に上位を知り合いのメンバーが独占した状態になったのだ。
いやぁ、めでたいめでたい。
…ちなみに商品のスイカのうち三つは、その場で切って皆で祝杯代わりに食べました。
残りの三つは半分にしてラップに巻き、全員に手渡されましたよ。

――――そして、そのまま日が暮れて夕方。

一行はプラントショップのキャンプカー(10人+二体が乗っても充分余裕があるくらいには広い)に乗って、帰り道を走っていた。

「楽しかったですね」
『まぁ、悪くはなかったね』
「アンドレ、生きていてくれたんだね!!」
「勿論さオスカル!君を置いて死んだりはしないさ!!」
「あぁ、バイト代も沢山もらえたし…これで少し貯蓄が出来ます…」
「よかったですね、シオンさん」
「あー、それにしても幸せだったなーv聡の膝ま…」
「わーっ!!余計なこと言わないでくださいっ!!!」
「黙ってたってバレバレなのに…」
「だよなー?」

動きすぎてすっかり疲れた人間とか、バイト代を貰ってほくほくな人とか、まだまだ体力有り余ってる人とか。
皆すっかり海水浴を満喫した様子。


――――しかし、そんな中でも地獄を味わった人がいるようで。


「くっ…!!!」
上着を脱いで腕を抑えているのは―――真輝。
抑えられている彼の腕は、焼けて黒く…とかじゃなく。
まるで火傷のように真っ赤になってしまっていた。

「…やっぱり日焼けで赤くなってるし…」
…彼の肌はマトモな紫外線対策もしないで思い切り夏の太陽に照らされ、日焼けをせずに真っ赤になっただけになってしまったのだ。
ヒリヒリと痛む腕を抑え、真輝は身悶えていた。

「うわっ、すっげー…真っ赤だよ」
真輝の肌を見て興味津々の葉華は、真っ赤な腕をぺたりと触る。
「いっ…!
 っだー!葉華触るなっ!痛いだろーがっ!!!」
その痛みに涙目になりながら、真輝は葉華の手を振り払う。
「えー…ちぇっ」
残念そうにしながらも、葉華は大人しく手を引っ込める。
「くく…なさけないのぉ…」
何時の間にか普段の着物姿に戻った櫻が口元に扇を当てながら笑うと、真輝がぎろりと睨みつける。
しかし櫻がものともしないのを見ると、がくりと肩を落として疲れたように呟いた。

「大体なー…
 お前ら植物系なのに、なんでこの日差しで平気なんだよ…信じらんねー」

真輝のそのぼやきに、葉華と櫻は顔を見合わせるとなんとでもないように口を開く。

「おいらやボブの身体の細胞にはサボテンも混ざってるから、暑くても平気だし」
「わしは元々精神の塊のようなものじゃからのぉ。
 日差しなんぞあってないようなものじゃ」

「…そーかよ…」
さらっと言われた言葉に、真輝はがくりと肩を落とす。


「…ふふ…。
 ……機会がありましたら、またご一緒に海水浴に参りましょうね…?」


運転しながら微笑むまきえの言葉に全員が頷いたかどうかは…一行だけの秘密である。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【2227/嘉神・真輝/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】
【2309/夏野・影踏/男/22歳/栄養士】
【2936/高台寺・孔志/男/27歳/花屋】
【3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42歳/びんぼーにん】


【NPC/山川・まきえ/女/38歳/プラントショップ『まきえ』店長】
【NPC/山川・聡/男/18歳/プラントショップ『まきえ』店員】
【NPC/ボブ/無性別/1歳/「危険な温室」管理役】
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
【NPC/葉華/両性/6歳/植物人間】
【NPC/秘獏・崎/男/15歳/中学生】
【NPC/櫻/女(無性…?)/999歳/精霊】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第十弾、「Let's海水浴!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は全開にも増して個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
自分のキャラが他の人のノベルに出てる、なんてこともありますので他の人の物も見て探してみるのも中々面白いかもしれません。
今回の〆直前は真輝さんと櫻・葉華の独断場となりましたが、そこはどうかお許し下さい(汗)
…ところで、誰がどの台詞を言ってるかわかりますか…?(爆)
ちょっと人によって長さがまちまちですが、ご容赦くださいませ(土下座)
なにはともあれ、どうぞこれからも愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

真輝様:前回に引き続き、ご参加、どうも有難う御座いました。
     …真輝様の描写は全体的なものなので、気づいたらどんどん長くなっていってしまって…無駄に多くてごめんなさい(土下座)
     今回は櫻と相棒的な雰囲気を醸し出せてたら成功かなぁ、と思ってます。
     これから先、櫻にからかわれないよう頑張ってください!(笑)

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。