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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Let's海水浴!

●オープニング
ある暑い日のことである。

――――プラントショップ『まきえ』関係者は、揃って海水浴へやってきていた。

「青い空!」
ビシィッ!と水着の上にパーカーを羽織った崎が空を指差して叫ぶ。
「白い雲!!」
それに倣うように、水着着用で、腹に耐水性の包帯を巻いて同じくパーカーを羽織った希望がふわふわと漂う雲を指差して叫ぶ。

「そして――――輝く太陽を映しだす水の鏡!!」

男物の水着にシャツを羽織った葉華が、嬉しそうに下を指差して叫ぶ。


「「「海だ――――――ッ!!!!!」」」


喜んで駆け出す3人の先には――――太陽の光を反射して輝く、海があった。

「3人とも…嬉しいのは解りますけど、気をつけてくださいね…?」
浜辺にパラソルを立てながら黒のワンピースの水着にパーカーを羽織ったまきえが苦笑気味に言うと、離れた所から『おー!』ときちんと聞いているのか怪しい返事が返ってくる。
「ふふ、若い者は元気でよいのぉ」
ピンクのパレオの水着を着て、前を開けたパーカーを着た櫻がくつくつと喉を鳴らして3人を見る。
髪はポニーテールにされていて、一応考慮してあるのか、桜色の髪は腰までの長さに揃えられていた。
「まぁ、元気なのはいいことなんですけどね…」
水着の上にやはりフード付きのパーカーを羽織った聡が、荷物を置きながら苦笑気味に頷く。

「―――あれ?そう言えば、ボブはどこに…?」
先ほどまでは一緒に車に乗っていたはずなのに…。
そう呟きながら辺りを見回す聡に、まきえは笑顔で頭上…パラソルを指差した。

「ボブなら…さっきからそこにいますよ…?」
「……え?」

きょとんとして聡が上を見上げるが、そこにあるのは黒いパラソルの内側だけ。
「母さん、黒いパラソルのどこにボブが…」
そこまでいったところで、聡ははっとして顔を青くした。

―――まさか。
頭の中を過ぎった嫌な予感を振り切って、聡は慌ててパラソルの外へ出る。

――――そこには。
「ぼっ…ボブッ!?」
布の部分を広げられた挙句しっかり骨組みを取り付けられ、見事にパラソル代わりにされた憐れなボブの姿が…。
心なしか表情が情けなく、今にも泣きそうな感じが…。

「か、母さん!!ボブを今すぐ降ろしてよ!!
 普通のパラソル持ってきてるでしょ!?」
「それは勿論そうだけど…いいじゃない、そのままでも…」
「駄目です!!!」
「…そう…?」
どことなく不安そうな顔ながらも、まきえはボブを開放した。

そんな騒がしい面々を呆然とした顔で見ているしかなかった貴方達。
しかしそれに気づいた聡が、困ったように笑って振り返る。


「騒がしくてすみません。
 まぁ、今日は手伝いしてくださったお礼ですから、たっぷり楽しんでいってくださいね?」
そういって微笑む聡に、貴方は笑ってこくりと頷く。

「聡ー!!今から希望たちとビーチバレーするから審判やってくれー!!」
「あ、はーい!今行きますー!!」
大きく手を振って聡を呼ぶ葉華。近くには希望、崎、櫻の姿もある。
その声に返事を返すと、聡は小さく会釈をして葉華達のいる方に向かって走り去って行った。


――――――さて、これからどうしようか?


●甘酸っぱいって言うかむしろ酸っぱい思い出(何)
「海!!」

自由行動と言わんばかりに解散し始めた皆の中で、一人だけもの凄い勢いでどこぞの演劇のように大袈裟に手を広げる男が一人。
―――高台寺・孔志だ。
真っ赤なアロハを引っ掛けて、下は黒の超ビキニパンツ。

…正に『今海で夏をエンジョイしに来ました!』と主張しまくりな格好である。

そんな孔志は更に清清しい笑顔を浮かべると、大きく口を開けて叫ぶ。

「煌く水!高鳴る鼓動!!
 まるで海が俺を呼んでいるかのようだ!!!」

…と、そこまで言ってから、急に勢いが失せたかのようにがくりと肩を落とす。
背中からは哀愁オーラが漂っており、『どよ〜ん』と言う効果音すら聞こえてきそうな勢いだ。
そんな孔志の口から、ぽつりと呟きが漏れた。


「……しかし、俺は泳げない…」


その暗さと哀愁に満ち溢れた声のあまり、まわりから『うわぁ…』と哀れむような声が聞こえてきそうである。

…孔志は、幼少の時にある出来事…まぁ、その出来事自体は別の話として…が発生した時、それには金魚が深く関係しており。
その一件以来、魚を直視することや口にすること・触れることは勿論、それが棲むというだけで、海も嫌いなのだ。
じゃあ、川は?とは聞いてはいけない。…きっと苦手だろうから。
海が嫌いな人間が思いっきりバタフライなどかませられれば、その人間は既に海が嫌いとはいえないだろう。絶対に。


…そんな訳で、孔志は鉄製の釘などを打つのに用いる大工道具なのである。


暫しどんよりとした空気を周りに漂わせていた孔志だったが、すぐにがばっと身体を起こし、どこか輝いた顔で大声を上げる。

「…っつ〜ことで、目的はナンパだぜ!!」

……まぁ、泳げないとしたらせめて浜辺でひと夏のアバンチュールぐらい味合わなければ意味が無い、と言うことだろう。
もっともな持論ではあるが…ちょっと哀れな気がするのは何故だろうか。

しかしそんな周囲の視線をものともせず、孔志は先ほどまでの沈みっぷりが嘘のようにルンルン気分で足取りも軽やかに海の家方面に向かって歩き出すのであった。

***

―――それから一時間後。

孔志はというと……。

「……何故だ…なぜゲットできない…!」

――――――打ちひしがれていた。


さっきからかれこれ十を超える若い女性に片っ端からナンパを仕掛けているのだが(彼氏のいそうな子は野生の勘で判断して避けた)、誰一人としてOKは出して貰えないのだ。
その風景の一部を、ちょっと切り出してみよう。

「お嬢さん、俺とひと夏のアバンチュールなんて如何!?(ウィンク)」
「(くすくす…)やだぁ、変なのー」
「変…っ!!」
――――――撃沈。

「…そこの綺麗なお嬢さん、俺と一緒にお茶でもしませんか?(ア●ガードを使ってないのに歯がキラリ)」
「やだー、キモーイ!歯が光ってるー!!」
「キモ…っ!?」
「それにぃ、なんかアンタノリ悪そうだしパスー」
「あ、ちょ…っ」
――――――撃沈。

とまぁ断られる度に声のかけ方(まぉ簡単に言えば「キャラ」って所だろうか)を変えて見ているのだが、それが逆にことごとくナンパを失敗させる結果になったりしている。
かといって一つの態度に絞ってみたら、これがまた見事にそういうタイプを好まない女性しか当たらない。

流石に此処まで見事だと――――いっそ、海が鬼門なのではとでも言ってしまいたくなるくらいだ。

しくしくと肩を落として凹む孔志。
しかし大方の予想に違わず、またもや孔志は数分とかからずに復活をした。

「―――――ッし!!」

がばっと立ち上がると、片手を腰に当てて、もう片方の手でぐっと握り拳を作る。
そしてどこか名残惜しげに浜辺で遊ぶ女性達をチラ見すると、握っていた拳を天高く突き上げて、大声で叫んだ。


「――――――――ラーメンを食べるぞ!!!」


何故。
周囲から大量にツッコミが入るが、所詮は心の中のツッコミ。
孔志の心にまで届くわけがなく。

嬉々として海の家へ向かっていく孔志の背を冷や汗を垂らしながら見送る海水浴客が、複数存在していたとかいないとか。


●暑さなんて知ったことか!(ぇ)
そして上の出来事から一分も立たない頃。
孔志は、海の家に早速辿り着いていた。

「―――ご注文は?」

超ビキニという格好故か妙に目立つ孔志が周りの視線に全く気づかず席につくと、バイトらしき人物が注文をとりにやってきた。
……しかし、なんという異装だろう。

夏だというのにロングコートに身を包み、下には更に長袖長ズボンを着込み。しかも左手には皮手袋装備。
その上にエプロン装備で、もう完全に夏と言う季節を無視しているとしか思えないほどの厚着だ。
なんていうか…もう、見てるだけで暑いよ君。ぐらいの勢いで。
…しかし…なんだかどこかで見たことがあるような気もしなくはないような…。

現れた店員の格好に思わず面食らった孔志だったが、一体どんなヤツがこんな格好をしているんだろうかと思って顔を上げて……もう一回面食らう羽目になった。

その店員とは――――――――シオン・レ・ハイ。

今回のプラントショップにお礼で海水浴に誘われたメンバーの一人である。
確か此処には遊びに来たはずなのに…何ゆえ、しっかりバイトなんぞしているのだろうか。
ぽかんとしたままの孔志に対し、シオンはにっこり笑顔で伝票とペンを構えている。
注文を言わねばとかそういう考え以前に抱いた疑問を解消したかった孔志は、引き攣った笑顔を浮かべながらシオンに声をかけた。

「…えっと…シオンさん。なんで此処に?」

孔志的には精いっぱいな問いかけ。
その問いかけに一瞬きょとんとしたシオンだったが、すぐににこりと微笑んでこう言った。

「なんでって…バイトですよ?」

いや、それはわかってますから。
思わずそう言いかけた言葉を喉の奥に押し込みなおし、孔志は笑顔で問いかけなおすことにした。

「いや…そうじゃなく…。
 俺が聞きたいのはなんで海水浴に来たはずなのにバイトしてるかってことで…」

眉間に固めた拳を当てながら途切れ途切れに呟く孔志に、シオンはあぁ、と呟いてから一段と爽やかな笑顔を浮かべてこう言った。


「―――――――ビンボーだからです!!!」


…しーん………。
笑顔のまま告げられたとんでもない台詞に、声が届く範囲にいた全てのモノが言葉を失った。
心なしか、「チーン…」と不吉な効果音までも…。

「…び、貧乏…?」
「はい、貧乏です!!」

胸を張って言われてしまえば、逆にこっちがどうすればいいやら。
此処は笑って済ますべきが、同情して泣くべきか。それとも微笑みながら軽くチップでもあげるべきか。って此処はホテルじゃないからチップは関係ない。
などとどうでもいいことを考えながらどことなく孔志が遠い目をしていると、後ろでぐすぐすと涙やら洟やらを啜るような音とか、「かわいそうに…」とか思いっきり哀れむような震えた声とかが耳に入ってくる。

どうしよう――――とぐるぐるした頭の中で考えに考えた孔志は――ようやく一つの答えを出した。


「―――――――――醤油ラーメン一つ。
 それと、お冷やもよろしく」


―――とっとと注文して食べてしまおう。それに限る。
孔志の出した結論は、そんな感じだった。

「かしこまりました♪」

疲れたように注文する孔志に笑顔で返し、シオンは伝票に書いて確認してから身を翻すとぱたぱたと小走りで店の奥へと消えていく。
途中で、『少しだけだけど…足しにしてね…』なんて涙声のおばちゃんの声と『え、あ、ありがとう御座います…』と戸惑い気味に返すシオンの声が聞こえたが―――孔志は、一生懸命聞かなかったフリをすることにした。

***

「醤油ラーメン、お待たせ致しました」
「あ、ども」

数分待つと、醤油ラーメンが孔志の目の前にことんと静かに置かれた。
ちなみに持ってきたのはシオンではなく交代でやってきた女性店員だ。
シオンはちょっと前に休憩に入ったらしく海の家からエプロンをはずした姿で出てきて、鮫が出たという大騒ぎを聞きつけると、一目散に海岸へと走り去っていった。
途中で日向で光合成して休んでいたデカいカボチャ…もといボブを引っつかんでいっていたし、既に鮫の話題が泡へと消えている所を見ると、既に騒ぎは沈静化しているようだ。
最初は自分も行こうかと思ったのだが…海の中にはそうそうたる面子が揃っているので大丈夫だろうとキリをつけて此処に残ったが…すぐに騒ぎが収まった所を見ると、自分の判断は間違ってはいなかったらしい。

伝票を置いていく店員を見送り、孔志は備え付けの割り箸の一つに手を伸ばす。
割り箸は上手く割れると嬉しいが、失敗すると相当悔しい思いをする物でもある。
絶対綺麗に割ってやる…。
なんて、ぼんやりとそんなとりとめのないことを考えながら割り箸に手をかける。

パキン。

軽い音と共に、割り箸は綺麗に真っ二つに割れた。
「うん、満足♪」
その出来に満足げに声を出しながら、孔志は暑さ+湯気のせいで半分蜃気楼状態になっているラーメンを見て口の端を持ち上げる。
そしてラーメンの中に割り箸を突っ込んで麺を掬うと一気に啜る。

ずぞぞぞぞ〜…。

やっぱり出来立ては熱い。
しかし、またそれが美味い。


「―――やっぱり、暑い時は熱いものを食うべきだよな!!」


まぁ、暑い時にカレーを食べるとひと時だけでも暑さを忘れらる気がすると言う…そういうノリなのだろう。
暑さを熱さで相殺。
文字にするとよく判るが、口で言うと意外と判りにくいものだ。
凄い勢いで熱いラーメンを平らげていく孔志を呆然と見つめる他の客達。
その中にもちらほらとラーメンやカレーを注文している者はいるが、流石に孔志の食いっぷりには勝てるまい。
ぽかんとした面々の視線をものともせず、孔志は次々とラーメンを口に運んでいく。

浮かんだ汗の玉が孔志が髪をかき上げるのに合わせて、光を反射して飛んでいく。
そしてその光はキラキラと残像を残し、海の水面のキラキラと光るのと混ざって散っていった。
…一瞬爽やかな雰囲気が漂った気がしたが、忘れるなかれ。
孔志はスポーツをしているわけではない。ラーメンを食べているのだ。

そこはかとなく微妙な気分に襲われる周囲の人々には全く気づく様子はなく、孔志は見事にラーメンをスープまでばっちり平らげた。

「…っぷはーっ!!
 おばちゃん、美味かったぜ!!」

どん!とどんぶりを机に置きながら叫んだ孔志に、『あいよ!いい食いっぷりだったね兄ちゃん!!』とおばちゃんの明るい声が返ってくる。
やはりおばちゃんは強し、か。
あの孔志の食いっぷりを『イイ』で済ませるのはきっと貴方だけだ。

「じゃあお会計お願いできる?はい、代金」
「えっと…はい、丁度●●●円お預かり致します」

呑気に会計を頼む孔志に戸惑い気味に返した女性店員だったが、すぐに調子を取り戻したのか笑顔で対応する。
そして会計を終えると同時に、孔志はにっこり微笑んで女性の手を掴む。

「ちなみに君も買いたいんだけど…ダメかな?」

キザを通り越してクサイレベルの台詞を吐く孔志に対し、女性店員は一瞬きょとんとした後、にっこりと微笑んでこう言った。


「残念ながら――――非売品ですのでv」


―――――――見事な切り返しによって、孔志…撃沈。


…やはり、こういう時、女性の方が強いものなのですね。


●ビーチバレー大会参加決定?
昼も食べて一時を回った頃。
一同は唐突に微笑むまきえに呼ばれ、パラソルの場所で全員集合となった。
「なんでおいらたちが全員呼ばれたんだ?」
「…あぁ、そのことはですね…」
何故か終始にこにこと微笑んでいるまきえに首を傾げる一同だったが、不意にまきえが持ち上げたポスターのような紙により、その理由が明らかになる。


『―――――「ビーチバレー」大会???』


そこに書かれているのは、砂浜でネットを挟んで二人の人間がジャンプしている場面。
上のあおり文や題名を見る限り、どうやら一般開催の簡単なお遊び大会らしい。

「…これの優勝賞金と商品…なんと、10万とスイカ5個だそうなんです」

ぴくり。
なんだくだらない、と呆れて解散しかけた者たちも、まききえの言葉に耳をダンボにして足を止めた。
「どういうことですか?」

「…どうやら今年は人の入りがよくてお金に余裕があるそうなんです…。
 ……ですから、今年は更に、二位には二万とスイカ一つ、三位にも一万と海の家割引券三枚が賞金・商品としてあてがわれるそうで…」

ぴくぴくぴくっ。
更に続くまきえの言葉に、面々の肩が大きく動く。

――――なんて美味しい大会だろう。

「…これに皆さんで参加していただければ、きっと上位独占で…分けても皆様の懐も少々ですが潤ったりするのではないかと…」


『参加する(します)!!!!!!』
ぐっと拳を握ってやる気満々で叫ぶものが数人。

「なんか楽しそうだからやってみてもい?ノイ」
『好きにすればー?』
「私もなんだか楽しそうだからやってみたいです…」
「ふむ、ビーチバレーは初めてじゃな。よい経験になろう」
興味津々で参加を決意する者が四人。

「まぁ、やれって言われたらやるけどねー」
「結果は期待しない方がいいと思うけどなぁ…」
やや乗り気ではないものの参加をするつもりなのが二人。

――――そして。

「ビーチバレー?
 ……ダルい」

きっぱり切り捨てるのが―――1人。
ダルいと言い切った男は嘉神・真輝。
その言葉通り、顔中から『めんどクサ…』的なオーラが満ち溢れている。

「あら…」
どうしましょう、と困ったような声をあげるまきえ。
しかし、それはすぐに杞憂へと変わることになる。


「――――――なんじゃ、負けるのが怖いのか?」


一抜けたとばかりにぷかぷかと煙草をふかす真輝の前に立ってにやりと笑ったのは…櫻。
「…は?」
その言葉に眉を寄せ、真輝はぎろりと櫻を睨みつける。
しかし櫻の不敵な表情はぴくりともせず、むしろ挑発するようににやにやと笑う。
しかもまるで追い討ちをかけるように、更に希望が櫻の隣に立ってにやりと笑って口を開いた。

「優勝できる自信がないから逃げるんだろ?」

「なっ…!
 んなワケねぇだろ!?」
言われた言葉に顔を怒りに染め、真輝は反論するが二人はどこ吹く風。
「どうだかのぉ?」
「言い訳なんていくらでもできるしねぇ?」
失礼この上ない二人の言葉に―――真輝は、ついにキレた。
がばっと立ち上がり、ふんぞり返るように胸に片手の平を当てて声を上げる。

「俺は運動は全般そこそこ得意だ!!」

「えー。そう言われても確証ないしー」
「左様。口で言うだけならなんでもできるからのぉ」
怒って言っても二人は疑いのまなざしを引っ込めない。
それに焦れた真輝は―――ついに、声高に宣言した。

「―――やればいいんだろ、やればっ!!!!」

生来負けず嫌いの性分の自分が、まるで負け犬みたいな扱いをされるなんて我慢できん。
半分自棄気味に言われた言葉に、櫻と希望はにやりと笑い合い、くるりと身体を半回転。
「まきえ、真輝のヤツも参加すると言うたぞ」
「これで全員参加だな♪」
「…えぇ…ありがとうございます…」
二人の言葉ににっこり返すまきえを見て…ようやく、真輝ははめられていたことに気づく。

「…そういうことかよ…」

他のメンバー達からどこか生暖かい視線を受けつつ、真輝はがくりと肩を落とすのだった。

***

全員参加することが決まったので、まずは二人一組に分かれねばならない。
その旨を伝えると、何時の間に作っていたのか、まきえの手には複数の紙くじが握られていた。
準備万端だな…なんてぼやく人物の言葉をさらっと無視し、まきえは皆にくじを引くように指示をする。
紙の先が同じ色に塗られていたらペア決定。
簡単な分け方に納得しながら、全員はせーの、と言う掛け声と共に一斉に掴んだ紙の端を引っ張った。


―――――その結果は、以下の通りである。

A−嘉神・真輝&櫻(W女王ペア)
B−高台寺・孔志&秘獏・崎(花屋と中学生(略して花中)ペア)
C−シオン・レ・ハイ&山川・まきえ(熟年ペア)
D−夏野・影踏&山川・聡(狩人と獲物ペア)
E−如月・縁樹&緋睡・希望(素性不明ペア)
F−彩峰・みどり&葉華(精神的大人と子供(略して大小)ペア)

なんていうか…こう、一部のペアに何者かの作為が見え隠れするような…偶然のはずなのに何故なのか…。
ちなみに()内は登録時にまきえが適当に決めたペア名なので、深くは考えないように。
…と言うか既にブーイングが発生している所もあるが、そこんとは黙殺の方向で。

「ふふ…きちんとやってくれるのであろうな?」
「当たり前だ!出るからには勝つ!!」

「よっしゃ、出るからには目指すは優勝だー!!」
「おうよ!でも俺的には賞金ゲット出来れば別に何位でもいいんだけどね!!」

「…ご一緒に…頑張りましょうね…?」
「えぇ、優勝目指して頑張りましょう!」

「さ・と・し〜vv俺たちはやっぱり離れられない運命なんだな!!」
「うぅ…なんでこんなことに…」

「頑張りましょうね!」
「まぁ、ぼちぼち頑張ってやろうねー」
『……やる気あるの?』

「葉華君、一緒に頑張ろうね!」
「まぁ、怪我しない程度に楽しもうな」

各ペア様々な会話がなされているが、とりあえずは大会に参加する気なので問題はない。


――――そんなわけで、ビーチバレー大会が開催されるのである。


●準々決勝!花中ペアVS熟年ペア編
一回戦、二回戦と意外と簡単に勝ち進めた全チーム。
今までメンバーのペアは全て別の所にいたので当たることはなかった。
が、三回戦…準々決勝になったところで、ついに知り合い同士で当たりだした。


二番目に戦うことになったのは、孔志と崎のペアと、シオンとまきえのペアだ。


「よっしゃぁ、勝つぞー!!」
「おう!目に物見せられてやろうぜ、アンドレ!!!!」
「オーケー!オスカル!!」
わけの分からない会話をしつつ、変な呼称を言い合う二人。
ちなみに孔志がオスカルで、崎がアンドレである。
なんかと言うと、花屋→花と言ったらバラ!(この時点で既に不思議)→バラと言ったら『ベル薔薇』!!→ベル薔薇と言ったらオスカル!!→でもそのまんまじゃつまらないからアンドレで。と言う感じで決まった孔志のあだ名に、孔志が便乗して遊んでるだけなのである。
何と言うか…ノリがいいというのは、こう言う時に便利なものである。

「さぁ、まきえさん、一緒に頑張って優勝をもぎ取りましょう!」
「…はい…頑張りましょうね…?」
にっこりと微笑み合うのは余裕すら見える流石と言った感じの熟年ペア。
…と言うか、むしろ余裕を見せてしまうくらいシオンや周りの人々にとって予想外だったのは…やはり、ひとえにまきえの怪力のおかげだろう。
この痩身の女性が数十kgの荷物を片手で軽々と持ち上げられるような怪力だと、誰が思うだろう。
まぁ、その油断を利用する形でまきえが強烈なアタックを決めたため、相手の戦意喪失と言う結果を招けたとも言えるのだが。

――――そして、試合開始のホイッスルが鳴る。

***

「まきえさんっ!」
「任せてください!!シオンさんっ!」
「はいっ!!」
崎のアタックをレシーブしたシオンの声に答え、まきえがトスをあげる。
そしてそれを高く飛び上がったシオンが、強く叩いてスパイクを叩き込む。

「甘いっ!!」
「行けっ、アンドレッ!!」
「任せろオスカルッ!!
 俺のスマッシュを受けてみやがれ!!!」

―――――バァンッ!!!!
わぁっ!!!

ちょっと間違っている孔志の台詞と共に、崎のトスによって上げられたボールが孔志の強烈なスパイクでまきえとシオンのコートに見事に叩き込まれた。
上がる歓声に、孔志と崎は手を叩きあう。

「よっしゃあ!やったぜオスカル!!」
「おう!ナイスだアンドレ!!」
二人で笑い合ったところで、がばっと孔志が崎に抱きつく。
「うおっ!?」
「勝利の喜びを表すスキンシップさオスカル♪」
「おお、そうだったのかアンドレ!!」
驚く崎にワケの分からん理由を言う孔志に、それにあっさり納得する崎。
後方から『抱きつくなら俺にー!!』『夏野さん、大人しくしてて下さい!!』と言う会話が聞こえてきたが、多分聞かなかったことにした方がいいだろう。
そして抱きしめあった後離れた孔志は、シオンとまきえに向かうと、不敵に笑う。

「…伊達に毎日花の水を持ち運んでるわけじゃないんだぜ?」

そう言って手首を叩くように捻ってみせると、シオンとまきえが小さく苦笑した。
自信満々な孔志を見ながら、二人はこっそりと口を開き。
「なんだか、悔しいですね」
「…えぇ…今度は、点を取り返してやりましょう…?」
などと、静かな会話が成されていたり。

…そして、試合再開。
今度はまきえ達のサーブである。
今回は公平を規すため、片方が二回サーブを打ったら、今度は相手側が二回サーブを打つ、と言うように交互制になっているのだ。

なので、まきえがボールを掌に乗せ、サーブの体勢をとる。

「…いきますよ…?」

ピッ、と審判が笛を吹く音と同時に、まきえはゆっくりとボールを放り投げた。
放り投げられたボールは軌跡を描き、まきえの元へと落ちてくる。
そしてまきえはゆっくりともう片方の手を掲げると―――思い切りボールに打ちつけた!!


バァンッ!!!ビュンッ!!…ブチィッ!!!!!―――ゴッ。


『……あ』
「…あら…?」

ボールに手の平が強く叩きつけられた音。
……ミスサーブだったようでそのボールが勢いよくネットをブチ破る音。
――――そして、鈍い衝突音。

…どさっ。

…鈍い衝突音の発生源は、孔志。
無言のまま顔にボールを半分めり込ませ、直立のままで真っ直ぐに地面に倒れ付した。

「アンドレッ!?」
崎が孔志のことを呼びながら駆け寄り、抱き起こす。
顔に見事にボールの後をつけた砂まみれの孔志は、ぷるぷると震える手を持ち上げ、小さく笑った。
「オスカル…俺は、もう、ダメ…だ…」
そこまで言うと、がくりと顔を落とし、手がぼとりと地面に落ちる。

「ッ!!…アンドレ――――――――ッ!!!!!!」

まるでベル薔薇のオスカルよろしく思い切り叫んだ崎。
その様子を見て戸惑う皆。
そんな中、審判は必死に平静を装い、ゆっくりと片手を上げた。


「…花中ペア、試合続行不可能により、失格…」


「…あらあら…勝ってしまいましたね…」
「勝ったって言ってもいいんですか?これ…」
「…でも、一応不慮の事故ですし…」
「まぁ、運も実力のうち、と言うことでしょうか…」

未だにオスカルになりきってるのか叫びまくる崎を他所に、シオンは苦笑交じりに、まきえは笑顔で話をするのだった。


――――――熟年ペア、準決勝進出。


●帰りは安全運転で(何)

ビーチバレー大会が終わった後、そのまま表彰式になった。
ちなみに順位は以下の通りである。

1位:大小ペア
2位:W女王ペア
3位:素性不明ペア(熟年ペアは片割れ(シオン)が戦闘不能の為3位決定戦は行われなかった)

まきえの希望通り、見事に上位を知り合いのメンバーが独占した状態になったのだ。
いやぁ、めでたいめでたい。
…ちなみに商品のスイカのうち三つは、その場で切って皆で祝杯代わりに食べました。
残りの三つは半分にしてラップに巻き、全員に手渡されましたよ。

――――そして、そのまま日が暮れて夕方。

一行はプラントショップのキャンプカー(10人+二体が乗っても充分余裕があるくらいには広い)に乗って、帰り道を走っていた。

「楽しかったですね」
『まぁ、悪くはなかったね』
「アンドレ、生きていてくれたんだね!!」
「勿論さオスカル!君を置いて死んだりはしないさ!!」
「あぁ、バイト代も沢山もらえたし…これで少し貯蓄が出来ます…」
「よかったですね、シオンさん」
「あー、それにしても幸せだったなーv聡の膝ま…」
「わーっ!!余計なこと言わないでくださいっ!!!」
「黙ってたってバレバレなのに…」
「だよなー?」

動きすぎてすっかり疲れた人間とか、バイト代を貰ってほくほくな人とか、まだまだ体力有り余ってる人とか。
皆すっかり海水浴を満喫した様子。


――――しかし、そんな中でも地獄を味わった人がいるようで。


「くっ…!!!」
上着を脱いで腕を抑えているのは―――真輝。
抑えられている彼の腕は、焼けて黒く…とかじゃなく。
まるで火傷のように真っ赤になってしまっていた。

「…やっぱり日焼けで赤くなってるし…」
…彼の肌はマトモな紫外線対策もしないで思い切り夏の太陽に照らされ、日焼けをせずに真っ赤になっただけになってしまったのだ。
ヒリヒリと痛む腕を抑え、真輝は身悶えていた。

「うわっ、すっげー…真っ赤だよ」
真輝の肌を見て興味津々の葉華は、真っ赤な腕をぺたりと触る。
「いっ…!
 っだー!葉華触るなっ!痛いだろーがっ!!!」
その痛みに涙目になりながら、真輝は葉華の手を振り払う。
「えー…ちぇっ」
残念そうにしながらも、葉華は大人しく手を引っ込める。
「くく…なさけないのぉ…」
何時の間にか普段の着物姿に戻った櫻が口元に扇を当てながら笑うと、真輝がぎろりと睨みつける。
しかし櫻がものともしないのを見ると、がくりと肩を落として疲れたように呟いた。

「大体なー…
 お前ら植物系なのに、なんでこの日差しで平気なんだよ…信じらんねー」

真輝のそのぼやきに、葉華と櫻は顔を見合わせるとなんとでもないように口を開く。

「おいらやボブの身体の細胞にはサボテンも混ざってるから、暑くても平気だし」
「わしは元々精神の塊のようなものじゃからのぉ。
 日差しなんぞあってないようなものじゃ」

「…そーかよ…」
さらっと言われた言葉に、真輝はがくりと肩を落とす。


「…ふふ…。
 ……機会がありましたら、またご一緒に海水浴に参りましょうね…?」


運転しながら微笑むまきえの言葉に全員が頷いたかどうかは…一行だけの秘密である。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【2227/嘉神・真輝/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】
【2309/夏野・影踏/男/22歳/栄養士】
【2936/高台寺・孔志/男/27歳/花屋】
【3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42歳/びんぼーにん】


【NPC/山川・まきえ/女/38歳/プラントショップ『まきえ』店長】
【NPC/山川・聡/男/18歳/プラントショップ『まきえ』店員】
【NPC/ボブ/無性別/1歳/「危険な温室」管理役】
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
【NPC/葉華/両性/6歳/植物人間】
【NPC/秘獏・崎/男/15歳/中学生】
【NPC/櫻/女(無性…?)/999歳/精霊】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第十弾、「Let's海水浴!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は全開にも増して個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
自分のキャラが他の人のノベルに出てる、なんてこともありますので他の人の物も見て探してみるのも中々面白いかもしれません。
今回の〆直前は真輝さんと櫻・葉華の独断場となりましたが、そこはどうかお許し下さい(汗)
…ところで、誰がどの台詞を言ってるかわかりますか…?(爆)
ちょっと人によって長さがまちまちですが、ご容赦くださいませ(土下座)
なにはともあれ、どうぞこれからも愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

孔志様:ご参加、どうも有難う御座いました。
     なんというか…散々な目にあわせて申し訳御座いません…!(土下座)
     個人的には崎との掛け合いは書いてて凄く楽しかったです(爆)あだ名は…まぁ、変なのは百も承知なんで(をい)
     孔志様のような明るいキャラは書きやすいので、楽しかったです。

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。