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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


トワイライト・パッセンジャー


1 草間事務所
 

 事務所の薄汚れた天井をぼんやりと見上げながら、草間武彦は小さく溜息をついた。
 (……8度目)
 自分の事務用デスクに腰掛け、パソコンのキーを叩いていたシュライン・エマは、心ここにあらずといった体の所長の姿にちらりと視線をやる。
 武彦は依頼人である老紳士が帰ってからずっとこの調子だった。
 煙草を吸っては天井を見上げ、煙と共にため息を吐き出し……既に灰皿の中は煙草の残骸で山になっている。
 今回の依頼は昨年廃校となった、しかも草間の母校でもあるらしい中学校で起こっているという怪奇現象の調査だった。依頼人はその中学の最後の校長で……話を聞く限り草間とも面識があるようだった。
 武彦が9度目の溜息をつく。
 シュラインの美しく整えられた眉が跳ね上がる。
「もう、さっきから鬱陶しいったら! 武彦さん、いったいどうしたっていうの? 母校の恩師にまで怪奇探偵扱いされて落ち込んでいるの?」
「あ……いや、そういう訳じゃないんだが」
 武彦は机の上に投げていた両足を床へと戻し、軽く頭をかく。
 単に不貞腐れている、という訳ではないようだ。
「じゃあ、何? 今回の依頼に何か思うところでもあるのかしら?」
 シュラインの問いに武彦は応えることなく、緩慢な動作で椅子から立ち上がる。
「悪い、シュライン。ちょっと出てくるから、さっきの依頼の資料集めと調査に使えそうな奴らの確保を頼む」
「ちょ、ちょっと武彦さん!?」
 スタスタと事務所のドアへ向って歩いていく武彦に、怒り半分戸惑い半分の声音でシュラインが声をかけるが、彼は振り向くことなく背中越しに「じゃ、宜しく」と告げるとそのまま外に出て行ってしまった。
「いったいどうしたっていうのよ……」
 いつもと様子の異なる武彦に、今度はシュラインが大きな溜息をついた。
 
 
「くっさまー、遊びにきたよー」
「おはよーございます」
 草間興信所のバイトである天壬ヤマトと常連である海原みあおが、事務所のドアを開けると、シュラインが部屋の中央で難しい表情をしたまま、腕を組んで仁王立ちしているのが目に入った。
「ど、どうかしたんすか、姐さん」
 遅刻でもやらかしたかとヤマトは壁にかけてある時計へと目を向けるが、定刻にはまだ幾許か時間がある。
「あら、おはよう天壬。いらっしゃい、みあおちゃん」
 二人の姿を認めるとシュラインは愁眉をとき、笑顔を浮かべる。
「あっれー、草間はー? いないのー?」
「ええ、外出中よ。たった今出て行ったばかりなんだけれど、会わなかった?」
「うん、会わなかった」
 応接用のソファに座り込み、あーあと残念そうに呟くみあおに微笑みを向けながら、シュラインは自らも応接用ソファに腰かけ、自分のデスクに腰掛けようとするヤマトをチョイチョイと指で呼ぶ。
「どうしたんすか?」
「新しい依頼が入ったの。……この依頼を受けてから武彦さんの様子が少しおかしくて、気になっているんだけれど」
「所長の様子がおかしい……、ということは、もしかして怪奇系ですか?」
 ヤマトの言葉にシュラインは微苦笑を浮かべる。
「もしかしなくても怪奇系よ。廃校になった中学校で目撃されている怪奇現象の調査」
「わぁ、おもしろそうだねえ。みあおも行きたいーっ」
 嬉々として手を挙げる少女に、シュラインは小さく首を傾げる。
「夜の調査になるけれど大丈夫かしら。次の日、学校があるでしょう?」
「もう夏休みだから平気だよ! お姉さんにきちんと許可ももらってくるから。ね、みあおも連れてって」
 今にも抱きつかんばかりの勢いに苦笑しながら頷き、シュラインはヤマトへ向き直る。
「……で、どうするの。あんたの方は?」
「え、オレっすか! もちろん行くにきまってるじゃないですか」
「バーのピアノ演奏のバイトと、被るかもしれないわよ?」
 シュラインの言葉にあー、と呻きながらヤマトは天井を睨みつける。
「かぶるようだったらあっち休みもらいますよ。調査のほう行きますって」
「OK。じゃあ天壬、資料作りに取り掛かるわよ。まずは……」
 いつもの元気を取り戻したシュラインの矢継ぎ早の指示を、ヤマトは急いでメモに書き付けた。
 
 
 
2 調査資料

件名:草間興信所より調査日程のお知らせ及び資料をお送りします
送信者:シュライン・エマ

この度は調査にご協力有難うございます。
調査日程は下記の通りとなりましたので、時間厳守でお集まりください。
実施日:  08 / XX
集合時間: 21:00〜
集合場所: 現地正門前(現地住所、使用交通機関等は添付ファイル1をご覧ください)
持参物 : 見取り図(添付ファイル2) 懐中電灯 携帯電話(充電を忘れずに)

添付ファイルについて
添付内容
・添付ファイル1(現地住所・現地までの交通機関案内・調査対象校沿革)
・添付ファイル2(学校見取り図・怪異について(抜粋))

今回の調査は「調査対象建築物」内にて起こるといわれている「怪異」の真偽・原因を詳らかにすることを目的としています。世間で噂される「調査対象建築物」の「怪異」が、どこまでが実際に起きている事象なのか、あるいは噂にしか過ぎないものなのかを確認するためのものです。除霊・浄霊を目的としたものではないことをご了承ください。

当興信所の調査の結果、40年の歴史を持つこの中学と関係する死亡記事は12件。
但し、いずれも在籍学生の交通事故死によるものであり、今回の怪異と強く結びつけられるような事件・事故は調査対象校ではなかったことを記しておきます。

各調査員の事前調査結果
インターネット、調査員による調査対象近辺の噂の収集などの結果、概ね「怪異」は以下の2通りにカテゴライズされます。
・音(校舎内から複数人の声がする。泣き声、歌声、ピアノの音などがする等)
・人影(教室内に複数人の人影。屋上、校庭、廊下、体育館に人影等)
(「怪異」の噂については添付ファイル2「怪異について」をご覧下さい。怪異目撃場所については見取り図内に印をつけてあります)

質問等ありましたら、事前に草間興信所まで電話・メール等でお問い合わせください。
(担当・草間武彦/シュライン・エマ/天壬ヤマト)
では当日は宜しくお願い致します。



3 集合

 はい、定刻どおりにお集まり頂いて有難うございます。
 草間興信所のシュライン・エマです。
 校舎内の調査にかかる前に、グループ分けと注意事項について説明します。
 
 まずはグループ分けについて。今回は3組に分かれて、各担当区域を調査して頂きます。
 
 まず教室棟を回ってもらうのが、草間所長、高台寺孔志さん、海原みあおさん。
 高台寺さん、心なしかがっかりしてるようだけれど? 従妹のお嬢さんから重々監督をお願いしますって言われてるのよ。ね、武彦さん。みあおちゃんも高台寺さんと調査行ったことあるのよね。宜しくお願い。
 
 次に校庭・体育館・裏庭を回ってもらうのが、東雲翔さん、外村灯足さん、綾小路雅さん。
 そこ。どうしたの。ええと外村君だったかしら。具合でも悪いの? 顔色悪いけれど。大丈夫?……ってどうして綾小路君がそこで「大丈夫です」って答えるのかしら。東雲さんは初の調査だけれど、三人とも気心がしれているようだから大丈夫ね?
 
 最後に特別教室棟を回るのが、私、シュライン・エマと天壬ヤマトさん、初瀬日和さん。
 実際の調査になると元気になるわね、天壬。新聞縮刷版に目を通している時はあれほど青色吐息だったのに。日和さんは、手を傷めないように気をつけて。私、あなたのチェロのファンなのよ。何かあったらその天壬を盾にしていいから、ね。
 
 はい、では注意事項です。
 今回、事前調査の時点で実害が出たという話はなかったので大丈夫だとは思うけれど、何か不測の事態が起こった場合は所長や私、もしくは他グループの人に連絡をしてください。各自の携帯電話のメモリに他のグループの人の番号を登録しておいて。
 
 いい? 出来たわね。
 
 はい、あと各グループに一つずつ、テープレコーダーとデジカメを預けておくわ。
 レコーダーはここを出発した時点で録音スイッチを入れてくれて構わないわ。
 緊張する必要もないし、ずっと黙っている必要もありません。普通にしてくれていて結構よ。
 逆に録音してるからって会話に妙な演出をしないこと。
 デジカメの方はそれらしい状況に出くわした時に使用して。
 
 調査時間は最長3時間。それまでにここに必ず戻ってくること。たとえ調査途中であったとしてもよ。
 
 じゃ、解散。宜しくお願いします。



3 調査

◇昇降口
 
「なあ、草間。録音ボタン押す前に聞いておきたいんだけどさ」
 孔志はみあおと手を繋ぎ、数歩前を歩く草間の背中に声をかける。
 眼前にそびえる教室棟は闇に包まれており、暗く沈んだ窓には何も映っていない。
「…なんだ」
「この間の花は今回の件となんか関係あるんだろ? 無理にとはいわねえけど、よければ話してみないか?」
 真剣な面持ちで話しかける孔志に、
「みあおも聞くよ。話しちゃだめなお話なら、みんなにはナイショね」
 その傍らを歩く少女も草間の背中に真剣な眼差しを向ける。
 『この間の花』というのが何のことなのか分からないみあおも、今回の依頼を受けてから草間の様子がおかしいということをシュラインから聞いていた。幼いとはいえ、孔志の言葉はそれと関係があるのだろうとみあおにも察しはついた。
「……今回の依頼者は」
 溜息とともに草間の肩から力が抜ける。
「ここの最後の校長で。俺が中3の時の担任だった。その時のクラスメートで1人、死んだヤツがいる」
「だけどお前んトコの姐さんの調査書にゃ、自殺者の記事は見あたらなかったって……」
 孔志の言葉に草間は小さく頷く。
「自殺でも交通事故でもないのさ……中学生の病没なんて余程のことがなければ新聞記事にはならないだろう」
 孔志とみあおは「あ」と小さく声をあげる。
「そういや俺が学校に通ってるときにも、他のクラスでそんなヤツがいたな……」
「残念ながら、学校からそういう去り方をする奴もいるのさ」
 3人は昇降口の前にたどり着く。
 預かった鍵束をチャラチャラと鳴らしながら、草間は締め切られた扉をゆっくりと開け放った。
 ギィという立て付けの悪い音とともに、埃が舞い、その匂いが鼻の奥をくすぐる。
「俺とな」
 草間は静かに言葉を続ける。
「そいつは比較的仲が良かった。まあ、そいつも俺も人とベタベタ付き合うのが苦手だったから、そうは見えなかったかもしれんがな。もともと身体の弱い奴で……その年の暑さに心臓と体力が持たなかったらしい。夏季休暇が終わって学校に来てみれば、そいつの葬式に行く羽目になった」
 草間は懐中電灯のスイッチを入れながら、校舎内に足を踏み入れる。
 「「担任」が……今回の依頼者な……が来た時、そいつのことを思い出した。俺のところに「担任」が依頼に来たってことは、もしかしたら奴の姿がこの校舎にあったからかもしれない、なんてな」
 ここが好きな奴だったからな、と草間は呟いた。
 自らの発した言葉の余韻を遮るように、さて、どう回るか、そう言って後ろを振り向こうとした草間をみあおが制す。
「あ、草間、今、うしろ向いちゃダメ」
「っ、どうかしたのか、みあお」
 背筋に緊張を走らせて厳しい声音を発した草間に、ちがうの、とみあおは首を左右に振った。
「あのね、ちょっとね、うん……孔志、大丈夫?」
 目頭を押さえている孔志を見上げながら小さく尋ねる。
「……ああ、悪ぃな。目に埃が入っちまってよ」
「なにやってんだ、高台寺」
 呆れ声をあげ肩をすくめて見せると、草間は屋上から行くぞ、と二人に声をかけてスタスタと廊下を歩き出した。
「ありがとな、みあお。草間にバレたら、この先ずっとネタにされるからなー」
 涙腺の脆い孔志は赤い目元を指で拭いながら、傍らの少女に微笑みかける。
「うん、だってシュラインに、孔志のこと宜しくねって言われたし。……あ、草間見えなくなっちゃうよ。急ごう!」
 手を引く少女に、孔志はしょんぼりとうなだれる。
「つまり、みあおにとって俺は被保護者なワケね……」
 
 
◇廊下

 
「うわー、なんだかすごいね」
「本当にな」
 階段の踊り場に立った孔志とみあおは突如聞こえ出したその音に目を丸くする。
 草間の姿は既にそこにはなく、どうやら先に一人で行ってしまったようだった。
「所長のくせになー」
 ぶつぶつ呟きながら、孔志はレコーダーのスイッチを入れる。
 二人の耳には、わー、という楽しげな複数人の声と廊下を走り回る音が届いていた。
 まるでこれは、とみあおは思う。
 学校の休憩時間みたいだ、と。
「なあ、みあお。ここに入ったとき、何か感じなかったか?」
 二人並んで階段を上がりながら、孔志が話しかける。
「何か? うーん、どうだろう。「普通」。怖いとか嫌だとかは感じなかったよ」
「俺もなー、怖いとか嫌だとかは感じないんだ。今も。なんていうか、懐かしいっていうか温かいっていうか、そんな柔らかいもんが漂ってる感じがする」
「うん、そうだね。恨みとか苦しみとかは感じないね」
 耳に届くのは楽しげな笑い声ばかりだ。
 2階、3階と階を上がるたびに、最寄の教室を覗くが人影はなく、ましてや人の気配もなく、ただ、ただざわめきが漂っている。明るく朗らかな。
「依頼の話を聞いた時、学校に思いを残した奴がいるんだろう、なんて思ったんだ。だから学校なんて思いを残すとこじゃねえぞって言ってやろうかと思ったんだけどさ……これはどう考えてもそういう類じゃねえな」
 良かった、という言葉を口にした孔志の手を握りながら、みあおも頷く。
 ここに漂う空気には怪奇スポット特有の「負」の感情が全くといってなかった。
 まるで録音をしておいた音を繰り返し流しているような、そんな印象を受ける。
「……みあお、これ、学校が懐かしんでみている夢のような気がする」
 校舎が在りし日の学校での出来事を、繰り返し繰り返し思い出している。
 そんな風に思えてならない。
「学校の見ている夢か。……きっといい学校だったんだな。センセイも生徒もさ」
 再び目頭を軽く押さえる孔志に、みあおは小さく微笑んだ。
 
 
 『ありがとう』
 
 
 不意に頭上の方から声が響く。
 少年のような、青年のような声音だった。
 
「今のは……」
「この学校の精霊さん、かなあ」
 孔志は自らの手のうちにあるテープレコーダーへと視線を落とす。
「今の、校長先生に、聞かせてやりてぇな」
「うん、録れてるといいね。録れてなかったら、きちんとみあおたちが伝えておくからね」
 何もない天井に向ってみあおは明るく笑いかけた。
 
 
◇屋上

 
「くーさーまー、いるー?」
 そういいながら、みあおが屋上のドアを開ける。
 そこで孔志とみあおが目にしたのは、コンクリートの上に倒れこんでいる草間とフェンス越しに立つ少年の姿だった。
「おいっ、草間っ」
 駆け寄ろうとする孔志に、
『大丈夫、ただ気を失っているだけだから』
 少年は穏やかにそう言った。彼は線の細い、優しい面立ちの少年だった。
「お兄ちゃんが、草間の中学生の時のお友達?」
『そうだよ』
 みあおの言葉に目を細め、嬉しそうに笑う。
「どうして草間はここに寝ころんでんだ」
『緊張の糸が切れちゃったみたいなんだよね。僕が今更化けて出るワケないのにねえ』
 お盆に帰ってきてみれば、校舎がなくなるっていうから遊びにきただけなんだけど、と少年はサバサバとした口調で告げる。
『変わんないよなあ。あ……寝顔も全然変わんないや』
 少年は草間の寝顔を覗きこみ優しく笑うと、孔志たちへと視線を向ける。
『あのさ、今、ここには色んな人たちが来てるけど、みんなただ惜しんでるだけなんだ。懐かしがってるだけなんだよ。僕を含め。──ここは大切な場所だからね。タケヒコにも言ってあるんだけど、「担任」にはだから心配しなくていいって言っておいて。最後にお祭りしてるようなものなんだって』
「うん、みあお、校長先生に必ず伝える。伝えるよ」
 孔志も大きく頷く。
 じゃあ僕はそろそろ行くね、と背を向けようとする少年に、ちょっと待てと孔志が声をかける。
「なぁ、あんた、好きな花は」
『……好きな花?』
「草間がな、あんたの墓参り行く時、何もってくか悩んでたんだ。今度行く時、あんたの好きな花を持っていってやれるように聞いときたいんだが」
 孔志の言葉に少年は目元に柔らかな光を宿す。
『……向日葵だよ。鮮やかな黄色の向日葵がいいな』
「OK。俺が腕によりをかけてアレンジした奴を持っていってやるよ」
 コレと一緒に。
 草間を指差しながら笑う。
「みあおも行くよ!」
 
 そんな二人に、
『これからもタケヒコを宜しくね』
 少年も笑って小さく手を振ると、すべてが幻だったかのように、ふっと宙に姿を消した。
 



4 エピローグ


 老紳士は調査結果報告書から目をあげると、小さく吐息を漏らした。
 彼の前には録音されたテープ、写真などの証拠品もいつくか並べられている。その中には、みあおが提供した中庭を掘り返していた卒業生と調査メンバーの集合写真なども入っている。
「みんなあの学校を好いてくれていたんですねえ。そしてあの学校も私たちを好いていてくれた……」
 噛み締めるように言葉を発する依頼者の双眸は心なし赤い。
「彼は……元気そうでしたか、草間君」
 穏やかな口調の問いに、草間は小さく頷く。やはり依頼人は彼のことを想定して自分に依頼したのだと、確信する。そしてやはり彼のことは校長……草間の中学時代の担任にとっても忘れ得ない出来事だったのだと知る。
「たまに墓参りに来ないとこれからは枕元に出てやると言われました」
 そんなことしやしないのに、と草間は小さく笑う。
「彼らしい言い様ですね……」
「ええ。調査の前に一度いったんですが、また訪ねるつもりです。向日葵の花が好きなんだそうですよ」
 草間の言葉に、きっと喜びますね、と元担任は何度も頷いた。
「あと、こちらの調査員の報告書にある2人なんですが、ご存知ですか?」
 裏庭に現れたという高校生風の2人について尋ねると、紳士は瞑目して頷いた。
「あの学校の卒業生です。そして高校在学中に行方不明になってしまった子たちで。そう……ですか。あちら側に行ってしまっていたのですね……」
 噛み締めるように一言ひと言を発した。
 
「有難う。今回の調査で胸の痞(つか)えが取れたような気がします。あの学校は私が思っていた以上にみんなに愛されていたようだ」
 報告書類の入った鞄を大事そうに抱え、ありがとうと老紳士は深々と頭を下げた。
「先生、やめてください」
 慌てる草間に彼はかぶりを振る。
「感謝してもしきれないですよ」
 そう言って再度頭を下げる。草間はそんな紳士の姿に低く唸る。
「ああそうだ、今度、タイムカプセルを掘り出そうとしていた卒業生たちの呼びかけで、人数を集めて同窓会のようなものをするそうです。先生とも連絡を取りたがっていましたので、そちらの報告書にある連絡先に電話をしていただけませんか。皆さんきっと喜びますから」
 照れを隠した草間の言葉に、元校長は穏やかに笑って頷いた。
「そうですね……私たちも盛大に懐かしみ、別離を惜しむことにしましょうか」
 彼らとともに。
 
 
 有難う、と依頼者は三度頭を深く下げた。
 
 
 END



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2701 / 綾小路 雅 / 男性 / 23歳 / 日本画家
2713 / 外村 灯足 / 男性 / 22歳 / ゲーセン店長
2709 / 東雲 翔 / 女性 / 20歳 / 看護学生
2936 / 高台寺 孔志 / 男性 / 27歳 / 花屋
1415 / 海原 みあお / 女性 / 13歳 / 小学生
3524 / 初瀬 日和 / 女性 / 16歳 / 高校生
0086 / シュライン エマ / 女性 / 26歳 / 草間興信所事務員
1575 / 天壬 ヤマト / 男性 / 20歳 / フリーター

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■         ライター通信          ■
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皆様この度はご参加くださいまして有難うございます。
ライターの津島ちひろです。大変お待たせしてしまって申し訳ありません。
今回のウェブゲームは津島的夏企画で普段とは変わった形式で描かせていただきました。
物語は全体で前後半の2分割になります。
前半は
・シュラインさんグループ(シュラインさん/ヤマトさん/みあおさん)
・草間さんグループ(孔志さん/日和さん/草間さん)
・綾小路さんグループ(雅さん/灯足さん/翔さん)
後半は
・シュラインさんグループ(シュラインさん/ヤマトさん/日和さん)
・草間さんグループ(孔志さん/みあおさん/草間さん)
・綾小路さんグループ(雅さん/灯足さん/翔さん)
です。他のグループの方の話を読まないとわからない部分もありますので、宜しければご覧下さい。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。今回は本当に有難うございました。



海原みあおさま
初めまして。今回はご参加有難うございます。
前半はシュラインさんグループでのお話、後半は草間さんグループのお話に係わって頂きました。
孔志さんとの掛け合いをとても楽しく描かせて頂きました。男性陣の中でのみあおさんの可愛らしさが個人的にはとても有難かったです。機会がありましたらまたよろしくお願い致します。