コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Let's海水浴!

●オープニング
ある暑い日のことである。

――――プラントショップ『まきえ』関係者は、揃って海水浴へやってきていた。

「青い空!」
ビシィッ!と水着の上にパーカーを羽織った崎が空を指差して叫ぶ。
「白い雲!!」
それに倣うように、水着着用で、腹に耐水性の包帯を巻いて同じくパーカーを羽織った希望がふわふわと漂う雲を指差して叫ぶ。

「そして――――輝く太陽を映しだす水の鏡!!」

男物の水着にシャツを羽織った葉華が、嬉しそうに下を指差して叫ぶ。


「「「海だ――――――ッ!!!!!」」」


喜んで駆け出す3人の先には――――太陽の光を反射して輝く、海があった。

「3人とも…嬉しいのは解りますけど、気をつけてくださいね…?」
浜辺にパラソルを立てながら黒のワンピースの水着にパーカーを羽織ったまきえが苦笑気味に言うと、離れた所から『おー!』ときちんと聞いているのか怪しい返事が返ってくる。
「ふふ、若い者は元気でよいのぉ」
ピンクのパレオの水着を着て、前を開けたパーカーを着た櫻がくつくつと喉を鳴らして3人を見る。
髪はポニーテールにされていて、一応考慮してあるのか、桜色の髪は腰までの長さに揃えられていた。
「まぁ、元気なのはいいことなんですけどね…」
水着の上にやはりフード付きのパーカーを羽織った聡が、荷物を置きながら苦笑気味に頷く。

「―――あれ?そう言えば、ボブはどこに…?」
先ほどまでは一緒に車に乗っていたはずなのに…。
そう呟きながら辺りを見回す聡に、まきえは笑顔で頭上…パラソルを指差した。

「ボブなら…さっきからそこにいますよ…?」
「……え?」

きょとんとして聡が上を見上げるが、そこにあるのは黒いパラソルの内側だけ。
「母さん、黒いパラソルのどこにボブが…」
そこまでいったところで、聡ははっとして顔を青くした。

―――まさか。
頭の中を過ぎった嫌な予感を振り切って、聡は慌ててパラソルの外へ出る。

――――そこには。
「ぼっ…ボブッ!?」
布の部分を広げられた挙句しっかり骨組みを取り付けられ、見事にパラソル代わりにされた憐れなボブの姿が…。
心なしか表情が情けなく、今にも泣きそうな感じが…。

「か、母さん!!ボブを今すぐ降ろしてよ!!
 普通のパラソル持ってきてるでしょ!?」
「それは勿論そうだけど…いいじゃない、そのままでも…」
「駄目です!!!」
「…そう…?」
どことなく不安そうな顔ながらも、まきえはボブを開放した。

そんな騒がしい面々を呆然とした顔で見ているしかなかった貴方達。
しかしそれに気づいた聡が、困ったように笑って振り返る。


「騒がしくてすみません。
 まぁ、今日は手伝いしてくださったお礼ですから、たっぷり楽しんでいってくださいね?」
そういって微笑む聡に、貴方は笑ってこくりと頷く。

「聡ー!!今から希望たちとビーチバレーするから審判やってくれー!!」
「あ、はーい!今行きますー!!」
大きく手を振って聡を呼ぶ葉華。近くには希望、崎、櫻の姿もある。
その声に返事を返すと、聡は小さく会釈をして葉華達のいる方に向かって走り去って行った。


――――――さて、これからどうしようか?


●先祖返りもほどほどに?
他の面々が泳ぎに行ったり寛いだりしている中。
―――――今回海に誘われたメンバーの一人である夏野・影踏はと言うと…?

「…あぁ…幸せだ…vv」

……今にも鼻血を噴出さんばかりの勢いで、恍惚とした表情を浮かべていた。
あぁ、悲しきかなホモ寄りゲイの性。
健康的な肌を惜しげもなく曝け出す(と言うと少々危ないが影踏的にはそんな感じだ)水着姿の男性陣を眺めて、影踏はすっかりご満悦。
手にした動画も取れるデジカメ(当然の如く防水である)もフル稼働。
海で戯れる皆(主に男)のエンジョイっぷりをバッチリ記録中だ。

…実はちょっと熱っぽかったりするのだが、そんなの今の幸せに比べたら屁でもない。
このパラダイスを眺めていればすぐに治るさこの程度!!ぐらいの心意気で。

先日の手伝いの時も、そりゃもう幸せそうにウヘウヘちょっと危険な予感がする笑い方をしながら手伝ってたぐらいなので、やっぱり此処はそれぐらいのパワーで行って貰わないと。
そんな感じなので、熱のせいかそれすらも超えた根性のせいでアドレナリン過剰分泌なのなご様子で、より一層ハイテンションな影踏さんなのです。

水着はハーフパンツ状の黒いものを着、上には緑のTシャツ着用。
お手製のお弁当(重箱)もバッチリ隣に置いてあります。
…え?中に変なもの入れてるんじゃないかって?
入ってないらしいですよ。………多分ですけど。

「…夏野さん、楽しそうですね…?」

そんな幸せな思考の海に沈む影踏に恐る恐る声をかけたのは―――聡。
三つ編みにされた髪からぽたぽたと水が滴っている所を見ると、海から一旦戻ってきたところらしい。

先日の結婚式の一件から思いっきり怯えて逃げる確立が高くなってしまったものの、最近は多少は落ち着いてきたのか怯え気味ながらも声はかけてくるようになった。
おどおどと困ったような表情でかけられる声に、影踏は思わずこの場で押し倒してしまおうかと考えたが、流石に此処ではまずいだろうと思い立って押さえ込む。
そんな影踏の葛藤を知ってか知らずか、聡はクールボックスの中に入っている水を取り出して一口飲むと、やや困ったような表情ながらもにこりと微笑みかける。

「…夏野さんも折角海に来たんですし、泳がないと損ですよ?」

じゃあ、僕はまた泳ぎに行ってきますから、と言うと、聡はそそくさとその場から立ち去った。

――――で、当の影踏はと言うと。

「…………っ!!!!!」

…久しぶりに見た聡の微笑みに悶えまくって、暫くの間砂浜をばんばん全力で叩きまくっていた。

***

――――で。

悶えからようやく復活した影踏は、のんびりしていたボブに半分以上無理やりデジカメを押し付け、撮ってもらうことにした。
とはいっても、ボブは日光浴で光合成をするつもりだったので、その場からほとんど動かないという結果になってはいたが。
既にズームに切り替えているので大して問題はない。

そんな感じで撮影役を放棄した影踏は、上に着ていたシャツを脱いでいそいそと海に向かって走っていく。

「お、影踏も泳ぎに来たんか?」
「勿論♪」
先に海に入って聡の首を絞めつつ遊んでいた希望が影踏の姿を見つけて笑いかけると、影踏はにっこりと微笑んで頷いた。
ざばりと片足を海に突っ込むと、温いが外気よりはひんやりとした海水が足を包む。
その感触に思わずぞくりとしながらも、それは表面には出さずにそそくさと中に入る。

「やー、思ったよりも冷たいなぁ、海。
 ま、太陽のせいで大分温いけど」

なんて軽口を叩きながらざばざばと水を掻き分けながら進むと、何時の間にか希望から開放されて葉華と水中ビーチボールをして遊んでいる聡に後ろから抱きついた。

「うひゃぁっ!?」
「うおっ!なんだ影踏、いきなり後ろから現れて!」

抱きつかれて驚く聡と、突然現れたことに驚く葉華。分かりやすい反応の差、と言うか…まぁ、当然な分かれ方ではあるのだが。
「俺も泳ぎに来・た・のv」
「え…あ…そうですか…」
「泳ぎに来るのと兄貴に抱きつくのとなんか関係あんのか…?」
影踏の言葉にあっさり納得する聡と的確なツッコミを入れる葉華。

「そーゆーのは気にしたら負けなんだぞ?」

にっこりと微笑みながら言う影踏に呆れた顔をして「あっそ」で片付けて見なかったことにする葉華。
その反応に満足したんだかしてないんだか、影踏はそろそろ聡が離してくれと言い出しそうんな気がしたのでとっとと手を離す。

「んでさ、俺も水中ビーチバレーに混ぜてくんない?」
「別にいいけど?」
「えぇ、僕も特には…」

影踏の唐突な申し出にやや驚きナがらもこくりと頷く葉華と聡。
それににっこりと嬉しそうに(内心ニヤリと)笑って影踏が海上でにぷかぷかと揺れるビーチボールに手を伸ばした途端。

――――――ぽろり。
…と言う擬音が似合いそうな現象が影踏から発生した。

もとい―――――――影踏の体が、少女のそれに変化したのである。

当然影踏が身にまとっているものは男物の水着のみ。
―――と、言うことは?

……胸、丸出し。

「「「…あ」」」
「!!!」
「おー」
「きゃあっ!?」

その現象に驚くもの、叫ぶもの、何故か感心するもの。三者三様の反応だ。
ちなみにそれを間近で見た聡の顔は完全に真っ赤である。

「おわ、いきなり女になっちまったし」

…ただし、当の影踏はといえば、本当になんとでもないようなリアクション。
羞恥心と言うのはないのだろうか、この男(?)

「な、ななななな何冷静に言ってるんですか!?」

…とはいえ、影踏本人よりかなり焦っているのは聡だ。
鼻を抑えた手の隙間からなにやら赤いものが筋を作っているところを見ると、純情な聡には少々どころかかなり刺激が強かったらしい。
そんな聡を見て思わず噴出しかけながらも、影踏は前も隠さず手をひらひらと上下に振る。

「んなコト言われたって、俺もうこの体には慣れちゃったし、今更焦れと言われてもなぁ…」
「問題はそこじゃなくて!せめて胸を隠してください!!!」

半分涙目で顔面トマト色状態の聡はそう叫ぶと、慌てて影踏の腕を掴んで歩き出す。
「うおっ!?聡!?」
「元に戻るまではシャツ着ててください!!」
驚いた影踏を他所に聡は腕を掴んだままずんずんと歩き続ける。
とりあえず涙目で頼まれたので影踏は掴まれていない方の腕で胸を隠し、仕方なくついていく。

………意外と強引だな、聡って。

などとズレた感想を抱きつつ、影踏は聡に連れられて荷物が置いてある場所へと連れてこられた。
「…これで体と髪を拭いて、シャツを着て下さい」
「うぃーっす」
下手に逆らって嫌われたら困るので、極力見ないようにして渡されたタオルで髪と体を拭うと、シャツを着る。
もう大丈夫だよ、と声をかけると、ようやく顔の赤みと赤い流動物が治まったらしい聡が振り返った。
なんだ、もう赤くなくなってんのか。
もっと聡の赤い顔を拝んでやろうと思ってたのに、なんて残念そうな顔をする影踏の思考が読めたのかは分からないが、聡は深々と溜息を吐くと肩を落とした。

「お願いですから…公共の場では少しは気にしてくださいね…?」

疲れたようなその声音に、影踏は思わず噴出す。
それにじとりと睨みを返しながらも、聡は呆れたような顔で立ち上がる。

「それじゃあ、僕は海に戻りますから…」

おとなしくしててください、と言いかけた口が『お』の形で硬直した。
一体どうしたのだろうかと首を捻った影踏だったが、ふと自分の体の異常に気づく。

――――――シャツがきつい。

それは決して胸が出っ張ってるからとかではなく、なんというか…こう、全体的にシャツがピッチピチになってしまったような感じが…。
まるで、自分の体が大きくなってしまったような――――あ。

そこでふと思い立った影踏が自分の体に目を落とすと――案の定。
胸板が厚い。体が大きくなっている。
腕も太く――――体中筋肉がびっしりと埋め尽くしているような体躯。

あぁ――――――俺、マッチョになってるよ。

なんて影踏の頭が認識するが、時既に遅し。
彼が着ていた服は、『ビリ…』と言う布が裂けるような不穏な音を皮切りにして――――見事に、ビリビリに裂けてしまったのだ。
影踏の体に合わせた服なので、まぁ、当然と言えば当然の結果。

哀れ無残な布の切れ端と成り果てたシャツと影踏を呆然と目を見開いて見ていた聡は――――次の瞬間、大きく口を開く。


「――――その体質、なんとかして下さいぃっ!!!!!!」


聡の無茶苦茶な要求に、そんなこと言われてもなぁ、と苦笑する影踏は―――やっぱり、なんだか楽しそうだった。


●後でちゃんと出してあげて下さいね…?(何)
そんなこんなで時間はあっという間に昼。
何故、とかいつの間に、とか言うツッコミは一切受け付けない方向で。

折角のお重も、薬物系が平気な希望と葉華によってあっさりと平らげられた。
葉華はともかくなんで希望が…という疑問も笑顔でさりげなく黙殺され、影踏は喜んでいいやらいけないやらで複雑な気分。
ちなみに聡は警戒しまくって一口も手をつけてくれなかったとか。残念。

―――で。
午前中どたばたしまくったせいで疲れたのか、聡はパラソルの下で乾いた上半身にパーカーを着せ、軽く寝転がっていた。
まきえも日に当たり過ぎて一回倒れかけたので、半強制的にパラソルの下。
他にも二、三人ほど休憩中の人が残っていた。
そんな人たちと一緒にその場に残っている影踏は、寝転がる聡を舐めるようにして撮影していたりする。
聡は勘弁してくれと思いつつ言っても無駄だとわかってるのでおとなしく撮影されている。

暫くたっぷり思う存分聡の姿を撮っていた影踏は、唐突に立ち上がって聡の腕を鷲掴む。
「え?」
「いいからこのままこっちに来いv」
きょとんとした聡をそのまま無理やり引きずると、砂浜に放り出す。
べしゃりと音を立てて転がった聡を見てにやりと笑うと―――――影踏は聡にのしかかった。

「うわぁぁあああっ!?い、いきなりなんですか!?!?」
「いやぁ、やっぱりやるなら動けないようにしとくべきかなぁってv」
「やるってなにをですかぁああぁぁぁあっ!?!?」

真っ青になってじたばた暴れだした聡を尻目に、影踏はこの上なく楽しそうな顔。
いいのかなぁ、こんなんで。
しかし段々暴れまくる聡の相手をするのが面倒になってきたのか、横に置いていた手を熱い砂に突っ込んでざっと持ち上げ…聡の体にかけた。
「えぇっ!?!?」
「いやね、やっぱこの場合は砂に埋めた方がいいかなぁなんてv」
にっこり笑顔で言われた言葉で、聡がさっと顔を一段と青くする。
埋められたら本当に逃げられない。
むしろこのまま何されるやら不安でたまらないってゆーか…むしろお先真っ暗?

しかし運命とは非常なもので。
「あ、僕もお手伝いしましょうか?」
『ボクも手伝ってあげるよ』
ただ人を砂に埋めて遊ぶだけだと勘違いした如月・縁樹と分かってるクセにわざと知らないフリをしてる人形のノイが、いそいそとやってきて手伝い出したのだ。

「えぇっ!?ちょ、お二人とも本気ですかぁっ!?」
『本気も本気。超本気に決まってるだろ?』
「だって人を砂に埋めるのってお約束じゃありません?」
「だよなぁ?」

驚いて目を見開く聡をよそに、笑顔で返す縁樹とノイ。そして賛同を得れて嬉しそうな影踏。
あぁ、違うんです。この人が考えてるのはそう言う単純なことじゃないんです。
なんて思っても言うほどの余裕はなく。

…反論する間もなく、聡はあっという間に二人と一体の手によって見事に胴体を砂に埋められてしまった。

『やっぱり砂に埋めたらお約束の落書きだよな?』
「うん、僕もそれはやっておくべきだと思うんだ!!」

などと埋められた聡を眺めながらにやりと笑いあう縁樹とノイ。
「え…?ちょ、何す…っ」
それに嫌な予感を覚えて冷や汗をだらだらと流しながら呟いた聡だったが、結局それはむなしい抵抗だったようだ。


――――そして数分後。


満足げな表情で戻っていく縁樹とノイの後方には、胸の部分に砂を更に盛られ、砂の山に妙に艶かしい体の線を描かれてしくしくと涙を流す聡と、楽しそうにそれを撮影する影踏の姿があった。

「…はっ!これじゃあ顔だけしか出てないから色々出来ないじゃん!!!」

色々ってなんだ。色々って。
…っていうか、気づくの遅いよね、君。

そんなツッコミ露知らず、影踏は頭を抱えてノォーッ!!と叫ぶのだった。


……ちなみに聡が砂から脱出できたのか、これから一時間ほど後のことだったそうな。


●ビーチバレー大会参加決定?
昼も食べて一時を回った頃。
一同は唐突に微笑むまきえに呼ばれ、パラソルの場所で全員集合となった。
「なんでおいらたちが全員呼ばれたんだ?」
「…あぁ、そのことはですね…」
何故か終始にこにこと微笑んでいるまきえに首を傾げる一同だったが、不意にまきえが持ち上げたポスターのような紙により、その理由が明らかになる。


『―――――「ビーチバレー」大会???』


そこに書かれているのは、砂浜でネットを挟んで二人の人間がジャンプしている場面。
上のあおり文や題名を見る限り、どうやら一般開催の簡単なお遊び大会らしい。

「…これの優勝賞金と商品…なんと、10万とスイカ5個だそうなんです」

ぴくり。
なんだくだらない、と呆れて解散しかけた者たちも、まききえの言葉に耳をダンボにして足を止めた。
「どういうことですか?」

「…どうやら今年は人の入りがよくてお金に余裕があるそうなんです…。
 ……ですから、今年は更に、二位には二万とスイカ一つ、三位にも一万と海の家割引券三枚が賞金・商品としてあてがわれるそうで…」

ぴくぴくぴくっ。
更に続くまきえの言葉に、面々の肩が大きく動く。

――――なんて美味しい大会だろう。

「…これに皆さんで参加していただければ、きっと上位独占で…分けても皆様の懐も少々ですが潤ったりするのではないかと…」


『参加する(します)!!!!!!』
ぐっと拳を握ってやる気満々で叫ぶものが数人。

「なんか楽しそうだからやってみてもい?ノイ」
『好きにすればー?』
「私もなんだか楽しそうだからやってみたいです…」
「ふむ、ビーチバレーは初めてじゃな。よい経験になろう」
興味津々で参加を決意する者が四人。

「まぁ、やれって言われたらやるけどねー」
「結果は期待しない方がいいと思うけどなぁ…」
やや乗り気ではないものの参加をするつもりなのが二人。

――――そして。

「ビーチバレー?
 ……ダルい」

きっぱり切り捨てるのが―――1人。
ダルいと言い切った男は嘉神・真輝。
その言葉通り、顔中から『めんどクサ…』的なオーラが満ち溢れている。

「あら…」
どうしましょう、と困ったような声をあげるまきえ。
しかし、それはすぐに杞憂へと変わることになる。


「――――――なんじゃ、負けるのが怖いのか?」


一抜けたとばかりにぷかぷかと煙草をふかす真輝の前に立ってにやりと笑ったのは…櫻。
「…は?」
その言葉に眉を寄せ、真輝はぎろりと櫻を睨みつける。
しかし櫻の不敵な表情はぴくりともせず、むしろ挑発するようににやにやと笑う。
しかもまるで追い討ちをかけるように、更に希望が櫻の隣に立ってにやりと笑って口を開いた。

「優勝できる自信がないから逃げるんだろ?」

「なっ…!
 んなワケねぇだろ!?」
言われた言葉に顔を怒りに染め、真輝は反論するが二人はどこ吹く風。
「どうだかのぉ?」
「言い訳なんていくらでもできるしねぇ?」
失礼この上ない二人の言葉に―――真輝は、ついにキレた。
がばっと立ち上がり、ふんぞり返るように胸に片手の平を当てて声を上げる。

「俺は運動は全般そこそこ得意だ!!」

「えー。そう言われても確証ないしー」
「左様。口で言うだけならなんでもできるからのぉ」
怒って言っても二人は疑いのまなざしを引っ込めない。
それに焦れた真輝は―――ついに、声高に宣言した。

「―――やればいいんだろ、やればっ!!!!」

生来負けず嫌いの性分の自分が、まるで負け犬みたいな扱いをされるなんて我慢できん。
半分自棄気味に言われた言葉に、櫻と希望はにやりと笑い合い、くるりと身体を半回転。
「まきえ、真輝のヤツも参加すると言うたぞ」
「これで全員参加だな♪」
「…えぇ…ありがとうございます…」
二人の言葉ににっこり返すまきえを見て…ようやく、真輝ははめられていたことに気づく。

「…そういうことかよ…」

他のメンバー達からどこか生暖かい視線を受けつつ、真輝はがくりと肩を落とすのだった。

***

全員参加することが決まったので、まずは二人一組に分かれねばならない。
その旨を伝えると、何時の間に作っていたのか、まきえの手には複数の紙くじが握られていた。
準備万端だな…なんてぼやく人物の言葉をさらっと無視し、まきえは皆にくじを引くように指示をする。
紙の先が同じ色に塗られていたらペア決定。
簡単な分け方に納得しながら、全員はせーの、と言う掛け声と共に一斉に掴んだ紙の端を引っ張った。


―――――その結果は、以下の通りである。

A−嘉神・真輝&櫻(W女王ペア)
B−高台寺・孔志&秘獏・崎(花屋と中学生(略して花中)ペア)
C−シオン・レ・ハイ&山川・まきえ(熟年ペア)
D−夏野・影踏&山川・聡(狩人と獲物ペア)
E−如月・縁樹&緋睡・希望(素性不明ペア)
F−彩峰・みどり&葉華(精神的大人と子供(略して大小)ペア)

なんていうか…こう、一部のペアに何者かの作為が見え隠れするような…偶然のはずなのに何故なのか…。
ちなみに()内は登録時にまきえが適当に決めたペア名なので、深くは考えないように。
…と言うか既にブーイングが発生している所もあるが、そこんとは黙殺の方向で。

「ふふ…きちんとやってくれるのであろうな?」
「当たり前だ!出るからには勝つ!!」

「よっしゃ、出るからには目指すは優勝だー!!」
「おうよ!でも俺的には賞金ゲット出来れば別に何位でもいいんだけどね!!」

「…ご一緒に…頑張りましょうね…?」
「えぇ、優勝目指して頑張りましょう!」

「さ・と・し〜vv俺たちはやっぱり離れられない運命なんだな!!」
「うぅ…なんでこんなことに…」

「頑張りましょうね!」
「まぁ、ぼちぼち頑張ってやろうねー」
『……やる気あるの?』

「葉華君、一緒に頑張ろうね!」
「まぁ、怪我しない程度に楽しもうな」

各ペア様々な会話がなされているが、とりあえずは大会に参加する気なので問題はない。


――――そんなわけで、ビーチバレー大会が開催されるのである。


●準々決勝!狩人と獲物ペアVS大小ペア編
一回戦、二回戦と意外と簡単に勝ち進めた全チーム。
今までメンバーのペアは全て別の所にいたので当たることはなかった。
が、三回戦…準々決勝になったところで、ついに知り合い同士で当たりだした。


一番最初に戦うことになったのは、影踏と聡のペアと、みどりと葉華のペアだ。


「兄貴が相手でも負けないからな!!」
「お互いいい試合をしましょうねっ」
「えぇ、いい試合を」
「ちぇっ、男じゃねーのか」
笑顔で話し合う三人と、一人だけ危険なことを口走る影踏。
聡は大分なれてきたのかその言葉を黙殺すると、すぐに反対側へと歩いていった。

「聡…つれないっ」
「つれないとかそういう問題じゃないでしょう…?」
後から慌ててついてきた影踏のふざけた台詞に疲れたように肩を落とす聡。
しかし影踏はへらへら笑ったまま。
…心なしか顔が赤いような気がして、聡が小さく眉を顰めていたが…それに、影踏が気づくことはなかった。

「うーん…今までは頑張ってなんとか勝てたけど…ちょっと、不安かも…」
「大丈夫だよ!みどりはさっきまでと同じようにレシーブとトスを頑張ってくれればおいらが絶対に点にするから!!」
「う…うん!」
実際の所、みどりよりも葉華の方が運動能力は高い。
まぁ、葉華の場合特に人外と言う要素もあるので、決してみどりが運動神経が低いというわけでもない。
少々複雑な心境ではあったが、自分の役割をしっかりこなすのが心情のみどりは、にっこりと笑って頷いた。

――――そして、試合開始のホイッスルが鳴る。

***

「聡っ!」
「はいっ!!」
葉華のアタックを上手くいなした聡のボールを影踏がトスで上げる。
それをジャンプした聡がアタックして大小ペアのコートに叩き込む。

「甘いっ!」
「葉華君っ!!」
「オッケー!!!」
そのアタックを葉華がレシーブし、みどりがトスをあげる。
そして葉華が身長に似合わない大きなジャンプをすると、その小柄な身体からは想像できないくらい強いアタックをお見舞いした。

――――バァン!!!!
それは影踏の伸ばした手をすり抜け、砂地に大きな音を立てて落ちた。

「―――大小ペア、1点先取!!」

「よっしゃぁ!」
「やったね!!」
ジャッジの言葉に、嬉しそうに手を叩き合うみどりと葉華。
「悪い、届かなかった」
「いえ、大丈夫ですよ」
苦笑気味に言う影踏に微笑んで返す聡。

聡も見た目によらず意外と運動神経はいい(ただし足の速さのみ別の話)ので、見事に渡り合っている。
今のところ見た限りでは実力は互角だ。
このまま続けば相当拮抗した試合になるだろう。

――――――が。

「…すいません」
急に聡が真剣な表情で片手を挙げた。
それに全員が驚いて視線を向けると、聡は困ったような笑みを浮かべて、口を開く。

「申し訳ありませんが―――この試合、棄権させて頂きたいんですけれど」

ざわっ。
唐突な宣言に周囲がざわめく。
何よりも驚いたのは、聡のパートナーである影踏だ。

「お、おい聡っ!急に何を…!!」

言い出すんだ、と言う言葉は、聡からの予想外の鋭い視線によって喉の奥に引っ込む。
驚いた影踏が目を見開くと、聡は眉を寄せて不機嫌そうな表情で影踏を見る。

「…熱、あるんでしょう?」
「……え?」

予想外の言葉に、影踏は聡を凝視する。
聡は不機嫌な顔のまま影踏に近寄ると、パン!と影踏の頬を両手で叩くように挟みこむ。

「具合が悪いなら無理しないで下さい!
 試合をしていく度にどんどん動きが悪くなってるのに笑って誤魔化して!!」
「お…おい、聡…」

「そういう訳で、体調不良で棄権させて頂きたいと思います」
影踏の抗議を完全に無視し、聡は頭を下げると影踏を引っ張ってとっととコートを去っていってしまうのだった。

「…えーっと…。
 か、狩人と獲物ペアの棄権により、大小ペアの勝利!!」

ぎこちないジャッジの言葉に、会場が無理やりっぽくテンションを上げて叫んだ。
なんとなく納得いかないような気もしなくはないが、勝ちは勝ち。

「…なんか、釈然としないような…?」
「いいんじゃないか、運も実力のうち、ってことで」

戸惑い気味に首を傾げるみどりを見上げ、葉華も苦笑気味に返すのだった。


――――――大小ペア、準決勝進出。


***

――――で。
半ば強制的に聡に連れて行かれた影踏はというと…。

……パラソルの下で寝かされ、頭に濡れタオル、身体に乾いたバスタオルと、完全装備で休まされていた。

おそるおそる視線を隣に向ければ、全身から不機嫌ですオーラを発生させながらむっすー、と前を見て正座している聡の姿。
こりゃ相当怒ってるなぁ、と苦笑しつつ、影踏は口を開いた。

「…聡〜?」
「……なんですか?」

答える声からも怒りが溢れている。
うわぁ、と思いながら影踏は聡に向かって身体を少しだけ傾けた。
そんな影踏の様子を見て、聡は不機嫌そうな表情を一瞬だけ心配そうなものに変えるが、また一瞬で不機嫌顔に戻る。
そして影踏をじっと見ると、怒った声で口を開いた。

「……僕、怒ってるんですからね」
「悪かったって〜」
「悪かったと言うのなら最初からそういうことはしないで下さい!」

まったく…と言いながらも言いたいことを言ったせいか若干表情が和らぐ。
それを見た影踏はほっと安堵のの溜息を漏らすと―――正座をしている聡の足の上に、自分の頭を乗せた。
…俗に言う『膝枕』である。

「な、夏野さんっ!?!?」

唐突な行動に先ほどまで怒っていた聡の顔は一気に戸惑いの表情に変化した。
それを見て小さく笑いながら、影踏は聡の顔を下から見上げてにやりと笑う。

「膝枕、してよ。
 …病人のオネガイ、聞いてくれてもいいんじゃない?」

そこまで言うと、聡がどうすればいいかわからないような戸惑いの表情と怒りの表情を言ったりきたりする。
こりゃ怒って頭を落とされるかな、と思っていた影踏だったが。
…聡はその予想に反し、溜息を深々と吐くと…大人しく、動くのをやめたのだ。


「……今だけ、特別ですからね?」


恥ずかしいのかむっとした表情のまま言う聡に、影踏は思わず噴出した。
いい意味で予想を裏切ってくれた聡に、少し感謝してみたりしつつ。
影踏は、楽しげに目を閉じた。


―――――他の人が来たことによって影踏が聡の膝枕から強制的に降ろされるのは、それから数分後のこと。


●帰りは安全運転で(何)

ビーチバレー大会が終わった後、そのまま表彰式になった。
ちなみに順位は以下の通りである。

1位:大小ペア
2位:W女王ペア
3位:素性不明ペア(熟年ペアは片割れ(シオン)が戦闘不能の為3位決定戦は行われなかった)

まきえの希望通り、見事に上位を知り合いのメンバーが独占した状態になったのだ。
いやぁ、めでたいめでたい。
…ちなみに商品のスイカのうち三つは、その場で切って皆で祝杯代わりに食べました。
残りの三つは半分にしてラップに巻き、全員に手渡されましたよ。

――――そして、そのまま日が暮れて夕方。

一行はプラントショップのキャンプカー(10人+二体が乗っても充分余裕があるくらいには広い)に乗って、帰り道を走っていた。

「楽しかったですね」
『まぁ、悪くはなかったね』
「アンドレ、生きていてくれたんだね!!」
「勿論さオスカル!君を置いて死んだりはしないさ!!」
「あぁ、バイト代も沢山もらえたし…これで少し貯蓄が出来ます…」
「よかったですね、シオンさん」
「あー、それにしても幸せだったなーv聡の膝ま…」
「わーっ!!余計なこと言わないでくださいっ!!!」
「黙ってたってバレバレなのに…」
「だよなー?」

動きすぎてすっかり疲れた人間とか、バイト代を貰ってほくほくな人とか、まだまだ体力有り余ってる人とか。
皆すっかり海水浴を満喫した様子。


――――しかし、そんな中でも地獄を味わった人がいるようで。


「くっ…!!!」
上着を脱いで腕を抑えているのは―――真輝。
抑えられている彼の腕は、焼けて黒く…とかじゃなく。
まるで火傷のように真っ赤になってしまっていた。

「…やっぱり日焼けで赤くなってるし…」
…彼の肌はマトモな紫外線対策もしないで思い切り夏の太陽に照らされ、日焼けをせずに真っ赤になっただけになってしまったのだ。
ヒリヒリと痛む腕を抑え、真輝は身悶えていた。

「うわっ、すっげー…真っ赤だよ」
真輝の肌を見て興味津々の葉華は、真っ赤な腕をぺたりと触る。
「いっ…!
 っだー!葉華触るなっ!痛いだろーがっ!!!」
その痛みに涙目になりながら、真輝は葉華の手を振り払う。
「えー…ちぇっ」
残念そうにしながらも、葉華は大人しく手を引っ込める。
「くく…なさけないのぉ…」
何時の間にか普段の着物姿に戻った櫻が口元に扇を当てながら笑うと、真輝がぎろりと睨みつける。
しかし櫻がものともしないのを見ると、がくりと肩を落として疲れたように呟いた。

「大体なー…
 お前ら植物系なのに、なんでこの日差しで平気なんだよ…信じらんねー」

真輝のそのぼやきに、葉華と櫻は顔を見合わせるとなんとでもないように口を開く。

「おいらやボブの身体の細胞にはサボテンも混ざってるから、暑くても平気だし」
「わしは元々精神の塊のようなものじゃからのぉ。
 日差しなんぞあってないようなものじゃ」

「…そーかよ…」
さらっと言われた言葉に、真輝はがくりと肩を落とす。


「…ふふ…。
 ……機会がありましたら、またご一緒に海水浴に参りましょうね…?」


運転しながら微笑むまきえの言葉に全員が頷いたかどうかは…一行だけの秘密である。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【1431/如月・縁樹/女/19歳/旅人】
【2227/嘉神・真輝/男/24歳/神聖都学園高等部教師(家庭科)】
【2309/夏野・影踏/男/22歳/栄養士】
【2936/高台寺・孔志/男/27歳/花屋】
【3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42歳/びんぼーにん】


【NPC/山川・まきえ/女/38歳/プラントショップ『まきえ』店長】
【NPC/山川・聡/男/18歳/プラントショップ『まきえ』店員】
【NPC/ボブ/無性別/1歳/「危険な温室」管理役】
【NPC/緋睡・希望/男/18歳/召喚術師&神憑き】
【NPC/葉華/両性/6歳/植物人間】
【NPC/秘獏・崎/男/15歳/中学生】
【NPC/櫻/女(無性…?)/999歳/精霊】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第十弾、「Let's海水浴!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は全開にも増して個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
自分のキャラが他の人のノベルに出てる、なんてこともありますので他の人の物も見て探してみるのも中々面白いかもしれません。
今回の〆直前は真輝さんと櫻・葉華の独断場となりましたが、そこはどうかお許し下さい(汗)
…ところで、誰がどの台詞を言ってるかわかりますか…?(爆)
ちょっと人によって長さがまちまちですが、ご容赦くださいませ(土下座)
なにはともあれ、どうぞこれからも愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

影踏様:前回に引き続き、ご参加ありがとうございました。
     …やっぱり楽しかったですv(をい)
     今回は聡と徹底的に絡めてみましたが…いかがでしょう?
     個人的に膝枕のシーンはほくそ笑みながら書いてました(怖いよ)
     聡との少しずつ仲も進展?している様子です(笑)

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。