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黒い巨塔〜あやかし調査団(2)〜
200X年、5月某日…夜。
季節はずれの台風が日本列島を直撃して全国的に大雨に見舞われ、
ここ、東京でも暴風と大雨に見舞われて悲惨な状態になっていた。
台風は幸いにも一晩だけで過ぎ去って行き、皆ほっとして朝を迎えたのだが…
台風一過の東京のビル街のど真ん中。
突如として、黒くぬめり気のある天に向かい聳え立つ『黒い塔』が出現したのだ。
それは無機質なようでいて有機質な物体で…
正体を突き止めようとさまざまな調査団が結成されて調査に向かった。
あやかし荘の住人達も、誰に頼まれてたというわけでもなく、
ストレートに言うならば興味本位から調査団を結成し、黒い塔の内部へとその歩みを進めた。
塔の内部は広いフロアとなっていて、各所に様々な仕掛けがしてあった。
はっきり言って、触らなければ発動しなさそうな仕掛けばかりのようだったが、
そこはそれあやかし調査団。
しっかりとトラップを作動させては、なんとか事なきを得て前進していたのだが…
突如、それは起こった。
部屋の中身がまるでやわらかい綿のようなものに変わったかと思うと、
脈打つようにうねうねと動き始めて調査団たちを分断してしまったのだった。
得体の知れない『黒い塔』の内部で…
果たして彼らは再び出会い、そして調査を再開出来るのであろうか…?
■
「痛ぇ…あー!また誰かがスイッチ押したな…いや、絶対アイツだ」
約一名の顔を思い出して雛太はふうっとため息をつく。
ごちゃごちゃとした迷路と化したその状態に、雛太は立ったままで腕を組んだ。
迷路の攻略法と言うものは、以前、居候している住人から聞いたことはある。
しかし、攻略法と言ってもすぐに出口に連れて行ってくれるようなものではなし…
ひたすら自分で歩かなければいけないことに変わりは無いのだ。
「仕方ない…誰かが来るのを待つか…」
雛太はその場にごろんと横になる。そして眼を閉じているうちにいつの間にか寝入っていた。
※
「何故こんなところにいる…」
人の気配と声に目を覚ますと、そこには居候のスイが立ち、雛太を見下ろしていた。
「よ…!いや、ちょっくら見物してみようと思ってさ…いつ無くなるかわかんねーし」
「見物だと?こんな未知の生命体を見物とは命知らずもいいところだ」
「お互い様じゃねーかそれは!大体お前、すぐ帰るとか言ってたのどこのどいつだ!」
「何を言う…?あれから少ししか時間は経過していないではないか?長い一生のうちのほんの一瞬でしかないのだぞ?」
「てめーみたいな長生きな種族の概念で話をするなっての!…まあいいや…せっかく会ったんだ」
雛太はよいしょっと起き上がると、スイの隣に立つ第三者二人に気づく。
一人は見知らぬ青年。自分と同じ年齢くらいに見える。
もう一人は…視線が合うと同時に、眠る前に思い出した人物の顔と一致して、額にピシッとスジが入る。
「雛太、ここで会った新開・直と鈴森・鎮だ」
「おー!誰かと思えば久しぶり!感動の再会ってやつ?!」
「て…てめぇ…鎮…またスイッチ押しただろ?さっき押しただろ?!」
「いっやー!やっぱりボタンとかあると押したくなるサガって言うか…」
ただでさえ寝起きで機嫌のあまり宜しくない雛太は、鎮の顔を見てむしょうに怒りが湧き上がる。
そもそもコイツがボタン押さなければややこしい事にならなかったのに、と…。
「ちょっとは反省しろよお前!子供だからってやっていいことと悪い事がなあ!」
「あ、ここにもスイッチ発見♪」
ぽちっと押した瞬間、どこからともなく大量の水が流れ込んで四人揃って流される。
雛太はもうツッコミを入れる気力もなくただ流れに任せることにしたのだった。
■
再会した者、またここで初めて会った者とそれぞれではあるが、
とりあえず「あやかし調査団」の面々は一団となって上へ上へと進んで行った。
途中で例に洩れず、鎮がしっかりとトラップを発動させては雛太につっこまれ、
さらにはスイもがまじめな顔をして暴走(本人に悪気は無いのだが)し、
これまた雛太がツッコミを入れ、そんな状態でも平然とした顔でやり過ごしている直に、
トドメとばかりに雛太はツッこみながらの道程となった。
今のところ、雛太が何もツッコミを入れていないのは由紀くらいではなかろうか。
どこのお笑い集団だよ!と言われても言い返せ無さそうな気分になりつつも、
それでもしっかりと一応は上に進み調査だけはしようと頑張っているのだが…
「うわー凄い部屋に出たなー」
「だから直よ…本当に凄いと思ってるのか?!」
「まあいいじゃん!細かい事にこだわってたら早く老けるって!!」
「小学性に言われたかねえっ!!」
「雛太、あまり怒鳴ると血圧が上がるぞ」
「いいんだよ!俺は低血圧だからなッ」
先ほどからこんなやり取りの繰り返しで、雛太は大きく息を吐いてがっくりとうなだれる。
このメンバーをまとめて進むのは大変ではあるのだが、しかし楽しいと言えば楽しい。
ピクニック気分で歩を進めたあやかし調査団はやがて広いフロアにたどり着いた。
左側の側面はおそらく塔の外周なのだろう。弓なりになっている。
それに対して右側の側面はまっすぐな壁が天井まで達していて、上から見ると半円状の部屋になっているようだった。
足場はいつの間にやら大理石のごとく光沢がありしっかりとした床になっていて、
それ以外は何も無いフロアだった。一番危険な罠らしきものも見えない。
「チッ!次はどうなるか楽しみだったのに…」
「頼むから鎮…次それやったらお前ランドセル取り上げるぞ」
「げっ…!!この中には俺の大事な命の源が〜!!」
「お菓子詰め込んでるだけじゃねぇか!!しかもハバネロばっかり!」
「これがなかなか美味いのだ、雛太」
「…スイ、味覚どうかなってんじゃないかお前…」
「うーわー!カーラーイー!!」
「棒読みで言ってんじゃないっ!ってかなんでみんな食ってるんだー!!!」
ぜーはーと息を切らせながら雛太は叫ぶ。
きょとんとした顔で、スイと直は顔を見合わせつつ、鎮の持参したお菓子をポリッとひとかじり。
「まあまあ…とにかく先に進みません?ここがどのあたりなのか見当もつきませんけど」
「冷静な人がいて良かった…神城さんの意見としてはこの辺のことどう思う?」
「そうですね…進んだ階段の数から見ればもう上の方にはなってると思うんですけど」
「でもさ、この部屋って上にあがる階段が無いぞ?」
鎮に言われてみて初めてその事実に気づく。
確かにこのフロアには下から上がってくる階段はあっても、ここから先に行く階段が無い。
「行き止まりというわけだな」
「この壁が怪しいな…壁を壊したら階段が出てくるって事はないかな?」
「わかった雛太、これを壊せばいいのだな」
「ってえ?や、やめろ待てス……」
どっごーんと言う音が響いて、スイの呼んだ風の精霊が鋭い槍となって壁にぶち当たる。
しかし風は壁を揺らしただけで傷一つつけずに消えて行く。
変わりにはね返った風達に、スイ以外の全員が吹き飛ばされて尻餅をついた。
『なっ…なんなの今のは?!』
不意に、地面に転がった面々の耳に壁の向こうから誰かの声が聞こえて来る。
思わず耳を済ませてみるものの、遠すぎて誰の声であるかまでは聞き取れなかった。
『敵襲か?何かの罠でも働いたのか…』
『気をつけることに越した事はありませんね』
『充分注意しながら上への階段を探しましょう!』
なんとなくではあるが聞こえてきた会話で、壁の向こうの相手も人間で、目的を同じくしているらしい事がわかる。
それならばコンタクトを取れればなんとか改善されるかも!と、雛太は立ち上がり壁際へと向かった。
「すみません!誰かそっちにいらっしゃいますか?」
大声で呼びかけ、そして耳を済ませてみる。しかし訝しんでいるのか反応は無い。
「あー…えっと…」
「俺達はあやかし調査団!あやかし荘から派遣されて来た精鋭たちだぜ♪」
自信満々の表情で鎮は壁に向かって大声で叫ぶ。
なんとなくではあるが、相手が微妙に不信がっているような気がしないでもない。
まあそりゃあ確かにあやかし荘と言えば有名ではあるが調査団を派遣するような組織と言うわけでは…
『いいだろう。そちらに女性はいないかな?女性がいれば少し話をしたいのだが』
「って言ってるけど…どうする?」
「あ、じゃあわたしが!」
名乗りをあげたのは由紀。控えめに手を挙げて意思表示すると、壁に向かって話しかける。
そしてお互いに名乗った時点で知り合い同士である事がわかりとりあえず不信感はとる事が出来た。
あちらは一応のところ、草間興信所からの調査団と言う事になっているらしいのだが、
実際のところは途中で知り合った者同士で組み、仮に名乗っているだけだそうだが。
「で。どうやらこのフロアは真ん中をこの壁で仕切られて二部屋になってるらしい。
さらにあっちにも下からの階段しかなくて上に進めず足止め食らってるって事なんだけど」
「雛太、この壁を破れば両方が合流できるのではないのか?」
「よっし!じゃあ切るんなら俺に任せな♪」
「では俺は後ろの方で見てるので後はよろしく」
「おーいそこっ!口を閉じたままで喋るんじゃないっ!頼むからっ!」
「新開さんは腹話術がお上手なんですって」
「いや、神城さん…そういう問題じゃなくって…」
「おい、雛太。壁を破るのか破らないのかどうするのだ?」
「だからちょっと待て、落ち着け」
「切ろうぜ〜!一刀両断で一気にこうさくっと…」
やる気満々の二人を止めながら、逃げようとする直の襟首を引っつかむ雛太。
何故かこのグループになってからすっかりリーダーのような位置にいる自分がどうにもむなしい。
出来る事なら最後尾で事の成り行きを見守っていたかったのだが。
なんやかやと。四人でそうやって言い合っているうちに、ふと周囲の雰囲気が変わった事に気づく。
室内に漂っていた空気が変わった感じで肌寒さすら感じて全員動きを止めた。
なんとなく、部屋中にもやというか霧状の白いなにかが漂っている事に気づき一箇所に集まった。
「おい鎮…またどっか触ったんだろ…」
「失礼な!今回は俺どっこも触ってないし」
「だったらコレはいったい…」
「あ、あそこ!!誰かいますよ!?」
由紀が叫ぶと同時に、階段のある場所とは正反対の場所に指を指す。
自然にその指の向く方向に目を向けると、確かにそちらに何かのシルエットが浮かんでいた。
それはちょうど鎮くらいの年齢の女の子で、真っ黒で長い髪を床の上にまで垂らし、
さらに真っ黒なゴスロリ風の服装をしていて…生気の無い無表情な顔でじっとこちらを見つめていた。
”我は帰りたい我の世界へ
主らは我の旅を助ける者か”
少女に眼を向けた者全員の心、頭に直接”声”が響いてくる。
驚きに眼を見合わせる面々ではあったが、声は止まずに語りかける。
”我を助ける者ならば我と共に
我に害を成す者ならば我から出て行け
我は帰りたい…我の世界へ…”
「っと…こういうのってお前の専門だよな、スイ」
「私が何の専門だと言うのだ?…それよりもこの塔は我らに問いかけている」
「手伝う者かどうかってヤツだよな?」
「あのーそれってつまりー…どういうことなんだ」
「そのまんまの事じゃないでしょうか?この塔が自分の世界に帰る手助けをして欲しいと…」
「はあ?なんで俺達が…あ、いや別に構わないけど…」
「よーっし!じゃあ全員一致で手伝うって事でいいよな♪楽しみ楽しみ!」
「って鎮!勝手に決めてるんじゃなーいっ!!」
ツッコミを入れてはみたものの、どうやら元気に答えた鎮の言葉を”塔”は受け取ったらしい。
”我を助ける者…ならば我が後に続くが良い…”
■
最上階なのだろうか。
少女に連れられ、エレベーターのようなものに乗って上がった部屋は、
少し狭いフロアで天井はドーム状になっていて、部屋の中には樹木の根のようなものが、
壁に床に天井に這いまわっていて、人間で言う血管のように見える部屋だった。
その部屋の中央に、少女はこちらを向いて立って待っていた。
”我は帰りたい…我を助けて”
無表情なまま、少女は淡々と語る。
遠い昔、祖国に大型の台風が起こり、時限の歪みを発生させて移動させられてしまったと。
同じように祖国の者達は何人も(それを人と数えるなら、だが)異次元を彷徨っていると。
そして、それ以来、台風に乗って色々な世界を移動する術を見つけたのだと。
しかし…祖国に帰ることは出来ない。
どんな世界で台風に乗っても、祖国に帰り着く事は出来ない。
この世界でもまた帰り着く事はできずに、こんな東京のど真ん中で、
何かの力によって移動を止められてしまっているうちに、この世界の人々が接触してきたと。
それならば…と、”塔”は思った。
この世界の者達の力を借りて、祖国に戻る事は出来ないだろうかと。
別にこの世界の者を縛るつもりはない。制裁を加えるつもりもない。期待しているわけでもない。
ただ、もう自分ではどうしようもない事だから…
”我を助ける者…我を祖国に帰してくれ”
それまで無表情だった少女の目から、一筋の涙が零れ落ちる。
それは、故郷に帰ることの出来ない”塔”の思いがあふれた雫だった。
■GO TO NEXT STAGE…
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2254/雪森・雛太(ゆきもり・ひなた)/男性/23歳/大学生】
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/467歳/鎌鼬三番手】
【3304/雪森・スイ(ゆきもり・すい)/女性/128歳/シャーマン・シーフ】
【3055/新開・直(しんかい・ちょく)/男性/18歳/予備校生】
NPC
【***/神城・由紀(かみしろ・ゆき)/女性/23歳/巫女・便利屋主人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ。この度は「黒い巨塔〜あやかし調査団2〜」に参加いただきありがとうございました。
二度目の皆様、ありがとうございます。初めての皆様、ありがとうございます。
1話とはまた違った顔ぶれの調査団となりましたが楽しんでいただけましたでしょうか?
ライター個人的にはコメディ全開で楽しみながら執筆させていただきました。
今回、はぐれていた状態から調査団に集まるまでの経緯を個別に執筆しております。
鎮様→スイ様→直様→雛太様の順番になっております。
また、草間調査団とのコンタクトと言う形に今回なっておりますので、
宜しければ草間調査団の様子も覗いてみて下さるとよりいっそう楽しめるかもしれません。(笑)
最後は次回最終話予定への前置きというような形で終わっております。
また宜しければ次回も参加いただけると幸いです。
:::::安曇あずみ:::::
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>
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