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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


真夏のプールに連れてって!

1.
「・・・そんなプールに誰がわざわざ入ると?」

話を聞き終わった碇麗香は不機嫌100パーセントでそう言った。
「・・だ、ダメですかね?」
話し終えた三下忠雄は確実に逆鱗に触れるであろう、その一言をつい言ってしまう。

「ダメに決まってるでしょう!!
 無理やり作った夏の休暇・・・しかもたった1日を有意義にと思って、わざわざ貴方にホテルの予約をさせた私が間違いだったんだわ。
 何が悲しくて『入るとどんなにすべすべお肌でも剛毛無駄毛が生えてくる呪われたプール』に入りたがるって言うの!?」

まくし立てられ、三下は頭を垂れた。
『休暇1週間前・たったの1日・夏休み中・予算は安く・しかし一流』などなどのわがままな麗香の注文を聞いたうえでのホテル探しはココしかなかった。
「でも、もうどこも予約がいっぱいで・・・」
三下は最後の抵抗を試みた。
少し考えた後、麗香はイライラとしたその眉間の皺を緩めてこういった。

「いいわ。そのホテルにしましょう。でも、条件をつけるわ。いいこと?
 私が行く1週間後までにそのプールの呪いを解いてきなさい。
 そして、それを記事にしなさい。そうしたら許してあげるわ?」

にっこりと笑った麗香の顔に、三下はただ、頷くしかなかった・・・。


2.
「三下さんが、碇さんとのディナーに招待して下さるのでしたら協力したいと思います」
シオン・レ・ハイは三下にそう言った。
三下は少々迷った後、「わ、わかりました・・」と言葉を濁しながらも了解した。
それが今から3時間前の話である。
そして、今・・・

「仕事を探しています。なにかお手伝いできることはありませんでしょうか?」

シオンは三下が麗香のために予約したホテルのフロントに直談判をしていた。
「・・そうは申されましても、当ホテルは現在求人等はしてお・・」
「生活がかかっております」
「・・・」
フロント係の表情が笑顔のまま固まっている。
シオンの笑顔だがその実直なまなざしに言葉を失ったのだ。
「・・確か、近くの氷屋のおじいさんがアルバイト募集していましたので、そちらに行ってみてはいかがでしょうか?当方からご紹介しますので・・」
気圧されたフロント係はサラサラとペンを走らせて簡単な地図をシオンに渡した。

「暗算が得意だと!? 気に入った!」
氷屋のじいさんはシオンの特技を聞くなり、そう言った。
「ありがとうございます。ところで、少しだけ前借させていただけるとありがたいのですが・・」
「・・まぁ、生活がかかってるってンならしょうがねぇわな。ほれ。これでいいかい?」
シオンの言葉にじいさんは、少しの金をシオンに握らせた。
そして、シオンはその日からかき氷屋となったのだ。


3.
2日ほどたち、三下が3人の有志を連れてホテルへとやってきた。
シオンも、三下たちに合流した。
三下が連れてきたのは海原(うなばら)みあお・丈峯楓香(たけみねふうか)・相生葵(そうじょうあおい)である。
相生以外は女性である。

「先に分かったことをお伝えします。まず、呪っていると思われるのは10代後半の女性のようです。あと、呪いですが、昼夜関係ないようです。昨日手を入れてみましたら・・」
と、淡々としていた報告をシオンはそこで区切った。
思わずシオンのほうを見たみあお達は、「あ!?」と声を漏らしてしまった。
シオンは片方の手の甲を見せいたのだが、その皮膚に所狭しと剛毛が生え揃って黒光りしていたのだ。
「こ、これは入るのちょっと考えちゃうな・・。職業柄、毛深いのはちょっと敬遠されそうだし・・」
相生がやや引きつった笑顔でそう言ったが、「でも、それで1人の女性が救われるのなら入るべきだよね」などと1人なにやら自問自答している。
「大丈夫! 無駄毛に悩まされてた幽霊の人の思いを晴らしてあげればいいと思うのよ!」
「でも、幽霊って怖いですよね・・」
楓香の強い決心の声に、シオンは思わずそう呟いた。
「楓香〜、幽霊さんがどこにいるかわかんないよ?」
みあおがそう言うと、にっこりと笑った。
「でもね〜、みあおなんとなく見当ついたんだぁ。三下、ちょっとちょっと!」
というと、みあおはシオンにすがり付いていた三下を手招いた。
「な、なんですか?」

「多分プールの中にいると思うから、探してきて!」

どん!
「へ!?」
ばっしゃーーん!!!

みあおが勢いよく三下をプールへと突き落とした!
「わ・・わわ!!?」
三下がすがり付いていたシオンを道連れにした!!
「よーし! みあおもいっくぞーーー!!」
三下・シオンに続き、みあおも自ら飛び込んだ!!!
「いくら年が低いとはいえ、女性を見捨てることはできないよ!」
みあおを助けるべく、相生がその次に続く!!!!
「あー! あたしも行くーー!!」
1人取り残された楓香もやむなくプールの中へと飛び込んでいく羽目になったのだった・・・。


4.
上から見たら透明だった水の中はなぜか黒い『もじゃもじゃ』が大量に沈んでいる。
思わず自分の腕を見たシオンはその『もじゃもじゃ』が自分の腕に張り付いていくことに気がついた。

全身毛だらけに・・・そう、何かそんな生き物がいたような・・・。
あれは・・・そう・・・雪男だ!!

水中でよく分からない思考に囚われながら、シオンはよくわからないまま納得していた。
人間、パニックに陥ると冷静になるために全く関係のないことを考えたりするものである。
ふと見ると、他の飛び込んだ面々の体も雪男状態になっているようだ。
・・いや、雪女? でも、雪女は毛だらけじゃないような・・・??
そんなこんなで大分脳に酸素がいきわたらなくなり、シオンは水面を目指すことにした。

「幽霊、みーーーっけ!!」
ぷはーっ!と水面に飛び上がったみあおはそう叫んでいた。
ほぼ同時に三下、相生や楓香も浮かび上がってきた・・・と。

<なんなの! あなたたち! そんなに剛毛の私を笑いたいわけ!?>

浮上と同時に聞きなれない若い女の声が聞こえた。
「・・遂に呪いの張本人が現れたわけですね」
シオンが自分の腕や足に生えた剛毛たちの手触りを確かめつつ呟いた。
その横では三下が溺れかかっている。
「ねぇねぇ、みあおどーしても不思議なんだけど、どうして除毛クリームでもガムテープでも無駄毛処理しなかったの? そうしたらこんなことしなくても・・・ってそもそも溺れずにすんだんじゃないかなって思うんだよね」
その問いに、幽霊は切なげにため息をついて答えた。

<クリームも、ガムテープも貧乏で買えなかったのよ・・・>

一流ホテルのプールでこっそり泳げるような立場の人間が『貧乏』とは・・・かなりの矛盾であるが、幽霊は極めて真面目に答えている。
どうやら金銭感覚がおかしいらしい・・とその時その場所にいた人間は誰もが思ったのだった。
「だ、大丈夫! あたしがつる・すべお肌をあなたにプレゼントしてあげるから!」
ハッと我に返った楓香が有無を言わさずに、なにやら能力を使ったようでシオンの視界が一変した。

こ、これは・・・誰?

先ほどまで見ていた幽霊の顔の形・腕や脚の関節位置や長さが微妙に食い違い、指の本数までもが怪しい・・・。
が、先ほど楓香が宣言したように見事なまでのつるつるすべすべ・・・というか、異様にてかり、まるでボディビルダーが油を塗ったかのように艶々に見える。
「究極のつる・すべ肌・・・」
きっと全員が見ているのもおそらくは同じもののはずである。
そう、雪女は毛むくじゃらではなく、こんなつるすべ肌かもしれない・・と、シオンは考えていた。
そんなシオンを横目に、1人はしゃいでいる姿があった。

<す、すごい・・・。これよ! 私が求めていたのはこの肌よ!>


5.
水に映った自分の姿を見て、幽霊は心から喜んでいるようだ。
「女性の心というものは、複雑ですねぇ・・・」
沈没間際・溺死寸前で気を失っていた三下を助け、プールサイドに上がったシオンはそう言った。
そして、プールサイドに三下を引き上げ、かき氷屋台へと足を向けた。

先日前借したお金で買ってきたものを取りに行かねば・・・。

「もう、プールの呪いは解いてくれるよね?」
ハッと我に返った相生が喜び跳ね回る幽霊に歩み寄り、なにやら口説いている。
その相生のにこりと笑った顔に、幽霊の顔がわずかに赤くなる。
「キミの様な素敵な女性が他人を呪っていてはいけないよ。キミはそうして笑ってる方が素敵なんだからね」
歯の浮くような台詞を真顔で言い切った相生に、幽霊は真っ赤になり大きく縦にうなずいた。
<やめます! 私、あなたのためにももう呪うのなんてやめます!!>
さすがは現役ホスト。幽霊だろうとその効果は抜群であった。
と、横からシオンは屋台から取ってきた物を幽霊へと差し出した。
「これは私からの贈り物です。あなたが迷わず成仏できるように・・・」
幽霊は、そっとその贈り物を受け取った。
それは・・・

<脱毛処理機・ソレマ〜ス・・・。あぁ、私ったら生きている時にあなた達と会えていたらよかったのに・・・>

いつの間に用意したんだろう? と、他の3人の顔に書いてあったが、シオンはとても満足だった。
と、みあおが、突然大きな声を出した。
「大変なこと忘れてた。幽霊さん! 成仏する前に記念撮影するからちょっと待って!!」
そして走り出すとデジカメを近くにいたホテルマンに渡し、自分も写真に収まるべく走ってきた。
「え!?」
「ちょ、ちょっと待った!!」
楓香と相生が焦ったような声を出す。
「こんな無駄毛のまんま写真取るなんて嫌だよ〜!!」
「僕も職業柄こういった姿の写真は・・・って、みあおちゃん!?」

「はい! チーズ!!」

・・・それは、剛毛無駄毛が生えた男女5人+幽霊という世にも不可思議な写真に仕上がったという・・・。
そして幽霊が成仏すると、相生たちに生えた剛毛無駄毛は自然に抜け落ちた。
水を抜いた後のプールにはなぜか剛毛無駄毛が散らばっており、シオンはその掃除を手伝うことでさらにアルバイト代を貰うことができた・・が、そのために休んだ氷屋のじいちゃんに前借分の返済として払ってしまったので手元には残らなかった。

後日やってきた麗香とのディナーはなぜか、花火を見ながらのたこ焼きだった・・・。
三下曰く。

「僕もお金ないんです・・・。ホテルでディナーじゃなくてもいいですか?」

貧乏の辛さを知るシオンはその言葉を快く頷いたとか、いないとか・・・。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】

【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生】

【3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん 今日も元気?】

【1072 / 相生・葵 / 男 / 22 / ホスト】

■□     ライター通信      □■
シオン・レ・ハイ様

初めまして、とーいと申します。
この度は『真夏のプールに連れてって!』へのご参加ありがとうございます。
崩してもよい・・・とのお言葉。本当にありがたく思います。
設定がとても面白かったので、あれも・これもと少々欲張って詰め込みすぎてしまいました。
シリアスにもコメディにもいけるシオン様・・・とても魅力的です。(^^)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。