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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


真夏のプールに連れてって!

1.
「・・・そんなプールに誰がわざわざ入ると?」

話を聞き終わった碇麗香は不機嫌100パーセントでそう言った。
「・・だ、ダメですかね?」
話し終えた三下忠雄は確実に逆鱗に触れるであろう、その一言をつい言ってしまう。

「ダメに決まってるでしょう!!
 無理やり作った夏の休暇・・・しかもたった1日を有意義にと思って、わざわざ貴方にホテルの予約をさせた私が間違いだったんだわ。
 何が悲しくて『入るとどんなにすべすべお肌でも剛毛無駄毛が生えてくる呪われたプール』に入りたがるって言うの!?」

まくし立てられ、三下は頭を垂れた。
『休暇1週間前・たったの1日・夏休み中・予算は安く・しかし一流』などなどのわがままな麗香の注文を聞いたうえでのホテル探しはココしかなかった。
「でも、もうどこも予約がいっぱいで・・・」
三下は最後の抵抗を試みた。
少し考えた後、麗香はイライラとしたその眉間の皺を緩めてこういった。

「いいわ。そのホテルにしましょう。でも、条件をつけるわ。いいこと?
 私が行く1週間後までにそのプールの呪いを解いてきなさい。
 そして、それを記事にしなさい。そうしたら許してあげるわ?」

にっこりと笑った麗香の顔に、三下はただ、頷くしかなかった・・・。


2.
 夏だ!! プールだ!! そして・・・

「太陽の日差しがきついなぁ。光合成するには丁度いいんだけど・・」 

と、相生葵(そうじょうあおい)は太陽を見つめた後、辺りを見回した。

「のーさつ水着だーー!!」とプールに向かって叫んでいる海原(うなばら)みあおの姿や、あたりをキョロキョロと見回している丈峯楓香(たけみねふうか)の姿が見受けられる。
だが、相生の探すのは彼女たちではなく、ここに相生を呼んだ張本人・三下である。
「む〜。これが噂の剛毛無駄毛プールかぁ・・・」
タンキニ水着の楓香がプールをまじまじと見てそう呟いた。
相生もつられてプールを覗き込んだ。何の変哲もないプールにしか見えない。
「しかし、それにしてもこんなにいいホテルだったなんて・・・。三下君もやるなぁ」
相生はそういうと、プールの向こう側を見た。
そこには海岸があり、ホテルのプライベートビーチだという。
プールに呪いがかかってもなお一流ホテルとして成り立っているのは伊達ではないらしい。

「 カキ氷はいかがですか〜 」

唐突に、プライベートビーチの方から声がかかった。
見ると、昔ながらの屋台を引いた謎のかき氷屋がこちらに向かって歩いて来ていた。
「うっわ〜! 古風なカキ氷屋さん・・・にしては、不似合い人が屋台引いてるね」
楓香がマジマジとそのかき氷屋の屋台を引く男を観察した。
黒く長い髪に切れ長の青い瞳。生粋の地元民とは到底思えない風貌である。

「あ、シオンさん! こんなところにいたんですか〜!」

ホテルのテラスからよろめきつつ、躓きつつ走ってきたのは他ならぬ三下である。
「先に行くっていうからホテルに泊まってるかと思ったのに・・・かき氷売ってるとは思いませんでしたよ」
「ホテルの仕事は断られちゃってね。近くのカキ氷屋さんで手伝わせてもらうことにしたんですよ」
「・・だぁれ? あれ」「さぁ?」「三下君の知り合いみたいだけど・・」
三下とかき氷屋の会話についていけないみあお・楓香・相生はひそひそと話した。
3人の注目に気がついたのか、かき氷屋の男はにこりと笑っていった。

「シオン・レ・ハイと言います。今回三下さんのお手伝いをするためにここに来ました」

・・・手伝いに来たのに、なぜにかき氷屋を?
一抹の不安が、それぞれの心に影を差した・・・。


3.
「先に分かったことをお伝えします。まず、呪っていると思われるのは10代後半の女性のようです。あと、呪いですが、昼夜関係ないようです。昨日手を入れてみましたら・・」
と、淡々としていた報告をシオンはそこで区切った。
思わずシオンのほうを見た相生は、「!?」と眉をひそめた。
シオンは片方の手の甲を見せていたのだが、その皮膚に所狭しと剛毛が生え揃って黒光りしていたのだ。
「こ、これは入るのちょっと考えちゃうな・・。職業柄、毛深いのはちょっと敬遠されそうだし・・」
相生はやや引きつった笑顔でそう言ったが、「でも、それで1人の女性が救われるのなら入るべきだよね」と心の葛藤を思わず口にしていた。
「大丈夫! 無駄毛に悩まされてた幽霊の人の思いを晴らしてあげればいいと思うのよ!」
「でも、幽霊って怖いですよね・・」
楓香の強い決心の声に、シオンは思わずそう呟いた。
「楓香〜、幽霊さんがどこにいるかわかんないよ?」
みあおがそう言うと、にっこりと笑った。
「でもね〜、みあおなんとなく見当ついたんだぁ。三下、ちょっとちょっと!」
というと、みあおはシオンにすがり付いていた三下を手招いた。
「な、なんですか?」

「多分プールの中にいると思うから、探してきて!」

どん!
「へ!?」
ばっしゃーーん!!!

みあおが勢いよく三下をプールへと突き落とした!
「わ・・わわ!!?」
三下がすがり付いていたシオンを道連れにした!!
「よーし! みあおもいっくぞーーー!!」
三下・シオンに続き、みあおも自ら飛び込んだ!!!
「いくら年が低いとはいえ、女性を見捨てることはできないよ!」
みあおを助けるべく、相生がその次に続く!!!!
「あー! あたしも行くーー!!」
1人取り残された楓香もやむなくプールの中へと飛び込んでいく羽目になったのだった・・・。


4.
上から見たら透明だった水の中はなぜか黒い『もじゃもじゃ』が大量に沈んでいる。
相生はプールに飛び込んだ瞬間に薄い水の膜を張っていた・・・のだが、その『もじゃもじゃ』が自分の腕に張り付いていくのを阻止することはできなかった。

どうやら水は関係なくて、プールに入るという行為自体が呪いの対象って事だね・・・。

ふと見ると、他の飛び込んだ面々の体にも『もじゃもじゃ』が張り付いている。
ひとまず水面に上がるのが得策だろう、と相生は思った。

「幽霊、みーーーっけ!!」
ぷはーっ!と水面に飛び上がった、みあおがそう叫んでいた。
相生とほぼ同時に三下やシオン、楓香も浮かび上がってきた・・・と。

<なんなの! あなたたち! そんなに剛毛の私を笑いたいわけ!?>

浮上と同時に聞きなれない若い女の声が聞こえた。
「・・遂に呪いの張本人が現れたわけですね」
シオンが自分の腕や足に生えた剛毛たちの手触りを確かめつつ呟いた。
その横では三下が溺れかかっている。
「ねぇねぇ、みあおどーしても不思議なんだけど、どうして除毛クリームでもガムテープでも無駄毛処理しなかったの? そうしたらこんなことしなくても・・・ってそもそも溺れずにすんだんじゃないかなって思うんだよね」
その問いに、幽霊は切なげにため息をついて答えた。

<クリームも、ガムテープも貧乏で買えなかったのよ・・・>

一流ホテルのプールでこっそり泳げるような立場の人間が『貧乏』とは・・・かなりの矛盾であるが、幽霊は極めて真面目に答えている。
どうやら金銭感覚がおかしいらしい・・とその時その場所にいた人間は誰もが思ったのだった。
「だ、大丈夫! あたしがつる・すべお肌をあなたにプレゼントしてあげるから!」
ハッと我に返った楓香が有無を言わさずに、なにやら能力を使ったようでみあおの視界が一変した。

こ、これは・・・誰だ?

先ほどまで見ていた幽霊の顔の形・腕や脚の関節位置や長さが微妙に食い違い、指の本数までもが怪しい・・・。
が、先ほど楓香が宣言したように見事なまでのつるつるすべすべ・・・というか、異様にてかり、まるでボディビルダーが油を塗ったかのように艶々に見える。
「究極のつる・すべ肌・・・」
きっと全員が見ているのもおそらくは同じもののはずである。
そしてその全員が引いている。
だが・・・。

<す、すごい・・・。これよ! 私が求めていたのはこの肌よ!>

1人、歓声を上げている幽霊の姿があったのだ。


5.
水に映った自分の姿を見て、幽霊は心から喜んでいるようだ。
「女性の心というものは、複雑ですねぇ・・・」
沈没間際・溺死寸前で気を失っていた三下を助け、プールサイドに上がったシオンはそう言った。
ハッと我に返り、気を取り直した相生は喜び跳ね回る幽霊に歩み寄った。

「もう、プールの呪いは解いてくれるよね?」

その相生のにこりと笑った顔に、幽霊の顔がわずかに赤くなる。
「キミの様な素敵な女性が他人を呪っていてはいけないよ。キミはそうして笑ってる方が素敵なんだからね」
歯の浮くような台詞を真顔で言い切った相生に、幽霊は真っ赤になり大きく縦にうなずいた。
<やめます! 私、あなたのためにももう呪うのなんてやめます!!>
相生はにこりと極上の笑顔で幽霊を見つめていた。
と、横からシオンが何かを幽霊へと差し出した。
「これは私からの贈り物です。あなたが迷わず成仏できるように・・・」
幽霊は、そっとその贈り物を受け取った。
それは・・・

<脱毛処理機・ソレマ〜ス・・・。あぁ、私ったら生きている時にあなた達と会えていたらよかったのに・・・>

いつの間に用意したんだろう?
そんな疑問が頭をよぎった時、みあおがハッとしてとんでもないことを言い出した。
「大変なこと忘れてた。幽霊さん! 成仏する前に記念撮影するからちょっと待って!!」





そういうと、みあおは持参したデジカメをホテルマンに手渡し自らも幽霊の近くへと走りよった。
「え!?」
楓香が焦ったような声を出す。
「ちょ、ちょっと待った!!」
相生も動揺を隠し切れなかった。
「こんな無駄毛のまんま写真取るなんて嫌だよ〜!!」
「僕も職業柄こういった姿の写真は・・・って、みあおちゃん!?」

「はい! チーズ!!」

・・・それは、剛毛無駄毛が生えた男女5人+幽霊という世にも不可思議な写真に仕上がったという・・・。
そして幽霊が成仏すると、相生たちに生えた剛毛無駄毛は自然に抜け落ちた。

女性を楽しませること・・・それがホストの道。
そう、無駄毛の呪いを解くことで女性を救ったように、僕の無駄毛写真を見て喜んだ彼女の笑顔もまた僕が選んだホストの試練・・・。

相生は、ホストの道の険しさに1人涙したとか、しないとか・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】

【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生】

【3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん 今日も元気?】

【1072 / 相生・葵 / 男 / 22 / ホスト】


■□     ライター通信      □■
相生葵様

こんにちわ。お久しぶりです。
この度は『真夏のプールに連れてって!』へのご参加ありがとうございます。
どんな女性でも口説くとの事で、しっかり口説いていただきありがとうございました。(笑)
で、みあお様が記念写真を撮りたがっていらっしゃったので撮ったのですが、相生様ならきっと心で涙を流しつつもきっと快諾してくださると思いました。えぇ、小さくてもれっきとした女性なので。
・・・ホストとは、かくも厳しい職業ですね。(ほろり)
でも、女性としては非常にこそばゆくも嬉しいです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。とーいでした。