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<東京怪談・PCゲームノベル>


ファイル1-心を盗られた人。


「変死体…?」
「いや、実際には、違う。生きているが、動かない…と言えばいいのかな」
 デスクを挟み、奥には槻哉。その前には早畝とナガレ。そして斎月が珍しく顔を出している、司令室。
 一つの事件の内容が記されたファイルを手に、槻哉がその二人へと、状況説明をしている所だ。
「…なんだそりゃ。病気じゃねーの?」
「病気の類であれば、僕のところにこんな書類なんて回ってこないよ、斎月」
 斎月のやる気の無い言葉に、槻哉は軽く溜息を吐きながら、書類の内容を二人に見せるかのように、デスクの上にそのファイルを置いた。
 クリップで止められた、白い紙と、数枚の写真。その写真には、『死体』とも呼べる、生気の無い人間が映し出されていた。
「被害者だよ。どれも同じような状態だろう」
 早畝が写真を食い入るように覗き込んでいると、槻哉が補足するかのように言葉を投げかける。
「ふーん…確かに事件の臭いだな。…っていうか、先に写真見せてから説明始めろよ、槻哉」
 斎月は写真を一枚手にしながら、そう毒づく。付き合いは長くも、二人はあまり、仲がいいという訳ではない。
「なんか、人間業じゃないよなぁ…変な気配感じるし」
 そう、口を開いたのは、早畝の肩に乗っているナガレだ。動物的な勘が働いたのか、写真に顔を近づけて、くんくん、と臭いを嗅いでいる。
「ナガレならそう言うと思ったよ。だから君も呼んだんだ。もうこれで…五人目。警察側の特捜部も、お手上げ状態らしくてね」
 手に書類を戻し、槻哉はそう言う。その言葉に何より反応したのは、早畝であった。
「…じゃぁ、俺たちが解決すればいい話だよな。あいつらには、負けない」
 警察組織自体を信用してない、早畝の心からの言葉。それを槻哉も斎月も、そしてナガレも、何も言わずながらも、その胸のうちに何かを感じ取りながら。
「……とにかくだ。此処に流れてきたからには、君たちの出番だ。よろしく頼むよ」
 パシン、と再び書類をデスクの上に軽く叩きつけるかのように置きながら、槻哉はそう言い立ち上がる。すると早畝も斎月もそれに習うかのように、姿勢を正して見せるのだった。



 どういうわけなのか。調査を始めると、動物的勘と言うか、人間には感じ取れない感覚が鋭く働いてしまう。そこに、自分の意思などは、存在しなくとも。
 呼ばれてみたり。逆に呼んでしまったり。
「獣人特有の匂いがするな…お前、己と同族か…?」
 そんな言葉で、動きを止められる。今回はどうや後者のほうらしい。
 ナガレは背後から掛けられたその声に、ゆっくりと振り向いて見せた。
 そこには、背の高い、一人の男が立っている。
「……誰だ?アンタ」
「…ああ、突然、だったな。お前の匂いがしたので、思わず捜してしまった」
 それは、同族の感覚、と言うものだ。
 ナガレは男が言ったとおりの、『獣人』に属するもの。相棒である早畝には告げていないが、自分の意思で、彼はその姿を人型に変える事が出来る。
 目の前の男もまた、ナガレと同じ者、なのだろう。
「そっか、お仲間サンってわけだな。此処最近、遭ってなかったから、ビックリしたよ」
 とんとん、と足音を立てながら、ナガレは男の足元へと身を進める。するとその背の高さが倍増したように思えて、ひっくり返りそうになった。
「……デッカイなぁ、アンタ…」
 そんな言葉をかけると、男はくすりと笑いながら
「お前も人型になったらどうだ? そのままだと首が曲がってしまうぞ」
 と言うと、『ああ、そうか』とナガレは納得したように言葉を漏らす。
 そして物陰に隠れたかと思うと、一瞬の光の後、再び姿を現したナガレの姿は、少年の形をしていた。
「…これでもまだ、アンタを見上げるぞ」
「お前が小さすぎるのではないのか? まぁ鼬系ならば、このくらいが丁度いいのだろうな」
 ナガレは男の目の前に立ち、その身長差に違いがありすぎることに少しだけ眉根を寄せた。ナガレは男の胸の辺りまでしか、高さが無いのだ。
 男は笑いながら、ナガレの頭に手を乗せ、何度か撫でてくる。
「…………」
 時にはその姿を少女に変容させるせいなのか。思ったより身長は伸びたためしがない。外見も永きを生きている割には、青年と呼ぶには少しだけ遠い顔立ちのままだ。
 時代の流れだけはきちんと把握しているので、それ相応に服装には気を遣っているのだが。
「…あ、と…。俺、仕事があるんだった」
 はっ、と気がつき。
 ナガレは弾かれたように、男にそう言う。
「……仕事?」
 男はそんなナガレに、少しだけ首をかしげて、問いかける。
 どう見ても、少年。しかも外見はゴシックパンクな上に首輪と鎖がついているその姿から、何を想像したのだろうか。表情は少々複雑だ。
「あー…俺、これでも警察の真似事してる組織の一員でさ。今、とある事件の調査中なんだ」
「そうなのか」
「折角久しぶりのお仲間サンだったのになぁ…。悪い、俺もう動かねーと」
 男はナガレの言葉に、素直に感心していた。そして今にも立ち去ろうとしているナガレの腕を、軽く掴んで彼を止める。
「…なんだ?」
「己も同行してもいいだろうか? …協力したいのだが」
「……え?」
 男は真剣だ。とても冗談やからかいで言っているようには見えない。瞳の色を見れば、それくらいは解るものだ。
 しかし、出会って間もない上に、確かかどうかも解らない職についているナガレの同行を申し出るなどと言うのは、さすがのナガレ本人でさえ、想像もできなかった事のようだ。
「うーん…まぁ、ボスは怒らねーとは思うけどな。アンタ強そうだし」
「では、決まりだな」
 ぽり、と人差し指で自分の頬を掻きながらそう言うナガレに、男は嬉しそうに笑った。そんな表情を見ていると、ナガレは断る理由を、見つけることなど出来ない。
「遊びじゃねーから、その辺覚悟しててくれれば、別に着いて来てもいいぜ。
 あ、俺はナガレっていうんだ。アンタは?」
「己は、河譚都築彦と言う」
「へぇ、いい名前だな。じゃあよろしく、都築彦」
「こちらこそ」
 お互いに名を名乗りあった後。
 二人はゆっくりと歩みを進め始める。都築彦もナガレも、楽しそうに笑いながら。
 そして本題である事件の背景を、簡単ながらに都築彦に説明し始めると、彼は親身になって聞き入り、時折考え込んだり、眉根をよせたりと、表情をころころと変えて見せた。
「……アンタ、最近漸く、人間の街に慣れたってカンジだな」
 ナガレは軽く笑いながらそう言う。
「…解るか? 己はずっと、山篭りしていたからな…」
「吸収するものがあり過ぎて、大変だろ?」
「ああ、でもそれを教えてくれる存在もいるんだ」
「へぇ」
 半ばからかう気持ちもあったのだが。
 都築彦の言葉を聴いていると、そんな気は、どこかに消え去っていく。逆にナガレが、都築彦に興味を持ってしまったかのように。
 当たり前といえば、当たり前だったりもする。
 ナガレは都築彦には軽く言って流したのだが、正直なところ、もう同族など滅んでしまったのだろうと思えてしまうほど、今まで獣人とは遭う事も無かったのだ。年月を数えると、気が遠くなるくらいの、話である。
「ナガレ」
「うん?」
「お前の髪の色は、何色だろうか。…白…?」
 そんな、都築彦の言葉に。
 ナガレは一瞬だけ、表情を固まらせた。
「…お前、もしかして、目…」
「ああ、見えないわけじゃないぞ。色が解らないだけだ」
 次の言葉で、ほっとしながらも、ナガレの胸中は複雑だ。
「そうか…。俺の髪は、銀色。ちなみに目の色は赤だ。それから首輪は茶色、服は白、後これは…」
 そう、一つひとつ指をさしながら、色の説明を始めたナガレに、都築彦はふ、と笑いながら黙って言葉を聞き取っている。
「…ん? なんか変な事言ったか?」
「いや」
「そっか? ならいいけど。……しっかし、俺ら、目立ってるよな…」
 ナガレは周囲の視線が気になりだし、そう言う。道行く人々の視線が、何故かこちらへと纏わりついてくるのだ。
「…そうなのか? 己は気にならないが」
 都築彦には、それが解らないらしい。
 黒髪の長身で整った顔立ちの青年と、アルビノでゴシックパンク姿の少年が肩を並べて歩いていれば、多少なりとも目立っても仕方ない話なのだが…。
「まぁ、いいか。調査に戻ろう。ここからそう遠くない場所に、犯行現場があるんだけどさ…」
「………!」
 ナガレがそう、会話を繋げた途端に。
 ざわり、と空気が変貌を遂げた。これはおそらく、都築彦とナガレにしか感じられない変化だろう。
「…通りを外れよう」
 顔を見合わせ、どちらともなくそう言葉にした後は、二人とも風の如く、その場から姿を消す。
 人通りの少ない路地に入り込んだときには、都築彦は獣化へと変容を遂げていた。
「…あんた狼だったんだな。どうりでデカイはずだぜ」
「己の背に乗れ、ナガレ」
 狼の姿を確認したナガレがそう言うと、都築彦は首を振りながら、自分の背に乗る様、合図をくれた。
 それに遅れを取ることなく、ナガレは身を翻し、都築彦の背に飛び乗った。
「重くないか?」
「ああ、軽いもんだ。…しっかりつかまっていろよ」
 都築彦はナガレにそう言うと、軽く地を蹴った。それだけで、一気に景色が見えなくなる。
(…うわ、凄いな…)
 普段、自分は小さな身体のため、移動のスピードを速めたとしても、軽くしか感じられなかったのだが。都築彦の生み出すそれは、未経験のものだった。決して悪いものではなく、逆に爽快、とさえ思える。
「大丈夫か?」
「ああ、全然」
 流れる景色が、新鮮だった。
 しかしそれをいつまでも楽しんでいるわけにも行かずに。ナガレは気を引き締めて、気配を感じる場所のために構えを見せていた。
「きゃぁぁぁ!!」
「!!」
 街の外れ、高層マンションに隣接する小さな公園へと差し掛かったときに、女性の声が響き渡る。
 その声で都築彦は大きく地面を蹴り上げ、優に数メートルを軽々と飛び越えて、現場へとたどり着いた。
「………っ!」
 都築彦が着地したと同時に、ナガレは背から飛び降りて、勢いのまま前へと突き進んだ。そして今にも六人目の被害者、とならんばかりの女性の姿をその目に捉えて、片手を突き出し、犯人らしき存在へと手のひらを翳した。
「!!」
 バシュ、と音を立てて。
 ナガレの手のひらで止められた、犯人の能力。おそらくは、人の心を抜き取るという、それに違いない。
 ナガレが繰り出したのは、普段は守りに使う、シールドの力を応用させたものだ。
「…こいつが?」
「ああ、おそらくな」
 遅れて、ナガレの元に辿りついた都築彦の姿は、いつの間にかまた人型に戻っていた。被害者になりかけた女性がその場にいる為に、気を遣ったのだろう。
「…あんた、大丈夫か?」
「は、はい…」
 ナガレはその場でへたれ込んでいる女性に視線を落とし、言葉をかけた。女性は多少震えてはいるが、外傷等は見当たらない。どうやら未遂だったようだ。
「立てそうなら、ここから逃げろ。…警察には通報すんなよ。どうせ信じちゃもらえない」
「……あ、ありがとうございます」
 女性はよろよろと立ち上がり、そして二人に頭を下げてその場から逃げ去った。これで、被害者を増やすという心配は、消し去られたといってもいい。
「…さぁてと」
 姿勢を正しながら向き直り、その存在と対峙する、都築彦とナガレ。視線の向こうには、膝から下が透けている、男が立っていた。
「幽霊とはまた、お決まりなパターンで。ご苦労なこったな」
『……なんで…邪魔……るのさ…?』
 ナガレは溜息を吐きながら、やれやれと言わんばかりに両手を挙げてそう言う。犯人の幽霊は、ご機嫌斜めといわんばかりの言葉を投げつけてくる。ただ、死後から随分たっているのか劣化が激しく、その言葉に勢いは見られない。
「…きちんとした話し合いは、無理なようだな…」
「まぁまともに喋れたとしても、俺らに対する恨み言しか言ってこないだろ」
 都築彦もナガレと同じくらい、落ち着きを見せている。
 それは、力の差を、歴然とさせている証拠でもある。
 つまりは二人にとっては、この程度の幽体など、取るに足らない存在と言うことなのだ。
 早畝たちであれば、多少なりとも梃子摺っていたのかもしれないのだが。
「こう言うときに、自分が獣人でよかったって、思えるよ」
「…そういうものなのか?」
「まぁな」
 ナガレは薄く笑いながら余裕でそんな事を言うと、都築彦は真顔で問い返してくる。
 これが、人との関わりを、月日をどれだけ永く過ごしてきたかを克明にする『違い』だ。
「ま、あんたにもそのうち、よかったって思える日が来るだろうさ」
 ナガレは都築彦を見上げて、にこっと笑ってみせる。深く考えるな、と遠まわしに伝えたかったようだ。
『……お前らは…仲間…じゃ…いな…』
 一瞬、和んだかと思ったその場は。
 幽霊の動きによって、掻き消される。
「当たり前だろ。なんでお前の仲間にならなくちゃなんねーんだよ」
『うるさい…お前らは……俺が…食べてやる…』
 強がった言葉であるのだが、どうにも子供っぽい節がある。二十歳前の少年なのかもしれない。そんな事を思いながら、犯人を見据える、ナガレ。
『邪魔…するものは…死ぬんだ…死ぬんだよ…!!』
 ナガレの言葉と態度に、犯人は腹を立てたらしい。そう叫んだ後、その姿を崩し、液体のような形になり、二人に襲い掛かってきた。
「―…無駄だって」
 ナガレはそれに深い溜息を吐いた後、片手を挙げたのみで、対応しようとしていた。
 何処かで、気が緩んでいたといえば、それまでなのだが。
「…、ナガレ!」
「うん?」
 都築彦の声が多少、荒っぽくなったその時に起こった、犯人の変容。
 ナガレはそれに、一瞬だけ躊躇ったが、すぐに対応し、シールドの範囲を広げて見せた。
 パァン、と乾いたような音が、再び広がった。
 バタバタ、と地面に叩きつけられる、何かの欠片。スライムのようなそれはすぐに動きを見せて、犯人がいた位置へと蠢きながら集まっていった。植え込みの葉に落ちたそれなんかは、葉を腐り落として、帰っていく。どうやら、触れないほうが良さそうだ。
「……なんだありゃ」
「お前が力の応用を見せたように、あれにも応用した何かがあると言うことではないのか?」
「…厄介だなぁ」
 犯人の身体は見る間に形を作り上げていく。それでもそれは完全ではなく、崩れたままだ。それだから、余計に厄介なのかもしれない。
「まいったな。下手に動いちゃ、被害者の心は取り戻せねーし…」
 シールドを貼り続けたまま、ナガレは犯人に対する行動を頭の中で練り始める。すると都築彦も黙り込んで、片手を口元に持っていき、考える素振りをみせた。
『…俺を馬鹿に…してるんだな……そうやって…馬鹿にして…笑うんだろ…。
 …殺してやる
 …殺してやる。
 コロシテヤル!!!!』
 犯人が叫ぶ。それでも、ナガレも都築彦も少しも動揺したように、見えなかった。
「……本体は、どこかにあるはずだよな」
 それどころか、その勢いすら、無視する方向で。
「そうだな、それでなくては、動けまい」
「だとしたら…其処を突付くしかないか…。二手に分かれるか。都築彦、あんたは攻撃主体な。俺はあいつをコイツを使って見切る」
「…解った」
 ナガレは思いついた策を都築彦に伝え、掲げていた手のひらから、一瞬だけシールドを消し去る。そして、一気に犯人に向かい、走り出した。
『………!?』
 都築彦も、一拍置いた後、ナガレに続くように、その身を動かした。
「手加減できんかもしれないぞ?」
「いいって、どうせ死んでるんだし。…いっそ一気に消してやったほうが、あいつのためだ!」
 流れるスピードの中での会話も、二人にはきちんと聞き取れる。
『あ…あ…うわあああぁぁぁ…!!!』
 そして犯人がうろたえながらも、その身を再び液体化し散らした瞬間に、ナガレはその場で足を止めて、再び片手を突き出した。その横を、都築彦が追い越していく。彼の姿は人狼の姿に変わっている。
(……あった)
 研ぎ澄まされた感覚の中で。
 ナガレは犯人の本体と思われるものを、見極めた。
 佇んでいた位置。その場に影のようなものが存在してる。おそらく、それが当たりだろう。
「都築彦、あいつの足元だ!!」
 そう叫んだ後は、犯人の攻撃が都築彦に食らわないよう、シールドを生み出し、それを彼に向かい、投げ飛ばした。
 都築彦は目にも留まらぬ動きで、犯人の懐へと飛び込んでった。そして彼に再びのうろたえる時間など一切与えることなく、その手にもつ鋭い爪で、犯人の足元を削り上げた。
『…ぎゃあぁぁ!!』
 それが、人狼の持ち合わせる力。爪で掻くだけでも、対象物が破れてしまうほどの、威力。それは幽体にも隔てなく伝わり、影響を及ぼしている。
『うそだ…消えて、いく…俺が…俺がぁ…!』
 驚愕に満ちた、犯人の姿。
「……此処に留まり心を狂わせてしまうより、新たな世界で浄化されたほうがいいだろう…」
『あああぁぁぁ…!!!』
 静かに言葉を作り上げた都築彦の言葉は、彼に通じたのだろうか。
 断末魔の叫びの中、都築彦の攻撃により形を崩した犯人は、ボロボロと音を立てながら、徐々に粉々になり、消えていった。
「……やっぱり凄いな、あいつ…」
 その光景を背後で見ていたナガレは、ぽつり、とそんな余裕な言葉を漏らしていた。
 犯人が消え去った後、何処からとも無く現れた球体は、五つあり、それが被害者達の心であるという事は、明確な事実であった。


「ご苦労様、ナガレ。そして河譚さん、ありがとうございました」
 司令室に戻った頃には、東の空が明るくなり始めている時間であったのだが。
 ナガレの上司である槻哉を始め、相棒の早畝や斎月まで、ナガレの帰りを待っていたようだ。
 そして今、差し出された茶を目の前に、都築彦に頭を下げているのは槻哉である。
「いや…己が勝手に協力したいといっただけだしな…」
「それでも、貴方の力添えあったからこそ、解決へと導くことが出来たのですよ」
 槻哉は謙遜する都築彦に対し、にこっと笑いながらそう言った。それを、都築彦は不思議な気持ちで受け止めていた。
「うわ、なんだこれっ! 変な味すんぞ!!」
「だってまこちゃん帰っちゃったし、仕方ないだろー」
「だからって、なんでお前が茶なんか淹れるんだよ!! 斎月がやればよかっただろ!!」
 そう、大声を張り上げたのは、ナガレだ。
 槻哉への報告を済ませた後、早畝が持ってきた茶に口をつけた途端に漏れた、言葉である。…どうやら、茶とは名ばかりの、不思議な飲み物になっているらしい。
 斎月は斎月で我関せずを決め付け、自分だけ、缶コーヒーに口をつけていた。
「…あっ、都築彦!! それ飲むなよ!!」
 ナガレはうんざりしながらも、都築彦の目の前に出された茶を目にしながら、今まさにそれに口をつけようとしている彼に向かい、叫ぶ。
「…………」
「…………」
 一瞬だけ、その場の空気が固まったように思えた。
「…別に、変わった味がするだけだが?」
 ナガレの言葉は一歩だけ遅く、都築彦は茶を口に含んでしまっていたのだ。
 だが彼の反応は非常に淡白で、意気込んでいたナガレも、その態度に気が抜けたのか、へろり、とテーブルに突っ伏してしまう。
(…獣人って、味覚狂ってたっけ…?)
 そんな事を思っていると、急に頭上が暗くなったのを感じて、顔を上げる。直後に、ふわりと頭に感じる、温かみ。
 既に鼬の姿に戻っていたナガレの頭を黙って撫でているのは、都築彦だった。
 槻哉と早畝は黙ってその光景を眺めている。斎月も横目で、様子を伺っていた。
「色々と吸収するものがあった。有難うな」
「……こっちこそ、有難うな」
 都築彦は静かに笑いかけながら、ナガレに優しい言葉をかける。
 するとナガレもへへ、と笑いながらそう言葉を返していた。
 その後、二度三度の会話を交わした後、都築彦は司令室を後にしていった。ナガレは廊下まで見送りに出て、その彼の姿が見えなくなるまで、その場で座り込んでいるのだった。




【報告書。
 8月29日 ファイル名『心を盗られた被害者達』

 被害者の心のみを抜き取ると言う犯行の事件は、登録.00ナガレと協力者、河譚 都築彦氏のもと、無事に解決する事が出来た。
 犯人はその後の調べにより、生前の苛めに耐えられなくなり自殺を遂げた少年の地縛霊だと判明。被害者は同じ境遇の者と、苛めていた者に重点を絞り、狙われていたようである。
 被害者の心は全て回収され、無事に戻された事は確認済み。その後は皆、普通の生活に戻れているようである。


 以上。

 
 ―――槻哉・ラルフォード】


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            登場人物 
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【2775 : 河譚・都築彦 : 男性 : 23歳 : 獣眼―獣心】


【NPC : ナガレ】

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           ライター通信           
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 ライターの桐岬です。今回は初のゲームノベルへのご参加、ありがとうございました。
 個別と言う事で、PCさんのプレイング次第で犯人像を少しずつ変更しています。

 河譚・都築彦さま
 ご参加有難うございました。そして今回も納品がギリギリになってしまい、申しわけありませんでした。
 都築彦さんの人狼である力とか、きちんと表現できているかどうか不安であるのですが…少しでも楽しんでいただければ幸いです。ナガレにお声がけいただけて嬉しかったです。
 
 ご感想など、聞かせていただけると幸いです。今後の参考にさせていただきます。
 今回は本当に有難うございました。

 誤字脱字が有りました場合、申し訳有りません。

 桐岬 美沖。