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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


■双己(ふたご)■

 蓮はふうっとため息をつき、真昼間から寝言のようなことを言っている開きっぱなしの扉に突っ立ったままの少年を見つめた。
 制服からして、神聖都学園の生徒だろう。
 瞳は虚ろなようでいて、はっきりしている。どちらとも取れなかった。
 彼はもう一度言った───もう幾度となく言っている台詞を。
「二重人格を治すものを売ってください」
 ようやく蓮は、本格的にこの正気とは思えない少年を追い出すことにした。
「あんたが自分を二重人格だと思ってるってのは分かったけど、そういうのは病院の範疇じゃないのかい? 生憎うちにはそんなもの置いていなくてね。さ、出てっておくれ」
「病院じゃ二重人格って言われなかったんです!」
 少年は薄茶色の髪を振り乱して叫ぶ。
「じゃ、何であんたは自分を二重人格だと思うんだい?」
 臆すこともせず、蓮。少年はようやく、名を名乗った。
「ぼくは……勝本・闇彦(かつもと・やひこ)。もう、いつの頃から『それ』が続いているのか忘れました。でも、いつからか……鏡を見るたびに、『違う自分』と話す自分がいるんです。学校でも、コワがられているくらいです」
 自分は内気で大人しい、目立たない少年。反するように、その鏡の自分と同じ顔と声の少年は、明朗で快活で、彼がもし鏡の外に出てきたのならクラスのアイドルにさえなり得るのは目に見えていた。
 彼は名を、「暁彦(あきひこ)」と自分で言った。
 自分こそが「表」に出るのに相応しい、と。
 夢にまで見るようになった。自分が暁彦と取って代わり、鏡の中からそれをじっと見つめる自分がいる。
 たまらない───孤独。
 それが恐ろしくて、自分は二重人格ではないかと病院に行ったのだが、どんな検査を受けてもそんな結果は出なかった。それで思いあまり、この不思議なものばかりを売っているところなら、そんなものもあるだろうとさっきの台詞を店に入るなり何度も言っていたのだった。
「ぼくは……ものを買うことも本や文房具くらいしかなかったから、貯金はあります。もし解決してくれたら、家にある代々伝わる『双己(ふたご)』も差し上げます!」
 そこで蓮はピクッとした。
 代々伝わるものには総じて不思議なものが憑いていることが多い。また、面白いものも多いのだ。
「ふたご?」
 問い返すと、貝を元にして作った美しい虹色の貝の杯の片割れだという。
 家宝の一つだ、と言う闇彦に蓮は、「こいつは坊ちゃんだな」と思いを隠せないまま、それでも商談成立をしてしまった。
「ま、そこに座ってまってな。流石にこれは協力者を呼ばなくちゃねえ」
 闇彦はそこに座り、蓮がペンを取った途端、店に客が入ってきた。


■Relief party■

「レンさん、こんにちは。なにか珍しい物入ってます?」
 黒い長髪を靡かせ、黒い瞳を輝かせて入ってきたのは、セーラー服に身を包んだ一見普通の女子高生、水野・あきら(みずの・あきら)だった。蓮は「丁度良かったよ」と言い、ペンを置いて闇彦の隣に立つ。ぽん、とその肩に手を置くと、闇彦は見た目にもビクッとした。そこへ、カランカランとまた店の鐘が鳴る。
「今日は大入りだね」
 と、蓮は入ってくる人物を見る。
 こちらも黒い長髪に真っ白い肌、茶色い大きな瞳の少女と、銀色髪に青い野性的な瞳が印象的な少年が何かを抱えて入ってきた。
「すみません、知人からこの包みの中のものが曰くつきだからというので……」
「引き取ってほしいんだけど、可能?」
 おずおずといった感じで言ったのは、初瀬・日和(はつせ・ひより)。言葉を次いだのが彼女の護衛と言っても過言ではないと誰もが頷くであろう、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)だった。
 そして、彼らはあきらに気がついて軽く挨拶をした。あきらもまた、挨拶を返す。
「珍しい『もの』は入ってるよ、水野。その曰くつきのもの引き取る代わりに、水野と一緒に『処理』してもらいたいものがあるんだけど、いいかい?」
 蓮の言葉にきょとんとする、三人。挨拶くらいできるんだろ? と言われ、ようやく蓮の手が肩から離れた闇彦は、自己紹介と───蓮に話した同じ内容を、三人に打ち明けたのだった。



■闇彦と暁彦■

 あきらは、二人の間に流れる何か「大事なもの」を感じながら、自分と双子の弟のことを考えていた。兄弟程度にしか似ていないけれど、自分と弟にもこんな風な流れが他人にも感じられるようなものが、出ているだろうか? ある意味、素敵だなとため息をつきたくなるのを誤解されては困ると堪え、自分の考えをまず言った。
「えと……暁彦くんに会えませんかね?」
 唐突な発言に、日和と悠宇は驚いたようだった。あきらはバッグから常備している某子猫柄の、ピンクの手鏡を出してみせる。勿論、いきなり闇彦に向ける馬鹿はしない。
「もし会えたら、どうしてこんなことをするのか聞きたいんです。闇彦くんに成り代わろうとしているのも心配です。ひょっとしたら産まれてこれなかった双子の片割れの霊……? それとも家人が受け継ぐチカラ? どちらにしても、このままの状態だと危険だと思うので」
 私にも双子の弟がいますし、協力してあげたいんです、と言うと、日和が口を開いた。
「そうなんですか……それなら、他人とは思えないでしょうし、私達も協力したいのは勿論です。え、とじゃ、私の考えも言ってもいいでしょうか?」
 はい、とあきらが頷くと、日和は語った。
「闇彦さんの言う『二重人格』の暁彦さんは、例えば小さい頃に抑制された彼自身の子供らしさが表面に出てきた、という事じゃないでしょうか? 家宝のあるようなお家だし、躾が厳しかったとかじゃないでしょうか? 本当は遊びたかったのに、親御さんを失望させない為にお稽古事をしていたとか、仲良くしたかったお友達がいたのに親御さんに遠慮してたとか……。切っ掛けは分からないけれど、闇彦さんの心は失われた子供らしさやその時間を取り戻そうとしている、って事だと思うんです」
 言う日和も端から見るといいところのお嬢様に見える。もしかして自分と照らし合わせた結果の推測なのかな、とあきらは少しだけ思って、次に悠宇のほうを見た。真剣な面持ちで聞いていた彼もまた、自分の意見を言った。
「闇彦が本当に二重人格だとして、いつ頃からそれが顕著に現れるようになったのか、っていうのが鍵だと思うんだよな。すべての事象には、必ず原因がある筈だから」
 短かった。そして、少し離れたところに座っている闇彦に視線を投ずる。自然、日和とあきらの視線もその後を追った。三人から見つめられ、闇彦はまたまたビクッとなる。ちょっと背中を押したら、どこかに逃げて行きそうな気の弱さを感じ、あきらはハラハラしていたが、悠宇がつかつかと歩み寄った。日和が「悠宇!」と小さく諌める声が聞こえるが、「大丈夫」という風にひらひらと手を振る。
「なにか思い当たることないか?例えば、ある場所に行ってからとか、何か……人かモノか、そういうものに接触してからとか、病気してからとか。そういうのがきっかけとかはないのか?」
 随分単刀直入な性格だな、とあきらは思う。だが、それが却って闇彦の背をいい具合に押したらしい。口を開いた。
「特に、きっかけとかは思い当たりません……。でも……そこの女の人が言ったことは、当たってます……。ぼくは確かに、昔から躾を厳しくされて、言いたいことも満足に言わせてもらえなかったり……」
「今時でもそんな家あるんだな」
 呆れたような、悠宇の声に日和はまた「悠宇」と嗜める。そして、闇彦に今度は彼女が近づこうとした───途端。
 あきらの膝に少しぶつかり、互いに「ごめんなさい」と言おうとした、それを遮った───手鏡の落下。
 割れはしなかったが、あきらのピンク色の手鏡は丁度良く闇彦の顔を床から照らし出した。
「俺を消そうったって無駄だぜ! 俺と闇彦は一心同体、俺を消したら闇彦だって消えちまうんだからな」
 鏡の中、闇彦と顔の造りは同じでも明らかに形相の違う少年が挑戦的な笑みを浮かべてあきら達を見ている。
「きゃぁっ!」
 日和が思わず声を上げ、悠宇が支えるように肩を抱き「暁彦」を睨みつける。
 あきらも悲鳴こそ上げなかったけれど、充分に心臓は動悸していた。
 闇彦は、と見ると、彼もまた立ち上がって震えている。何か似たようなものを感じて、あきらは「大丈夫だよ」と言おうとし、近づこうとした。だが、それすら闇彦は手で突っぱねる。それほどに、怯えていた。
「お前がそんなんでしっかりしないからこんなヤツにつけこまれるんだ。しっかりしろ、お前はお前だろ!」
 悠宇の叱咤に、闇彦はぎゅっと目をつぶる。
「羽角さん、そんな風に強く言ったら可哀想です」
 あきらが言うと、悠宇はちらりと視線を返してきた。
「古いものにばっか固執してるから闇彦みたく自分に自信が持てないヤツが生まれちまうんだ。勘違いするなよ、俺は闇彦の味方だ。生憎こんな言い方しか性質上言えないけど、それこそこんな曰くつきな『暁彦』から離れさすには多少強く言ったほうがいいんじゃねえのか?」
「でも」
「ごめんなさい、水野さん。悠宇はこういう人だから───」
 日和が言う。
 どこかが、ズキッと音を立てる。これでは───まるで自分だけが「分かっていない」みたいだ。妙な疎外感を感じ、あきらは力なくすとんと再び椅子に腰掛けた。
「……それから家に伝わる『双己』っていうのも気になったんです。なにか特別な力でもあるのでしょうか……もし、何をどうしても駄目なら、私が暁彦くんだけ私の能力で消してしまってもいいです。穏便に……」
 行きたいですけど、と言いかけたあきらの足元、手鏡から暁彦の手が延びて来る。
「水野!」
「水野さん!」
 悠宇と日和が叫び、助けようとしてくれたのだろう、けれど。遅かった。
 あきらは既に、暁彦の手によって鏡の中に引きずり込まれてしまっていた。


 鏡の中は、暗く、何もない空間だった。ただ、少しだけ寒い。首から上だけ映る程度の鏡があり、そこから外の世界が見えた。
「俺だけ消されてはたまらないからな」
 くっと笑う、暁彦の姿。黒服に身を固め、自分を見下ろしている。
 その言葉が、あきらと、そして自分と暁彦を───恐らくは手鏡を持ってどうにかあきらを救出しようとしているのだろう───見つめ、叫んでいる悠宇と日和にも引っかかった。
「お前さっき、自分が消されたら闇彦も消えるとか言わなかったか?」
 悠宇の問いに、暁彦は笑みを濃くしただけだ。
「そう言わなきゃ消されるだろ?」
「でも、これで貴方が消えても闇彦さんは消えないって分かりましたから、無駄ですよ」
 日和が言っても、また笑みが返る。
「その為の人質を取ったんだよ」
 言って暁彦は、あきらの手首を掴む。
「こうして俺がこいつを掴んでいる限り、俺が消えたらこいつも消える」
 舌打ちする悠宇。
 あきらもそうしたかった。もっと簡単に解決できると思っていたのに。多寡をくくっていた。
「とにかく……水野さんを助け出しましょう。闇彦さんの解決にも繋がるかもしれないから」
 日和が言い、悠宇が少し考えたようにした後、鏡の外が急に見えなくなった。途端、暁彦の気配もなくなる。
「あ……暁彦さん?」
「やっぱりな」
 悠宇の声。
「え……?」
「暁彦は所詮鏡の中でしか動けない。鏡に闇彦が映ってないと姿もなくなっちまうんだ。だから水野、あんたと連絡取るときはこうする。協力してくれ」
 良かった。まだ自分にもできることがある。
 あきらは縋る思いで、「分かりました」と力強く言った。
 もうその顔に、疎外を感じる気配はなかった。


■鏡の中の世界■

 そういえば「鏡の国のアリス」なんて話もあったな、などとあきらはこんな時に思い出す。否、こんな時だから頭が現実逃避しているのだろうか。
 どんな話だったかはもう忘れてしまったが───。
 日和と悠宇は、会話からするとどうやら別れて行動するようだ。ちらり、とハンカチが一度少しだけ開き、日和が顔を覗かせた。
「わたしは闇彦さんと、悠宇は闇彦さんの本家にいきますから……水野さんはできれば、そこからの出口がないかどうか、探してもらえますか?」
 こくん、とあきらが頷いたのを見てホッとしたように日和はまたハンカチで手鏡を隠した。
 手がかりがないかどうか、鏡の中から探すのも手だと思うが、それも日和のあきらへの配慮なんだなとも思う。自然、力が出た。
「こんな……鏡の中なんかで、私は負けませんから」
 鏡の中で、声が響く。
 歩くと、コツンと足音がする。
(こんなところで能力───雷なんか使ったら、それこそ鏡の世界。私に跳ね返ってくるでしょうね)
 考えただけで、こめかみに冷や汗が滑る。
 コツン、コツン、コツン。
 無音の中に、自分の足音だけというのは、誰しも気分は良くないものだ。
 背筋にまで冷や汗が滑り落ちるのを感じた瞬間、足に何かが当たった。
「鏡の中に……モノなんてあるの……?」
 じっと目を凝らす、あきら。
 だが、屈みこもうとした彼の目の前に、ボウッと青い灯火が立ち昇った。
「……!」
 ───霊。
 霊力が優れているあきらは、すぐにそれが分かった。多分───自分の靴に今当たったのは、人骨。
「あ───あなたは、誰ですか?」
 ぼんやりとしていて、顔の造りもよく分からないその霊に、問いかけてみる。
 問いかけた瞬間、ゆらりと霊体が揺らいだ。その口元が、何かを訴えるようにパクパクと動く。だがそれだけで、力尽きたように消え去った。
 青い灯火だけが、どこかへ誘うように鏡の世界、その奥へとゆるやかに、だが素早く飛んでいく。
「あ───待って!」
 追いかける。
 これが今回の鍵のひとつだ。あきらの直感がそう訴えている。逃してたまるものか。
 ふと、ハンカチが取れる。時間間隔が違うのだろうか? 鏡の外は真っ暗だった。夜なのだろうか。
「何を───」
 すぐ背後に、暁彦の声。ひやりとした。
「追いかけているの?」
 逃げるように、青い灯火を追いかけ続ける。
 そういえば、外からの声は幾らか聞こえていたような気がする。だがその内容も分からないほど、自分は切羽詰っていたのだ。
「私は」
 立ち止まり、きっと暁彦を睨みつける。
「あの人みたく簡単には殺されませんから!」
 すると、ふと暁彦の眉間に皺が寄る。
「殺された……? ああ、『あいつ』のことか」
 そして暁彦は、くくっと笑う。
「『あいつ』は───時彦(ときひこ)は俺が殺したんじゃない。自分で死んだんだ、俺と闇彦のために」


(───え?)


「日和、連れてきたぞ! 早く手鏡を、水野を!」
 悠宇の声と、
「はい……!」
 応ずる日和の声。
 直後、
 ガシャンと耳を劈くような音と共に、あきらは鏡の外へと放り出された。


■幾百年の想いを込めて■

 手鏡は割れていない。
 浜辺へ倒れこんだあきらの瞳にまず飛び込んできたのは、自分愛用のそれだった。そして、その傍らに佇むようにしている───半分透き通った身体の、暁彦。よく見れば、あちこちに皹が入ったようになっている。ガシャンという音は、暁彦の身体が発したものだと気付いた。
 日和が、「大丈夫ですか!?」と、駆け寄ってくる。闇彦はと見れば、浜辺に暁彦と対峙し、震える足でなんとか立っているようだ。
 その背後から。
「水野、大丈夫か!? 身体はなんともないな!?」
 声をかけてくる悠宇と、見知らぬ……闇彦達と同年齢ほどの少年が立っている。
「大丈夫です!」
 声を返しておいてから、あきらは日和の手を借りて立ち上がる。
「水野さん、あなたは何か、破壊するような能力を持っていますか?」
 聞かれ、あきらは頷く。
 何故浜辺に舞台が移動しているのかとか、あの少年は誰なのかとか、そんなことを言っている場合ではないのは切迫した雰囲気から感じ取っていた。
「じゃ、あの人……藤谷・利勝(ふじや・としかつ)さんと仰るんですけれど……藤谷さんと闇彦さんがお互いの貝を合わせるのと同時に、暁彦さんに『それ』をお願いします」
 日和の真剣な眼差しに、
「分かりました」
 こちらも真剣に答える。
「慎重にやってくれ、これを逃したら───多分闇彦は暁彦に殺される!」
 悠宇のプレッシャーとも取れる言葉にも、あきらは臆しない。
「やってみせます」
 そう言い置き、藤谷という少年と闇彦が近づくのを見つめる。ドクン、心臓が鳴る。
「みすみす俺が見ているとでも?」
 暁彦がそう言い、走って二人の間に割って入ろうとするのを悠宇が羽交い絞めにする。
「お前は……!」
 暁彦の「能力」なのか、腕に割れた鏡で傷つけたような跡がついていくにも構わず、悠宇は暁彦を怒鳴りつける。
「いつまでもお前の思い通りに出来ると思うな!」


 ───カシリ。


 闇彦の持っている貝と藤谷少年の持っている貝とが重ね合った、その音を聞いた。
 あきらは、悠宇をうまく避けて暁彦だけに雷を落とした。
「悠宇!」
 駆け出そうとする日和に、「ミスはありません」と、安心させるように言う、あきら。
 事実、暁彦だけが悠宇の手を離れ、崩れ落ち、砂となるところだった。
「あ……」
 日和が、二人の少年の合わせた貝から立ち昇る青い霊を見つける。
「時彦……さん?」
 あきらが呟くと、そこに力尽きたように腰を降ろした悠宇が、視線を投げてきた。
「ああ……お前も鏡の中で会ったか何かしたのか」
「はい」
 日和が悠宇の傷を介抱しようとしているところへ、青い霊が近寄ってきて───悠宇の腕に口付けたように見えた、その瞬間、傷は失せ、また青い霊も失せた。


 真相は、こうである。
 あれから日和は「子供の頃出来なかった、やりたかったこと」を闇彦にやらせてそれにつきあい、悠宇は悠宇で闇彦に「友人だから入れてやってくれ」と家に許可を取らせ、闇彦の家に入り込んで調査した。
 分かったことは、悲劇そのものだった。
 勝本家は由緒正しい家柄。しかも、昔から三つ子は禁忌と言われていた。特に、真ん中の子供は。昔から───そうして、三つ子の真ん中の子供だけが、地価牢のような場所に閉じ込められ、誰に存在を知られることもなく、誰に死を知られることもなく、死んでいった。
 闇彦と暁彦は、ずっと双子だと思っていた。暁彦はいつも、内気な性格の闇彦を虐めて遊んでいた。闇彦のストレスやそんな負の感情が溜まりに溜まり、その「気配」を「時彦」が感じ取った。彼は闇彦を呼んだ───生まれつき持っていた特異な能力で。
 そして、自分は三つ子の真ん中、闇彦の弟だと告白した。暁彦は母親から可愛がられていたから既に知っている、とも聞かされた。
 闇彦は、だが、そのことを誰にも喋らなかった。毎日のように、暁彦の目を逃れては時彦の元に通い、一緒にお菓子を食べたり鉄格子越しにボール投げをして遊んだ───暁彦に見つかるまでは。
 闇彦は本当ならば、暁彦に家の者に報せられ罰を受けねばならなかった。だが───時彦が、自らと、そしてその「能力」の全てを振り絞って暁彦も道連れに死を以って阻止した。
 闇彦は、あまりのことに今の今までその記憶を忘れていたのだ───。
 そして、悠宇は更に、勝本家の家宝のひとつと言われる「双己」のことについても調べた。遡るとそれは、藤谷家というこちらも由緒正しい家柄の家宝のひとつと重ね合わせて初めて価値のあるものになると知り、わざわざ藤谷家にまで押しかけてなんとか利勝少年と「双己」の片割れとを連れ出したのだった。


「ぼく達の先祖は、兄弟の証としてこの貝を二つに分け、杯にしたそうです」
 藤谷少年は語る。
「幾百年の時をこえても、想いが通じているならば、いつか自分達の子孫がこの杯で酒を楽しく飲み交わすこともあるだろう、と……」
 日和のすすり泣くような気配がしたが、あきらは日和のために知らないふりをした。
 それが、あきらの優しさのひとつであることを、目敏い悠宇は気付いただろうか。
「ぼくは───」
 今となっては全て思い出した闇彦が、がくりと砂浜に膝をつく。
 ぽろぽろと、涙を零しながら。
「───時彦───」


 結局、蓮は「双己」を手に入れることは出来なかったが、特に何も文句は言わなかった。
 闇彦はこれから、少しずつ傷を乗り越えていくだろう。何よりも、幾百年もの月日をこえた繋がりを持つ、藤谷少年がついているのだから。
「私も今日もがんばろーっ!」
 カラン、と蓮の店を出て、夏の明るい陽射しを浴びながら、元気よく延びをするあきらだった。



     ───友よ
          語り合おう そう 互いの命尽き果てても
                   その身の代わりを以って───




《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3679/水野・あきら (みずの・あきら)/男性/16歳/女子高生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/チェリスト志望の高校生
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生





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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、「躾を厳しくされすぎた子供」を主にテーマにしてみました。結果は全く違うものだったと思いますが、なるほどこんな見方もあるんだなと、皆様のプレイングを見て感嘆したりしていました。

■水野・あきら様:初のご参加、有難うございますv 初めてのキャラを扱う時には極力調べてから書くのですが、ご期待に添えませんでしたらすみません; 女装ということをバラそうかどうしようか迷ったのですが、今回はやめました。鏡の中の世界をひとりだけ体験して頂いたのですが、如何でしたでしょうか?
■初瀬・日和様:初のご参加、有難うございますv チェリスト、というより音楽方面に何かと縁がありますもので、チェリストという部分もどこかに取り入れたかったのですが……かないませんでした; すみませんです;
■羽角・悠宇様:初のご参加、有難うございますv 今回一番書きやすかったのが悠宇さんでしたが、日和さんとご一緒のようでしたので、連携プレーのような形をとらせて頂きました。もう少し何か、身体を使ったシチュエーションもと思ったのですが……それはまた、次の機会に楽しみにとっておきます(笑)。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。それを今回も入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。因みに今回は、最初と最後の少しを除き、視点が個別となっておりますので、他のPC様のノベルを読んでみると、より楽しいかもとれません。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆