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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


カリスマ美容師を追え!

1.
「長い」
と、あやかし荘住人・天王寺綾(てんのうじあや)は唐突に呟いた。

「は?」
「長いわ! その陰気な長髪みとるだけで酒まずくなんねん! もっとさっぱりしてきてや!」
「お客様、私はシェイクステアスピリッツともに髪の落ちるミス等ないよう、常に…」
俺はなんとか儀礼上笑顔を作ったが、ひきつっている。
「そういう問題やあらへんての。そこで、や」
「はい?」
彼女はニヤニヤ笑っている。
「あやかし荘の近くに新しい美容室できたらしいんや。そこで切ってきて、どんなんか見てきてほしんやけど」
「はあ?」
「それじゃ! ツケにしといてや!」
「ちょ、ちょっと!」
「もちろん金は払うたる! 今日の酒代も、散髪代もな! ほな!」
そういうと、彼女は颯爽と去っていった・・・。


2.
いっちまいやがった、ブルジョワめ。
最初からこれが狙いで飲みに来たんだな。

安芸島勇(あきしまいさむ)は前髪をかきあげた。
確かに、自分で思っているよりも他人がみたら鬱陶しい様に見える髪の長さかもしれない。

いいか。そのうち切るんだし、そのうち伸びる。
何よりさんざ飲んでくれた今日の酒代を取り返さねば・・・借金が・・・。

ひとつため息をつくと、安芸島は綾の去ったガラガラの店内を見た。
暗く静かで雰囲気があると言われれば聞こえはいいが、実質は閑古鳥のなく状態。
折角独立して持った自分の店だったが、借金を返さねば自分の店ではなくなってしまう。
髪を切って綾が今日の分の代金を払ってくれるというのなら、その方がいい。

・・・明日、行ってみるか・・・。

決断するが早いか、安芸島は近くに置いてあった哲学書を手に取った。
そして、定位置へと座りいつもの様に誰もいない店内で1人読書を始めたのだった・・・。


3.
あやかし荘から程近く、住宅地の中に隠れるようにありながらその建物の異様さ。
安芸島は、思わず思考が停止した。
ピンクのど派手な外観に、パチンコ屋かキャバレーを連想させるような看板。
その看板に書かれた、これまた目に痛いほどの蛍光塗料。
そして、その看板には『サロン・ド・マドモアゼル』と書かれている。

・・・ホントに・・ここか?

引き返そうとする足、全身が帰りたがっていたが唯一理性だけがその帰りたがる体を制止する。
すべては代金徴収のため、自分の店を守るためである。
だが、帰りたがる体を制止はできたものの前進することができない。
そう。理性は分かっていても本能が感じ取っていたのだ。
ここには近寄ってはいけない何かがあると・・・。

「オゥ〜! お客さんですカ〜!?」

突然、目の前の扉が開いた。
顔を出したのはまさしく怪しげという言葉がよく似合う、年齢不詳・性別不詳の人物。
キラキラと光る眼鏡のフレーム、赤い髪はルーズな三つ編み、そしてピンクのフリル付きエプロンが眩しい。
「いらっしゃいマセ〜。さ、奥へどうぞデ〜ス!」
「い、いや、俺は・・・」
言い掛けて安芸島は続きの言葉を飲み込んだ。
そして、ひとつ息を大きく吸うと覚悟を決めた。

「よろしく・・・お願いします」


4.
サロン内は閑散としていた。
客はおろか、スタッフの姿すらない。
「本当に、ここが綾の言っていた美容院か・・?」
心の声が思わず口をついて出た。
「お客さんはもしかして、口コミで来られたデ〜すか?」
「あぁ、まぁ・・・」
「そうでしたカ〜。アタクシ、カリスマですから要予約制でお客さんに来てもらってマ〜ス。安心してくだサ〜イ」
自分で『カリスマ』だと言い切るあたりが怪しいが・・・

「・・俺、飛び込みですけど・・」

「たまたま暇だっただけデ〜ス♪」
要予約制に飛び込みで入れること自体がおかしいのだが、自称カリスマは全く気にする様子もない。
安芸島の心に大きな暗雲が立ち込める。

このまま、本能を無視してここにいるべきなのか・・・?

「それで、今日はどのようなカットをお望みでしたカ〜?」
ニコニコと着実にカットの用意をする自称カリスマ。
無言で安芸島に着席を促すが、あえて安芸島はそれを無視した。
「全体的に短くして・・そうだな、ジェルでまとめやすい髪形にしてもらえますか」
「短くてジェルでまとめやすい・・・OK!OK! では、こんな髪型ではいかがですカ〜?」
安芸島のオーダーを聞いた自称カリスマは雑誌をパラパラとめくりだした。
そして、とある1ページを開き安芸島へと提示した。

「・・ジャンボカットはちょっと・・」

安芸島の眉間による皺で、如何に安芸島が本気で嫌がっているかが分かる。
「好みに合いませんでしたカ〜・・・では、これでは?」
再び、自称カリスマはパラパラと雑誌をめくり始める。
そして、もう一度安芸島へと提示する。

「ハナワもちょっと・・・」

こめかみの動きが微妙に怒り指数の上昇を表している。
「好みが厳しいですネ〜・・・ではでは、こんなのはいかがですカ〜?」
さらにパラパラとめくる自称カリスマ。
安芸島はだんだん自分が無駄な時間を費やしているのではないかと思い始めている。

「リーゼントはやめてください」

「しょうがないですネ〜・・とっておきのヘアスタイルカタログ出しますデ〜ス!」
雑誌を置き、自称カリスマは分厚いメンズヘアカタログを手に取った。
そして、自称カリスマは叫んだ!
「これでどうですカ〜!?」
その指し示されたヘアスタイルをみて、安芸島の冷静さが遂に失われた。


5.
「どうして、ドレッドヘアなんて薦めるんです?! 俺は『短くてジェルでまとめやすい髪型』とオーダーしたはずでしょう!!」
「ノォ〜〜〜〜!!アナタとっても怖いデ〜ス!!」
「あんたが人の言ったこと全く聞いてないからでしょう!?」
「アタクシ、こんなにいっぱい提案しましたのニ〜・・・」

悪意はないらしい、この自称カリスマ。
だが、悪意がある・ないはさしたる問題でなく人の話を全く聞いていないというのが問題なんだ。

・・と安芸島は自称カリスマに言いたかった。
だが、それすらも自称カリスマには届かないだろう・・・。
安芸島はため息をついた。
腕が云々よりもこの人の話を聞かない自称カリスマでは綾の御目がねに適うわけはないだろう。
少しずつ、いつもの冷静さが安芸島の中に戻ってきた。
そして、安芸島は言った。
「急な用事を思い出したので、今日は止めておきます」
「おゥ、それは残念デ〜ス・・・」
意外にも素直に自称カリスマは安芸島が帰るのを認めた。
だが・・・
「そうデ〜ス! 次回の予約していくといいデ〜ス! ささ!書きこむのデ〜ス!!」

「結構だ!!」

自称カリスマが持つ予約表を振り払い、冷たく言い放つと安芸島はサロンを後にしたのであった・・・。


6.
「俺は、やめといた方がいいと思うね。あんな怪しい美容院は初めてだ」

安芸島は綾にそう断言した。
サロンを後にした後、安芸島はその足であやかし荘へと訪ねてきていた。
「・・そやけど、実際に髪切ってもろたわけやあらへんのやろ? なら、腕の方は確かかもしれへん。それを見極めてって言うたはずやけど?」
マニキュアを乾かしながら、綾は面白くなさそうにため息をついた。
と、突然来訪者が現れた。

「綾さ〜ん! 報告に来ました〜♪」

「て・・天嶽? あんた、その頭・・・」
綾がその来訪者・丈峯天嶽(たけみねてんがく)の頭を見て言葉を失った。
安芸島は、それが何を意味するものか瞬時に理解した。

「・・・百聞は一見にしかず。彼にもあの美容院に行くように頼んだんだろ?」

「・・誰? あんた。いきなりナニ言ってんだ?」
眉根を寄せた天嶽に、綾は鏡を見ろと指差した。
それは、すこぶる大きく豪華な姿見であった。
「ったく、なんだってんだ??」
ブツブツと文句を言いながらも天嶽は素直に綾の指示に従った。

    「なんじゃこりゃーーーーー!!?!?!」

天嶽の怒号が、あやかし荘全体を揺らしたように思えた。
「気付いていなかったのか・・」
「あんなんされて、平気で歩いてこれるヤツはおらへんわ」
頭を抱える天嶽のその髪型は、

50センチほどの長さの髪を立てたモヒカン頭
        プラス
その50センチの上部にいくつもの細かい三つ編みがされていたのだ。
それにあえて名付けるのならば『モヒカンドレッド』!!

「参考のために聞くが、なんと注文したんです?」
安芸島がそう聞くと、天嶽は「モヒカン・・」とだけ呟いた。
「で、まだ行く気はあるのか?」
その問いに、綾は無言で首を振ったのであった・・・。

帰り際に先日の代金を貰うと、既に夜の帳が下りてきていた。
どうやらこのまま店に直行した方がよさそうだ。

安芸島は少しの疲れを振り切るように、店への道のりを歩き出した・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3686 / 安芸島・勇 / 男 / 29 / バーテンダー

2042 / 丈峯・天嶽 / 男 / 18 / フリーター


<自称カリスマ美容師>
NPC / マドモアゼル・都井 / ? / 33 / 謎の人

■□     ライター通信      □■

安芸島勇様

初めまして、とーいと申します。
この度は『カリスマ美容師を追え!』へのご参加ありがとうございます。
オープニングをプレイングで書いていただきました文章(少々手を入れさせていただきました)に差し替えてさせていただきました。
今回は第6章のみが他PC様との唯一の接点となっております。
殆どシングルシナリオ状態となっておりますね。(^^;
安芸島様はクールさが売りのようでしたので、なるべく崩さないようにさせていただきました。
・・・それでもずいぶん崩させていただいてしまいましたので、イメージが悪くなってしまったら申し訳ないです。
すこしでも楽しんでいただければ幸いなのですが・・・。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。

蛇足ですが、自称カリスマは本名(?)マドモアゼル・都井と言いまして、NPC登録、およびPC登録されております。