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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


カリスマ美容師を追え!

1.
「そろそろ髪切ろうかと思っとるんや」

あやかし荘の「桔梗の間」の住人・天王寺綾(てんのうじあや)はそう呟いた。
緩やかなカーブを描き、茶色に光るその髪を手で弄びつつ、綾は言葉を区切った。
だが、その後で綾は矢継ぎ早に続けた。

「でも、うちの専属美容師がうち以外の髪を切ったさかい今髪切れる美容師がおらん。
 でな。探偵に調べさせたら、あやかし荘の近くに新しい美容院ができたらしいんや。
 しかも、そこの美容師がどエライカリスマらしいんや。

        そこでや!

 どないな腕なんか調べてきて欲しいんや。もちろん、金は払うたるよ?」

にっこりと笑った綾は、目の前に札束をドンっ! と置いたのであった・・・。


2.
「札束を見せられたら・・・じゃなくて綾さんの頼みとあっちゃー、そりゃ行かない訳には行かないですよ!」
丈峯天嶽(たけみねてんがく)は満面の笑みで綾にそう言った。
「・・天嶽、あんたホントにお気楽やな〜、噂どおりやん・・まぁ、ええわ。ほな行ってくれるんやな?」
「行きます行きます♪」
「ほな、予約取っといたるから明日にでも行ってんか? これ、前金や」
綾はそういうと目の前に置いた札束をおもむろに手に取り、数枚の万札を天嶽へと手渡した。
「・・あ、ありがたく頂いていきます」
うやうやしく天嶽はそれを受け取った。

これで調査報告後にはアレが俺のもんに・・・そしたら、まず綾さんをデートにでも誘うか?

よくよく見なくても綾は美人である。
有名女子大の学生だし、ボンキュボンだし、金持ちだし・・・まぁ、金の使い道が常人ではないが、それを差し引いても及第点以上だ。
知らず知らずに天嶽の口がニヤニヤとよからぬ笑みを浮かべる。
「・・そないな顔しとったら、いくら顔がよくても女が近寄らんで?」
綾の冷たい視線に、天嶽はハッと我に返る。

「まー、とりあえず明日行ってくるから、期待してていいっスよ」

取り繕うように天嶽はそう言って、綾の元を去ったのであった・・・。


3.
天嶽は、己の目を疑った。
綾から貰った地図どおりの道を歩き、目的地を見つけた・・・のだが。
住宅地の中に隠れるようにありながらその建物の異様さ。
ピンクのど派手な外観に、パチンコ屋かキャバレーを連想させるような看板。
その看板に書かれた、これまた目に痛いほどの蛍光塗料。
そして、その看板には『サロン・ド・マドモアゼル』と書かれている。

マジ? マジでこれがカリスマ系なわけ??

いくつもの疑問符が浮かんでは消える・・・が、完全にその疑問符が消えるのにさしたる時間は必要なかった。
「バケツにいらずんばサジを得ず・・・てか」
それを言うなら『コケツ(虎穴)にいらずんばコジ(虎児)を得ず』だが、それを突っ込むものはその場にはいなかった。
「ちゃーっす。予約した丈峯ですけど〜・・・!?」

「いらっしゃいませデ〜ス! お待ちしてマ〜シた!!」

さすがの天嶽も引いた。
キラキラと光る眼鏡のフレーム、赤い髪はルーズな三つ編み、そしてピンクのフリル付きエプロンが眩しい。
「サロン・ド・マドモアゼルへようこそデ〜ス! アタクシ、カリスマ美容師のマドモアゼル・都井(とーい)と申しマ〜ス」
爽やかに笑ったつもりなのかもしれないが、その怪しさに一層磨きをかけるマドモアゼル。
「お・・おかしい。おかしすぎる・・・なんでフリルのエプロン・・・普通は白と黒で清潔に・・・」
「常識にとらわれてはいけまセ〜ン。自分に似合うスタイルを見つける・・・それこそがカリスマ! それこそが愛なのデ〜ス!!」
上に手を差し出し、1人悦にはいるマドモアゼルに一言。

「いや、もう、全然わかんねぇ」

ヒラヒラと手を振り、珍しく真顔で天嶽はそうマドモアゼルへと突っ込みを入れたのだった・・・。


4.
「では、席にお着きくだサ〜イ」
なんとか天嶽の突っ込みダメージから立ち直ったマドモアゼルは、天嶽をカット台へと招いた。
素直にそれに従った天嶽は席に着くと、あるものを見つけた。
「ねぇねぇ、これナニ?」
シャンプーのような容器に入っているが、ラベルがない。
手に取って裏を見てみたが、やはり同じようにラベルがなく何なのかわからない。
「オ〜、それは当美容院オリジナル・『即効性毛生え薬・スグノービル』デ〜ス」
「け・・・!?」
「・・・どうしましタ〜?」
瞬時に青ざめた天嶽に、怪訝な顔をしたマドモアゼル。
「俺は・・・たぶん関係ないから、ダイジョーブダイジョーブ・・・」
視線が不自然に上を見ているあたりが、大丈夫じゃない加減を表している。

・・・待てよ?
毛生え薬があるって事は、ここで髪切っても元に戻るって事??
ってことは・・・

「サァ、どのような髪型をお望みデ〜スか〜!?」
天嶽の首周りにケープをつけながら、マドモアゼルはそう訊いた。

「・・モヒカン・・」

一度口に出すとそれがまさしくいい考えだと思えて、天嶽は思わず力こぶしを握っていた。
「モヒカンにしよう! 毛の長さは50cmくらいで! 真っ赤に染めて!」
「モヒカン〜!! スんバラシイ!! やりまショ〜!!」
「おうよ! そんな頭一生やんないだろうし! っていうか絶対出来ないし! やるなら今しかねぇって!!」
ノリノリの天嶽、ノリノリのマドモアゼル。

・・・いいのか? 本当に・・・。


5.

   シャキンッ シャキンッ シャキンッ

心地よく響くハサミの音。
そして

  ジャリジャリジャリジャリジャリ・・・・

続いて響き渡るバリカンの音。
ばらばらと床に散らばるのは、金色の髪の毛。
目をつぶり、鼻歌交じりで天嶽は終わりの時を待っていた。

「できましたデ〜ス。アタクシの会心作デ〜ス!! さぁ、手鏡を持って下サ〜イ!!」

天嶽は待ってましたとばかりにマドモアゼルの手から手鏡を奪い取った。
クルリと椅子を回転させ、バックスタイルをチェックする。
見事に真っ赤なモヒカンが出来上がっている。
「おぉ! すげーー!!」
「よく似合うデ〜ス! そして、よくやったデ〜ス、アタクシ!!」
「・・自画自賛かよ・・ま、いっか」
椅子を正面に戻し、次に天嶽はフロントスタイルをチェックした。

「髪、50センチも立たせたら鏡に映んねぇな」

今どきのサロンなら姿見ぐらいの大きな鏡があったかもしれないが、サロン・ド・マドモアゼルにはなぜか昔ながらの小さな鏡しか設置していなかった。
「ま、いっか。とにかく、俺帰るわ。野暮用があってさ。あ、代金はあやかし荘の『天王寺綾』までヨロシク〜♪」
「またのご来店、お待ちしてマ〜ス!」
帰り際に天嶽は1本毛生え薬を持って外に出た。
そして、足どりも軽く天嶽はあやかし荘へと歩き出した。
このまま報告に向かえばいいだろう。
すれ違う数名の人々の視線が、天嶽の頭に突き刺さる。

天嶽はそれを、真っ赤なモヒカン頭のせいだと思っていた・・・。


6.
「俺は、やめといた方がいいと思うね。あんな怪しい美容院は初めてだ」

綾の部屋の前に来ると、既に先客がいたらしく声がした。
「・・そやけど、実際に髪切ってもろたわけやあらへんのやろ? なら、腕の方は確かかもしれへん。それを見極めてって言うたはずやけど?」
綾の声。
どうやら天嶽と同じように美容院の下見に行かされた者らしい。
だが、そんなことにお構いなく天嶽は綾の部屋の扉を開けた。

「綾さ〜ん! 報告に来ました〜♪」

「て・・天嶽? あんた、その頭・・・」
綾が天嶽の頭を見て言葉を失った。
先客・安芸島勇(あきしまいさむ)は天嶽を一目見るなり、ため息をつくように言った。

「・・・百聞は一見にしかず。彼にもあの美容院に行くように頼んだんだろ?」

「・・誰? あんた。いきなりナニ言ってんだ?」
眉根を寄せた天嶽に、綾は鏡を見ろと指差した。
それは、すこぶる大きく豪華な姿見であった。
「ったく、なんだってんだ??」
ブツブツと文句を言いながらも天嶽は素直に綾の指示に従った。

    「なんじゃこりゃーーーーー!!?!?!」

天嶽の怒号が、あやかし荘全体を揺らしたように思えた。
「気付いていなかったのか・・」
「あんなんされて、平気で歩いてこれるヤツはおらへんわ」
天嶽はようやくすれ違う通行人がなぜ笑っていたかを理解した。
天嶽の髪型は、

50センチほどの長さの髪を立てたモヒカン頭
        プラス
その50センチの上部にいくつもの細かい三つ編みがされていたのだ。
それにあえて名付けるのならば『モヒカンドレッド』!!

「参考のために聞くが、なんと注文したんです?」
安芸島がそう聞くと、天嶽は「モヒカン・・」とだけ呟いた。
「で、まだ行く気はあるのか?」
その問いに、綾は無言で首を振ったのであった・・・。

「だがしかーし! 俺には毛生え薬と綾さんから貰う報酬がある!!」

天嶽は驚異的なパワーで立ち直った!
が、その天嶽に思わぬ言葉が降りかかった。
「あぁ、さっきサロンから電話あってな。サロン代えらい高かってん。その分あんたに払う金から引かせてもらうからな」

「・・・いくら?」
「モヒカンセット代1万2千+毛生え薬代50万 や」
「・・・」

怪しげなモヒカンは毛生え薬で伸びた髪と共に元に戻した。
結局、天嶽の手元に残ったのは最初に貰った数枚の万札だけであった・・・。

「妹に見られてたら余計に嫌われてかもな・・・ま、いっか」


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3686 / 安芸島・勇 / 男 / 29 / バーテンダー

2042 / 丈峯・天嶽 / 男 / 18 / フリーター


<自称カリスマ美容師>
NPC / マドモアゼル・都井 / ? / 33 / 謎の人

■□     ライター通信      □■

丈峯・天嶽様

こんにちわ。とーいです。
いつも妹様にはお世話になっております。
この度は『カリスマ美容師を追え!』へのご参加ありがとうございます。
今回は第6章のみが他PC様との唯一の接点となっております。
・・・殆どシングルシナリオ状態となっておりますね。(^^;
天嶽様は崩してもよさそうな性格でしたので、マドモアゼルの餌食(!?)となっていただきました。
すいません。一応コメディ系なシナリオ・・・というかマドモアゼルが出ると必然コメディになります。(爆)
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。