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闇光石
かぁっと照り付ける夏の日差し。じりじり焼け付く肌は、気を付けていてもすぐ赤くなってしまう。
歓声が聞こえる中に混じっているのに、どう言う訳か頭の隅では違和感を感じて仕方が無い。
何となく潮風を浴びながら、探すともなく1人の人物を探していたシュラインが、暑そうに、だるそうに背中を丸めて丸太の上に座っているその人物の側へと近寄っていった。
砂浜のさくさく心地良い音に気付いたか、その男がゆっくりと顔を上げる。
「――なんだ。シュラインか」
「なんだはないでしょ。…あら。チョコ、『タバコ』は?」
「今日は何だかそんな気分じゃないんだ。…口の中がなんだか甘いし」
「それはそうね。…隣、いい?」
男――武彦が、ああ、と言いながらちょっと身体をずらして場所を空けた。ありがと、と呟きながら隣へ座る。…1人分くらい距離を取って。
「傷はどう?すっかり治ってたの?」
「おかげさまでな」
少し間を置いて、呟くように訊ねたシュラインに、同じようなタイミングで武彦が答え、腕を上げて自分でも確認するように見。
「まだ歯が開ききってない内に引張るんだもんな。あれは痛かったんだぞ」
「…ごめんね」
あの時の痛がりようは、単に噛まれただけではなく…その時に傷口を広げるような勢いで引張ったせいだったからだろう。傷口に手を当てて声にならない悲鳴を上げていたあの時の事を思い出し、ぞく、と氷を落とし込んだような背中の冷たさにぴくりと体が跳ねる。
「別にいいさ。今はもう痛みも無いし、傷はすっかり塞がったし」
そんなシュラインの様子に気付いてか、フォローするように武彦がそんな言葉をかけながら、前方の海をじっと見つめた。
「…なあ」
「うん?」
――歓声が、遠くに聞こえる。
このくらいの『距離』が、心地良い。それが何故かは分からないのだけれど。
「綺麗な海だよな。ここ」
「そうね」
青い空に、広々とした海。白くて熱い砂浜。
「映画か何かの綺麗さだと思わないか?」
「それは感じないでもないけど、そういう場所なんじゃないの?ゴミ捨てる人がいないとか、この間ゴミ拾いがあったばかりだとか」
「…そうなんだろうな」
何となく釈然としない声に、シュラインがそっとその横顔を覗き見た。…知っているような、知らないような…そんな相手の顔が、すぐ近くにある。
「何か考えてるの?」
「ん……いや」
微妙に言葉を濁したのを見れば、相手が嘘を付いているのだろうと何となく分かる。
けれど、その事を深く追求する事も無く、武彦が次に口を開くのをゆっくりと待った。
「――ちょっとだけな、ちょっとだけ」
「うん」
ふ、と苦笑いを浮かべ、ごそごそとポケットを探った武彦が、「タバコ切れてたんだった」そう小声で呟いてシュラインの方へと顔を向け。
「『ここ』は何処なんだろうな――そう、思っただけだ。馬鹿な話さ、学校行事なんだから去年も来た筈なのに忘れてるんだ」
苦笑いしたままそんな事を言って、丸太から立ち上がってゆっくりと身体を伸ばす。
「さて、戻るか…そろそろ帰りのバスが出る頃だろ」
うん、と声に出さず頷いたシュラインが、先に立つ武彦の隣へと足を早め、肩を並べて歩き出す。
これも、不思議な感覚だった。接点の無い2人なのに、気付けば違和感無く話している。普段、あまり成績も行動も良いとは言えない、孤高を楽しんでいる節もある武彦なだけに、知らない者から見れば奇異に映るらしい。
けれど。
――こうして肩を並べて歩くのはとても心地良い体験で。
将来、もし許されるのなら、同じような位置に居たいと…ふとそんな事を思い、心の声が聞こえる訳も無いのに何故だかそっと武彦を窺い見て、変わらぬ様子にほっと胸を撫で下ろした。
「…将来、ああ言う人探しとか…探偵とかもいいかもしれないな」
ぽつりと呟いた武彦のその言葉に、我知らずどきりと胸を弾ませながら。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【0086/シュライン・エマ/女性/2-A】
NPC
草間武彦
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。「闇光石」をお届けします。
時間軸が進むにつれ、次第に見え隠れし始めた「真相」に関わったお話にさせていただきました。
このお話は丁度八月末ですので、「夏」が半分過ぎた形になります。
少しずつ歪みが表へ顔を出す時期ですね。それに関わっている、あるいは関わらされている人々の動きが次第に活発になっていきます。
もう暫く、この夢にお付き合いくださいませ。
参加ありがとうございました。
間垣久実
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