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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


流星の夜に

「いい汗をかいたわい」
 裸の上半身に、ぼろぼろになった改造制服をひっかけ、大股に、夜の浜辺を歩くのは羅火だ。
 思いもかけず、暴れることができたが、鎖の戒めのせいで、中途半端に終わってしまった。それが心残りといえば心残り。もう一暴れくらいしたいところだが、こんな真夜中にそう都合良く相手のいるはずもない。昂る身体を静めに、夜の海で泳いでみようか――、そんなことを考えているところだった。
「何をしている」
 ふいに懐中電灯の光を向けられて、羅火は金の目をすがめた。
 そこにいたのは、詰襟の制服もきっちりと着込んだ繭神陽一郎である。
「君はたしか、1−Cの羅火くんだな。こんな夜中に出歩くのは禁止されているぞ」
「……煩い」
 3年生の、しかも生徒会長を前に、まったく悪びれもせずに羅火は応じた。
「言われずとも寝たくなれば勝手に寝るわ。……ぬしこそ、生徒会長じゃからというて、夜回りか?」
「君に関係することでない。……はやくキャンプに戻りたまえ」
 冷然と、陽一郎は言った。
「なにを苛ついておる。ぬしも夢を見るのか?」
「何。……待て、それはどういう意味だ」
「なんでもないわい。邪魔したな」
「待つんだ。君…………何か気づいているのか――」
 陽一郎の手が、羅火の手首を掴んだ。
「なんだと」
 金の瞳が、生徒会長をねめつける。
「ぬしこそ、なにか……知っておるのか」
 はっ、と、陽一郎の顔に一瞬よぎった狼狽を、羅火は見のがさなかった。
「やはり、何かあるのだな。何か秘密が!」
 陽一郎の手をふりほどくと、電撃的な素早さで、羅火の手が陽一郎の詰襟の胸倉を掴んだ。
「待て……やめないか……」
「教えろ。一体…………この学園は何なのじゃ。わしは知らずにゲームの駒になるのは好かん」
「何を……言ってるん――だ。君はこの学園の生徒――」
「そんなはずはないのじゃ!」
 羅火は陽一郎を突き飛ばした。
 そんなはずはない――
 この頃の自分は……
 脳裏に、稲妻のように閃く映像。ひびわれたコンクリートの壁。タイル張りの床に落ちる水滴。点滴。注射器。メス。硬いベッド。そして血――
「…………」
 陽一郎は、砂を払いながらゆっくりと起き上がった。
 羅火は……ただ、そこに立ち尽くしていた。
 今のは何だ。「そんなはずはない」。そして、「この頃の自分は」どうだったというのだ……? 自分自身のはげしい反応の意味がわからなかった。
「思い出しているわけではないのか。それはそうだな。『目覚めて』しまえば、ここに居ることはできなくなるのだから――」
 どこか、遠い世界から響いてくるような陽一郎の声。
「くそ!」
 羅火は、駆け出した。
 なにもかもを振り切るように、雄叫びをあげながら、夜の海の波飛沫の中へと、駆けてゆくのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1538/人造六面王・羅火/男/1−C】

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■         ライター通信          ■
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大変、お待たせいたしました。
このたびは、幻影学園奇譚、リッキー2号の海キャンプ・ダブルノベルに
ご参加いただき、ありがとうございました!

ご覧の通り、共通ノベルはいわゆる輪舞(ロンド)形式の構成で、
夜の海辺でPCさま方は順々におふたりずつ出会われることで
起こる事件(?)のてんまつ、個別ノベルはその合間や前後の、
おもにNPCとのやりとりを描いたものになっています。

>人造六面王・羅火さま
はじめてのご参加ありがとうございます!
他PCさんとのプレイングの兼ね合いで、
ご希望どおり(笑)一暴れしていただくこともできました。
ワイルドなPCさまのイメージを、うまく描き出すことができたでしょうか。
なお、羅火さまの個別ノベルは共通ノベルの「合間」のエピソードになっています。

それでは、また機会がございましたら、お会いできれば光栄です。
どうもありがとうございました。