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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


人魚の夢  <シュラインの夢>



「シュラインさんがうらやましい」
と、ぽつりと日和が言った。


 人魚探索行から一夜明けて。
 班内の割り振りにより朝食作りの担当となったシュラインは、炊事場にてたまたま他のクラスの日和と顔を合わせた。
自然と昨晩の出来事についてあれこれ話しているうちに、ふと日和がシュラインにそう漏らしたのだ。

「どうしたの?」
 話を向けると日和はしばし迷った後、だってね、と続ける。
「シュラインさんって、草間くんとすごく仲がいいでしょう? あんな風に、私もなれればいいのにって」
「……チョコのこと?」
 何で突然彼のことが出てくるのかしら? と一瞬首をひねったシュラインだったが、すぐにピンと来る。
「日和ちゃん、悠宇君と仲直りしたの?」
 その言葉に、途端に真っ赤になる日和。
「……してないわ」
「だったら早くしないと」
「知らない。悠宇くんなんて知らないもの……!」

 ふう、と日和に聞きとがめられないように、シュラインは小さくため息をついた。
どうやって説得したものかとしばし考えをめぐらせた後、ねえ、と優しく語りかける。
「私とチョコだってね、別に最初から仲が良かったわけじゃないのよ。
……ううん、というより、出会いは最悪だったんだから。でも、それからいろいろあって、なんとなく一緒にいるようになって……それで今に至る、ってところかしらね」
「え? それ本当?」
 意外そうな顔を向ける日和に、シュラインは肩をすくめて見せた。
「それから言っておくけど、別にあいつとはすごく仲がいいって訳じゃないのよ? 
あいつってば不良がってるくせになりきれてないし、めんどくさがりだし整理整頓は全然ダメだし、それに……」
 まだまだ彼の欠点を並びたてようと考え込むシュライン。
 と、ふふ、と日和が笑った。
「シュラインさんってば、そんなところを『仲がいい』っていうんじゃないかしら」
「……そうかしら」
 反論しつつ、なんとなく照れくさくてシュラインは軽くつんと鼻を上向かせた。


 と、シュラインはあることを思い出した。
「……そうだ。ねえ日和ちゃん。
昨日の人魚が歌ってた歌だけど、私ちゃんと覚えてるの。教えてあげようか」
「え、本当? だって、旋律はよく聞こえたけど、歌詞までは遠くて……」
「まかせて。私は特別耳がいいの」
 ぱちり、と片目を閉じて見せると、シュラインは大きく息を吸い込んだ。
 
 

 
 この瞳は語り続ける
 私は貴方を
 他の誰でもなくてただ貴方を愛しているのです
 溢れる想いは隠せないのです

 明日がきたらまた翼をはためかせ
 貴方は行ってしまうのでしょう
 私は波に揺られながら その姿を待ち焦がれるのです
 あなたが どんなに遠くはばたいていっても
 



 シュラインの朗々たる歌声もさることながら、歌詞そのものが持つ情熱に当てられ、歌い終わったあとも日和はぽうっとしたまま立ち尽くしていた。
 そしてはっと我に返ると、あわててぱちぱちと手を叩く。
「す、すごいわシュラインさん。素敵だった!」
「ありがと。ちゃんと覚えた?」
「う、うん」
「じゃ、ちゃんと悠宇君に歌ってあげてね」
ぽぽぽ、と頬を染める日和。

と、流し台の水が鍋からあふれ出した。
 夢中になって支度がおろそかになっていた二人は、あわてて蛇口の水を止める。
「あぶない、あぶない。……さて、と」
 そしてシュラインはにっこりと笑うと、日和を追い立てた。
「さ、あとは私がやっておくから、悠宇君のとこ行ってきなさいな」
「え、で、でも」
「なにびくびくしてるの。朝ごはんの支度が出来たこと、ただ知らせに行くだけでしょう?」
 ね? とシュラインがいたずらっぽく笑うと、日和はくすぐったそうに笑った。
「……どうしてかな」
「ん?」
「シュラインさんって同い年のはずなのに、なんだかお姉さんみたい」



 日和にはっぱをかけて見送った後、さて! とシュラインも腕をまくった。
「じゃ、とっとと朝食作っちゃいましょうか!」
 コンロに鍋をかけ、スープの具を刻み、調味料を取り出して……。
その流れ作業の過程で、ふと自分が人魚の歌を口ずさんでいることに気づいたシュライン。
「私まで歌に当てられちゃったみたいね……」
 でも素敵な歌だったし、と一人ひそかに頷いたシュラインだったが、ふとあることに気がつく。
「せっかくだから、チョコにも聞かせてあげようかしら」


 ……あいつに聞かせてやるには、まだちょっとだけ早いかな。
そんなつぶやきをジャガイモと共に、鍋に勢いよく放り込んだシュラインだった。






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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【0086 / シュライン・エマ /しゅらいん・えま/ 女 / 2-A】




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          ライター通信           
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こんにちは、つなみりょうです。
この度はご発注下さり、誠にありがとうございました。

今回はシリアスになるかな、と思っていたのですが、結末が童話調だったのと、繭神と詠子の掛け合いが意外とテンポよく(?)いったせいか、自分としては明るいノリになった気がします。
さて、みなさまのご期待には添えたでしょうか? あとはそれぞれご判断いただくばかりです。
それと、個人ノベルはそれぞれ独立した話であり、どちらからでも読める作りにはなっていますが、
シュラインさん→セレスティさん→日和さん→悠宇さんの順で、時間軸がつながってもいます。
もし機会がありましたら、他の方のノベルも合わせて読んでいただければまた一層おもしろいかな、と思います。



シュラインさん、こんにちは。再度のご依頼、何より嬉しく思います。本当にありがとうございます!
実は前回の依頼の際、他の方との絡みがあまり書けなかったのが少しだけ心残りだったので、今回はその点を中心に描写してみました。
『高校生活』ならではの仲の良いクラスメイト同士、といった雰囲気が出ていれば何よりです。

それと、また草間氏とのカラミをちょっとだけ書いてしまいました……。すいません、どうしてもシュラインさんだと書きたくて仕方なくて。
あと前回のことではありますが、当方のNPCも気に入っていただけたようで嬉しかったです。(実のところ、彼女の出番は当初オープニングだけの予定でした。出番はむしろ増えたんですよ)
感想、ありがとうございました。私も読みながらもじもじ(笑)とっても嬉しかったです。



ご感想などありましたら、ぜひお知らせくださいね。次回以降の参考にさせていただきます。
それでは、機会がありましたらまたぜひご参加くださいね。
お会いできる日を楽しみにしております。

ではでは、つなみりょうでした。