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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


星空を見つめて…

 ラクロス部のエースアタッカーで学園内でも有名な寒河江 深雪はもうひとつの名前でも有名だった。それは……『氷の戦乙女』。普段は昼行灯のおとなしい性格で、喋り方もスローテンポ。どこから見てもおっとりしているのに、なぜかクロスを握ると性格が激変。敵をびっしびし攻める、まさにエースの名に恥じない姿へと変貌するのだ。その姿は部活の仲間からこそ信頼されているが、周囲はなぜ変身するのかが理解できず距離を置いているという噂もあるという。

 そんな彼女も神聖都学園の夏キャンプに参加していた。海の色をしたキャミに白のサブリナパンツ姿でキャンプ場を歩く。
 彼女の手には缶ジュースが握られていた。これは学園から支給されたもので、教師が生徒たちに適当に配ったものだ。ところが深雪に回ってきたのは苦手なつぶつぶ入りオレンジジュース。誰かと交換してもらおうと黄色いテントの中を見渡すと、仲間はさっさと栓をあけてぐびぐび飲んでしまっている始末。どうしようもなくなった深雪は、幼なじみの充のところに行けばなんとかなると思ってテントを出た。今はそこに向かっている最中なのだ。
 深雪はコンクリートの段差に座っている充を見つけた。後ろ姿でもすぐにわかる。彼はもらったジュースを上に投げ、ボールのようにして遊んでいた。彼女はそれを見るとすぐに駆け寄り、さっそくお願いを始める。

 「充ちゃん、ちょっといい? このオレンジジュース、つぶつぶ入りなの。私苦手だから、できればそのジュースと交換して……」

 そこまで話した時、深雪は思わず声を詰まらせる。充は楽しそうに友達と話をしていたからだ。もしかしたら話の腰を折ったのかもしれないと気を遣い、話を途中で切る。しかし、当の本人はまったく気にせず深雪の方を見て言った。

 「ん、深雪か。ああ、確か苦手だったな、つぶつぶ。わかった、替えようぜ。ほら。」
 「あ、ありがとう。ごめんなさい、お邪魔だった……かな?」
 「そんなことないよ。気にするなって。」

 深雪は充の邪魔にならない程度に距離をあけて横にちょこんと座った。あの『氷の戦乙女』とは思えないような仕草をする女の子がそこにいる。そして交換してもらったジュースを開けると少し口に含んで一気に飲みこんだ。
 周囲を見るととても賑やかだ。ビーチバレーに興じる生徒がいれば、隣では幼なじみが友達とのんびり談笑している。そんな彼らよりも目立って見えるのはカップルの存在だった。ふたりで寄り添って歩く姿ひとつとってみても、ひとつのアクションがたどたどしいカップルもいればすっかり板についたカップルもいる。深雪はそれを見ているのが楽しいようで、少し微笑んでいた。

 『ふふっ……やっぱりそういうお年頃なのね、みんな。私は自分の背中を押してくれるような人がいい。常に心の奥にいてくれる人が……って、私ストーカーなのかしら。』

 自分の理想を考え始めたはいいが、なぜか急に我に返って冷めた見方を始める深雪。表情も少し暗くなった。

 『私みたいな子に好かれたら、相手の人はたまったものじゃないわよね。ふふ、ラクロスしてる時は性格変わっちゃうし。』

 いつになったら道行く女の子のように喜べるのだろう。彼女はそう思いながら幼なじみの横を去った……


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

0174/寒河江・深雪 /女性/2−B


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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、市川智彦です。今回は幻影学園奇譚ダブルノベルをお届けします!
深雪さんは本編に続くシナリオを個別で書かせていただきました。
今ではなかなかいない日本的でかわいい方なので、気を遣って書きました(笑)。
とにかくかわいくかわいく……なんですが、内容がそうじゃないですよねー。
今度はもっと楽しい作品で深雪さんが書けたらいいなーと思ってます!

今回は本当にありがとうございました。また本編や別の作品でお会いしましょう!