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海の蛍火
◆それぞれの捜索編
ダッチオーブンでナンを作る用意をしていたため、シュラインが休憩に入るのは一番後だった。けれどその事はあまり気にしていない。容易にわかる事ならば、繭神陽一郎は自分で調査をした筈だ。もう一度鍋の火力をチェックすると、シュラインはその場を離れた。
岩場を抜け高台へと向かった。そこならば先ほどの光が出た場所がよく見える。手にした懐中電灯のスイッチを入れると、一筋の光の束がまっすぐに海面へと向かって伸びた。
「何も見えないわね‥‥今は‥‥」
シュラインは自分の感覚へ意識を集中させる。見えないモノ、聞こえないモノでも、意識を向ければ何かしら感じる事が出来る。
「あまり危険な感じはないわ‥‥邪悪な気配がないもの」
それでもシュラインは警戒を解かなかった。邪悪ではないから安全だとは言い切れない。生き物たちの弱肉強食の様に、生存を賭けた出会いがどこにあるかはわからないのだ。しかも目の前にあるのは暗い夜の海だ。この世界と違う世界とを繋ぐ『扉』があっても不思議ではない。常識などで推し量れるのは世界のほんの一握りだということをシュラインは知っていた。そう‥‥そんな体験を沢山してきた‥‥ような気がする。
しばらくじっと待ってみたが、先ほどのような光の現象は起こらない。
「仕方ないわね」
シュラインは羽織っていた上着をそっと脱ぎ始めた。
◆それぞれの結末
髪をタオルで拭いてさっとまとめると、シュラインは皆が待つ浜辺ではなくキャンプ地の方へとむかった。探すまでもなく目的の人物はすぐに見つかった。繭神陽一郎はいつも通りの服装のまま、ゆっくりとシュラインに近づいて来る。
「何かわかったか?」
いつもと変わらぬ口調だが、どこか期待を込めた響きがある。シュラインは小さくうなづいた。
「これが海の中にあったわ」
握っていた手を開くと、そこに小さな石があった。元々は大きな石の一部だったのだろうそのかけらは、砕かれた時のまま鋭利な形状を留めている。月を隠していた雲が吹き払われ、淡い月光が差し込むと石は冷たい輝きを放ち始める。
「本物のかけらだな」
陽一郎は低い声で言った。その様子を見るとシュラインは開いていた手を握った。石はシュラインの手の中に収まってしまう。
「やっぱり何があるのか見当ついていたのね」
冷ややかにシュラインは言った。陽一郎は悪びれる事無く無表情でシュラインを見つめている。
「そのかけらを渡してくれないか」
「何に使うつもり?」
陽一郎はシュラインの知らない何かを知っている。それもとても重要な何かを知っているのだ。それを知りたいと思う。意外とあっさり陽一郎は口を開いた。
「儀式に使う。それは悪しき力を封印するために必要なものだ。必要なったから探している‥‥ただそれだけだ」
陽一郎は右手をシュラインへ差し出した。その開いた手の上にかけらを置けと促してくる。一瞬迷った後にシュラインは手の中のモノを陽一郎に渡した。
「ありがとう」
簡潔にそういうと、陽一郎はシュラインに背を向けた。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【0086/シュライン・エマ/女性/小豆のすりつぶし】
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■ ライター通信 ■
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ダブルノベルにご参加有り難うございました。海の中にあったのは月光に輝く石でしたが、繭神陽一郎に協力的だと思われましたので渡してしまいました。お疲れさまでした。 カレーはあんなことになりましたので、もしナンがなければ夕飯抜きになっていた事でしょう。お時間掛かってしまいましたが、楽しく書かせて頂きました。ありがとうございました。
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