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幽玄の飛沫
空に帰っていった幽霊。幻惑の世界。瞼に残る暖かな光は、胸に染みて心の琴線を弾いた。
現世にある幸福。
来世に願う幸福。
私の手のなかにあるのは、どれ？
思わずにはいられない。繰り返される同じ時間をただ受けとめて、毎日毎日学び、遊び、笑う。けれど、それは幻かもしれない。ついぞ消える、ただの夢かもしれない。
だからこそ、目の前で起こった奇跡が胸を締めつける。何かをすることで変わる未来がある。自分で決めて行動することで、叶う幸福がある。
だから――。
「……戻ります」
一言だけ残して、私は一番にそこから離れた。足音がひとつ追ってくるのに気づいた。振り返らなくても分かる。あれは想い人――いつも私がからかってばかりいるお人良しの未刀先輩。
「…………」
今、来て欲しくない。彼だからこそ。
次第に早まる足。繰り出す足がもつれる。けれど元の縮尺が違うのだろう、男の歩行速度に勝てるはずもなく、すぐ後ろに先輩の存在を感じた。近づく足音。砂を食む靴の音。
こんな顔見られたくない……こんな顔――。
耐えられず目をギュッと閉じて走りだそうとした瞬間、背後にいたはずの先輩の体が駆けた。一気に私を抜き去り、目の前に立ちはだかる。急な展開に、私は立ち止まるしかなかった。長い前髪で表情は見えない。月の光が強い明暗を作り出し、斜のかかる顔。先輩はふいに私の顔を覗きこんだ。
「やっぱり…泣いてる……」
「ほ、放っておいて下さい！！」
気丈なはずの私の目に涙。きっと笑われる――似合わないと。だから、だから見られたくなかったのに……。
くるりと背を向け膨れた。私の前にできた影。先輩の影が重なる。そして、頑なに俯いている私に優しい声が降り注いだ。
「…飛鷹がこんなに喜んでくれたんだから、きっとあの人も幸せになるよ……そのために、飛鷹は頑張ったんだろ？」
「――――…ずる……い」
ずるい、こんなのずるい。そんな言葉を掛けられたら、我慢できなくなる。泣くまいと必死で押さえてきたのに。
肩に大きな手が乗せられた。暖かな体温。堪らず振り返った私に、先輩は追いうちの一言をくれた。
「我慢…しなくていいよ」
「――未刀先輩！！」
緩む涙腺。零れ落ちる涙。
自分にも…と望んでいるから、こんなにもあの奇跡が嬉しい。大好きな人の傍にいること。想いが通じ合うこと。結さんの願いが自分のことのようで、天に戻っていった光を忘れることができない。
「嬉しくて流す涙なんだから、いっぱい泣いていいに決まってるよ」
私は先輩の腕にすがって泣いた。枯れるまで。先輩の白いＴシャツがすっかり濡れてしまった後も。
月が傾き時間が経過する。ようやく止まった涙。鼻をすする音も少なくなった。
元気を取り戻した私。
ここでひとつ、釘を指しておかなくては。いつまでも立場を逆転させたままの私ではない。
「このことは絶対に、誰にも言わないように！！」
人差し指を伸ばして、先輩の鼻先に突き出す。
「はいはい。言わないよ。ま、元気出たなら、よかった」
「ハイは１回でいいんです！」
きつく口止めしたものの、微笑する先輩を見て負けた気がするのは、気のせいではない。零れる溜息。
月よ。
月よ。
祈り、叶え給え。
私の、現（うつつ）の恋を。
□END□
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ クラス】
＋ 1271 / 飛鷹・いずみ（ひだか・いずみ）/ 女 / １年Ｂ組
＋ NPC / 衣蒼・未刀（いそう・みたち） / 男 / ２年Ｃ組
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。いつもありがとうございます、ライターの杜野天音です(*^-^*)
依頼系でいずみちゃんを扱うのは初めてで、しかも高校生に成長しているので緊張しました。すっかり長い話になってしまったのですが、個別部分で甘く迫ることができたので、満足頂けたかなぁと思っています。
優しくて感情移入してしまうからこそ、涙が零れる。そんなものですよね……。可愛いいずみちゃんを書かせてもらえて嬉しかったです♪
未刀もこんな素敵な子に相手してもらえて喜んでいることでしょう(>v<)""
この個別部分は他の方の話とはリンクしておりません。が、セレスティ編には幻影学園奇譚の中核キャラも登場していますので、よかったら読んでみて下さいませ。
最後に。よくご存じだとは思いますが、衣蒼未刀は東京怪談〜異界〜「闇風草紙」の杜野作成NPCです。
素敵な話を書かせて下さり、ありがとうございました！
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