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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


煌めきと鎮まりの追復曲(カノン)

II-d

 シオンの耳から、セレスとモーリスとの話し声が遠ざかって行く。匡乃やユリウス達も次々とその場を後にし、やがて、沈黙と、水の滴り落ちる音のみが、シオンの周囲を取り巻いた頃。
 とん、と肩を叩かれた感覚に反射的に大声をあげながら、唐突に、シオンは背後を振り返っていた。
 反射的に、両手の手を大きく振りながら後退る。
「おっ、お金ならありませんよっ! この前だって銀行に貯金したり、ピンク色のフリルドレスを買ったり、兎にご飯を買ったりしたばかりで、もう何も無いんですからっ!」
「……銀行に貯金するだけあるんじゃあないか――」
 そこにいたのはシオンの予想に反して、幽霊でも妖怪でもなく、ほら、行かないのかね? と言わんばかりの表情の、晶の姿であった。
 シオンはほっと一息を吐きながら、律儀に晶の呟きに説明を始める。
「子供銀行なんですっ!」
「は?」
「集金箱の中にっ!」
 集金箱。
 ふと、会話の流れに相応しくない単語が聞えてきたような気がして、晶は知らず、眉を潜めていた。
「集金箱……? ATMではないのかね……?」
「そんな物っ! 私の貯金には、面倒な操作も必要ないのですよ」
「窓口入金しかできない、という事なのか……?」
「用紙に必要事項の記入も必要ありませんっ! 集金箱に入れるだけっ! ちなみに今なら、洩れなく可愛い貯金ガイダンスもついてきます」
「はあ……、あのね、シオン君、それ、実は銀行なんかじゃあないだろう……?」
 私をからかうのもいい加減にしてくれ。
 言わんばかりに問うものの、
「立派な銀行ですよ、多分」
「いや多分って、」
「可愛い兎と、銀行員さんの口車にのせられて、思わず貯金額が増えちゃったりとかするかも知れませんが、変わったところと言えばそのくらいで」
 駄目だ、この人。完全に意味不明じゃあないか……と、表面には引きつり笑いを浮かべ、内心では敬虔な旧教教徒にもあるまじき酷い事を呟きながら、晶はシオンに気付かれないように、ゆっくりと溜息を吐いていた。
 どう考えても、シオンの言いたいところが晶にはわからない。ただ、唯一理解できたのは、
 ……騙されてないか? 君?
 話が、あまりにも怪しすぎる。
「そういうわけで、私にはお金がありません。わかりましたね?」
「……ええと……、」
 さらり、と向けられた笑顔に、どうすれば良いのかわからなくなる。
「やっぱり君、私のことからかっているんじゃあ……」
「返事は?」
「ええと――……、」
「ハイ、は返事のハイッ!」
 駄目だ。
「――嗚呼、主よ、」
 どうか私を、お助け下さい……。
 唐突に明後日の方を向き、びしっ! と恰好を決めたシオンを横目に、晶は短く祈りを捧げた後、こっそりとその場を抜け出していた。
 しかしその後を、素早くそれに気がついたシオンが、慌てて追いかけて来る。
「ちょっと……待って下さいよっ! 晶さんってばあ!」
「もう勘弁してくれ……」
「ねえ、お菓子でも食べませんっ? 折角リックサックに色々と詰め込んできたんですしっ!」
「私は甘いものが嫌いだと言っているではないかね……! クッキーもチョコレートもお断りだ」
「それじゃあ、マシュマロは……」
「余計にお断りだっ!」
 追いつき、再び背中に引っ付いてきたシオンを何度も振り払いながら、同じような会話を二度も三度も繰り返す。
「じゃあせめて置いて行かないで下さいよ! 先生にチクっちゃいますよ!」
「君はもう高校三年生だろうっ! 頼むから、」
 頼むから帰ったら、今日は眠れないんです! だなんて部屋に押しかけて来ないでくれ給えよ……!
 不意に覚えた不安に、晶は大袈裟に一つ溜息を吐かざるを得なかった。



 ■□ I caratteri. 〜登場人物  □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。
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★ シオン・レ・ハイ
整理番号:3356 性別:男 学年:3−C



 ■□ Dalla scrivente. 〜ライター通信 □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。
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 まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注を下さりまして、本当にありがとうございました。まずは心よりお礼申し上げます。
 ……実はこうしてライター通信を書かせていただくのも、とんでもなく久しぶりなものでございますから、何を書けば良かったかなぁ――と、少々現在戸惑ってしまっていたりするのですけれども……、
 一つ目に、どうもこの度は、無意味にお話が長くなってしまっているような気が致しまして、密やかに申し訳無く感じております。多分今までの納品の中で、最も字数が多くなっていると思われますが、飛ばし飛ばしででも、少しでも楽しんでいただけますと幸いなのでございます。
 また、少々このお話には、ええ、それはもう本当お空のたった一つのお星様くらいに密かに、ではあるのですが、学園の真相に関わる部分がございました。海月の受注と致しましては、幻影学園はこれが最初で最後でございましたが、洞窟で見つかった石等につきましての詳細は、是非とも他のライター様の納品で、また、学園の最終章にてご確認いただけますと……と存じております。

 唐突ですが、ご存知の方もいらっしゃるとは存じますが、この納品を持ちまして、海月は暫く、OMCを休業させていただく事となります。或いは十月、十二月辺りにはシチュエーションノベルの受注が一度くらいはあったりするのかも知れませんが、十二月、或いは来年の三月まで、依頼の類の受注予定は全くございません。
 それでも、戻ってくる気ばかりは満々とございますので、またお会いできる時が来ましたらば、宜しく構ってやって下さると嬉しく思います。

 では、今回は、この辺で失礼致します。
 何かありましたら、ご遠慮無くテラコン等よりご連絡してやって下さいましね。

 乱文、個別通信無しにて、失礼致します。
 それではまたいつか、どこかでお会いできます事を祈りつつ――。


04 ottobre 2004
Lina Umizuki