 |
夏だ!気合いだ!根性見せろ!〜宝探し?IN岩場編〜
■岩場にて。
「明日奈さん、足元が不安定だから…気をつけて」
「ありがとう…でも大丈夫…」
砂浜から少し離れた場所にある岩場で、都昏と明日奈は石探しを開始していた。
木を隠すには森の中、石を隠すには…と、岩場にやってきたものの、
ごつごつとした岩場は意外と入り組んでいて、小さな石を見つけるのは少々難解だった。
しかも、部分的に海草が張り付いていたりし足場は悪い。
濡れることを考えてサンダル程度の靴しか履いていない事もあり、
都昏は明日奈が転ばないようにとずっと気にしっぱなしであった。
そんな都昏の気持ちを知ってか知らずか、明日奈は何かを思いついたように徐にパンと両手を叩いて…
「手分けして探しましょう!その方がきっと早く見つかりますから!」
「え?いや…でもそれは…」
「大丈夫です…私、そんなにドジじゃないですから」
明日奈は自信満々に微笑むのだが、どうにも都昏は心配でしょうがない。
砂浜や海ならいざ知らず、岩場で転倒すれば大怪我してしまう可能性も高いのだから。
しかし、明日奈の勢いに少しばかりおされ…都昏は仕方なく探索を分担する事に承諾したのだった。
明日奈は岩場に苔生す植物達の声を聞いての石探し、都昏は羽根を広げ空からの石探し。
岩場にまぎれていたとしても、太陽光の反射具合で光を放ちそうな雰囲気の石のように思えたから、だ。
かくして陸と空、それぞれの探索は開始されたのだが…。
※
「明日奈さん、何かあったんですか?」
「え?どうして…?」
「さっき、月神先輩と何か話をしていたみたいだったから…」
上空から様子を窺っていた時、ちょうど明日奈と詠子が話をしているのが視界に入り、
都昏は少し心配になって急いで降りて来たのだ。
別に、詠子に敵意があると言うわけでもないのだが…なんとなく気になったから。
「月神さん…悩み事でもあるみたいだったから…少し心配で声をかけたの…
でも、今はそんなに話したい気分じゃなかったみたいだから…」
石探しに戻りましょう、と明日奈は都昏に微笑みかける。
都昏も、それならまあ大丈夫だろうと…今度は明日奈と2人での探索を開始した。
上から見た時に気になった場所と、明日奈が植物から聞いて調べた場所を重点的に、である。
「都昏君、その右手にある岩の中にあるらしいの」
「右手の岩…あ、ここか…」
「あ、もう少し右…そこから…ううん、行きすぎ…少し戻って…」
背の高い岩には都昏がのぼり、明日奈の指示で動く。
しかしなかなか思うようにはいかず、見ていた明日奈は思わず身を乗り出して…
「きゃっ…」
「明日奈さん!!」
上ばかり見ていたせいで、足元の岩が崩れていた事に気付かなかったらしい。
ぽっかりとあいた穴に足を取られ、明日奈は前のめりにその場に倒れこむ。
しかし、硬い岩肌が彼女のやわらかい肌を傷付ける前に…明日奈は都昏の力強い腕に抱き止められていた。
「あ、ありがとう都昏君…」
ほっと息を吐きながら、恥ずかしそうに顔を赤くして見上げた明日奈の表情に、
都昏は少しばかりドキリとして視線を彷徨わせる。
咄嗟に抱きとめてはみたものの、かなりな急接近だった事に今更ながら気付いたからである。
しかし、明日奈はすぐにパッと身体を離すと、再び石を見つける事に集中し始める。
もう少し、こうしていたかったかな…などと都昏が思ったのも束の間、
「きゃあっ…!」
「?!」
明日奈は何かに驚いて、逃げた拍子にバランスを崩して倒れそうになる。
再びそれを都昏が支えてよくよく見ると…
明日奈のいたあたりを、フナムシの大群がざーっと音を立てるように移動していった。
「大丈夫ですよ…もういませんから」
「え?もう…いない…ですか…?ご、ゴキさん…」
「ゴキブリじゃなくてフナムシですから」
「で、でも…黒いのがカサカサって…いっぱい」
「じゃあこれからは僕が先に調べますから、明日奈さんはここに座って指示をお願いします」
フナムシの大群が堪えたのか、明日奈は大人しく岩に腰を下ろして、
再び都昏に石の在り処を支持する作業へと戻る。
そして、いくつかの石を見つけ、順調に作業が進み始めた。
都昏は作業がてら、その中の1個をこっそりとポケットに忍ばせる。
何故コレが必要なのかわからないが、綺麗な石ではあるし…明日奈にプレゼントしようと思ったらしい。
そんな事を都昏が思いつつ、視線をポケットから明日奈へと戻すと明日奈は突然立ち上がりどこかへと岩場を移動して行く。
突然の予想外の行動に都昏が驚き慌てて後を追いかけると…
「……あれ…?確かキミは橘君だったっけ」
「…月神先輩…」
そこには、青ざめた顔をした詠子が岩の上に立ち、2人を見下ろしている姿があった。
風に揺られている身体は、今にも倒れそうにすら見える。
そんなに華奢なわけでも身体が弱いわけでもないはずなのだが…
「月神さん…保健の先生のところに行きましょう?熱中症かもしれませんから」
「熱中症?ボクが?」
「とにかく下りてきて岩の影に座りましょう?危ないですから」
「危ないって…?こんなボクの心配をしてくれているんだね」
詠子は何故か、嬉しそうな顔ではなく、嘲るような笑みを浮かべる。
口の端にふっと浮かんだその笑みは、どこか冷酷非情な人物さを思い起こさせる表情だった。
「あの…何か悩みがあるのなら、私でよかったら話してくれませんか?
私には何も出来ないかもしれないけれど、話すことで少し軽くなるかもしれないですから」
明日奈は心底心配している顔で、両手を組んで詠子へ訴えかける。
冷めた視線でそんな明日奈を見下ろす詠子ではあるが、その瞳にはどこか救いを求める色が見える。
都昏は何故か、何かわからないがこの少女に関わってはいけないような予感を感じ、
明日奈を連れてここを離れようと思い立つ。しかし、それよりも先に…
「―――その手に持っているものは何…?」
「え?あ…その…石、なんですけど…私たち、生徒会長に頼まれてこの石を探して集めていて…」
「!?」
明日奈が詠子に、集めていた石を差し出した瞬間、
詠子はパッと身体を引くと同時に驚いた顔と、何かを諦めたような顔を浮かべる。
そして、寂しそうな表情を一瞬浮かべた後…
「そうか…ボクの行く末は…やはり…」
小さく何かを呟き、ひらっと身を翻して岩から飛び降りて走り出す。
何か気に障る事を言ってしまったのかもと心配になり、慌ててその後を2人で追いかけたのだが、
詠子の姿はもうどこにも見えず…
ただ、どこからともなく生徒達のはしゃぐ声と波の音だけが響いていたのだった。
⇒⇒⇒本編へ戻る
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物 ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
1年A組
【2576/橘・都昏(たちばな・つぐれ)/男性】
2年B組
【3199/数藤・明日奈(すどう・あすな)/女性】
2年?組
【NPC/月神・詠子 (つきがみ・えいこ)/女性】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちわ。この度は『幻影学園奇譚』海キャンプに参加いただきありがとうございました。
まずはじめに、納品が大変遅くなってしまった事をお詫び申し上げます。
夏キャンプと張り切っていたのですが、今年の台風には勝てませんでした。(苦笑)
今回はダブルノベルですので、共通ノベルで集合時のエピソードを、
こちらの個別ノベルにて個別行動のエピソードを書かせていただきました。
幻影学園でのエピソードに関しては、普段のPCさんと少し違ったやり取りや関係で書かせて頂いております。
それぞれの班に別れての行動ですので、宜しければ他の方も覗いてみてくださいませ。
岩場班の都昏さんと明日奈さん。
ラブラブを目指そう!と思っていたのですが、思ったより普通の展開になってしまった気がします。
ですが個人的にお2人のような関係はとても好きなので楽しんで書かせていただきました。
またいつかどこかでお会いできるのを楽しみにしております…。
:::::安曇あずみ:::::
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>
|
|
 |