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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


潮騒に聞こえる想い

●遠泳大会の影で
 スタートの合図で一斉に走り出す参加者達。
 何故か、その中にシオン・レ・ハイの姿があるのはご愛敬かも知れない。

 ――本当に、そうだろうか……。

 己自身に突っ込みたくなるシオンだが、事の起こりは彼自身が撒いた種のような物だった。
「がぼごぼぼごぼぼご?」
「いいから……話しながら……泳ぐの……止めろ……」
 自分もそうなのだが、取り敢えず自分のことは棚の上に揚げておくもので、因果応報で回ってくる山手線同様、シオンが告げた言葉は自分に直撃する。
「そう言うシオンも暇だな……俺と房八のレースなんてほっときゃいーだろが」
「……」
 そういえばそうだなと、はたと気付いてシオンの思考がぐるっとループした瞬間に、海水を掻き分けていた腕が止まって、浮力が不足した身体は自然と深みに沈みそうになる。
「っと! 浦島、お前何か恨みがあるのか?」
「べっつに〜〜ホレホレ、泳いでないと俺と房八が不正すっぞーー」
「がぼぼー」
「……」
 調子の良いドレッドヘアの人物と、彼に同調する気配を見せながらも、海の中で土左衛門よろしく溺れた振りで必死に溺れているような人物。
 浦島太郎と上社房八である。
 学園では特に見知った間柄でもないだろうに、海に来てから異様にウマがあったのか、馬鹿者街道まっしぐらで、その被害を考えるとついシオンが2人の暴走を止めに入ってしまっているのだ。
 人が良すぎるというわけではない。
 何処か冷めた表情で、世の中を斜めに生きていくのがシオンのスタイルの筈だったのだが、目の前に浮かんでいるどてらい奴等、房八と太郎を放っておくと、シオンの日常そのものに支障をきたすのではないかという、何処か直感に似た恐怖があった為だ。
「ふーっふっふ。遠泳大会の折り返し地点までが勝負じゃないんだぜ。折り返してくる奴等を、どうけ落とすかが勝負だ」
「ぶくぶくぶくぶく」
 不穏当な台詞を吐く2人を見張りながら、シオンも流石に疲れを覚えてきていた。
「……殺人者だけにはなるな」
 と、言い捨てて2人を置いて泳げればいいのだろうが、そもそも2人を調子づかせたのはよそ見をしていたシオンが不用意に2人の会話に同意してしまったからだった。

 褌談義の果てに、遠泳大会の覇者は俺だと言い争い……にしか見えない微妙なコミュニケーションを図っていた2人に辟易したシオンはある意味当然のように浜茶屋に足を向けて涼もうとしたのだが、その矢先に「なぁシオン、勝ったらそうなんだろ?」と言う浦島の問いかけに「ああ」と、素っ気なく返し、バカはほおっておこうと背を向けた、次の瞬間……。
「おおお。本当だったんですね太郎〜」
「ふふふ、俺は時々しか嘘は言わない!」
「……」
 その発言そのものに違和感を感じたシオンが振り向くと、案の定、遠泳大会の覇者は誰かという垂れ幕まで制作する勢いで、太郎と房八がトトカルチョの準備中だった。
 おまけに、その布に見えるのは白と赤の布だ。
 余り深く詮索したくないシオンだったが、2人の会話の中にしきりと「シオンが言っていた」という冠詞があり、続く主語と述語では「遠泳大会週勝者はミスコン優勝の女の子をものにできる」という、非常に傍迷惑な言葉があったのだ。
 勿論、そこで冠詞に自分の名を出すのは止せと言ってみたのだが、馬の耳以下の2人にはシオンの念仏は届かず、全く取り合おうとしないどころか、自分達が優勝してしまえとばかりに妨害工作の作戦まで計画し始めたのだった。
 そんな2人を暴走しないように見張っていたシオンだが、ふと2人の表情を視ると太郎は兎も角、本気で房八の方は苦しそうな物に変化している。
「いいのか?」
「いや……不味いな、こりゃ」
「ボガボガボ………」
 沈んで行く。
 己の欲望と共に、房八が沖縄沖に沈んだ不沈戦艦の如く沈んで行く。
「さらば、房八。また会う日まで」
「……浦島、お前って奴は……」
 敬礼して見送る太郎に、流石のシオンも冷や汗が流れ始めた次の瞬間、抜き手を切って太郎が沈んで行く房八を追いかけたのだった。

●夕焼け小焼け……
「まだ諦めないのか……」
「おうよ! 夏の海岸のアバンチュールが駄目なら! 次は暗がりでドッキン! だぜ!」
「っおー!」
 復活した房八が太郎の横で腕を突き上げているのを溜息混じりで視ているシオン。
「飽きない奴等……」
 そして、呟いた自分もかなり暇を持て余しているのだなと考えながらシオンも2人の後を追って肝試し会場へ向かうのだった。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3356 / シオン・レ・ハイ / 男性 /だんでーびんぼーにん】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして。この度の遅延誠に申し訳ありませんでした。
 巻き込まれて、その状況を見つめる冷静(達観とも言いますが)な人物の視点から描かせていただきました。
 非常に私事ですが、職場が8月30日の台風で海水とヘドロで床上70cm冠水という悪条件になり、未だに完全復旧できていない職場の復旧で毎日を費やしていました。本職で執筆に支障をきたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。