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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


潮騒に聞こえる想い

●光る石
「ふむふむふむ……」
「判って貰えたでござるか?」
 繭神に渡した石の話を何処から嗅ぎ付けたのか、武藤静(むとう・しずか)は執拗に高梁秀樹にその入手先と様子を聞きたがった。
「判らぬ。ぢゃから先程も言った通り、見つけた場所に案内して欲しいのぢゃ」
「……」
 気楽に返す静の語尾は尻上がりで、秀樹にしてみれば彼女は年下にして既に妙齢の女性が持つ『オンナ』のしたたかさを秘めているような気がしていた。
「いやはやまったく……現世でもこの様な御仁と出会うとは……」
 静に目的地は松林だと指さして告げた為、案内役の秀樹よりも一足も二足も速く歩く静である。
「ん? 何か言ったかや?」
 くるっと振り返って秀樹を見上げる瞳は漆黒の色に星を捲いたように輝きを持っていて、秀樹は眩しい太陽を見た時のように眼を細めていた。
「ん? どうしたかや?」
「別に、何も」
 そう言う秀樹が笑いを堪えているような気がして、静は一瞬考え込む素振りを見せた。
「と申すか、秀樹を一人にしておくとボロがすぐ出そうぢゃ」
「?」
 つい、口をついて出ていたのだろう。静の呟きを聞きつけたのか、秀樹が怪訝な表情で彼女を覗き込むようにして見ていた。
「なんぢゃ?」
「いえ、別に?」
 ねめつけても、しれっと返されてしまい、見つめられる事に慣れない静のほうが先に根負けしてしまった。
「ふん。遅いぞよ」
 くるり、背を向けて歩き出した静の後から歩調の緩やかな秀樹の足音が続く。
 押し殺したような笑いが静の背にあるのだが、流石に天上天下唯我独尊を地で行く静でも、これ以上振り返ったり反応しては益々秀樹に弱みを見せることになるとでも考えたのか、歩調を早めて松林の中を先に、先にと目的地に向けて進んでゆく。
「何の石かは気になるしのぅ、他にも見つかるしも知れぬ。しばらく一帯を散策してみるか」
「そう、ですかね……」
 気乗りしないのか、秀樹はあたりを懸命に探し始めた静をしばらく見ていたかと思うと、少し離れた位置にある崖……急に切り立ったようになる山肌に足をかけて登り始めたのだった。
「……何か見えるのかや?」
「いいや。何も見えぬでござる。あれが、この地で見つけた最初で最後の石でござろう」
「ぬぅ……」
 秀樹が軽く足元の松林を見渡して言うと、身の丈以上の高さから軽く舞い降りて静に笑う。
「拙者の心配をして頂いたのかも知れぬでござるが、石を渡したのは彼の目に迷いがなかったから……邪の気配を持たなかったからでござる。何事も、起こらぬと信じるでござるよ」
 朗らかに笑って、肝試しに戻ろうと歩き出す秀樹の背を睨んでいた静だが、ちょっと眉を寄せて考え込んだ後で『まぁよいか』と自分自身に言い聞かせるようにして歩き出した。
「ついでに土地の謂れ等も調べた方がよかろ。特殊材質の石や、何やら力の篭った物かも知れぬしな?」
「……まだ言われているでござる……」
 背中に、あえて聞こえるように言っている静の根に持った風情に秀樹は苦笑するしかなかった。
「何事も、起こらぬでござるよ……それが、今に蘇った我等の願いなのかも知れぬでござる……」
「ぬ?」
 小首を傾げる静。
 海岸から急に登る近道に足を掛け、差し出された手に引かれて歩き出したのは黄昏の真っ赤な太陽が影法師を長く伸ばし始めた頃だった。


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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3205 / 武藤・静 / 女性 / 表・小学生 裏・光龍の陰陽師】

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■         ライター通信          ■
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 大変遅くなって申し訳ありませんでした。
 石の謎は今回扱わない方向でしたので、秀樹も本格的に関わる、関われる場所には行けていません。変わりに、何事か言っていますがほんの少しだけ覚えておいて頂ければ幸いです。
 非常に私事ですが、職場が8月30日の台風で海水とヘドロで床上70cm冠水という悪条件になり、未だに完全復旧できていない職場の復旧で毎日を費やしていました。本職で執筆に支障をきたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。