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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


闇光石
「ふあぁぁ…」
 眩しい朝の光を顔いっぱいに浴びて、思い切り欠伸をし、ん〜〜〜っ、と身体を伸ばした。
 突如感じたその違和感に、ん?と思わず眉を寄せる。
「ああ…そうか。キャンプに来ているんだったな」
 普段見慣れた物が見えない、目覚め直後と言うのは焦るものだ。それも、家族での旅行とかそう言うモノではなく学校行事のひとつとして参加したのだから。
 わいわい楽しんでいる様子のクラスメイトや後輩達を眺めながら、炊事班が作り上げた朝食を平らげ、午後にバスが迎えに来るまで各自自由時間と知らされ、最後のひと泳ぎに行く者、釣りを楽しむ者、ビーチバレーで昨日の決着を付ける者…様々に分かれて行く。
 悠姫はその他、買い物に行くなりぶらぶら散歩するなりと言った海から少し離れた人々と同じくタンクトップ姿でのんびりと歩き回っていた。
「…お」
 その前方に、誰かと一緒に移動するでなく、ぶらぶらと歩いている詠子の後姿を見つけ、ぱたぱたと近寄って行く。
「おはよう。具合はどうだい?」
「――あ…うん、大分いいよ。キミも朝の散歩?」
「まあそんなトコだな。昼にバスが来るからそれまでは暇潰しさ」
 いつにも増して顔色が青白く見えるが、本人は周りが見るほど具合が悪い訳でもないらしく、悠姫の返事にふぅん、と呟いて小さく首を傾げる。
「キミは…このキャンプ、楽しめたかい?」
「さて、どうだろうな?――ちょっとしたトラブルはあったがまあまあ楽しめたんじゃないかな」
 悠姫のそんな言葉にちょっとだけ笑うと、詠子が昨夜の場所、洞窟のある辺りへと目を向けた。
「何があるのか見たかったんだ。…そこまでは、覚えてるんだけど」
「その後の記憶は無い?」
「そうだね」
 あまり歩きすぎてバスに乗り遅れるのも何だと、適当な所で歩みを止めて、道路脇のガードレールにちょこんともたれかかる。
「――何かに憑かれたみたいだったぞ」
「…そう…そっか。ボク、キミ達に随分迷惑かけちゃったみたいだったね。ごめん」
「今度から気をつければいい事だ。無闇にあんな場所に行くモノじゃない」
 ところで、と少し気になっていた事を思い出し、
「あなたと…会長が何かを集めてるらしいと聞いたんだが、一体何を集めてるんだ?」
「ボクは知らない」
 思いがけず、強い口調で詠子が返事を返してくる。
「知らない?本当にそうなのか?」
「そうだよ。――それに。キミはここがどこなのか分かってない。分かっていたら…居られないんだ」
 それとも、と、ゆっくり詠子の口元が言葉を刻んだのが悠姫に見えた。
「キミは居たくないの?」
 しばし、2人が見詰め合う。
「…分かった分かった。いいよ、もう聞かない。だからそんな泣きそうな顔しないでくれ。それじゃ私が悪者じゃないか」
 やがて、折れたのは悠姫の方だった。
「泣きそうって…ボクは泣かないよ。泣いてなんかいない」
 ふるふると、まだ表情が硬いまま詠子が首を振る。
「我慢するよりは泣いた方がいいんだぞ。そんなものは、年にも性別にも関係無い。――涙はな、浄化作用を持ってるんだ。想像してるよりも、ずっとな…その力は強い」
 詠子の強張った顔をほぐすように、悠姫がゆっくり語りかける。
「…泣きそうに、見えた?」
「ああ。もう捨てられそうな子犬さながらにね」
「――そんな顔、してたんだ」
 ぺちぺち、と自分の頬を叩き、ようやくいつもの顔に戻った詠子がぷにぷにと頬を指で突付きながら不思議そうに呟く。
「それじゃ戻ろうか?一緒に行くなら付き合うよ」
 本当は、まだ何か聞きたい事があったように思う。思うのだが、それらは全てまとまりを失いするりと指先から抜け落ちて行く。
「うん――じゃあ、あとちょっとだけ」
 付き合ってね、と言う詠子の言葉――その真の意味にはまだ気付かなかった。


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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【3243/風間・悠姫   /女性/3-C】

NPC
月神詠子

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。「闇光石」をお届けします。
時間軸が進むにつれ、次第に見え隠れし始めた「真相」に関わったお話にさせていただきました。
このお話は丁度八月末ですので、「夏」が半分過ぎた形になります。
少しずつ歪みが表へ顔を出す時期ですね。それに関わっている、あるいは関わらされている人々の動きが次第に活発になっていきます。
もう暫く、この夢にお付き合いくださいませ。
参加ありがとうございました。

間垣久実

追伸:風間PL様へ。
今回のプレイングにありました「真相へ向けての台詞」は一部割愛し、また変更させていただきました。真相に通じる物語を書いたつもりではありますが、この物語の中で語られている事が全てではありません。その上で、風間PCが知ることの出来る可能性のあった情報に基づいての台詞へ変えさせていただきましたので、ご了承くださいませ。