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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


潮騒に聞こえる想い
●突っ込みにかける青春!?
「………毎度のこととはいえ、レティちゃん……」
「うみゅ?」
 郭花露の目の前で、うみゅっと首をかしげているのはレティシア・嶋崎だ。
「その、両手一杯の砂糖壷、今からどうするのか聞かせて頂戴ね?」
 ニッコリ。
 巨大ハンバーガーチェーン店で無料と言われ、お品書きにもあるスマイルもかくやの風情で花露が微笑んでいる。
 ハンバーガーショップの店員と違うところは、その笑顔の裏に研ぎ澄まされた殺意……に限りなく近い鋭敏な何かを持ち合わせていることくらいだろう。
「くらい」で良いのか? という指摘は誰も出来ない、してはいけないのだ。
「えっとねー。これは今日のカレーに入れるんだよ」
 と、レティシアが口を動かそうとして『カ』まで口を動かした瞬間、周囲のA組の一同が風を感じた。
 次の瞬間……。

 スパカー――――――――――ン!!

 と、とてつもなく軽いもの同士がぶつかったような音がして、音に気がついた者達が見れば、今まさに砂糖壷をひっくり返してカレーの鍋に落ちそうな場面……で、花露が壷を奪い去っている図が彼らの目の前にあった。
「ふ。またつまらぬ物を叩いてしまったわね……」
 慌てて壷を引っ込めに来た2年A組の生徒に物を託すと、花露は右手で握った山折り、谷折り、の白亜のハリセンを左手にパシパシと何度も弄びながら金髪娘を睨み付ける。
「まぁったく。レティちゃん? あなたって子は何度言っても、言っても懲りないんだから……あなたの動きには細心の注意を払わなくちゃいけないって言っておいたのに……」
 ちらっと、周囲の者達の様子を見ると、打ちひしがれたようにして反省の表情なのだが、人間反省だけで命が助かった試しが無いのが目の前の恐るべき女生徒が生み出す料理の数々……卵焼きを作らせればスクランブルエッグ風のホットケーキよりも甘い何かに変わり、目玉焼きを焼かせると白い部分が無い炭の塊が出来上がり、味噌汁を温めさせると九州宮崎の地獄めぐりも真っ青の沸騰するマグマに早変わりという調子なのだ。
「まぁ、あの量ならカレーがアン蜜になってただけかもしれないけど……」
 自分の食事に並ぶのなら、まさに命がけでも阻止するだろうが、物がA組の物だけに花露の口調は淡々として、それがかえってレティシアといっしょに食事当番に任命されているA組生徒達に恐怖を植えつけた様子だった.。
「でもね、取り敢えず、レティちゃんが作ろうとしている料理で……クラスが違えど、折角のキャンプなんだから、楽しみのはずのキャンプの食事でお腹を壊しちゃしょうがないからじーっくり見張ったげるわね!」

 おをーーっと、A組の中で沸きあがる歓声。

 えぇーーっと、B組で巻きあがるブーイング。

 花露が中華飯店で腕を振るっているのは知る人ぞ知る話だ。
 クラスで彼女が食事当番に就くと聞いた男共はもちろん、女の子達も嬉しそうにしていたのだが、学園生徒の胃袋を危険人物の魔の手から救うために離脱するといわれて、落ち込む者が続出している。
 唯一というか、自炊に長けている因幡恵美と大曽根千春くらいが平気な顔で調理作業を続けている。
「……あ、視線が怖いかも……」
 平気な顔で作業する手を止めないのは良いのだが、じっと花露の方を見る恵美の表情は笑っているはずなのにどこか薄ら寒いのと、千春にしてもやれやれといった諦めの表情が浮かんでいるのが遠目にも分かる。
 あとでデザートでも作って差し入れしないと……等と考えたところに、二人の横に並んで話し掛ける男子生徒の姿と、何やらふたこと、みこと話して笑い出す二人が見られた。
「ふむ。助かった秀樹君! あとでお饅頭をあげようっと」
 今の一瞬だけなら、お茶が怖いと言われても出してあげようと、微笑ましい花露の譲歩した思考の目の前に……。
「いたたたた……師匠の愛の鞭は痛いなぁ〜」
「レティちゃんには体で覚えてもらおうとしても無駄でしょうが……」
 我ながら、無茶を言っているなと思いながらも、目の前の金髪碧眼、黙っていたら美少女な娘には少し……いや、かなり過ぎた程度に言わないと聞かないのも十分に承知の上。
「ねーねー。それなぁに?」
 目をキラキラとさせて、レティシアがもの欲しそうに見つめるのは花露の右手に握られた最終兵器。
「これ? これはね、レティちゃんが変な物や変な調味料を入れようとしたら、問答無用で叩きこむ為の『つっこみくん壱號』よ」
 何故か、聞かれたら答えずにはいられないわねと、ほんの少し胸を張る花露。
 だが……
「うみゅ。……壱号と言うことは、弐号さんや参号さんも居るに決まってるみゅ!」
「妾と違うわーーーーーーーーーーー一! それにあんた一帯何処でそんなこと覚えてくるのっ!!」
 電光石火でぶっ飛ばされる金髪娘だったとさ。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【2935/郭・花露/女性/焔法師の料理人】
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■         ライター通信          ■
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●ライターより
 大変遅くなりました。
 台風一過ですが、ここ一ヶ月色々復旧作業に追われたのを除けても、申し訳ありませんでした。
 非常に私事ですが、職場が8月30日の台風で海水とヘドロで床上70cm冠水という悪条件になり、未だに完全復旧できていない職場の復旧で毎日を費やしていました。本職で執筆に支障をきたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。