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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


闇光石
 詠子が奪われるようにして連れて行かれてから、一晩が過ぎ。
 今日はもう、帰る日。
 昼過ぎにやって来るバスに間に合えば良いと、何もせずに待つよりも遊びに出て行く仲間達の多さにちょっとばかり驚きながら、茜は相変わらず露出の過ぎた服で日差しを浴びている。
 少し離れた浜では、昨日までの疲れも何処へやら夢中になって遊びまわっているクラスメイトの姿も見え、向こうから茜に気付いて手を振ってくるのをゆっくりと振り返し、そちらへと向かいながら…近く雨でも降りそうな、遠くに見える重たげな雲を見やった。
「この分なら、今日雨が来ることはなさそうね」
 そうひとりごちながら。
 学園主催の、参加型イベント。もし参加人数が予定数を割っていたら行われなかっただろうこの夏のキャンプは、茜が想像していたよりもずっと大勢の人間が集まって来ていた。
 普段はあまり見ることのない、クラスメイトや先輩達の意外な一面を目にする事が出来たり、思いがけず自分に行動力があった事を思い知らされたり…人を癒す事が出来るのは知っていたが、まさか自分から進んで夜の探索に混じろうなどと、昔は考えも付かなかった事だ。
 お陰で、1人、放って置いたら酷い痕が残っただろう先輩の傷を治す事が出来た。…他にも、同行した人達何人かの傷を手当てした事も思い出す。
 ――詠子は大丈夫だったのだろうか。
 あの後、別の場所で会長も会長について来ていた者の姿も見かけたのだけれど。
「無事なら、問題はないんだけど」
 彼女に触れた時の、儚げな感触をふと思い出して手のひらを見つめる。本当に『癒し』が必要だったのは、もしかしたら彼女の方だったのかも知れないと。
 朝、気になって寝かせている部屋へ行ってみたら、もういなかったのだけれど。その後ちらと見かけはしたが、普段と変わらぬ様子にそれ以上近寄る事も無かった。
「…まあいいわ。あと少しなんだし、楽しめなかったら嘘よねぇ」
 ――昔はこんな経験出来るなんて思いもよらなかった。
 まだ世間なれしていなかったあの頃は…。
 そう思いかけ、思考を止めてゆっくりと首を振る。
 今はただ、学校が与えてくれたこの機会をのんびりと楽しむのだと、そう考えているから。

 それなのに、何故だか少し切ない気がする。
 こんな機会はまたとない、と言うように白々しいくらいはしゃぎまわっているクラスメイト達を見ても、1人1人しっかりと抱きしめてやりたいような思いにかられるのは――どう言う事なのだろう。
 まだ、今年入ったばかりの高校なのに…終わりがそう遠いものではないとふと思ってしまうのは。
 それでいて、信じられないくらいの心地良さを感じるのは…。
「茜もおいでよー」
 ぱしゃぱしゃと水際で水遊びを繰り返しているクラスメイトの1人が、立って手招きする。
 …茜の思考を遮るように、それでいて無邪気に。
「わかったわ。…ねえ、お城作らない?とびっきり大きなものを」
「あ、それいいー。ねえねえ、男子も来てよ、お城つくろ。この夏の記念品!」
 わぁっ、と歓声が上がり、わらわらとその声に集まってくる皆。

 その中に混じりながら、
 砂の城と同じく、いつかは崩れてしまいそうな危うさをどこかに残しながら、
 ――今はこれでいい。
 素直に楽しめなかった『あの時』を取り戻すように、そう呟いて、茜も波に濡れてしっとりと重さを含んだ砂を両手で掬い上げた。


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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【3059/銀城・茜    /女性/1-C】

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。「闇光石」をお届けします。
時間軸が進むにつれ、次第に見え隠れし始めた「真相」に関わったお話にさせていただきました。
このお話は丁度八月末ですので、「夏」が半分過ぎた形になります。
少しずつ歪みが表へ顔を出す時期ですね。それに関わっている、あるいは関わらされている人々の動きが次第に活発になっていきます。
もう暫く、この夢にお付き合いくださいませ。
参加ありがとうございました。

間垣久実