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闇光石
――皆が寝静まった後。
こそ、と起き出して1人海へと向かう。
あの、散歩の時のきらきらがもう一度見たくて。
何となく、今見なければもう見れないような気がして…。
「きらきら…きれいねー」
まだ空にかかっている月の光が、波に反射して千影の目を打つ。それが面白くて、水辺まで近づいてはじぃ、と見つめ、寄せ来る波にきゃあぁ、と楽しげな声を上げながら逃げる。
そんな事を繰り返していたその時、――きら、と足元に光る物を見つけて拾い上げた。なんだろう?と思いながら手のひらに乗せると…それは、呼吸するかのように、降り注ぐ月の光に反応してほのかに輝いている小さな小石。
「これもきれいね」
他にも無いかな、ときょときょと足元を見、砂を足で軽く掘ったり、浜辺から目の届く海の中を覗き込んだりする。
――残念ながら、それひとつきりだったようだった。
「いっぱいあればお土産にしたのに。でもいいや、これはあたしの宝物だもんね」
手の中にきゅっと握り締め、チャイナドレスと言う服装のままその場にすとんと腰を降ろした。
この綺麗な海が、どうして怖いんだろう?
「不思議よねー」
ついさっき、詠子を探しに行ったメンバーの誰だったかがそんな事を言っていたのを思い出す。
千影にとっては綺麗な輝きを見せる海でしかないのだが。
「明日はもう帰らないといけないのかぁ…楽しい時間はいつか終わっちゃうのよね」
ふぅ、と可愛らしく小さな溜息を吐いて、ほのかに光り続けているその石で砂浜の上にぐりぐりと絵を描いて行く。
さく、さく。
その時、誰かの足音が聞こえ…そして、千影の近くでぴたりと足を止めた。
何か、見られているような気配があるが、特に気にするような事もなくお絵かきを続ける。
「――きみ」
「なーに?」
海だから、おさかなさんー、と歌うように呟きながら干物のような魚の絵を砂の上に描いていた千影は、かけられた声に返事を返したものの顔を上げる事はなく。
「その石…どこで見つけたのか教えてくれないか」
その言葉でようやく顔を上げた。――見れば。そこにいたのは、先程後から来て詠子を連れ去った人物。
「ないしょ」
ほんのちょっぴり意地悪な気持ちで、一言だけで答え再び地面へ顔を落とす。
「――」
相手も一言だけでは次の言葉に詰まったらしい。少し沈黙があり、
「探し物を――いや。その石、譲ってはくれないだろうか」
婉曲に言っても駄目と見たか、石へと強い視線を注ぎながら陽一郎が言う。
「え〜?」
予想通りというか。座って砂の上に絵を描いていた千影がぷぅ、と頬を膨らませた。
「せっかく綺麗なのを見つけたのに。…ねえね、それじゃああげたら陽一郎ちゃんは何くれるの?」
砂の付いたそれを見下ろす男の視線の前へ差し出し、ゆっくり振りながら聞いてみる。
「――ちゃん付けされるのは、実に久しぶりだ」
問いに対する答えは、そんな言葉だった。
「陽一郎ちゃん、何にも持ってないならあげないよぉ。これはあたしの宝物になるんだもん」
「宝物――には、ならないよ。それは………だから」
最後にイシと言ったような気もしたが、その部分だけは何を言っているのか分からず。
「いいの。綺麗だからいいの」
「…綺麗…か。わたしには、その光は傲慢に見えるがね」
ごそ、とポケットを探りながらそんな事を言う陽一郎が、やがて何も見つからなかったのだろう、ゆるく首を振る。
「ごうまん?」
「ああ。闇を押さえつけようとする光だからね。…交換品は無かった。仕方ない、諦めよう」
「うん、残念だったね」
にこにこと笑い、手に入れた宝物を手放さなくて良いと安心した千影が細かい砂を払いながら立ち上がる。
「あたし帰るねー。それじゃ陽一郎ちゃん、おやすみー」
絵を描くのにも飽きたらしい。ぶんぶん手を振ってぱたぱた皆の居る場所へと戻っていく少女の姿を、陽一郎がじっと見つめ続けていた。
「そう。傲慢だよ」
――その呟きは、誰にも聞こえなかったのだけれど。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3689/千影・ー /女性/1-B】
NPC
繭神陽一郎
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。「闇光石」をお届けします。
時間軸が進むにつれ、次第に見え隠れし始めた「真相」に関わったお話にさせていただきました。
このお話は丁度八月末ですので、「夏」が半分過ぎた形になります。
少しずつ歪みが表へ顔を出す時期ですね。それに関わっている、あるいは関わらされている人々の動きが次第に活発になっていきます。
もう暫く、この夢にお付き合いくださいませ。
参加ありがとうございました。
間垣久実
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