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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


人魚の夢  <セレスティの夢>



 探索行から一夜明けた浜辺。
 誰もいない、静かに波が寄せる砂浜をセレスティはステッキ片手に一人歩いていた。
 ざん……ざざん、と途切れなく続く波の音。水平線から覗かせる太陽に目を細めながら、セレスティはゆっくりとその歩みを進ませていた。


「あれ?」
 と、そばの防風林から顔を覗かせたのは昨晩セレスティに同行した一人、悠宇だった。
「セレスティじゃないか。どうしたんだ? こんな朝早くから」
「散歩です。誰もいない海辺というのは心落ち着きますから。
それにこの時間なら、誰にもペースを乱されずに歩けますからね」
 そう言って膝を軽くさすってみせる。
その様子に事情を察したのか、悠宇はただ『ああ、そうか』とだけ言って、深くは問わなかった。
「それで、あなたは?」
「ああ、俺? 俺はちょっと……まあ、探し物」
「そうですか」


 と、悠宇は気をとりなおしたように口調を明るいものに変えた。
「なあ、人魚って本当にいたんだな。俺、今でもまだワクワクしてるよ!」
「……ええ、そうですね」
「俺、実は昨日、半信半疑でみんなに着いてったんだ。だから余計な」
あんたは? と水を向けられセレスティは答えようとし……ふと、ふさわしい言葉が出てこないことに気づきセレスティは口を閉ざす。
 そして答える代わりに、セレスティは視線を海に向けた。
「どうした?」

 悠宇がその視線を何気なく追い……そして、二人の目の前方、今度は陽光の下で。
 あの人魚の尾びれが、再び波間に翻ったのだった。
 
 驚きのあまり言葉をなくす悠宇へ、セレスティは海を見つめたまま語りかける。
 ――いや、その言葉は半ば独り言だったのかもしれない。
過去の思い出に、そして予想外の邂逅に浮かされて、自分は柄になく興奮しているのかもしれない。
 セレスティはどこか冷静な頭の片隅で、そう思った。

「私は人魚の存在を知っていました。昨日参加したのは『再会出来るかもしれない』そう思ったからです。
この広い海原で再会出来るなど夢物語に等しいと知っていて。
だが私は可能性を捨て切れなかった、そして……彼女と私は、再び出会った」



 ざざ……ん。
 一際大きな波が打ち寄せ、悠宇は思わず身を引く。
 そしてその波が引いた後に残されていたのは……。
「あ、これ!」
 昨晩無くしたはずの、日和のミュール。


 かがみこむ悠宇の横で、セレスティはただ立ち尽くしていた。
打ち寄せる波に制服のすそを濡らしながら、ただ呆然と波の彼方を見つめていた。
 そこにいたのは、見覚えのある人魚。

「私が去った後も、あなたは元気に暮らしていたのですね」
 日の光にきらめく、不思議な緑色の髪。昨晩、月光に透かし見た幼い女の子のそれよりも色は深く、そして長い。
セレスティを見つめる人魚の笑みは儚げで、そして優しかった。
 彼女に向け、セレスティもまた微笑んでみせる。
「幸せですか、あなたは」


 その言葉に、人魚はより笑みを輝かせたようにセレスティは思えた。
すぐに波間に消えた人魚の姿を見送るかのように、彼はいつまでも砂浜に佇んでいた。



 ――あなたが幸せなら、私もまた幸せになれるのです。
 セレスティの声にならない言葉に答えるのは、ただ波の音。




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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【1883 / セレスティ・カーニンガム /せれすてぃ・かーにんがむ/ 男 / 3-A】




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          ライター通信           
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こんにちは、つなみりょうです。
この度はご発注下さり、誠にありがとうございました。

今回はシリアスになるかな、と思っていたのですが、結末が童話調だったのと、繭神と詠子の掛け合いが意外とテンポよく(?)いったせいか、自分としては明るいノリになった気がします。
さて、みなさまのご期待には添えたでしょうか? あとはそれぞれご判断いただくばかりです。
それと、個人ノベルはそれぞれ独立した話であり、どちらからでも読める作りにはなっていますが、
シュラインさん→セレスティさん→日和さん→悠宇さんの順で、時間軸がつながってもいます。
もし機会がありましたら、他の方のノベルも合わせて読んでいただければまた一層おもしろいかな、と思います。



セレスティさん、初めまして。参加してくださり、嬉しく思います。
実は他の方の調査依頼が縁で、セレスティさんのことは以前から存じてまして。
発注をいただいた時、真っ先に思ったことは「あ、本物の人魚さんが来た」ということでした(笑)
これは生半可な話書けないなあ、と身を引き締めた次第です。
さて、結果はいかがでしたでしょうか? 個人ノベルの方は、かつて人魚だったセレスティさんの過去やロマンスに想いを馳せながら書いてみました。ご期待に添えていれば何よりです。



ご感想などありましたら、ぜひお知らせくださいね。次回以降の参考にさせていただきます。
それでは、機会がありましたらまたぜひご参加くださいね。
お会いできる日を楽しみにしております。

ではでは、つなみりょうでした。