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人魚の夢 <悠宇の夢>
「参った……」
人魚探索行から一夜明けた朝の海岸。
打ち寄せる波うち際から少しはなれた防風林の陰で、羽角悠宇は座り込み、頭を抱えていた。
「あいつ、主人を間違えてんじゃないのか?」
怒りに任せてポケットのピルケースを地面に投げ捨てるも、主のいないそれはカラカラと軽い音を立てるばかり。
それを拾い、改めて確認するかのように逆さに振ってから、悠宇は再びがっくりとうなだれた。
――昨晩、気まずい別れをしてから日和とは会っていない。
謝るきっかけを見つけるため、そして実はさっぱり寝付けなかったため、悠宇は今朝早くから海岸を歩いていた。
そしてあっさりと、彼女の無くしたミュールを波間から見つけたのだが……さてどうやって渡すか、と迷った挙句、イヅナの『白露』を呼び出してしまったのが間違いだった。
海岸までやってきた彼女を悠宇の元へ呼んできてくれれば、といった軽い気持ちだったのに、白露はせっかく見つけ出したミュールと、そればかりか昨日人魚からもらった石のかけらまで日和の元へ持っていってしまったのだ。
「あいつー……」
もしかして、俺のライバルのつもりなんじゃないだろうな、とこっそり拳を固める悠宇。
『白露は悠宇くんそっくりだから』なんて日和はよく言っていたが、こんなところばかり似ても面倒なばかりだ。
しょうがない、と悠宇は立ち上がり、ずかずかと海岸へ向けて歩いていく。
きっかけは白露が持っていってしまったのだから、最早自分で作るしかないだろう。
「日和」
海の方を向いて立っていた日和の背中に、意を決して悠宇は話しかけた。
声が聞こえた証拠に、日和の肩がぴくん、と震える。それを目の端で確認してから、悠宇は言葉を続けた。
「その……昨日はごめんな。俺さ、ちょっとイライラしてたんだ」
自分でそう言ってから、ああそうか、と悠宇は一人納得する。
――そうか、俺はイライラしてたんだ。
「だってさ、その……お前が、他のやつばっかりに興味示すもんだから。
それに夜だったし、俺がすげぇ心配してるのに、お前『大丈夫』って全然気にしないみたいだったし、それに……」
次第に何を言っているのか分からなくなり、しどろもどろな自分に悠宇はがっかりした。
俺って、もっとしっかりした奴だと思ってたんだけどなあ……。
と。
「悠宇くん」
振り向かないまま、日和が呼びかけてきた。
「あ、うん?」
「向こう向いてて」
「え?」
「いいから。そのまま回れ右して」
有無を言わさない日和の言葉に、悠宇は慌てて彼女に背を向ける。
「日和?」
「……」
「その……なあ、まだ怒ってるのか?」
日和の返答はない。
向こう向いてろなんて、よっぽど怒らせたのかなあ……と、悠宇はこっそりへこみかけた。
その時。
腰の辺りに、悠宇は軽い衝撃を感じた。下に視線をやれば、後方からまわされている日和の白い腕。
背中から抱きつかれているのだ、と分かった瞬間、悠宇は言葉を失くしてしまう。
――もちろん嬉しさで。
「悠宇くん、ごめんね」
照れ屋な日和にとっては、これが精一杯の好意の見せ方なのだろう。
……このうるさい鼓動、伝わってないだろうな。
努めて冷静を装いながら、悠宇はそう思っていた。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【3525 / 羽角悠宇 /はすみ・ゆう/ 男 / 2-A】
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ライター通信
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こんにちは、つなみりょうです。
この度はご発注下さり、誠にありがとうございました。
今回はシリアスになるかな、と思っていたのですが、結末が童話調だったのと、繭神と詠子の掛け合いが意外とテンポよく(?)いったせいか、自分としては明るいノリになった気がします。
さて、みなさまのご期待には添えたでしょうか? あとはそれぞれご判断いただくばかりです。
それと、個人ノベルはそれぞれ独立した話であり、どちらからでも読める作りにはなっていますが、
シュラインさん→セレスティさん→日和さん→悠宇さんの順で、時間軸がつながってもいます。
もし機会がありましたら、他の方のノベルも合わせて読んでいただければまた一層おもしろいかな、と思います。
悠宇さんこんにちは。再度のご発注、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。
今回、悠宇さんにとっては少々損な役回りだったかもしれません。その分、おいしい場面ではおいしく活躍していただいたつもりなんですが、さていかがでしたでしょうか? ラストに「報われたなぁ」と思っていただけたら何よりです。
前回同様、日和さんとの掛け合いをなにより大事に書かせていただきました。
そして、オープニングからご期待いただけたようでとても嬉しいです! 本文の出来が予想通りのものであることを願っております。
ご感想などありましたら、ぜひお知らせくださいね。次回以降の参考にさせていただきます。
それでは、機会がありましたらまたぜひご参加くださいね。
お会いできる日を楽しみにしております。
ではでは、つなみりょうでした。
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