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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


闇光石
時々、自分の年齢を実際のものよりも多めに見てしまう時がある。
「蒼王ー、行ったぞーっ」
「ああ」
 半袖のパーカーから剥き出しになっている白い腕が、ビニールのボールを捉え、味方へとパスを回す。
「ナイスパース」
 ビーチボールを使ったビーチバレー。単に砂浜でやるだけのバレーで、線を適当に引いたコートの中に何人かが入り、周囲には応援部隊もあったりしてなかなか盛況である。
 ――ボールを見つめるよりも、周りの女の子の声援に笑顔を振り撒いている時間の方が長いメンバーへと冷たい視線を投げ、再び前へと向く。
 ボールへ集中する度、頭のどこかが冴え渡って――そして、冷静な自分が今の自分を眺めているような、そんな錯覚に何度も囚われた。良くある事、と切り捨てるにはあまりにも生々しい感覚で。
 もしかしたら自分は本当はここにいないのかもしれない。
 そんな馬鹿な事を考えてみたりする。
「――危ないっ!」
「!」
 次の瞬間。
 太陽の熱をたっぷり吸収したビーチボールが、ばちぃんっ、と翼の顔面へとヒットした。
「大丈夫?交代した方が良く無い?」
「…大丈夫だ。でも、確かに少し疲れたかもしれない。交代させてもらうよ」
 ビニール製のボールだから、音は大きいが痛みはほとんど無い。だが、自分の意識が外へ出ていた事は間違いなく、『疲れ』と判断してあっさりと他の見学者に場を譲る。
 普段なら考えられない失態だった。そう…自分のやっている――そこまで考えた所で、ふっと苦笑いを浮かべ首を振る。
「やれやれ」
 失敗を笑って誤魔化す事も出来ない。その事を知っているからこそ、心配して周りも声をかけてくれたのだろうが、翼は頭が固いと言われるくらい真面目で、そのため融通が利かない部分があった。今のように、素直に交代は出来るが『みっともなく』自分の失態を笑いに誤魔化したり、逆にボケて周りの笑いを取ったり、と言った行動に移る事そのものがまず考えられない。
 だからこそ、こう言った場合には少々浮いてしまうのだが…翼の容姿と、貴公子然としたその姿には良く似合うらしく、労わりこそされ拒絶されるような事はなかった。
「ふぅ」
 じわりと動きを止めた瞬間にじんでくる汗を拭い、観客席には回らずに日陰を求めて移動する。
 そこに、自分よりももっと年寄りじみた男――武彦の姿を見てちょっとだけ瞬いた。
 学園内で不良という位置付けにあるこの男が、こんな自主参加のイベントに自ら顔を出すとは思ってもみなかったからだ。…まさか、このキャンプに参加しなければ出席日数が足らない、と言う事はないだろうが…。
「暑そうだね」
「…暑いよ」
 とろけそうなチョコをそれでも口に咥えているのは何かポリシーでもあるのか。
「まさかキミがここに来ているとは思わなかったよ」
「――そうなんだよな…俺も思ってみなかった。何でこんな所にいるんだろうって今更ながら呆然としてる」
「ふっ」
 少し口元を綻ばせた翼が、それじゃあ、と手を振って武彦と別れた。
 どうしてここに来たのか分からないのは自分も同じ事。
 そして――

「――誰か俺と行ける奴いるか?」

 行方不明になった同じ学校の生徒を探しに行く、と言い出したのは、誰あろうその『不良』の武彦で。
 その言葉を聞いた瞬間、何かがどっと頭の中に溢れてきた。
 これこそが、自分がここに来た意味と見て取ったから。
 気付けば、立ち上がっていた。そして――この先へと続く言葉を、すんなりと、何の違和感無く口にした。
「僕も同行しよう」
 と。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【2863/蒼王・翼    /女性/2-B】

NPC
草間武彦

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。「闇光石」をお届けします。
時間軸が進むにつれ、次第に見え隠れし始めた「真相」に関わったお話にさせていただきました。
このお話は丁度八月末ですので、「夏」が半分過ぎた形になります。
少しずつ歪みが表へ顔を出す時期ですね。それに関わっている、あるいは関わらされている人々の動きが次第に活発になっていきます。
もう暫く、この夢にお付き合いくださいませ。
参加ありがとうございました。

間垣久実