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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


一千の中の一つの夢

海からあがったみあおは、また一人、海を見ていた。
 みあおにとって、最後の夏。
 それは、あのダイビングで見たマリスという少女を見た事によって、少し前向きに考える事ができた。
 たった十歳ほどの歳で海の藻屑となったマリス。
 もし、船がしずまなければ、マリスはあの侍女と幸せな生活が待っていたのかもしれない。
「何考えてるの」
 ふいに後ろから月神が声をかけてきた。
「あ……。詠子」
「やっぱり暗く考えちゃう? さっきの事」
 みあおは答えなかった。
 それはやはり考えてしまうものだったからだ。
「ごめんね」
 月神はみあおに申し訳なさそうに謝った。
「僕はあれを見るの、結構好きなんだ。だから皆もそう思ってくれたらなって思ったんだ」
「どうして好きなの?」
「うん……。どうしようもない運命に飲まれた人たちのドキュメント、だからさ。どうしようもない運命ってあるよね」
「……うん」
 それはみあおにも分かる。
 今年の夏で「私」は消えるから。
 それは運命なのだ。
 かえる事ができない。
「私ね、今年の夏で消えちゃうんだ」
 ぽつりと本音をもらしてみた。
「え?」
「消えちゃうの」
 今度はさわやかに言ってみた。
 月神は何か信じられないものを見ているような顔でみあおを見る。
「……どうして?」
「ないしょ」
 笑ったみあおに何を感じたのか、月神の顔が曇った。
「僕も……消えるんだ」
 今度はみあおの方が驚いた。
「だからかな。あれを見るのが好きなのは。僕の場合もどうしようもないんだ」
 少し考えて月神はみあおに言った。
「ねえ、もし、君がこの夏を乗り越えられて、もし僕もこの夏を乗り越えられたら、まだ友達でいてくれる?」
「え……?」
「僕はきっと僕でいられなくなる。僕という存在はいなくなるかもしれない。僕はきっと変わる。それでも、戻ってこられたら、君は僕と友達でいてくれる?」
 懇願しているような月神の問いにみあおはしばし、沈黙した。
 自分は―――この夏を乗り越えられるだろうか?
 いや、今はそんな事はどうでもいいのだ。
 嘘でも、確実でなくても、月神に返すべき答えは一つしかない。
「当たり前じゃない」
 みあおは笑ってみせた。
「じゃあ、詠子の方はどうなの?」
「え?」
「みあおがもし、この夏を乗り越えられたら、また友達でいてくれる?」
 それを聞いて、月神はきょとんとした。
「当たり前だ」
 その答えを聞いて、二人で顔を見合わせて笑う。
 運命は変わるかもしれない。
 今は嘘の約束でもいい。
 それは、あまりにも優しい嘘だから。

             ★END★


 登場人物                  
【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
1415  /海原 みあお/女性 /鳥に変身可能

        ライター通信
 今回発注有難うございました。
 みあおさんにとっても最後の夏? という事で、どうしてか書き手としては分からなかったのですが、月神と同じなのでその話にしてみました。