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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


アバンチュールしてみませんか? 〜in海キャンプ〜

ACT.SPECIAL■嘉神しえるの挑戦

 今年の夏は暑く、そして忙しい。
 海キャンプでの嘉神しえるの日々も、その第1日目から波瀾万丈だった。

 それでも夕陽が沈めば、騒がしかった浜辺もしんと静かになる。藍色の空に星が煌めきだして、キャンプ地の夜はとっぷりと更けていく。中天に輝く月に照らされ、砂浜の白さが際立つ。
(そろそろ、約束の時間ね) 
 私服に着替えたしえるは、そっと自分のテントを抜け出した。
 手にはマッチとろうそくと、線香花火。軽やかな白いサマードレスと白いサンダルが、月下に咲く花のように波打ち際に映える。
 ――そして。
 昼に約束を交わしたひとは、すでに浜辺で、しえるを待っていた。
 青いシャツにジーンズ。いつも背中で結ばれている銀の髪は、解かれて肩に流れおち、月光を反射している。
 海を見ていた彼は、待ちびとの到来に振り返る。銀縁の眼鏡は、そのままであった。

「妙王先輩! 早かったのね」
「しえるさん」
 駆け寄ったしえるに、蛇之助は顔をほころばせる。少々、照れくさそうに。
「来てくれないかと思った」
「どうして? ちゃんと約束したじゃない。夜、花火をしましょうって」
「なんだか、信じられなくて」
「ねえ、先輩」
 一歩近づいて蛇之助を見上げ、しえるは艶やかな笑みを浮かべる。
「前から私のことを見てたって、本当?」
「あ、ああ」
「だったら」
 しえるはいたずらっぽく小首を傾げる。セミロングの髪が、しなやかに揺れた。
「きっかけを作ってくれた弁天先輩が、キューピットってことになるのかしら?」

「むぅー。それは複雑じゃのう」

 ふたりの背後から、いきなり声がした。いわずと知れた弁天である。
「うわ。弁天姉さん!」
「やだ弁天先輩。ついてきたんですかっ?」
 弁天は、昼間の改造水着とはうってかわったフレアのワンピースにバレッタ止めの髪型という、まるでおとなしい女子高校生のような(女子高校生なのだが)いでたちであった。
「ふたりきりでの花火は、さぞ寂しかろうと思うての。わらわも混ざってやるゆえ、ありがたく思うがよいぞ」
 ふたりの間に割って入るなり、手つかずの線香花火にさっさと火を付ける。
「……邪魔なんだけど?」
「ほっほっほ。礼などいらぬぞえ」
 見交わすしえると弁天の間に、線香花火以上に激しい火花が炸裂する。
 どこか別の世界で、似た光景を見たことがあるような気がして、蛇之助は遠い目になった。
「負けないわよ」
 きっぱりと、しえるは宣言する。
 新たなる挑戦は、始まったばかりであった。


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■   登場人物                  ■
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【2617/嘉神・しえる(かがみ・しえる)/女子/1年A組】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、神無月です。お待たせいたしました!
この度は、ギャグイベントしか発生しない、いきあたりばったりのおとぼけ恋愛SLG(違)に勇気を振り絞ってのご参加、まことにありがとうございます。
夏の貴重なひとときを、弁天とハナコにお付き合いくださいましたことに感謝いたします。
なお、個別ノベルでの時系列は、大別して「キャンプ前」「キャンプ中」「キャンプ後」となっております。

□■嘉神しえるさま@キャンプ中
文芸部の高校生蛇之助、専門はミステリという設定です(誰も聞いてませんそんなこと)。
夢の中でもしえるさまに陥落しておりますが、今回、対しえるさまの二人称を「君」にしてみたところ、これがまた照れくさいのなんのっていやはや(以下略)。

ご参加、ありがとうございました。
いつかどこかで、またお会いできますことを願って。