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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


幽玄の飛沫

 やはり夜はいい。涼しい風が吹き、心の充足を感じる。開放感に心が弾む。そして、今まさに起こった奇跡は、私にとって良い思い出になるだろう。夏の浜は暑くて「来なければよかったか」と思ったものだが、こんな出来事が待っているのも旅先ならでは。
「さぁ、帰りましょう」
 呆けたように空を見つめていた未刀君を誘って私は歩き出した。未刀君とは図書館でよく会う。ネット端末に接続できなくて困っていたのを私が助けたのが縁だ。……その記憶も、少し朧げで不確かであるように、最近は感じてしまうのだが。まるで偽りの記憶のように。
 他の級友はまだ残る者もあり、別方向へと歩くものもあった。私はまっすぐにキャンプ場へは向かわなかった。先ほど見た繭神の行動が気になったからだ。
「まだ、いましたか……」
「何? 誰かいるのか?」
 未刀君に繭神の位置を示す。黒い制服姿。月が隠れてしまった海では、その姿は闇に溶ける。
「やはり、何かを探しているようですね」
 ポケットに入れる瞬間見えたのは、石のようだった。いや、欠片か? 私はわざと足音を消し近づいた。
「生徒会長。また、探し物ですか?」
「――!! カーニンガム……さぁな、俺は気分を損ねた。失礼させてもらう」
 一瞬、険しい表情を見せた後、繭神は踵を返した。背を向け、足早に立ち去っていく。
「よかったのか? 行ってしまったけど」
「……まあ、放っておきましょう。いずれ分かることだと、彼も言っていましたしね」
 私達はそこを後にした。

 先ほどの出来事について会話しながら、キャンプ場へと足を向けた。ゆるくカーブした浜。あの松林を抜ける方が早いだろう。
「未刀君。どうです、近道しませんか?」
「喉が乾いたから、早く着く方がいい。しよう」
 雑草が散策道の砂利のあたりまで伸びた林道を連れ立って歩いた。中ほどまで来た時、話し掛けていた口を閉じて未刀君が立ち止まった。
「あれ、人? ……ええと、なんて言ったかな。最近よく見かける人じゃないか?」
「どこですか? ……おや、あれは月神さんじゃなかったかな」
「やっぱりそうか。どうしてあんな場所にいるんだろ」
 月神詠子はどのクラスに所属してるのか分からない生徒。だが、学園内を闊歩し、興味深げに行事などにも参加してるようだ。転入生にしては学校側の扱いは無視に近い。
 松の幹にもたれ、うずくまっている詠子。近づくと、息が荒いことが分かる。離れているのに耳にはっきりと届く呼吸音。具合でも悪いのだろうか。そういう風に確かに見えるが――?
「月神さん…ですよね? どうかされたんですか?」
 差し出した右手。
 鋭い音を立てて、振り払われた。
「つッ――月神…さん?」
「近づくな!!」
 右手の甲に血の赤いスジが刻まれる。震える身体を両腕で抱きしめ、詠子が叫んだ。驚いて身を乗り出した未刀君を制す。怯えた表情でうずくまった詠子に困惑の笑顔を返すと、彼女はわずかに表情を緩ませ、
「ゴメン」
 と呟いて走り去った。

 ――何かが起こっていますね。
    それは、私の記憶の曖昧さにも関係するものかもしれない。月神詠子と繭神陽一郎の訝しげな行動の意味は?

 頭を巡らせる。埋没する意識。
「帰ったら、花火があるらしい。セレスティもやるのか?」
 私を現実に連れ戻したのは未刀君の声だった。様々に彩られる疑念を、とりあえずは頭から排除してこの夏最後のイベントを楽しむことに決めた。
「もちろんですよ。情緒あるものは好きですからね」
 笑顔を返す。
 傷ついた甲を擦った。これから起こる出来事を心待ちにしながら。


□END□

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■   登場人物                            ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

+ 1883 / セレスティ・カーニンガム        / 男 / 3年A組

+ NPC / 衣蒼・未刀(いそう・みたち)       / 男 / 2年C組
+ NPC / 繭神・陽一郎(まゆがみ・よういちろう)/ 男 / 2年B組
+ NPC / 月神・詠子(つきがみ・えいこ)     / 女 / ???

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■         ライター通信                   ■
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 いつもありがとうございます♪ ライターの杜野天音です。
 今回の話は、本当に長くなってしまって、ダラけた感じになっていないといいのですが。
 セレスティにはまたお世話になりました。水を操る力というのはとても便利ですね♪ 夏に弱いのも、らしくて好きです(*^-^*)
 個別部分では、オフィシャル展開の物語を準えて書かせて頂きました。なので、他に参加された方にも読んでもらいたいです。それにしても、セレスティが心待ちにしているのはどちらでしょう。花火か、それとも……(笑)
 この個別部分は、他のキャラとはリンクしていません。

 よくご存知のこととは思いますが、衣蒼未刀は東京怪談〜異界〜「闇風草紙」に登場する杜野作成NPCです。
 では、素敵な話を書かせて頂きありがとうございました!