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流星の夜に
それから、紅牙はどのくらい、夜の海を眺めていただろうか。
いいかげん、海風に吹かれるのにも飽きて、キャンプへ戻ろうとしたときだった。
「…………」
静かに――、まるで、ふわりと天からそこに舞い降りてきたとでもいうように、いつのまにか、浜辺にたたずんでいる人影があった。
「こんばんは」
謎めいた微笑。紅牙を見透かすように見つめる金の瞳だ。
月神詠子――。
名と、顔くらいしか知らない。学年とクラスは……なぜだか思い出せなかった。……だから、紅牙は、かるく会釈をしただけで、その脇を通り過ぎようとする。
「結論は出た?」
擦れ違いざま、放たれた一言に、紅牙の赤い瞳がかっと燃え上がった。
「何――?」
「東雲――紅牙くん」
少年のようななりをしていながら、しかし、詠子の声には、あやしく濡れた蠱惑的な香りが確かにある。
「キミは3年A組、東雲紅牙。神聖都学園の生徒。今日は楽しい海キャンプ。……それでいいじゃない。ねえ」
くすくすくす――
彼女の声は、どこか遠くから響いてくるようだった。
「俺……は――」
ざわり。
影がうねった。
「!」
紅牙の身に緊張が走る。それが影を抜けて暴れ出さないように、必死に抑制する。詠子はそんな紅牙の様子を見て――、ふっ、とそのおもてから笑みを消した。
「この学園にいるほうが、キミはしあわせなのに」
そして消え入りそうな声で呟いた。
「何を……知っている」
「なにもかもさ」
詠子はどこか寂しそうに見えた。
「無理に止めはしないよ。でも――」
詠子がすっと手を伸ばし、紅牙の腕に、彼を労るように触れた。その瞬間。
威嚇の牙を剥き、それが影を突き破ってあらわれた。
「っ!」
火傷したように手を引く詠子。
紅牙は、彼女の瞳がかッと稲妻のような輝きを見せ、その背後に――なにかひどくまがまがしい、異形のものがその姿をちらりと垣間見せたのを……たしかに見た。
「…………」
だが、気がつくと、詠子の背後の影も、紅牙の影からあらわれたものも、最初からなかったように消え失せていたのだ。
詠子は、また謎めいた微笑の仮面をかぶり、おもむろにきびすを返すと、海辺の闇の中へと歩み去ってゆく。
そしてまた紅牙は、独りきりで夜に取り残されるのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2835/東雲・紅牙/男/3−A】
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■ ライター通信 ■
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大変、お待たせいたしました。
このたびは、幻影学園奇譚、リッキー2号の海キャンプ・ダブルノベルに
ご参加いただき、ありがとうございました!
ご覧の通り、共通ノベルはいわゆる輪舞(ロンド)形式の構成で、
夜の海辺でPCさま方は順々におふたりずつ出会われることで
起こる事件(?)のてんまつ、個別ノベルはその合間や前後の、
おもにNPCとのやりとりを描いたものになっています。
>東雲・紅牙さま
いつもありがとうございます。
依頼系でははじめてですね。
他のPCさまとのかかわりを書かせていただくのはなんだか新鮮でした。
本来、このシナリオではありえないだろうと思っていた
バトルまでも発生してしまったのはご愛敬ということで。
なお、紅牙さまの個別ノベルは共通ノベルの「後」のエピソードになっています。
それでは、また機会がございましたら、お会いできれば光栄です。
どうもありがとうございました。
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