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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


流星の夜に

 パチパチパチ――。はからずも……黒澤早百合は、八島真とふたりきりで、線香花火をやっている。なぜだか、なしくずし的にこういう状況になってしまった。線香花火の火は、夜に溶けてゆきそうにはかなく、たよりないが、早百合の鼓動は昂りっぱなしである。
「あ、あの……」
「はい?」
 呼び掛けてしまってから、しかし、何を言っていいかわからなくなる。早百合は夜でよかった、と、思った。もしかすると頬が赤くなっているのを、悟られないだろうからだ。これはただ、花火の色が映り込んでいるだけ……。
「先輩は……そもそも、こんな時間にどうして出歩いてらしたんですか」
 早百合は訊ねた。そうなのだ。花火をやるはめになったのは、大量の花火を抱えたクラスメートに出会ってしまったからで、それ以前に、八島は真夜中の海辺へと、キャンプを抜け出してきていたのだ。そのことは、他ならぬ早百合が、彼を追ってきたのだからよく知っている。だいたい、昼間のうちから、八島は自由時間ごとにどこかへ姿を消していたり、珍しく集合時間に遅れてきたりしていた(何故そんなことを知っているのかといえば、それもやはり、早百合がなかばストーカーじみた観察を行っていたからである)。
「あ、ああ……それは――大したことじゃないんです」
 八島は言葉を濁した。
「私……別に誰にも言いません」
「いや、その……まいったな」
 苦笑する。
「実は――今朝、気がつくと、ポケットにこんなものが入っていた」
「名刺……?」
 いかにも、それは名刺だった。

  宮内庁 長官官房秘書課 第二調査企画室 調伏二係
  係長  八島 真

「宮内庁――?」
「裏を見てごらん」
 名刺に裏には、硬質な文字が書き付けられていた。

  夢の異界 危険かどうかは判断保留
  異界の核を要調査 『光る石のかけら』が鍵か

「これって……」
「僕の字なんだ。でももちろん覚えがない。……けど、なぜか、これが本当のことのような気がした。『宮内庁の八島真』――それが誰かわからないけれど、僕宛のメッセージなんだよ。……そして、生徒会長が、この浜辺で“光る石の欠片”をひろっているのを見てしまってね」
「繭神先輩が? ……それで、その石を探してらしたんですね」
「おかしいかい」
「いえ。……でも不思議な話――」
 でも、この学園でなら、どんな不思議なことも、起こりそうな気がする。早百合は、根拠なく、そんなことを思った。まして、今日は海キャンプの、特別な夜。なにが起きても、おかしくない――。
「あ――」
 八島が小さく声をあげた。その顔が向くほうへ、早百合も目を向けた。
「流れ星……」
 夜空を、銀の矢が翔る。それに呼応するように、早百合の手の中の線香花火が、ぽとりと、火を落とした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2098/黒澤・早百合/女/1−A】

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■         ライター通信          ■
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大変、お待たせいたしました。
このたびは、幻影学園奇譚、リッキー2号の海キャンプ・ダブルノベルに
ご参加いただき、ありがとうございました!

ご覧の通り、共通ノベルはいわゆる輪舞(ロンド)形式の構成で、
夜の海辺でPCさま方は順々におふたりずつ出会われることで
起こる事件(?)のてんまつ、個別ノベルはその合間や前後の、
おもにNPCとのやりとりを描いたものになっています。

>黒澤・早百合さま
いつもありがとうございます。
眼鏡+おさげ髪の優等生ver.がたいへん微笑ましく(笑)。
これは“実際に”、高校生の早百合さまはこんなイメージだったのでしょうか。
だとすると、そのおよそ10年後には斯様な(以下略
……これもまたひとつの青春、ってことで。
なお、早百合さまの個別ノベルは共通ノベルの「後」のエピソードになっています。

それでは、また機会がございましたら、お会いできれば光栄です。
どうもありがとうございました。