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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


流星の夜に

「眠れない」
 そして、言吹一子は、がばり、と身を起こした。
 目はさえて、かけらも眠気は感じられなかった。
 それというのも、昼間、海で波をかぶって酷い目に遭ったあと、ずっと木陰でまるくなって昼寝をしていて、その後、夕食を食べてからも、伸びて寝てしまい、さらによく考えたら午前中も、バスの中で眠りこけていたのである。
 それでも、いつもであれば、夜は夜で静かに眠れるはずなのだったが、今日はキャンプという状況が特殊なせいもあって、寝つけない、という事態に陥っているのだった。
(外に遊びにいこうかナ。でもこんな夜中に誰もいないし、海辺も真っ暗だし――)
 と、そこまで考えてふと思い至る。
 あの、人を脅かすようにおしよせてくる波も、この暗さでは見えないではないか。見えないものは怖くないのである。
(決定)
 一秒で決断すると、一子はがさごそと、水着に着替えはじめる。その上から一枚、Tシャツをはおり、そっとキャンプを抜け出すのだった。
「んー。風が気持ちイイ」
 ざん、ざざん。遠くで波の音だけが聞こえる。
(へへん。どんなに押し寄せてきたってもう平気なのです)
 鼻歌まじりに、一子は海へと向った。その途上である。
「あれ?」
「……こんばんわ」
「えっと……月神――サン?」
 一子は、その少女の名を口に出した。実をいうと、クラスメートであってもよく名を覚えていないものもいる一子だったが、彼女の名は自然に口をついて出た。しかし、どうしたわけか、彼女の学年とクラスは思い出せないのである。でも、間違いなく、一子はこの女生徒のことを知っていた。
「やあ、こんな時間に散歩」
「海に行こうと思って」
「いいね。真夜中の海水浴か。そういう思い切ったことができるのも、学生ならではだね。……いいよ。海キャンプがあってよかった。楽しんでくれているね」
 謎めいたことを、月神詠子は言った。
「月神さんは、何をしてるのです」
「ボクか。ボクは…………ふふ、キミたちを見ているのさ」
「見てる――って?」
「言吹クン。学校は楽しい?」
「う……うん……」
「それはよかった」
 ずい、と詠子が近付いてくる。意味深な微笑。あやしい湿り気をおびた、その囁き。
「これからも、ずっとボクのトモダチでいてよ。ずっとずっと、この学園で、楽しく遊んで、学んで、暮らしていてほしい――」
「…………」
 その声が、どこか、遠い世界から伝わってくるような、不思議な感覚を、一子は味わった。
「あ、あの――」
 不可解な微笑を、唇に宿したまま、詠子は闇の中へと歩み去って行った。
 あとには、狐につままれたような顔の、一子がひとり。しばらくそこにたたずんでいたが。
「……あ。そうだ、海」
 やがて、もとの用件を気づいて、駆け出してゆく。
 今度こそ、海にリベンジをしなくてはならないのである。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2568/言吹・一子/男/1−B】

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■         ライター通信          ■
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大変、お待たせいたしました。
このたびは、幻影学園奇譚、リッキー2号の海キャンプ・ダブルノベルに
ご参加いただき、ありがとうございました!

ご覧の通り、共通ノベルはいわゆる輪舞(ロンド)形式の構成で、
夜の海辺でPCさま方は順々におふたりずつ出会われることで
起こる事件(?)のてんまつ、個別ノベルはその合間や前後の、
おもにNPCとのやりとりを描いたものになっています。

>言吹・一子さま
はじめてのご参加ありがとございます。
なんだか、とぼけているようで、ときどき、ドキリとさせる一面が垣間見える……
ライターなりに、そんな一子さん像を描いてみました。
PLさまのイメージにすこしでも近付けたでしょうか……?
なお、一子さまの個別ノベルは共通ノベルの「前」のエピソードになっています。

それでは、また機会がございましたら、お会いできれば光栄です。
どうもありがとうございました。