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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


潮騒に聞こえる想い

●不思議な仏閣
「悲惨なクラスだったな……」
「ええ。予測できた範囲内でしたが」
 藤波御幸(ふじなみ・みゆき)は、おやっと言った表情で隣を歩く雨宮徹(あまみや・とおる)を見た。
 彼女は、濡れ羽色の髪を、今日は紐で片方の肩にかけてまとめている。目は髪にも似た黒い澄んだ瞳で、海キャンプに来てから訪れると言っていた寺に向かう最中には段々険しさを増しているような気がしていた。
「レティの危険料理を止めに入るか否か、それが問題だったんだけど、巧く郭が止めに入ったみたいだし、な」
「そうですね、あれで懲りてくれたら私達も安心なんですけれど」
 指導を徹頭徹尾、郭花露に任せた結果、A組の被災者は最低限で収めることが出来たのだが、B組の期待を大いに裏切る結果に終わっていた。
「しかし、郭があれ程真剣にレティの世話をするとは誤算だったよな。俺達の飯が悲惨……って訳じゃないけど、ちょっと寂しくなったのは痛かったよな」
 徹も料理を手伝っていたことを思い出して、御幸は慌てて言葉を付け足した。
 恐る恐る見た徹の表情は、真っ直ぐ前を向いて凍り付いたように冷めていた。
「お、おい、今のは突っ込む所なんだぞ?」
「そうなんですか?」
 花露が真剣にと言う下りで徹からそんなこと無いですよ、何時も郭さんは真面目ですという感じで突っ込まれることを軽く期待していただけに、御幸は次の言葉を探すのに苦労した。
「……う、浦島のおっちゃんと静、A組には尊い犠牲になって貰えるのが二人も居たのに……そうだよ、それが一番の平和だったんだよな」
 うんうんと、芝居がかって頷いてみせる御幸に、ようやく徹が視線を向けて、柔らかく笑ったのを見て御幸は自分の台詞に彼女が怒っては居なかったのだと知った。
「……な。遠泳大会、お姫様が徹ってんなら頑張っても良かったんだけどな?」
「私ですか? 無理ですよ」
 くすくすと自然体で笑う徹。
「そっか? 水泳は得意ってわけじゃないけどな。頑張る励みになるっつーか、取られるのが癪ってーか。ま、そういうこった」
 自分で言っておいて不味かったかなと、フイと横を向いた御幸の照れた様子がおかしいのか、小さく握った手を口元に寄せて徹は笑いをかみ殺しているようだった。
「そういうものですかねぇ?」
 言うと、目的の場所が近いのか前に向き直って徹が手を伸ばしたように思えた。
「……へぇ」
 気功を嗜んでいる御幸が境内に入ると、矢張りそこは鳥居に護られた清浄の気配で満ちている。
「最近紛い物が多いけど、ここは人も来ないような場所にあってもこれだけ浄化されてるんだな……」
「終わりました」
「へ?」
 一瞬、徹が何を言っているのか判らずに御幸は彼女に振り向いた。
「お仕事、終わりましたから」
 にっこり笑う徹の笑顔が、それは本当なのだと言っている。
「ふーん? この寺が清浄なのかどうかってのが、徹の調べることだったんだ?」
「はい。雨宮の者がこちらによるのは久しぶりでしたので、祖父からお願いされていたんです」
「ふーん?」
 学園で見慣れたジャージで言われると、からかわれているのかと思うのだが、流石に徹に限って人をかつぐと言うことはしないと判っているのでそれ以上御幸は尋ねなかった。
 替わりに……。
「んじゃ仕事終了記念で、今夜の肝試しは一緒になろうぜ?」
「? え、ええ……」
 何故そう言う理屈になるのか判らないという少女の表情。
 しかし、断る程のものではないと判断しているのか、二つ返事で頷いた瞬間に御幸は内心でガッツポーズだった。
(い、よっしゃーーー!)
 若干、当初の自分の目的を忘れつつある御幸だった。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3248 / 藤波・御幸 / 男性 / 高校生兼気功使い】

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせしました。
 御幸君は確か異世界(?)で1、2回だけ書いたことがあるのかという記憶があるのですが、それであっているでしょうか?
 非常に私事ですが、職場が8月30日の台風で海水とヘドロで床上70cm冠水という悪条件になり、未だに完全復旧できていない職場の復旧で毎日を費やしていました。本職で執筆に支障をきたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。