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『砂浜で花を咲かせよう:千影・ー編』
何かを持って駆けてくる柘榴の姿を認めて、千影はきょとんと首を傾げた。
「どうしたの? 柘榴ちゃん」
「これ、千影と万輝の分」
手渡されたのは二束の線香花火とライター。
「ありがとう、柘榴ちゃん」
千影は変わらず万輝の膝の上に座っているのだが、柘榴は全く気にとめる様子がない。
千影に礼を言われて、嬉しげに笑う。
「ん。火はちっこいけど、気を付けてな」
役目は終えたとばかりに去っていく柘榴を見送り、千影は早速線香花火に火を点けようとした。
「万輝ちゃん、火点けて」
自分の分と万輝の分の二つを手にして、千影は万輝に点火を催促する。万輝は軽く笑ってそれに応じた。
ぱちぱちと緑や赤の光が散り、小さな火の玉が真っ赤になっていく。
小刻みに震え始め、落ちるか落ちないか。
そう言う緊張の時に、シャッター音が間近で聞こえた。
びっくりしてほんの僅かに手を動かしたその瞬間、火の玉が砂の上に落ちてしまった。
「あーっ」
「あ、すまん、わざとちゃうねん」
シャッター音を響かせた人物、瑞帆が慌てて謝罪した。
最後の一本ではないのだからそう悲観することもないが、いきなりのことにびっくりしてしまったことに代わりはない。
瑞帆は沸いて出たプロ根性から自然体の二人を撮ろうと思っていたらしいのだが、それが仇になってしまった。
「無断撮影は、倍額請求しますよ」
慰めるように千影の頭を撫で、万輝は瑞帆を一瞥する。
「別にプライベート激写してどっかの雑誌に投稿しようなんてしとらんわ」
そこまで堕ちてない、と言いつつ気落ちした千影を気にして瑞帆の視線は彷徨う。
「二人写したネガは渡すし、現像代もまけとく」
「お金取るつもりだったんですか……?」
趣味で撮ってタダであげるのかと思っていた万輝は、呆れた。
「どんなときでも商売忘れちゃあかんねん」
決意のこもった拳が、ぎゅっと握られる。
「瑞帆ちゃん、写真撮るのが好きなの?」
「仕事と趣味兼ねとるなあ。お詫びの印、これ千影ちゃんにやる」
自分の分と配分された線香花火を差し出す瑞帆に、千影は慌てて首を横に振る。
「まだあるし、それは瑞帆ちゃんの分でしょう?」
「遠慮せんと貰っとき。花火も一緒にやる人が居る人にやって貰うのが一番やさかいに」
「でもでもっ」
「ほな、俺行くわ。馬に蹴られたないし」
困る千影に苦笑して、瑞帆は後を万輝に任せる形で去っていく。
「どうしよう、万輝ちゃん」
「いいよ。貰って良いって本人が言ってたんだから」
花火をやるより写真を写す方を選んだのだろう。
そう勝手に解釈して、万輝は困惑する千影の頭を撫でた。
「折角貰ったんだから、やろう」
さっきのは直ぐに落ちちゃったから、と万輝は平生のまま一本千影の手の中から引き抜くと火を点けた。
爆ぜる火花に気を引かれ、千影も一本手に取る。
それに万輝が火を点けた。
小さな火花が咲く様に、千影の心配事も無くなったようである。にこにこと嬉しそうに花火を見つめる。
「あ、」
「何?」
何かに気付いたように小さく声を上げた千影に、万輝は首を傾げた。
万輝にただ笑みを返して、千影は持っていた線香花火の火の玉を、万輝の線香花火の火の玉へ近づける。
お互いに火花を散らしながら近づき、火の玉は惹かれてくっつく。
それにつれて火花も少し大きくなった気がした。
火の玉はくっついて大きな一つになりながらも、落ちない。
「花火も、二人で一つね」
万輝と千影が、常に二人で在るように。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3689 / 千影・ー / 女 / 1−B 】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、こんにちは。葵藤瑠です。
この度は『砂浜で花を咲かせよう』にご参加いただき有難う御座います。
万輝君と魂の繋がりがある可愛い千影ちゃんを書かせて頂きまして、感謝します。
手違いで窓が直ぐに閉じてしまい、不安にさせてしまって申し訳有りません…。
少しでも楽しんでいただければ幸いで御座います。
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