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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


アバンチュールしてみませんか? 〜in海キャンプ〜

ACT.SPECIAL■綾和泉汐耶の攻防

 美術部部長の井の頭弁天と副部長のハナコが図書室に現れたとき、綾和泉汐耶は読書中であった。
 それだけでも迷惑極まりないというのに、静かで充実した時間を妨げられて切り出された用件は、汐耶にはまったく無縁のものだったのである。
「美術部存続のために、4人の男子を勧誘?」
「うむ。頼むぞ、汐耶」
「お願いねー。汐耶ちゃん」
 傍若無人な先輩ふたりに、眼鏡の奥の青い瞳が、不審と困惑の色に染まる。
「おぬしの兄上は、蛇之助やデュークや武彦と同じ2ーAであろう? ちょっと根回しをしてもらえぬかのう?」
「お断りします」
 汐耶は読みかけの本を閉じ、きっぱりと言った。
「あまり兄さんに貸しとか作りたくないですし。勧誘のために男子に接触だなんて、いいからかいのネタじゃないですか。そんなもの、自ら差し出したくありません」
「えー。そんな冷たいこと言わないでよー」
「そもそも何故、それが必要なんですか?」
 固辞する汐耶に、弁天はちょっと考えたふうだったが、すぐに含みのある笑いを漏らした。
「うーむ。汐耶の言うことはもっともじゃ。理由を話せば長くなるゆえ、まあそこに座るが良い」
「……もう座ってますけど」
「あのねー。もともとはねー、弁天ちゃんが部費を流用した投資信託に失敗したのが原因なんだよねー」
 やれやれとハナコは首を横に振る。なじみのある言葉に、やっと汐耶は身を乗り出した。
「投資信託ですか。私も学費を稼ぐ為に、父の名義でやってますけどね」
 高校生になったら、学費を負担。二十歳からは生活費を含めて全て自己負担、もしくは無利子での貸し出し。そんな綾和泉家の教育方針を、汐耶はきちんとまっとうしている。
「左様であったか。ならばさぞ詳しかろう。ちとコツを教えてもらえぬか?」
「そうですねぇ……。投資信託というのは、値動きのある証券などに投資するものですから、本来元本を保証するものではないんですよ。弁天先輩は、どんな風に運用したんですか?」
「スポット株式投信のインデックス型というやつじゃが」
「リターンを求めすぎて、リスクの大きさを甘く見ましたね? 慣れないうちは、株式を一切組み入れない、公社債投資信託の方がいいんじゃないですか。元金と利払いが確定していますから、リターンは少ないですが安全ですよ」
「ふむふむ。参考になるのう」
 
 図書室のあちこちから持ってきて、平積みにした投資信託関係の資料を示しながら、そんな会話を小一時間。
 すっかり感心して納得した様子に、男子勧誘の件はあきらめてくれたかと思った汐耶は、まだ弁天のことをよく判っていなかった。
 資料の中にはいつの間にか、美術部への入部届が紛れ込んでいたのである。
 勧誘要員としてのスカウトではなく、どさくさまぎれにダイレクトに入部させてしまう作戦に切り替えたようだった。

 そして海キャンプ当日まで、攻防は持ち越されることとなったのである。


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■   登場人物                  ■
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【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女子/1年C組】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、神無月です。お待たせいたしました!
この度は、ギャグイベントしか発生しない、いきあたりばったりのおとぼけ恋愛SLG(違)に勇気を振り絞ってのご参加、まことにありがとうございます。
夏の貴重なひとときを、弁天とハナコにお付き合いくださいましたことに感謝いたします。
なお、個別ノベルでの時系列は、大別して「キャンプ前」「キャンプ中」「キャンプ後」となっております。

□■綾和泉汐耶さま@キャンプ前
汐耶さまのような方にまで、美術部勧誘の魔の手が伸びていようとは……。
でも、呆れつつも巻き込まれてくださった汐耶さまは、もしかしたら冒険家なのかも知れません!

ご参加、ありがとうございました。
いつかどこかで、またお会いできますことを願って。