 |
月夜の石集め
〜素直じゃないネ〜
万輝は―――迷っていた。
ポケットの中に入れた石の欠片が光っているのが見なくても分かる。
見つけた時にすぐに他のメンバーに渡すという手もあったが、万輝はそれを自分で持っていることに決めた。
自分の半身である千影が―――欲しがっている物があると知っていたから。
それを叶えてやる為には最低でも二つ以上必要だろう。
いや、どんなに少なくても――1つは手に入れておいた方がいい筈。
そう考えながら何かと起こる問題をクリアし、間もなく探索が終わろうかと言う時に、石の欠片を見つけたのだ。
――――丁度、半身を迎えに行く口実が出来たと、内心ほっとした。
…が。
今度は素直に迎えに行っていいものかと、正直不安になったのだ。
『そんな馬鹿らしいことに付き合ってられない』と言ってしまった手前、なんとなく自分が参加していたと言うのが恥ずかしいというか…正直、複雑である。
しかし、このまま突っ立っていても何にもならない。
洞窟の入り口近くまで来てしまったのだから、もう後戻りするのもそれはそれで逃げだ。
ならば―――覚悟を決めるしかないだろう。
そう万輝が心に決めた時。
「ねぇねぇ鬼斬ちゃん!
だから一体誰なのよぅ!!」
「…さっきから教える理由がないと言っているだろう」
――――――鬼斬と、鬼斬に引っ付く…もとい半ば問い詰めるような形で隣を小走りで進む千影の二人が入り口から現れた。
後ろからは、一緒に入っていったらしい他の二人も一緒にいる。
「だって気になるじゃない!
ねぇねぇ、せめて男の子か女の子かぐらい教えてよぅ!!」
「だからそれだけじゃ教える理由にはならないと…」
「もぉ!鬼斬ちゃんのイジワルーッ!!!」
「……ちゃんは止めろ」
「イヤ!」
一体洞窟の中でなにが会ったのか、千影はずっと鬼斬に何かを聞きまくっている。
一瞬声をかけていいかどうか迷った万輝だったが、このまま通り過ぎられてしまったら困ってしまう。
さっさと声をかけるに限るだろう。
「――――――チカ!!!」
大声で己が半身の名を呼ぶ。
ぴくりと今はない耳を動かすように体を跳ねさせた千影が、驚いた表情で振り向く。
そして万輝を見て――――ただでさえ大きな瞳を、更に見開いた。
しかしそれも一瞬のこと。
驚きに彩られた顔は、次の瞬間――――なによりも嬉しいプレゼントを貰った子供のような表情に変化する。
「――万輝ちゃんっ!!」
ぱっと嬉しそうに顔を輝かせた千影は、鬼斬の隣を離れると一目散に万輝に向かって走り出す。
その姿は、猫と言うよりも犬。
ふと浮かんだその考えに思わず苦笑すると、視線を戻した時には――がばりと、千影に勢いよく抱きつかれていた。
二、三歩たたらを踏んだが、元々そんなに重くない千影を支えるのはそれほど苦でもない。
「万輝ちゃん、どうして此処に?」
嬉しくて仕方がないと言わんばかりの表情に思わず笑いながら、万輝は口を開く。
「ちょっとね。
…それよりも、チカにこれ、あげるよ」
まさか千影が心配で洞窟の近場である砂浜を探索していたなんて、口が裂けても言うまい。
ひっそりとそんなことを考えながら、万輝はポケットから石の欠片を出して千影に渡す。
「…これ…」
きょとんと自分と石の欠片を見比べる千影に笑いがこみ上げてくるものの、万輝はぽん、と千影の頭に手を置いて微笑む。
「偶然見つけたんだけど…僕はいらないから、チカにあげる」
「え?で、でも…」
「僕は特に欲しい物はないからいいんだよ」
唐突なプレゼントに戸惑ったように声を上げる千影に、万輝は微笑んで手に握らせる。
少々の逡巡の後、千影は嬉しそうに笑いながら『有難う!』、と笑って受け取った。
「チカは欠片、見つけたの?」
「うん。洞窟の中で一個」
「じゃあ合わせて二個だね」
「うん♪」
二つならば勝てる可能性もあるかもしれない。
千影がそこまで考えているかは分からないが、嬉しそうに笑いあう万輝と千影。
そんな二人の様子を見て、鬼斬が少々呆れたような表情で入り込んだ。
「…そろそろ戻らないと、継彌に笑顔でチクチク文句言われるぞ」
…確かにそれは厄介だ。
空を見上げてみれば、満月は少し地平線に向かって傾いている。
そろそろ帰らねば。
鬼斬と他の二人は万輝と千影を置いて歩き出している。
「…じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
万輝の答えに嬉しそうに頷いた千影は、彼の腕に自分の腕を絡めて歩き出す。
【――――――これからも、仲良くね】
「?」
風に乗って声らしきものが聞こえ、万輝が足を止めて振り返る。
――――しかし、誰もいない。
「どうしたの?万輝ちゃん」
腕を絡めていた千影が不思議そうに声をかけてきて意識を戻した万輝は、『なんでもない』と答えてもう一度だけ後ろを振り返った。
――――気のせいか。
風の音が声に聞こえただけなのだろう。
そう結論を出して、万輝は千影を促して歩き出す。
そして――――二人の背中は、徐々に小さくなっていく。
二人の背が大分小さくなった頃――――。
…一瞬だけ、蜃気楼のように揺らぎ、人の姿が現れた。
膝まである淡い水色の髪をうなじで緩く結んだ『誰か』が―――ただ佇んで、二人の背を見送る。
そして二人の背が完全に見えなくなると同時に――――水色の人も、霧のように掻き消えた。
【――――もっと、素直にならなくちゃ…駄目だよ】
最後におせっかいな一言を―――おまけとばかりに残して。
<結果>
入手:黒いネクタイ。
終。
■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
【整理番号/名前/性別/クラス/属性】
【3480/栄神・万輝/男/1−A/光】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
学園ダブルノベル(海キャンプ編)個別をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
ちなみに今回は残念ながら巳皇と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
その代わりにB地点…鎖々螺のところが予想以上に多くて驚きました。やっぱり海辺は人気高いんですかねぇ…?(何)
そして例によって例の如く、PC様によっては入手アイテムなぞつけてみました(笑)
GETした人とGETしてない人がいるのは…単に私の趣味です(ぅをい)
場所ごとにNPC達の裏事情を散りばめて見ましたが…どうでしょう?わかっていただけましたか?(笑)
実は鬼斬の裏事情が一番多いのですが、それは単に彼の裏設定が一番多く決まっていたからに他なりません(ぇえ)
裏事情を垣間見て、NPC達に更に馴染んでいただければなぁ、と考えております。
全体的に色々と謎を残す不思議な展開・奇妙な終わり方を目指しておりますので、その謎について色々と考えてくだされば嬉しいです。
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)
【万輝様】
ご参加どうも有難う御座いました。
千影様を迎えに行く口実に石の欠片を…個人的にツボでしたので、個別の方で書かせていただきました。友情出演は鬼斬です(笑)
若干千影様の個別とリンクしておりますので、千影様の個別も読むと面白いかもしれません。
時間帯的には探索終了後のログハウスに戻る前ぐらいです。
素直じゃない万輝様と無邪気な千影様の掛け合い…書いてて楽しかったですv(をい)
子供に懐かれる保護者で仲良さげな感じで、と頑張りましたが…口調とか大丈夫でしょうか?(汗)
これからも末永く仲良しなお二人でいてくださいませv(笑)
最後に現れた謎の人物は…ヒミツです(ぇ)一体誰なのか想像して楽しんでみて下さいませ(笑)
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。
|
|
 |