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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


IN THE MOOD ―分岐点―
●洞窟でどっきり【5B】
「身は屈めなきゃいけないけど、2人余裕を持って並んで進めそうだよね」
 洞窟の入口をしげしげと見つめ、雫が言った。
 洞窟の高さは入口を見た感じ、120から130センチといった所。子供でなければ、どうしても身を屈めなくてはならない。が、横幅も高さと同じくらいあったのである。
「少し見てきますね」
 と言って、懐中電灯をつけて洞窟の中を覗き込むヒミコ。少しの間、懐中電灯をくるくるとあちこちに向け様子を窺っていたが、やがて戻ってきてこう言った。
「中の方がもう少し高さあるかも……」
 これは意外。よくあるパターンでは、進めばどんどんと洞窟の天井が低くなってゆくものだが、ここはそうではないらしい。
「何かいい物でも隠されてんのかな?」
「あ〜、あたしどきどきする〜」
「俺っ、わくわくするっ」
 人の数だけ考えはあるものだが、いよいよ洞窟に入るにあたって、心境は色々と異なるようであった。
「……綾霞さんは落ち着いてるのね」
 女子生徒の1人が綾霞に向かって言った。それに対し、綾霞は無言でくすりとやや意味ありげな微笑みを浮かべた。
 落ち着いていると言われればそうなのかもしれない。これから未知の場所へ足を踏み込もうというのに、平然としているのだから。しかし――それが本当に全くの未知ならばの話である。
(危険はない洞窟ですもの)
 あいにく、この洞窟は綾霞にとって未知という訳ではなかった。キャンプに来る前にこの地の情報を集めていた時に、この洞窟のことも耳に入っていたのである。
 もっとも、洞窟の地図があるということではない。危険がないことと、行き着いた先がどうなっているかが分かっているだけだ。だが、その2点が分かっているだけで、心持ちは全く違ってくる。
 綾霞はちらりと雫とヒミコの方に目を向けた。2人とも、きらきらと目を輝かせている。
(ああ、やっぱり)
 予想通りだと綾霞は思った。2人とも怪し気な洞窟を前にし、猫まっしぐらモードに足を踏み入れた様子であったからだ。
 こうなると注意すべきは洞窟ではない。2人の行動である。
「それじゃあ洞窟へレッツゴー☆」
 高らかに懐中電灯を掲げ、皆を促す雫。一同は一斉に明かりをつけ、順番に洞窟へ入っていった。もちろん、綾霞は雫とヒミコのすぐ後ろの位置をキープしていた。
 さて、洞窟の中へ入った一同であったが、先へ進むにつれて次第に拍子抜けしていた。
「何だこりゃ……? どんどん天井高くなってないか?」
「あたし、もう屈まなくてもいいみたい」
 洞窟の中は、先へ進めば進むほど天井が高くなっていた。背の低い女子生徒など、途中から身を屈める必要がなくなったくらいである。
 また、洞窟の中が途中で分岐しているということもなかった。一本道で、多少の高低差があることと、うねうねと曲がっている程度であった。
「んー……何かがっかりだよねー」
 雫がそう言って、少しつまらなさそうな表情を見せた。
「とにかく奥の奥まで行きましょう。ね?」
 そんな雫に対し、ヒミコが苦笑いを浮かべながら言った。その直後である――。
 チリン……。
「……今、何か音しなかったか?」
 足を止め、1人の男子生徒が眉をひそめた。それは鈴の音のようであった。
 チリリン……。
「やだっ、音したわっ!」
 頬を手で押さえ、1人の女子生徒がきょろきょろと辺りを窺った。顔に怯えの表情が浮かんでいた。
 ……リン……。
「出たっ!?」
 今度は雫の言葉だった。顔には『待ってましたっ!』とはっきり書いてあった。
 チリン……リリン……。
「奥から……?」
 雫に寄り添うかのように移動し、身構えるヒミコ。鈴の音は、明らかに洞窟の奥から聞こえていた。しかも、徐々に近くなっていて。
「……何かが居ます」
 綾霞はそう言ってすっと前に出た。ちょうど雫とヒミコをカバーする形である。
 鈴の音はどんどん近くなってくる。そして綾霞は、ゆっくりと懐中電灯の明かりを奥に向けた――。
「にゃあ」
 ……気が抜けるとは、きっとこの時の様子を言うのであろう。明かりに照らされた物体が、可愛らしい鳴き声を出した瞬間、一同の張り詰めた気が洞窟内に霧散していた。
「猫……ですか」
 苦笑する綾霞。明かりに照らされたのは、首に鈴をつけたとても可愛らしい白い子猫だった。どこからどう見ても、危険な動物ではない。
「迷い込んじゃったのかな?」
 子猫をしげしげと見つめ、雫がつぶやく。そのうち、誰ともなく笑いが起こった。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』とはよく言ったものである。
 一同は子猫を引き連れ、さらに奥へ向かった。すると、奥の方から何故か光が見えていた。
「出口か? てことは、この洞窟行き止まりじゃないってことか?」
「そう……じゃないの?」
 後方からそんなつぶやきが聞こえていた。
「あ、潮の香り……」
 ヒミコがぼそっとつぶやいた。光の方から海の匂いがしてきたのである。
 光は一同が近付くにつれ、だんだんと大きくなっていった。やがて一同が目の当たりにしたのは、青い海であった。
「えーっ、海に繋がってたのーっ!?」
 雫が驚きの声を上げた。そりゃそうだ、入口が森の中だったのに、行き着いた先が海であったのだから。
「たぶん洞窟の中を歩いているうちに、少しずつ海へ近付いていたんでしょうね」
 さらっと言う綾霞。実際、洞窟の中ではそれなりに歩いてきたのだから、それで間違いはないのだろう。
 しかしだ。海は海でも他の生徒たちが居る場所とは少し離れているようで、洞窟の中から見る限りは他に辺りで泳いでいる者の姿は見受けられなかった。
「せっかくだから、ここで泳ごうぜ」
 男子生徒の1人がそう提案した。反対する者は居ない。パーカーなどを羽織っていた者はそれを脱いでから、そうでない男子生徒はサンダルを脱ぎ捨てて洞窟から海へと飛び込んだ。
 雫もヒミコも、皆の後に続いて飛び込んでゆく。最後に綾霞も飛び込もうとした時、すぐそばで子猫の鳴き声がした。
「にゃあっ!!」
 びっくりしたような鳴き声に振り向くと、先程の子猫がちょうど潮溜まりにはまってしまった所であった。
 大人の猫なら何てこともない深さの潮溜まりであったが、子猫にとっては結構な深さ。パニックになってじたばた暴れていた子猫を、綾霞は慌てて救い上げた。
「にゃあ……」
 綾霞の胸にしがみ付く子猫。それを見て、綾霞がくすっと笑った。と、その時である。子猫がはまった辺りで、きらり輝く小石を綾霞が見付けたのは。
「これは……?」
 怯える子猫を左腕でしっかと抱いたまま、綾霞は右手でその小石を摘み上げた――。

【IN THE MOOD ―分岐点―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 2335 / 宮小路・綾霞(みやこうじ・あやか)
                  / 女 / 2−C / ☆01 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全23場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・この度はノベルをお手元にお届けするのが大変遅くなり、申し訳ありませんでした。ここにようやく、海キャンプの模様をお届けいたします。
・今回諸々のことは個別ノベルへ回っていますので、他の方の個別ノベルもご覧になっていただくと、より深く分かるかもしれません。ちなみにタイトルの元ネタは、あの終わりそうでなかなか終わらない曲のことです。海といえば、この曲でしょう。
・宮小路綾霞さん、ご参加ありがとうございます。本文中では旧姓の方で表記させていただきました。洞窟は安全な物でした。雫やヒミコにとっては拍子抜けだったかもしれませんが。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。